シュッツガイストという得体の知れない男から提供された古代技術の資料より、例の役立たずの聖剣を用いたチップを埋め込むという方式が開発される。 その方式により惨號ブリッツクリークを始めとしたスキル養成部門の被験者たちが能力を覚醒し、新たな人造勇者として戦力となって行く。 その方式をアインス自身も試してみることとなる。定着具合は良好で左腕から流れる電流によって他人を操作できるスキルに覚醒をする。 アイゼンヴァントのように強力な攻撃手段が欲しかったと悔やむアインスに、父はお前はリーダーなんだから人を操る能力大いに結構ではないかと励ました。 もっとも聖剣チップの効能により身体能力が大いに向上し、ジェネレーターの全力出力に耐えられるようになったのは予想外の副産物であった。 これで父のくれた力の本気を出すことができる、最強の力はここにあるのだと誓うのであった。 この聖剣チップ方式の成功により新たな被験者が増え分隊から小隊へと拡大した部隊は、666高地奪還作戦を始め様々な作戦にて勝利を果たす。 部隊はバルロス中から英雄扱いをされ、自身もそのアイコンとして様々なメディアに取り上げられるようになった。 あの冷や飯食いのどん底から皆が認めてくれるまでになった…。 これで父や私だけでなく母の夢も叶うことができたのだと思うと、もうこれで終わりでいいのでは…という気が起きなくもなかった。 いつの間にやら階級は腹心である弐號を超えて大尉へと登り上がる。 そんな時アインスに声をかけるものがいた。黒仮面の不審人物シュッツガイストである。 『いやはや見事なご活躍ですね。あなたは素晴らしいリーダーです。さぞやお父様もお喜びでしょう』 このあからさまに怪しい男に褒められるのは不安であるが、せっかくの誉め言葉だ素直に受け取っておこう。 だが実際父はどう思っているのであろうか? お互いが忙しくなったため顔を突き合わせて会話をすることも少なくなってきている…。 さらに追い打ちをかけるように部隊は小隊から中隊へと更なる拡充がされ、今まで二人三脚でやってきた技術部門とも分離されることとなった。 勇者たちの取りまとめはアインス、技術部門の取りまとめは父が行うこととなった。 だが父はヒジンドー機関と名付けられた組織の長として表に出なければならず、技術部門の現場の取りまとめも自然とアインスが行わなければならなくなった。 アインスの気苦労を知ってか知らずか、人造勇者側も技術者側も人が増えた分今まで無かったような軋轢が生まれてくる。 体内に機械を組み込み苦痛と共に己が身を強化してきた初期型と違い、チップ一枚でただの凡人から特別なスキルを持つ人造勇者へ作り変えることができる後期型との間に深い溝が生まれ始めていた。 初期型メンバーは苦痛も知らずに勇者を気取りやがってと妬み、後期型メンバーは型落ちが何か言ってると一笑する。 また技術陣にも統括する父がいないせいで、明らかに思いつきで考えたような勇者と呼べないレベルのスキルの兵士が粗製乱造されて行く。 とにかく研究のラインが多すぎて補佐をするはずであったグート博士やモーゲン博士も手に負えない様子であった。 困り果てたアインスに声をかける者がいる、シュッツガイストであった。 『あなたは皆のリーダーなのですよ。お忙しい中佐の代わりにあなたが組織の全てを取りまとめるべきでしょう…』 この男に言われるのはいささか不本意ではあるが、強権を発動しなければならない時であるのは火を見るよりも明らかである。 アインスはまず初期型と後期型の諍いを仲裁しようとする。初期型組をなだめ、後期型組とはディスカッションを繰り返し理解を深める。 だがそれでも納得しない口さがない者は見せしめとして自ら粛清をして初期型メンバーの力を見せつける。 いささか乱暴なやり口ではあるが、結局のところ個々が強い力を持った集団であるから実力行使は避けられない。 この顛末を見ていた初期型メンバーは力のマウントを誇示するために更なる再改造を行い強化を図る。 そしてその頃には技術陣たちの暴走はある程度収まったかに見えた。やはり力には力しかないのか…。 そんなことをアインスが考えている時に声をかける者がいる。シュッツガイストである。 『そうですよあなたはもっと強くならなければなりません、中佐の求める者は最強なのですから。ちょうどいいプランがあるのでお聞き下さい…』 シュッツガイストの語る廻天計画は実に荒唐無稽としか言いようがなかった。魔王の死体を星骸炉に入れ星の管理権を手に入れる?馬鹿馬鹿しい。 そもそも魔王を倒せるぐらいならその時点で最強ではないか?それ以上何を倒せというのだと。私の極当たり前の反応にシュッツガイストが答える。 『魔王以上の脅威ですか…。例えばバルロスとか?』 「なおさらアホらしい。あれはこの地に埋まって活動を止めたまま、何百年いや千年以上も動いてないスクラップだ。何が脅威だというのか?」 『私も研究者の端くれですからね。機工竜バルロスに関してはいささかの知識は持っています。あの永久魔力炉という機関はまだ完全に壊れたというわけではありません。あの魔王を倒せるだけの力が仮に再起動した場合、この街はどうなると思いますかね…?』 「その気持ちを言葉で何と表現されるか教えてやろう。杞憂というやつだ。私もあの忌器という不気味なアイテムは好かん。これでこの話は終了する」 とにかく少しづつではあるが組織は改善し始めている。私は父の助けになれたのであろうか…。    *   *   *   *   * 父ことイナッテン中佐が現場に復帰する。すると好き放題やって乱れていた現場の様子を見て憤慨して出て行く。 私はそれを追いかけて説得する。今はまだ改善の途中であるから黙って見ていてくれと…。 「あなたにも理想はあるのでしょうが、今現場は良いサイクルで回っているので口出しはしないでもらいたい。これは皆の総意です」 娘として情に訴えるというやり方もあったのだろうが、皆の前であるゆえ毅然とした言葉で対応しなければならない。 私の言葉に父はため息をつきながら現場を去った。 全てを諦めたようなあの父の目つきに言いようもない不安を感じる。 そんな時またあの男がやって来たのだった…。 『こういう言い方は何ですが。中佐はもう全てを見限ったのかもしれませんね…』 「それはいったいどういう意味だ?」 『最強の勇者を作る目的を忘れた組織。それに甘んじる烏合の衆の人造勇者たち。ひょっとしたら大尉、あなたのこともね…』 「なぜ父が私を見限るというのだ?」 『あなたは最強にはなれませんからね。機械式のそのボディではいずれ性能は頭打ちになる。それに何より術式の研究が進んだ今、チップ一枚で初期型メンバー以上の最強勇者を作り上げることも可能なのですから…』 「そんな…はず…は…ない…」 抑えきれない動揺は言葉を震わせる。 数日後私は父に執務室へと呼び出された。そこでヒジンドー機関の解体を伝えられる。 私は理由を問いただす。 すると父は今の組織は目的と手段が逆転している歪なものになっていること、廻天計画のような禁忌に触れるような手段を用いようとしていることを理由として挙げた。 確かに理屈は分からなくはないが前者は今改善中であるし、後者はシュッツガイストの奴が吹いているだけだ。 理由はなんであれ父に切り捨てられるかもしれないと疑心暗鬼になった私は彼に問い質す。 「仮に最強を目指すのであればそのような手段を用いても構わないのでは、あなたの理屈ではこの先開発される人造勇者以外は用済みなのですか」と。 父は数秒考えた後こう言い放つ「そうだ」と。 その瞬間私の何かが切れた…。 落ち着きを取り戻した時、自身の足元に見えていたのはこめかみを銃弾で貫いた父の遺体であった。 動揺する私の傍らにシュッツガイストがいた。 『おやおやこれは痛ましいことで…。中佐は機関の現状に大いに悩んでおりましたから、精神が錯乱してもおかしくはないですからね』 あからさまな取り繕いではあるが、私が殺ったと知られたら組織自体の存続にも繋がる。ここは乗るしかない…。 「そうだ!中佐は心を病んでいた! 精神に異常をきたし機関の解体を宣言して、それが無理だと分かるや自決を謀った! そうだなシュッツガイスト!」 『そうですね。ヒジンドー機関は未来永劫続きます!真のリーダーであるあなたが率いてね…』 機関の長である中佐の不慮の死は秘密裏に処理される。 組織内の動揺を抑えるためと、中佐が上層部に進言したリソースを消費する無駄な研究のリストラとして技術陣への粛清が行われた。 ろくでもない研究ばかりしていたエンジョイ&エキサイティング勢を対象にと見せかけてはいたが、真の目的は中佐シンパの研究者を処分することであった。 そのことを察知していたのか、立ち上げメンバーであったグート博士とモーゲン博士は研究成果を持ち逃げして地下に潜った…。    *   *   *   *   * 「なっ、何なんだあれは…」 アインスはバルロスの中心地の上空を飛び去ろうとする機械の竜を見上げて言う…。 中佐の死後、組織を完全掌握したアインスの前に魔王軍四天王エビルソードが現れる。 それは本当に突然としか言いようがなかった。 バルロスの上空にまるで排水口に吸い込まれる水流のような渦を巻くゲートが現れると、その中から金色の鎧を纏った大男が降下する。 彼は視界に映る動くものを全て切り伏せる。それはまるで殺戮機械のようでもあったが、漂う強者のオーラは明らかに生身のものであった。 防衛用のゴーレム部隊があっさりと倒されると、第四中隊にも出動の命が下る。 エビルソードとの交戦が始まると力の差は露骨に出始めた。 技術陣が錦の御旗としていた多種多様に渡るスペシャリストの混成部隊は圧倒的な暴力には何も抗えず、時代遅れと言われた初期型部隊の奮戦で戦線を辛うじて維持することができた。 「結局あの男が正しかったということか…」 状況は一旦休憩という様相となり、エビルソードも人造勇者も体勢を整え直そうとしたその時であった。 轟音が響き大地が揺れる、陳腐な言い方ではあるのがあの状況を表現するにはこの言葉しかなかった。 その振動が止まるとバルロスの中心地で何かが弾け飛ぶような衝撃が広がる。 例えるのであれば話に聞いた異世界における核爆弾というものが近いであろう。 爆風と衝撃波がこちらに向ってくる。 「総員!物陰に伏せろ!」 衝撃が濁流のように流れる。自身はとにかく激流に流されないように目に見える構造物にしがみつくしかなかった。 衝撃が収まり周囲を見渡す。恐らく半数以上の手勢は死んだであろう。 全てが終わると周囲は更地となっていた。 何もなくなった周囲を見てエビルソードは興味を失ったかのように遠くへと去って行く。 逃げるな!と引き留めようとする気持ちとこれで終わりか…という気持ちが葛藤し合う。 悩んでいる間にエビルソードは彼方へと消えて行った…。 一体何が起ったのだ…?アインスが状況を把握するために周囲を見渡す。 その時街の中心地に浮上していた巨大な機械の竜を見上げながら放ったのが先程のセリフであった…。 後にバルロス事変と呼ばれる出来事から2日経った日、残存した全機関員を集めた。 そこで組織の再編と今後の方針を図るための話し合いを持ちかける。 その時、一人の人造勇者が手を上げる。 「もうバルロスの街も軍もないんですよね。だったら俺退役します。お世話になりました」 彼の言に乗っかるように生き残った人造勇者や技術者が次々と離脱する。 生き残った初期型メンバーたちはアイツら全員ぶち殺してやろうかと息まいていたが、アインスは無駄だと制する。 憔悴しきったアインスの耳元にシュッツガイストが囁く。 『これは致し方無いことですね。全てあなたが弱いのが原因ですから…。だったら全てをひっくり返して見せつけてあげましょう』 『廻天計画の始まりです!』 (続く)