客席への視線はいつでも、憐れみと失望とに満ちていた。 手元のちんけな折れ札を見たときも、封も切られていない薄っぺらな給与袋を見たときも。 彼らはそのつまらぬ端金で、自分を好きにできるつもりでいる――お笑い草だ。 桁が二つも三つも違う額が、彼らの頭の上を通り過ぎているというのに、あんなに真剣に。 だが彼女は、乳首はおろか陰唇、その内奥までをもさらけ出している己こそが、 多寡こそあれ、金銭にて身体を差し出している己こそが――最も浅ましいことを忘れている。 店には同じような立場の女たちが、やはり金銭に流されて春をひさいでいた。 髪の色も目の色も、あるいは肌の色――そこに浮く体毛、鱗、甲殻にいたるまで様々で、 しかし若く、雄の情欲を煽り立てることには変わりがない。 入場料の酒杯一つで、それらを眺めているだけでいくらでも時間潰せようが―― だが自然と欲は募る。本能が、目の前の雌に触れたいと全細胞を震わせる。 それが――無謀な競りに彼らを駆り立てるのだ。どうにもならないとわかっていても。 どの女たちの肌にも、銀河中の言語が入り乱れていた――対訳を試みるまでもなく、 売女への侮辱の言葉を辞書一冊分は優に集められそうなぐらいだった。 それは彼女らの一夜の肉体を買った男たちの権利として、そうするのである。 あるいは手製の金輪か何かを、耳、乳首、陰唇、臍――そんなところに付けさせたりもする。 自分の肉体が便所の壁めいて落書きに汚されていくのを喜ぶ女はおるまい。 だが彼らからの悪意ある贈り物を拒むことは、誰にも許されていないのだ。 皮膚の表面積に対する占有率は、勤務年数の長さか――あるいは人気に比例している。 肌をたちまちに黒く染められていく女は、つまりそれだけ多くの雄を惹きつけるということ。 雌としての優秀さ――何人、何十人、何百人もの客を抱えた売れっ子ということ。 そしてそれは当然、宿るべきものの父親が誰なのかを、完全に特定不能とする。 そして父なし子として産み落とされる定めにある赤子のいる胎―― 大きく前に突き出した妊婦腹は、特に墨を入れたがる男の数も増えるのだ。 彼女が店に現れるようになってから――その日のうちには、針が入った。 乳房の付け根、どうあっても隠せないような場所にでかでかと彫られたその文字は、 さらに多くの雄たちの嫉妬心を駆り立て、一夜の値段を天文学的に吊り上げていく。 それだけの熱狂を生み出す背景には、やはり彼女自身の美貌があった―― 透き通るような白い肌。真皮の上に黒の映える、滑らかで艶めいた蠱惑の肌。 彩度の高い桃色にぎらぎら光る長手袋と靴下は、彼女の肢体をより一層淫猥に見せる。 金色の、頭の後ろで一纏めにされた長い髪――男たちは好んでそれを掴む。 そして彼女を抱けぬ貧乏人を、心の底より侮蔑する碧い瞳―― 無数の雄に汚されてなお、その輝きの衰えることはなかったし、誰にもそうできなかった。 個室の中にて、あるいは店の床に押し付けられて、それでも彼女の余裕は崩れない。 自分の商品としての価値、雌としての魅力を心底信じているような風であった。 だからこそ雄は狂う。己の存在価値を掛けて――彼女を地に堕としてやろうと。 生命を育む揺りかごの、その外側に卑猥な言葉を散々に刻み込まれ、 産後の弛んだ皮にその文字が力なくへたれる様こそ――母性を踏み躙るものはないのである。 けれど彼女は日ごとに重くなる腹、どんどんと増えていく男たちの爪跡を、 それ自体が一つの飾りであるかのように誇示し、臨月胎をゆさゆさと振ってみせるのだった。 いかに外を汚したとて、内なる神聖なものを穢すことなどできぬと言うかのごとく―― 男たちが妊娠した彼女の膣内に、何の遠慮もなく固く反り立った性器を突き入れ、 赤子ごとぐずぐずに磨り潰してしまいそうな勢いで抉るのも、それが原因だ。 ただ――その努力はやはり、女の憐憫の眼差しを、変えることはできない。 声だけは、抱かれ慣れた娼婦らしく、甘ったるく媚びてもみせるのに。 彼女が何者であるか――そんなことには、男たちは拘泥しない。 ただ使いたくなる穴であるか、それ以上の価値は何もないのだ。 それは、後ろ暗い過去や破滅願望のある女には都合よくもあった。 身体さえ差し出していれば――食うに困らないだけの金は手に入る。 好きでもない己の肉体を、肉食魚が群がって限りなく無意味な存在に希釈してくれる―― 果たして彼女がなにゆえここに来たか。それは本人が語らぬ以上、誰も知り得ぬことだ。 ただ――男たちの欲の渦の中に沈んでいくことを、彼女は拒絶しなかった。 銀河最強の賞金稼ぎ――そんな益体もない肩書きは、もう背負うのに嫌気が差してしまった。 親に与えられ――そしてきっと、親以外にも愛されてきたはずの自己を、 薄汚れた雄どもの繁殖欲求のために差し出すことを厭わなかった。 伴侶として、配偶者としてあまりに不適切な――若い女の肉体しか見ない連中の、 一時の快楽のために卵子をくれてやり、孕んでやり――やがてその目の前で、産むのである。 彼らは彼女を辱めるために、膨らんだ胎をわざとらしく優しく撫でさすり、 もう臨月――否、産月にあることを、言葉で何度も繰り返し伝える。 だが女は慣れたもの。命名権はとうに誰かが買ってしまったと嘯く。 四人目以降ならまだ売れ残っているぞ――そんなことを言われてしまえば、 男はもう、腰使いを激しくして黙らせるしかないだろう。もっとも、それで出る声―― 数多の雄を咥え込み、妊娠によってこなれた膣肉をほじられてこぼれる声は、 とても先程の余裕ある凛とした声色とは結びつかない、雌臭いものなのだが。 まだ手付かずの画布二房には、その付け根から芋虫の這うように、新たな文字が増えていく。 母親失格――と、そんな意味であろうか。それとも、孕み袋、といったあたりであろうか? 彼女は雄の精を受け、胎を膨らませ、その内と外とを売り物にする己の生業を、 いったいどう思っているのか――ふと、男たちは素に戻ってしまう。 そしてあの憐れむような眼に、また心と股間とを苛立たせながら、 生意気な産婦を突き殺してやろうと、その内に怒りを叩き込むのである。 黒々と染め上げられた陰唇――酷く淫らに伸ばされ、ごてごてとまぶされた金の飾りは、 今や新たな生命を祝福するための花道のように、店内の雑多な光を反射するのであった。 息を整えながら、女は乳房を揉み、繰り返し訪れる陣痛を紛らわせる―― 二周りは大きくなった胸は、元からの大きさと合わせてほとんど冗談のように重くなり、 指を沈ませれば、水を含んだ海綿よりも豊かに乳汁を吐き散らす。 黒く、広く成り果てた乳輪は――彼女がここでの仕事を始めた前の写真と比べると、 とても同じ人間のものとは思えないほどに、下品に育て上げられていた。 男たちが好き勝手に弄り、つねり、噛み――あるいは、吸ってもきたのだから。 頭が、出たり引っ込んだりする。頭頂部は、母と同じ金色のつむじを持っている――けれど、 その下に覗く肌は、明らかに寒色系の、異種の種を遺伝子の片割れに持つものであった。 青紫の“赤子”は、彼女のいきむのに合わせて、男たちの目の前に姿を現し始める。 その名は無論――母親の肌に散々彫りつけられた猥語とそう変わらない、 人の名にするには、あまりに不適切で尊厳への配慮を欠いたものである。 だがそれが――どうしたというのか。道具として己の身を売り、己の卵子と子宮、 そこで生産されたものの名と――所有権さえ、この店の女たちは売り払っていくのだ。 床にぼとりと落ちて、産声を上げる肉塊のことなど、誰も気に掛けはしない。 母親になったばかりの女は、荒い息で――あの見下すような目を、我が子にも向けた。