俺は二体の合成獣人に両脇を固められながら、パンドラの先導に従って廊下を歩いて行く。 大きな木製のドアをパンドラがノックすると彼女はドアを開けて入る、そして俺もそれに従い入室する。 そこは来客用の応接室であった。中では軍服を着た女性が一人ソファーに腰を落としている。 「まさかこんなに早くお着きになるとは、大尉…」 「捌號に送ってもらった。それに拝んでみたかったからな、仇號を倒したという敵の顔を…。司令部まで送り届けるのを待っていたら、肆號か漆號辺りが怒りに任せて殺してしまいかねないだろ」 この女がアインス=ドナー大尉。人造勇者たちのリーダーだ。    *   *   *   *    * 大尉は俺にソファーへ座るよう命じると、立ち上がり俺の背後に回り俺の肩に手を置く。金属製の重く冷たい感触が染みる。 そして彼女は俺を連行してきた合成獣人に俺を拘束している手錠を外すように命じた。 「拘束を外して大丈夫なのですか?」 大尉の危険を顧みない行動にパンドラが反応する。 「この状態で私に逆らえる者などいないよ。ゆっくり話がしたい。ドクトル以外は退室させてくれ」 獣人たちは命令に従い部屋から出て行った。 「随分と余裕のある様子だな…」 彼女の大胆な対応に俺は少し驚く。 「なぁに先ほども言ったはずだ。この状態で私に逆らえる者はいないとな。何なら私を倒して逃げてみてもいいんだよ。何せこんな細腕のか弱い女だ、君なら簡単だろ」 お言葉に甘えてとばかりに立ち上がって反撃しようとするが、椅子から立ち上がることすらできない。一体これはどうしたということなんだ…? 「ちょっとばかり種明かしをすると、私のこの左腕からは生体パルスに同調する周波数の微弱な電流が流れている。簡単に言うと人間を操ることができるということだ。つまり私に逆らうことも嘘をつくこともできない。ちなみに合成獣人たちに着けている首輪はこの技術を応用したものだ、ご理解いただけたかな」 「では尋問を開始しよう」 「君の名は?本名をフルネームで答えよ」 大尉の質問に口が動こうとしている。だが本名を答えたくはない。 レンハート王家に連なる者という素性を知られるぐらいなら自決すべきか…。 舌を噛み切り果てようと覚悟した時、何かに気が付いたのかパンドラが口を挟む。 「彼の名はコージン=ミレーン。所持していた冒険者カードに記載されていた名です」 「だがそれは偽名という可能性もあるだろ」 大尉はごもっともな反論をする。 「いいえ、本名で間違いありません。彼は私がカンラークにいた頃に交流があった知人です」 「ほうドクトルも隅に置けないな。こんな色男と知り合いだったとは」 「時間の節約にもなりますので、先ほど彼に尋問した内容と私の知っている情報をまとめて報告しますが良いですか」 何だか知らんがパンドラの奴に助けられたのか。 さすがに目の前で舌嚙み切って死なれるのは寝覚めが悪いか…。 「彼は元カンラークの聖騎士で現在フリーの冒険者をしております。ですが今回の件は聖教会とは全く関係ありません」 「ではなぜ我々と交戦することになったのだ?」 「彼の目的は全ての忌器の破壊です。その体に封じられた忌器を破壊するにはそれしか方法がないようです」 「確かにこの地はミレーンくん、君からしたらお宝の山だろうな。だが我々にも目的というものがある。残念だがそれを叶えてやることはできないよ」 「一つ質問をしよう。我々が忌器を所持していることは機密にしているが、なぜ君がそれを知っている?情報提供者の名を答えよ」 大尉の質問に俺の口が勝手に開きだす。 「元人造勇者という人間に教えられたからだ…必中のスナイプという男だ…」 「スナイプ…?あぁ漆拾漆號か。奴めまだ生きていたのか」 「彼を知っているのか?」 「元部下だからな…と言いたいところだが、いかんせん数が多すぎて顔と名前が一致する者は少ない。だが奴のことは覚えているよ、何せ上官にまで粉をかけようとしたアホだからな」 何かすげーなお前。スナイプの奴の節操のなさに俺は少し笑ってしまった。    *   *   *   *    * 「尋問はこれぐらいにして、そろそろ本題に行こうか」 「良いのですか? まだ彼らの仲間や拠点については何も分かりませんが」 「なぁに彼が了承してくれれば、その者たちも皆セットで付いてくる。大したことではない」 「本題と言うのは他でもない。コージン=ミレーン、我々の同志となれ」 大尉の予想外の提案に俺は面を食らう。 「本気で言っているのか…?」 「あぁ本気だよ。我々には大願がある。そのためには腕の立つ戦力が欲しい。合成獣人を増やしているのもその一環に過ぎないし、残念ながら人造勇者はこれ以上数を増やせないから在野の実力ある者にも参加を求めている」 「君が同志となってくれるなら、仇號を殺害したことも我々と敵対したことも全て不問としよう。もちろん君の仲間も全員含めてな。悪い話ではないと思うが」 「ただ君には忌器を破壊するという目的を捨ててもらうがね。アレは我々の最終目的の鍵となる重要なアイテムだ」 「ならこちらからも質問させてもらう…。お前たちの目的は何なんだ?廻天計画とは何をしようとしているんだ?」 「ほぅそこまで知っているのか。漆拾漆號の奴め、いずれ始末をしないといけないな…」 何かとばっちり食らわせたみたいで、すまないスナイプ…。 「廻天計画とは我々の最終目的だよ。星骸炉という忌器を起動させ、この星の生命エネルギーをマナに変え膨大な魔力を生む。そしてその力によって最終的にこの星の管理権限を奪うということだ」 「その起動条件として星のマナを大量に蓄積している魔王の死体がいる。ゆえに当座の目標としては魔王軍及び魔王モラレルの打破ということになるな」 「ちょっと待て!その忌器を使って魔王を倒すということではないのか? いや魔王さえ倒してしまえば、忌器なんてなくてもそれで全てが終わるはずだろ」 「残念だが魔王の死体無くして星骸炉の起動はできない。技術陣が魔王の残滓からマナを抽出しているが呼び水にするにはまだまだ足りない。結論から言えば魔王討伐は最終目標の準備段階に過ぎないのだよ」 「我々の求める物は絶対的な力だ。そしてそれを持つ者は『星皇』と呼ばれる…」 「そんな者になって一体何をするつもりなんだ? 目的と手段が逆転しているぞ」 俺の発言に大尉は「わかっているよそんなこと…」とでも言いたげな困り顔をしていた。    *   *   *   *    * 『何をするかって?簡単ですよ。それは正義による完全なる統治です』 俺の目の前のソファーにいつも間にか正体不明の人物が座っていた。 仮面のような物を着けているので見た目では分からないが、声色からすると恐らく男性であろう。 しかしいつの間に入ってきたんだ…。 「こいつは何者だ?こいつも人造勇者なのか?」 『私の名はシュッツガイスト。人造勇者ではありませんがオブザーバーとしてヒジンドー機関に携わる者です。以後お見知りおきを…』 仮面の男は右手を胸に置くていねいな挨拶を俺にした。 「正義による完全なる統治とはどういうことだ?」 『現在は対魔王軍として人間側は協力関係にありますが、戦後はそうも行かないのは明白でしょう。魔王軍残党、野心に燃える諸国、ルタルタのような異民族、人知を超えた魔獣や幻獣等々…。それらを絶対的な力によって鎮圧することで、皆逆らうことは無駄だと理解し世は安寧を保てるという理屈ですよ』 「その正義の基準というのはどこになるんだ。正義というものは人の数だけあるんだぞ」 『ですから星皇にはそのスタンダードになってもらうんですよ。そして人々はその基準に従い敬虔に生きていく。あなた方の信仰している神様も同じようなことをしてるではないですか』 「仲間や罪のない人々を合成獣人に変えるような連中の正義か?! ふざけんな!お前らのなろうとしている物は神ではない!次の魔王だ!」 『どうやら交渉決裂といったところですな。どうなさいますか大尉?』 「残念だよコージン=ミレーン。だが君のような実力者を合成獣人にするのはもったいないので、この首輪を付けて従順になってもらう。さぁ自らの手でその首輪を嵌めるんだ…」 大尉は合成獣人たちに付けている黒い首輪を俺に手渡す。俺は必死に振り払おうとするが手が勝手に動き出す…。    *   *   *   *    * もはや自決せねばならぬか…。 俺がそう覚悟した瞬間、室内の壁にあった通風口が破られ中から人が現れる。それはライトであった。 「ミレーンさん!」 ライトは高速で右腕の刃を振ると真空波が飛ぶ。そしてそれは俺の肩を掴んでいる大尉の腕に当たり、腕は弾かれ電流による拘束は解けた。 「そんなに首輪が好きなら、テメーで付けろ」 俺は立ちながら振り返り、手に持っていた首輪を大尉の首に嵌めた。 そうこうしている間に通風口の中からシュウとスヮリが出てくる。よく入れたな…特にスヮリ。 大尉は左手で首輪を掴むと、高圧電流を流して内部の電子機器を破壊して取り外す。そして左腕を俺たちに向けると高圧の電撃を放つ。 人間というものは電気には非常に弱い。何せ0.1Aも流れたら心臓が停止するぐらいだ。その危険な攻撃にシュウが立ち向かう。 「反転!」 襲い掛かって来た電撃は大尉の元へと返って行く。直撃をするも多少ダメージを食らってはいるが死んではいない。 恐らく電気を操るぐらいだから耐電加工も施してあるのだろう。 反動を食らったシュウは始めて体験する電気の痺れに動揺し、堪えた衝撃で顔を隠していた気ぶり仮面が外れた。 シュウはすぐさま仮面を付け直すが、対峙していた大尉はその素顔を見ると信じられないものを見るような表情になった。 動揺はすぐさま収まり、大尉は援軍を動員するよう叫んだ。 『おやおや荒事が始まったようですな。ドクトル、ここは危険ですから我々は下がりましょう』 シュッツガイストは纏っていたマントのようなものでパンドラを包むと、この場から消え去ったのであった。 ライトは周囲を見回すと窓があることに気づく。 「ミレーンさん、ここは飛んで逃げます。3人抱えられるかな…」 「ライトくん行ってくれ。今はミレーンくんを安全な場所まで移動させるのが先決だ。我々はここで連中を足止めする」 シュウは偽名ではなく本名で二人を呼ぶ。俺の名前が割れた以上、自分たちの正体が割れるのも時間の問題と悟って開き直ったのであろう。 「すみません先に行きます。二人ともご無事で…」 「でも後でちゃんと助けに来てよ。絶対だよ!」 一抹の不安を感じたのかシュウはライトに念押しをする。 ライトが俺を抱えて飛び上がると、二人も窓から外に出て逃走を図る。 だがその道筋に立ちはだかる者がいた。人造勇者肆號と陸號である。 「男の方、危険。慎重にやれ」 「おじさんの方僕がやること確定なんだ…。面倒なの任せられてずるいなぁー」 「うるさい。私、先輩」 先ほどのリベンジマッチの到来にスヮリのテンションが上がる。 「さっきはまだ出してないから、今度はスヮリのフェイバリットを見せちゃうにぃ☆」 (続く)