コージン=ミレーンの日記 D月R日 色んな行き違いがあったものの、敵の裏切り者は味方の理論で無理矢理引き込んだ人造勇者惨號ことブリッツクリーク。 最初は色々やかましかったが行き場のない自身の立場を徐々に理解したのか、最終的には一時的ではあるが共闘することとなった。 とりあえず合流してからの2日間、俺たちは彼女の知る情報の収集に当たっていた…。    *   *   *   *   * 「やはり大講堂とラボに合成獣人たちのが姿が増えているというわけか…」 俺はス魔ホでフリッツ博士と会話をしている。 俺たちが無暗やたらに外へは出れないため、ブリッツクリークからの情報が正しいのかをフリッツ博士とメトリに確かめてもらっていたのだった。 「あぁお前さんらの目的は忌器の破壊だから、その警備ってわけなんだろ。でも肝心の最終目標がどこなのかは、これじゃ分からねぇな…」 ブリッツの情報によると大講堂には例の天使像が、ラボにはそれ以外の研究の進んでいない忌器が保管されているという。 そして肝心の星骸炉の在処は人造勇者であるはずのブリッツクリークにも知らされてはいない。 「星骸炉の場所は重要機密だからって、アインスとドクトル・パンドラとシュッツガイストの3人しか知らないんだよ。今から思うとすげぇムカつく! ずーっとやって来た仲間よりもあんな変態仮面を優先するってひどくない?!」 裏切ったため仕方ないがこうやってベラベラ情報を流出させるメンバーがいるんだから当然だよな…と思ったが、俺はあえて言わないでおいてあげた。 「それにしてもよく連中の動きが分かる位置まで近づけたな。大丈夫だったのか?」 偵察の手段としてメトリはそこらに落ちているゴーレムの残骸からドローンを作り、フリッツ博士の方はいつも連れているアロという少女に任せたらしい。 「仮に連中に捕まった時は一番ヤバい場所でドカーンするように言ってある。もっとも俺はそんなことはしたくねぇんだけどな…」 アロとは博士の作った人型の生物爆弾である。思うところがあったのか普段は自爆機能を外しているが、今回ばかりはさすがに仕方がないようだ。 「メトリもよくやってくれたな。それにしてもそんな特技があったとは意外…でもないか…」 「自身の整備をする必要があるので最低限の知識と技術は持っている。適したパーツが揃いにくい分出来はイマイチだが、壊されるのを前提とするならこれで十分だろ」 「で、お前さんたち次はどっちを攻めるんだい?」 情報交換もひと段落着いたところで博士が今後の方針を聞いてくる。 「今回もやはり天使像の方を攻める。敵戦力を頭打ちにさせれば長期戦も視野に入れられる。それにブリッツの話だとパンドラもラボ側の忌器は大した物は少ないと言っていた」 「だが表に見える人数は…ざっと一個小隊分ぐらいか。恐らく地下道にもそれぐらいの兵力を配備しているだろうな…」 俺はブリッツクリークの方にチラリと目をやる。 「やっぱりやらなきゃならないのか…」 ブリッツは諦めたようにため息をつきながらこぼす。 「すまない。お前は建物の内部まで運んでくれるだけで戦わなくていい。無駄な消費をしたくはないのでな…」 「当たり前だろ!お前らのせいでこうなったのに何で仲間と戦わなきゃなんないんだよ!運んだら私はさっさと逃げるからね!」 ブリッツは半ギレ気味に言い返す。    *   *   *   *   * 「それにしても廻天計画だったな…。奴らは本気で実行しようと考えているのか? 魔王の遺体を呼び水にしてもたらされる星のマナを使って、星姫と呼ばれる精霊を倒して炉の中に入れて星の管理権を奪う。俺の目的が忌器の破壊でなければスルーしても問題ないレベルの荒唐無稽さだぞ」 「もちろん代替策は考えてはいるみたい。魔王の残滓と呼ばれる物体からマナを抽出したりとか。星姫に関しても居所の目ぼしは付いてるみたいな話は聞いたけど…」 当然ではあるが奴らも無謀な試みであることを承知してはいるようだ。 「もう一つ疑問があるんだが、その星皇とやらになって一体何をするつもりなんだ? シュッツガイストの奴は正義による完全なる統治と言っていたが、例の大尉とやらの反応を見るとどうもまだ裏がありそうでな…」 「何をするかって?そんなの特に考えてもいないよ。正義による完全な統治なんてのはあくまでも周囲に対する方便に過ぎない。具体的にどうこうってのはないけど、私たちはもう後戻りができない存在だからとにかく前に進むしかないのさ…」 ブリッツの発言に俺は何か引っかかるものを感じた。 「後戻りができないとはどういう意味なんだ?」 「初期型の人造勇者は程度に差はあるけど、力を得るために皆何らかの改造を受けている。幸い私は元の体を五体満足に残しているけど、それでも体のあちこちをいじくられてはいる。アインスたち機械式はかなりの割合を失っているし、中には人の姿を留めていないのもいる…」 俺の脳裏には仇號と呼ばれていた棒人間の姿が思い浮かんだ。 「だから私たちは戦って強さを示して、世間や部隊を見限った連中に自分たちの存在意義を証明しなきゃならない。こんな歪な体にまでなった意味を、そしてなった甲斐をね」 「アインスは特にその気持ちが強いから不毛と分かっていても進んで行くし、他の人造勇者たちもそれを理解しているから皆着いて行く。何せ人造勇者は彼女とその父である中佐の始めた物語だから…」 「だとしたら尚更理解できないのは、なぜ星皇にこだわるかだ? 仮にその力を振るうとしても魔王を倒すためだというのなら、俺だって目こぼしはするし協力をしたかもしれない。それに魔王を倒すことができれば、全ての人がお前たちを人造ではない本物の勇者と認めるだろう。もうそれでいいんじゃないのか?」 「私はそれでいいかもしれないけど、アインスはそれでは収まらないだろうね。彼女の求める物は最強の存在。それは彼女の父であるイナッテン中佐の立てた最終目標でもあり呪いでもある…」 ブリッツは側にいたシュウを見ながら、まるで吐き捨てるような恨み節の口調で言葉を締めた。    *   *   *   *   * 大講堂内部カンラーク天使像の周囲、そこに人造勇者弐號、肆號、漆號、捌號の四人とドクトル・パンドラがいた。 「おっさ…いや中尉殿、合成獣人たちの配置は完了したぜ。外と地下にはそれぞれ一個小隊分置いてこの建物内には俺たち以外の誰もいない。本当にこれでいいのか?」 警備の監督として合成獣人の差配をしてきた漆號が、広々としたこの講堂内に戻って来る。 漆號はさらに発言を続ける。 「とりあえずアイツらが来ることを見越して、忌器のある大講堂とラボに人造勇者と合成獣人を二分して配置する。そこまではいい、だがこっちに四人あっちには二人ってのはバランス悪くはないかい?」 ラボ側の方には伍號と陸號が待機している。スナイパーである伍號はともかく直接戦闘のできる人造勇者が陸號一人というのはバランスが悪い。 「大尉の見立てでは敵はこれ以上我々の戦力を増やさぬように、まずこの天使像のある大講堂を攻めるだろうとのことだ」 弐號が作戦会議の内容を再度ブリーフィングし始める。 「だが奴らが裏を掻いてラボ側を攻める可能性も無くはないから、もしもの場合に備えて二人残しておく。仮にそうなった時には我々が少尉の能力を使って即座にラボへ急行。逆の場合は二人がこちらに移動をして、敵が逃げられぬよう周囲を固めるという寸法だ」 「これ見よがしに外側には人員を割いているのに、中は俺たち以外はもぬけの殻ってのはどういうことだ? キューケンお前の策だよな」 漆號が不可解な人員配置の疑問を提案者の捌號にぶつける。 「ブリッツの奴が本当に裏切ったのかどうか試したいんだよ。これだけの厳重な警戒網を見れば、本当に裏切っていたのなら能力を使って建物内へ敵を侵入させる。裏切ってなかったら合成獣人たちに削られて、こちらが大いに有利になる」 「まぁいい。どっちにしても俺らはやって来たアイツらをぶっ殺せばいいだけだ。死ぬ前に降参したりぶっ倒れちまったら即座に天使像で合成獣人へと変える。この前は尋問しようと下手に生かしておいたせいで逃げられちまったからな。頼んだぞドクトル」 漆號が念押しのように声をかけると、パンドラは小さく頷いた。 「問題は一緒にいるのが本当に中佐かどうかということだが…」 弐號が最大の懸念事項を呟く。どうやらシュッツガイストは彼らに中佐と思わしき人物は偽物だということを伝えてはいないようだ。 「おまけに反転とかいう妙なスキルまで身に着けてやがる。顔を似せただけの紛い物ならまだいいが、もしも本物だったら…」 漆號も思わぬ強敵と化した元上官には判断を迷っている様子だ。 「中佐、確かに死んでる。死体、確認した。多分偽物、殺せばいい」 大尉に忠実な肆號には迷いがないようだ。 「確かに伍長の言う通りだ、今の我々のリーダーは大尉である。本物にせよ偽物にせよ我々の歩みを止める者は排除する。それが命令だ!」 弐號は決意を固めたようだ。 (続く)