### 【ニンゲン・ディスオーガナイズド(人間失格)】 ``` ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 恥の多いニューロン・ログを送ってきた。 自分には、モータルの営みというものが、実際サッパリ重点理解できないのだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ``` #### 【プロローグ:三枚のスゴイ・タギング写真】 私(語り手)はその男のマグネティック・ホログラム写真を三枚、サイバーデックのモニタ上に展開した。 一枚目。それは幼年期の姿であった。 奇怪極まりない! 醜悪な笑みを浮かべたガキが、メガコーポめいた親族の真ん中でピースサインを作っている。だが目を凝らせば、その笑顔は実際、顔面筋肉を無理やり引っ張り上げたグロテスクな道化のジツめいた欺瞞に満ちていた。見る者をSAN値直葬させるアトモスフィア! 二枚目。ハイスクール時代の写真。 恐るべき美男子(イケメン)めいた姿! だが、その瞳には光がない。学生服を着た冷酷なニンジャめいた風貌だが、どこか薄汚いサイバーパンクの路地裏めいた、実体のない虚無のキリングオーラを漂わせていた。 三枚目。もはや年齢すら不詳の、廃人めいたポートレート。 頭髪は白く濁り、粗末なドージョーめいた一室で、火鉢に手をかざしている。表情がない。死相すら通り越した、まさに「カラテの尽きた抜け殻」……モータル(人間)の顔ですらないのだ。ナムサン! --- #### 【第一の手記:オバケ・ピエロのジツ】 「ドーモ、モータルの皆さん。大庭葉蔵(オオバ・ヨーゾウ)です」 私は幼少期より、周囲の人間たちが恐ろしくて仕方がなかった。 彼らが何を考え、なぜ怒り、なぜ平然とメシを食い、裏切り合いながらも「平穏な社会」を構築できているのか、私のニューロン回路には一切理解不能だったのだ。 (アイエエエ! 人間ナンデ!? 人間コワイ!!) 失禁せんばかりの恐怖! そこで私は、己の生存戦略として一つのインストラクションを編み出した。 **『道化(オチャらけ)』**である! 「アバーッ! 見てください父上、私の珍妙なダンスです!」 「グハハハ! ヨーゾウは愉快な奴よ!」 ワッザ!? これぞ命がけの接待カラテ! 私は道化のメンポ(面)を魂に貼り付け、家族やクラスメイトの機嫌を取り続けた。人間たちの怒号や暴力を回避するための、必死のバカ・ムーブメント! だが、その偽装サイバネめいた道化を見破る者が現れたのだ。 クラスの最も愚鈍とされていた男、竹一(タケイチ)である。 体育の授業、私がわざと鉄棒から無様に落下し、笑いを取った直後――竹一は私の背後に音もなく立ち、耳元で呪詛めいたコトダマを囁いた。 **「……オメエ、わざとやったな」** **「サヨナラ!」爆発四散せんばかりの衝撃がヨーゾウのニューロンを直撃!** ナムアミダブツ! 道化の欺瞞が暴かれたのだ! 私は竹一を恐れるあまり、彼をネオカブキチョの如き歓楽街へ連れ出し、高級スシや安酒を奢って懐柔を試みるという、極めて卑屈なカラテを展開せざるを得なかった……。 --- #### 【第二の手記:ネオサイタマの奈落、ツキミの川底】 上京した私は、さらに深い退廃のサイバー・アンダーグラウンドへと沈んでいった。 画塾で出会った男、堀木(ホリキ)。 「ドーモ、ヨーゾウ=サン。酒とオイランと共産主義(アカ)のイデオロギーは最高だぜ」 「アイエエエ……」 私は堀木の先導により、裏社会の非合法サークル、アルコール、そしてドラッグの過剰摂取(オーバードーズ)へと溺れていく。 道化の仮面はもはや剥がれ落ち、私は金銭を浪費し、実家からの送金をストップされ、完全にスラムの浮浪者じみた有様となった。 そんな中、私はカフェーの女給・ツネ子と出会う。 彼女もまた、人生の重圧に押し潰されかけた哀しきモータルであった。 「……ヨーゾウ=サン、もう疲れました」 「オレもだ、ツネ子=サン。……共にイクか? 三途・リバーの向こう側へ」 **『カマクラ・ダイブ(情死)』**である! 二人は深夜の鎌倉の海へと飛び込んだ! スプラッシュ! ……だが、無常なるかな! ツネ子のみが死亡(サヨナラ)! 私だけが蘇生措置によって生き残ってしまったのだ! 「アイエエエエ! ツネ子=サン! ナンデ! ナンデオレだけ生きてるの!?」 私は自殺幇助の重罪人としてタイホされ、父からの絶縁通告(チャドー・ディスオウン)を叩きつけられた。インガオホー! --- #### 【第三の手記:トラスト・ノー・ワン】 その後、私は子持ちのシバキ・ライター(雑誌記者)の女や、無垢なるタバコ屋の娘・ヨシ子などの元を転々とした。 ヨシ子は神めいた純真さを持つ乙女であった。 「ヨーゾウ=サンは良い人です。私は信じています」 「オオ……ブッダよ、まだこんな清らかなモータルがいたのか」 私は酒を断ち、漫画のイラストを描き、ささやかな家庭の幸福というものを掴みかけた。 ……だが、欺瞞に満ちたネオサイタマの運命は、無慈悲なカラテキックを打ち込んできたのだ! ある夜。堀木と私が屋根の上で無意味な哲学的問答(「罪のアントニム(対義語)は何か? 罰か? それともハチミツか?」など)を繰り広げていた時、階下で事件は起きた。 信じることしか知らない無垢なヨシ子が、出入りの商人によって凌辱されていたのだ。 「ア……アババッ……!」 ヨシ子の『無垢な信頼』は、汚濁に満ちた世界によって無惨にもレイプされた。 **「純真無垢は、罪過なのか……?」** 私のニューロンは完全に焼き切れた。人間への恐怖と不信はMAX限界を突破し、もはや道化のメンポすら粉々に砕け散った! 私はドラッグ(モルヒネ)の注射器に手を伸ばした。 「薬をくれ……! ニューロンの痛みを止めろ! アバーッ!」 中毒症状(ジャンキー・ヘロイン・ハイ)! 借金は雪だるま式に膨れ上がり、私は狂人と化してのたうち回った。 --- #### 【エピローグ:人間失格】 気がついた時、私は鉄格子のある白塗りの部屋に監禁されていた。 脳病院(マッド・アサイラム)である。 「ここに送られた以上、自分は狂人ということになる」 私は窓の外の鉛色の空を見上げ、乾いた笑いを漏らした。 道化を演じ、人間を恐れ、愛を乞い、裏切られ、逃げ続けた男の成れの果て。 ``` ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 人間、失格。 もはや、自分は、完全に人間(モータル)であることをオミット(除外)されたのだ。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ``` いま、私は寒村の廃屋めいたバラックで、ただ息をしている。 髪は白髪となり、まだ二十七歳だというのに、訪れる者は皆「四十以上のジジイ」と見紛う。 すべては、ただ過ぎ去っていく。 いま私が生きているこのマッポーの世で、唯一の真理めいて響くコトダマがあるとすれば、ただこれ一つだけだ。 **『すべては、ただ過ぎ去る(タダ・スギサル)』** ……遠くネオサイタマの夜空に、サイバーネオンの文字が虚しく瞬いていた。 **【ニンゲン・ディスオーガナイズド】おわり**