シュッツガイストと名乗るその男は黒い仮面を付けた怪しい以外の何者でもない風貌をしていた。 古代技術の研究家であるその男は文献を求めてダンジョンに頻繁に潜るため、負傷が絶えず顔面もぐちゃぐちゃになっているので仮面を付けていると彼に謝罪をした。 男の要件とは自分の所蔵している文献をぜひ研究の役に立ててもらいたいというものであった。 なぜ自分たちのような窓際部署に持ちかけたのかは分からないが、何らかの手掛かりになればとその男のオファーを受け入れた。 最初は全く期待をしてはいなかったが、男の提供した資料には様々な技術のヒントが豊富に載せられていた 最初に成果を出したのは魔導工学専門のモーゲン博士である。 博士はある配合の金属片に術式を刻むことによってスキルを与えたり制御を可能とすることを発見した。 だがその配合の金属を合成することは難しいため協力をして欲しいと彼に依願をする。 その依頼とは合金と同じ成分の金属をあなたは持っているので提供して欲しいとのことであった。 それは彼の故郷に奉納されていた役立たずの聖剣である。 彼は悩んだ末に過去と決別する意味を込めて役立たずの聖剣の提供を決めた。 術式を刻んだチップを惨號に埋め込み定着させる。すると彼女の持っていたスキルが時間操作という形で強力に発揮することが可能となった。 同様の手術を漆號、捌號にも行うとそれは強靭な再生能力と物質転送能力として覚醒された。 特に生命力の高い漆號には命を別の物へ保管するという術式の実験も成功させており、再生能力と併せて不死身の肉体を持つこととなった。 ちなみに命の保管の術式は他のメンバーでも試してみたが成功はしなかった。恐らく漆號の再生能力との相性の関係ではないかと推測された。 また機械式タイプのメンバーに同様の術式を行うと肉体が強化され、ジェネレーターの全力出力にも耐えられるようになった。 さらに一部のメンバーにはスキルが覚醒するという現象が起きた。 弐號は目に見えない障壁を発生させ、陸號は刃から血と生命力を吸うことができ、壱號は生体パルスに同調させた電流で人間や生物を操作することが可能となった。 彼は部隊の成果が上げられたことだけでなく、娘の身に自滅の恐れがなくなったことを大いに喜んだ。 そしてこの方式の成功によって新規の人造勇者の開発も進み、いつしか部隊は分隊から小隊へと変わって行った。    *   *   *   *   * メンバーを拾惨號まで増やした第四小隊は、その日激戦区の666高地へと向った。 複数の国と接する同地は魔王軍の侵略により占拠され、隣接する国々へといつでも攻められる危険な場所へと変わっていたのだった。 国境を接する国々は連合軍を結成し攻めるも、敵は強力な防衛陣地を構築し連合軍は徒に死傷者を増やすばかりであった。 連合軍は藁をも掴む思いで高い技術力を誇るバルロスへと援軍の依頼をする。そして上層部が派遣を決定したのが第四小隊であった。 彼はこれをゴーレム技術を軍の根幹と考える一部の幹部による部隊潰しだと睨んだが、命令を下された以上は行かねばならない。 彼は娘や隊員たちの無事を祈りそして送り出した。 666高地へ着いた部隊は早速攻撃をしかける。 沢山の罠が仕掛けられた防衛線に苦慮しているところを魔導砲と魔シンガンで遠距離から撃ち倒すのが敵の戦術である。 まずはその厄介な火器を潰しにかかる。伍號が敵の砲台の正確な位置をその高い視力で観測すると、捌號が瓦礫や岩を転送で上空から落とし破壊する。 そして対空戦力が無くなったところで拾弐號ツヴォルフ=ドラシーナが上空より爆炎をまき散らし蹂躙する。 その隙に主力部隊が敵陣まで近づく。 もちろん敵も銃撃で対抗するが、弐號の障壁はそれを通さず無傷で進んで行く。 そして敵陣へ乗り込むと後は一方的な虐殺であった…。 彼は部隊の圧倒的な戦果に歓喜した。ざまぁみろ!俺の選んだ道は正しかったと。 帰還した第四小隊はバルロス中の英雄となり、潰そうとしたゴーレム派閥は存在感を弱めて行く。 その中で何人かの軍幹部が不審な死で世を去っている。これは拾惨號のスキルを用いた彼からの仕返しであった。 これで軍内部で第四小隊を睨もうとする者はいなくなった。 その後も様々な戦場へ派遣された小隊は戦果をいくつも上げて行く。 カンラーク救援作戦は残念ながら間に合わなかったものの、廃墟と化した同地から忌器と呼ばれる古代アイテムとその研究者であった聖女を手に入れたのだった。 彼は戦利品として送られてきた忌器を初めて見る。その時脳裏に浮かんだのはこれは危険な物であり簡単に手を出してはいけないという直感であった。 多大な戦果を上げた第四小隊、そのシンボルとして彼の娘である壱號はバルロス全土で英雄視されるようになった。 誇らしくあると共に一緒に過ごす時間を失い、娘との距離を感じ始めた彼へと声をかける者がいた。 『お嬢様が独り立ち…いやご活躍されて、父親としてさぞや鼻が高いでしょうな…』 それは仮面の男シュッツガイストであった。 男は初対面での資料の提供後もオブザーバーとして部隊へとちょくちょく顔を出していた。 男の功績は十二分に理解をしているのであるが、この胡散臭い男はどうにも信用がならなかった。 男は忌器を手に入れたことで、部隊がより強化されることを望んでいた。 やはりこの男とは反りが合わない…と彼は思うのだった。    *   *   *   *   * 彼の元へ朗報が届く。特殊兵装実験部隊の強化のために人員予算が増えると共に、彼に部隊全体を取りまとめて欲しいと指揮権を持つ立場へ昇進することであった。 また双方に人員が増えたため今までのような兵士と技術陣の混成では回せなくなったので、それぞれを分離させることとなった。 人造勇者たちは『特殊兵装実験部隊第四中隊』、技術陣は『特殊兵装開発局』として独立。それらを併せた総称を『ヒジンドー機関』と名乗ることとした。 機関の長として任務だけでなく様々な折衝も行わなければならなくなり、彼は現場に顔を出すことも少なくなってきた。 もっとも開発の主力はリスクが少なく拡張性の高い聖剣チップ方式となっており、彼の生み出した機械化方式は旧式として用済みとなっていた。 現場では加わった技術者たちによって、様々な能力を持つ人造勇者たちが増えて行ってる。 壱號を始めとした機械化組も新たなジェネレーターや人工筋肉の増設等でそれに負けじと改造を繰り返す。 だがそれが上手く行くことばかりではなく、時には実験の失敗で負傷をすることも少なくなかった。 この対抗心は人員増加前の初期型メンバーと増加後の後期型メンバーとの間に溝を生むこととなった。 ヒジンドー機関の発足から半年後、立ち上げの業務もひとしきり終わった彼は久しぶりに現場へと顔を出す。そこで彼は愕然とすることとなる。 役立たずの聖剣はチップの素材としてもはや半分も残っておらず。 技術陣は自らの研究を実証する材料として新たな人造勇者を増やして行ったのであった。 その様はまさにワンアイデアワン勇者と言った具合の粗製乱造ぶりであり、最強の勇者を作るためという理念はもはや消えていた。 彼はすぐさま全ての研究開発を凍結させた。 そして技術者たちに粗製乱造した理由を問うと、人数が増えたのだから一人で賄う全部乗せではなく一機能に特化した者を集めた方が効率良いとおためごかしな理屈を言い放った。 勇者とは最強の存在でなければいけない、他人の体に手を加えるのだからその者が決して後悔しないような力を与えなければいけないと、彼は技術者たちに説いたが皆馬耳東風な様子である。 怒りで頭に血が上った彼の元に娘である壱號がやって来てこう言った。 「あなたにも理想はあるのでしょうが、今現場は良いサイクルで回っているので口出しはしないでもらいたい。これは皆の総意です」 壱號の発言に愕然とした彼に追い打ちをかけるようにシュッツガイストが耳打ちをする。 『今組織は壱號が中心になっています、中佐は長らしくドンと構えて下さい』 『それに最強の勇者はいずれ生まれますよ。星骸炉という忌器を用いた“廻天計画”というものを秘密裏に進めております。その勇者はあなたの娘さんになるかもしれませんね…』 もはや組織は目的と手段が逆転した歪なものになっている。それを正すべき壱號もその空気に染まっている。 一度リセットして最強の勇者を作ることをまた最初から始めよう…。彼はそう決心した。 彼は軍上層部に組織の解体を宣言する。 理由は無暗に増えた研究によるリソースの浪費を無くすためのリストラであると。 彼の決意は固く上層部の説得も通じなかった。 最悪の場合を想定して、彼は一番古いメンバーであるグート博士とモーゲン博士に今後の方針をしたためた手紙とそのための素材を渡した。 その後、彼は壱號を執務室に呼び出すと機関の解体を告げた。 理由を問い質す壱號に彼は今の組織は目的と手段が逆転している歪なものになっていること、廻天計画のような禁忌に触れるような手段を用いようとしていることを挙げた。 壱號は最強を目指すのであればそのような手段を用いても構わないのでは、あなたの理屈ではこの先開発される人造勇者以外は用済みなのですかと問いた。 彼は理屈をあれこれこねるよりも率直に言った方が通じると判断し、そうであると切り捨てた。 この言葉を聞いた時に壱號の中で何かが切れた。 壱號は彼の首を左腕で掴むと微弱な電流を放つ。 右腕は勝手に動き、護身用に持ち歩いていた拳銃を抜くと銃口を自身のこめかみへと向ける。 「私はあなたのために母からもらった体を切り捨て機械の体になった。あなたのために幾多の戦場で血を流してきた。あなたのために組織をまとめ上げた。それなのに…」 壱號の目からは涙が溢れていた。娘の泣き顔を見て、自分は何をどこで間違えてしまったんだろうかと考えた。 その瞬間引き金が自らの手で引かれ彼の意識は切れた。彼は息を引き取る瞬間、最後に謝っておけば良かったと後悔したのであった。 (続く)