慣れたものだ。緑色の肉塊は、何の抵抗もなく、するん、と外界に躍り出る。 それに合わせて歓喜の白い雨が、生臭い潮が、びちゃびちゃと締まりなく床に降り注ぐ。 それはもはや、当人の意志如何でどうとできるものではなかったのである。 涎も然り。快楽に蕩けた脳から押し出される、言語の体裁をなさない声も然り。 だがそれを恥じることもない。彼女にとって人であった頃の名残は、もう何の意味も持たない。 求められるがままに、一匹の雌として身体を差し出すことの他に――何が必要というのか? かつては健康的な日焼けさえしていた肌は――ここに繋がれてからの永きに渡り、 陽の目を見ることもない生活の中で、すっかり真っ白な生まれつきの色に戻ってしまった。 だからこそなお、それは暗闇に映えるのである。粗末な松明の火が揺らめいて一角を照らす。 すると陰の中の数多の影が――めいめいに白い肌を舐め回し、なぞり、噛みつき、引っ掻いて、 彼女の肌のあちこちに、印を付けて回っているのが見えるのだった。 しかもその数は十や二十ではとても足りない――緑の雲海めいて、それらは動く。 そして雲々からの刺激の度ごとに、哀れな女は何度も被虐的な悦びに打ち震える。 首輪に繋がる鎖を波打たれて。乳房をぎゅうっと抱きかかえるように搾られて。 股関節がめいっぱい開くように両脚のふくらはぎを乱暴に掴まれて。 鼻に通された家畜としての証を引っ張られ――呼吸を阻害されて。 そして何より、己の股座から這い出たばかりの緑の肉塊が――母を求めて泣く声を聞いて。 雲海を灯の撫でた後には、きらきらと青色の星が不気味に光を返す。 それは彼女の瞳の色と全く同じで――血の繋がりを、何より強く証明するものだ。 ここにいる緑肌の亜人たちは、一体を除いて全て、同じ瞳の色をしている。 赤くぎらぎら血走った、明らかに強靭な肉体を持つその個体が彼女を打ち破り―― 勇者の末裔たる身を、やがての世界の救い主を宿すべき小袋を己のために使い尽くした結果が、 こうして闇の中に蠢く、一塊の異形の群れなのである。 岩窟の中には、胎はただ一つ分しかなかった。ひたすらに増えていく雄たちは、 己の這い出てきた場所であることも構わずに、それを使おうと殺到する。 けれど一番強いのは、やはり“父”であり――“雌”が自分以外の雄の仔を産むのを、 血の繋がった全弟の産まれるのを、彼らは指を咥えて見ているしかない。 運良く交尾にありつけたとして、それはようやく童貞を捨てる程度の意味しか持たず、 幼子たちがせっかく吐き出した精子は、父の性器によって容赦なく掻き出されてしまう。 そしてまた、それを塗り潰すように新たな精を送り込んでいくのだから―― 彼らにとって、“それ”は母という認識ではない――血の繋がり自体は、無論認識している。 しかし近親交配への忌避感は、雌の身体への希求を上回るほどに強くなれないのである。 何より、目の前で、群れの長たる父が何度も何度も――自分の産まれてからも更に何度も、 その雌の胎を好き勝手に膨らませて己の遺伝子を引き継がせているのだ。 自分もそうしたい、早く、あの柔らかな肉の中に種を蒔いてしまいたい―― 力づくでは、とても敵わない。交尾の経験も――すなわち巧さも、比較にならない。 まるで万引きでもするかのように、彼らはふとした隙を狙って、母の胎内に性器を挿入する。 ほんの一瞬の、一部位だけの里帰り――郷愁の念など湧くわけもあるまいが。 だがお粗末なのは、雌の胎が今にも産まれようとする臨月産月に達していたとて、 穴が空きさえすれば、生殖において無意味であることも知らず――群がることであろう。 自分のひり出した息子たちに犯されても――女はへらへらとした笑顔のままである。 既に均衡を欠いた精神は、目の前のそれが何者かを判別できぬのである。 ただ、女体の取り扱い、という点において、彼女を支配する岩窟の主は乱暴かつ巧みだ。 一方で――やっとの思いで雌にありついた若き個体は、まったくの不慣れである。 腰の振り方一つ、身体へのしがみつき方一つ、性欲が優先しすぎて拙さしかない。 その僅かな違いを、彼女の崩れた精神は何らかの兆しとしては受け取るのだが、 実の息子に犯され――孕まされようとしているという残酷な現実とは翻訳しない。 敗北し、犯され、拉致され、犯され、繋がれ、犯され、産まされ、犯され、産まされ―― そうして魂の奥底まで刻み込まれた、雄への屈服と服従の姿勢によって、 母を一匹の雌として支配しようとする雄へ、媚びへつらう笑顔を向けるだけである。 それでも、彼女が生命を落とさなかったのは、やはり優れた血筋ゆえか。 それとも早々に心身が抵抗を諦め、与えられる一切を快楽として享受するようになったためか。 赤子をひり出す時にさえ、本来は肉の裂ける痛みに絶叫して然るべきところ、 彼女はいきみながら何度も絶頂に達し、乳と潮を垂れ流して吼え狂う。 それはあまりに浅ましく――健気なほどの、自己防衛本能の表れである。 そうでもしなければ、緑の肉塊と、それに繋がる臍の緒と――駄目押しのように出てくる胎盤に、 恋を知らぬ乙女の心は、ずたずたに切り裂かれてしまっていただろうから。 彼女が絶え間なく撒き散らす乳と潮は、暗闇の中において、雌の位置を強く示す標識である。 彼らの都合で岩窟内のあちこちに連れ回され、そこでの交尾を強いられ―― 時にはそのままそこで産むことさえある彼女の身柄は、彼女自身の垂れ流す体液、 その雌臭い芳香によって、雄たちを引きつける。どこに行こうと、全てわかってしまう。 もっとも、ほとんど常に赤子の入っている胎はいつでも重く垂れ下がり、 乳を溜め込んだ両胸もまたずっしりと彼女の身体を地に縫い付けているから、 まともに歩くことはおろか、四つん這いでうろつくことすら難しい。 その上首には、重たい鎖がぶら下がって、これまたじゃらじゃらと音を立てているのだ。 魔王を倒す――その使命はどうなったであろうか。少なくとも、それは彼女には果たせない。 父が高名なる勇士だろうと、駆け出しの彼女が敵を倒せるわけもない。 むしろ、人に害なす魔物をひり出して、快楽の中に呆けている始末なのである。 仲間を探していたらどうだったろう?接敵してすぐに逃げを打てていたらどうどったろう? あるいは女の身に、産まれていなかったらどうだったろう――そんな無数の仮定を重ねても、 今、ここで、また新たな人類の仇を産み出している現状は変わるまい。 そしてそんな後悔に浸る時間は――一度目の妊娠を悟ってから正気を失わされるまでの間、 ほんの数週間のうちにしか、許されていなかったのだから。 早く胎を明けろと、何十番目かの息子が母の腹を外から強く平手で叩く。 その刺激に彼女は抗えない。乳を噴き出しながら、一打ちごとに何度も達する。 そして緩んだ身体の隙間を縫うように――赤子は、産道をするすると降りてくる。 彼らが、人間よりも一回り二回り小さい、ということも原因ではあるだろう。 だが何より、産まされ過ぎて、それに特化してしまった身体――孕み袋という天職が、 ほとんど耐える猶予を与えぬうちに、胎の中のものをひり出させてしまうのである。 雄たちは、今か今かと、彼女の子宮から赤子の出来るのを待っている―― これは当然、次の“一番乗り”を狙ってのことである。合理的に考えるならば、 複数の息子が組んで“父”を押し留めておくのが、自分たちの利に繋がるはずだ。 けれど利己心に――否、本能に支配された彼らは、そんな協力をしようともせず、 ぎらついた繁殖欲を、もう間もなくまた孕めるようになる子宮に向けるだけであった。 何匹かが呻いた――驚愕のために。母の股間より這い出た末子の頭には、黒い、毛。 自分たちにはなかった、より強く人間の血を示す――呪われた近親交配の証の、毛。 その意味を、彼らは理解しない。ただ、見慣れぬものに反応を示したにすぎない。 また、雌の身体に雄たちは群がる。己の繁殖欲さえ満たせればいい、愚かな雄たちが。 彼女の胎内にて――絡まりあって歪になった家系図を築き上げていくために。