「スヮリさんをやったのは君と陸號だよね。仇は取らせてもらうよ…」 ライトは両腕から刃を生やし、高速で震わせる。得意技の高周波振動ブレードだ。 「お前、見飽きた。ここで、殺す」 肆號は両腕両足から収納されている聖剣を引き出す。 お互い因縁のある相手だけに顔を見合わせた瞬間から戦うことは決まっていたようだ。 そして今までの流れなら俺が弐號でシュウが漆號とやり合うのであるが、今回はそれぞれ逆の相手と対峙する。 「ニセ中佐のスキルで俺を足止めするんじゃないのか? まぁいいお前がいくら腕が立つとはいえど俺を殺しきることは不可能だからな。ちょっとでも動きが鈍ったらこの聖剣の錆へと変えてやる…」 予想外の顔合わせに漆號はむしろ余裕の表情になる。 「偽物とはいえ中佐の見た目をした人物とやり合うのは妙な気分になるな。恐らく私のスキルへの対抗策だろうが、私を倒せるのなら倒してみろ!」 弐號の固い防御障壁に反転が通じるのか? 俺がシュウを差し向けたのはそれを知りたかったからである。    *   *   *   *   * 「行くよがーすけ!耐えられるギリギリまで力を引き出してくれ…」 戦いの火蓋を切ったのはライトであった。高速の動きで一気に距離を詰め、両腕の刃で襲い掛かる。 だが肆號も両腕の聖剣で払うと足技でライトの腹部を狙う。だがライトもそれを見越しており、バックステップで離れる…。 ライトと肆號の間で目にも捉えるのは困難な高速戦闘が始まる。 肆號はとにかく距離を詰めようとするが、ライトは飛び道具の真空波を交えたヒット&アウェイ戦法を取り寄せ付けない。 苛立ちを隠せない肆號が距離を詰めようとすると、ライトは相手のお株を奪うようなカウンターの蹴りをヒットさせる。 ライトのクレバーな戦いぶりに普段は冷徹な肆號も焦りを感じ始める…。 「(ヤバいのは右腕と右足に付いている剣だっけか。焦らず冷静に捌く、それだけだ…)」 戦いはライト有利のまま進んで行こうとした時、状況に変化が訪れる。 肆號は左腕の刃を突き出すような構えを取ると両目の瞼を閉じた。 肆號の戦闘中とは思えない妙な行動にライトは警戒心を抱く。 目ではなく気配を感じ取ろうとしているのかと推察したライトは離れた距離から真空波を放つ。 すると肆號は上体を左方向にスウェイすると最低限の動きで真空波を躱したのだった。 飛び道具がダメなら次は近接戦だ!とばかりに、ライトはフェイントも織り交ぜたジグザグのステップで距離を詰め肆號の左側から斬りかかる。 しかし肆號は分かっていたとばかりに左腕の剣で刃を払った。 まるで自分の動きが分かっているかのような肆號の反応にライトは危険な予感を抱く。 そうこれは肆號の左腕に仕込まれた『希望』の銘を持つ聖剣の能力であった。 剣を掲げ周囲を感知することで高度な未来予測を行っている。 肆號が目を閉じているのは予測されたビジョンを明確に見るためであった。 戦いは膠着状態に入ろうとする。 現状敵は待ち構えているだけだから距離を取って打開策を考えようと思った時、肆號が目を閉じたまま動き出す。 彼女は目を開けている時と変わらぬ素早い連撃を繰り出す。 ライトも反撃しようと前に出る、だが肆號はそれを待っていたかのように右腕の刃をカウンターで突き出した。 避け切れない。そう思ったライトは左腕で受けてガードをする。 「(しまった…)」 肆號の右腕の聖剣『慈悲』は短時間ではあるが切った相手を麻痺させる効果がある。 ライトが自身のミスを悔やんだ時には肆號の左腕の聖剣がガードをしていたライトの左腕を飛ばしたのだった…。 麻痺した状態を逃してはならぬと三発ほどライトは斬撃を食らう。麻痺が解除された時には立っているのもやっとなぐらいであった。 肆號が止めを刺そうと素早い寄せでライトに斬りかかる。もうダメか…と思った瞬間、何かが体を引っ張っる感覚があった。 ライトはバックステップで斬撃を躱す。生命の危険を察知したがーすけが一瞬だけ体の支配権を奪い体を動かしたのであった。 『希望』の聖剣の予測では確実に斬殺したはずなのに手応えがない。 肆號は違和感を感じたが、聖剣の能力はあくまで予測であって予知ではない。なのでミスもあるだろうと気を取り直す。 ライトは今の一瞬の出来事で何かの閃きが走った。 敵は自分の動きを読めるようであるが、突発的なアクシデントには対応ができないようである。 「(何とか対抗策が見つかった…。行くよ!がーすけ、一緒に倒そう!)」 ライトは右腕の刃一本で肆號に斬りかかる。 素早い斬撃も肆號は分かっていたとばかりに両腕の剣で払う。 そしてバック転を入れた右足の蹴りでライトの体を蹴り飛ばす。所謂サマーソルトキックのような動きである。 ライトの体がよろけた瞬間を見逃さず、肆號は両腕の剣を振り上げまるでモンゴリアンチョップのような角度でライトの首を跳ね飛ばそうとする。 肆號の瞼の奥で見えたビジョンでは確実に仕留められていた…。 だが現実はそうでなかった。ライトの切断された左腕の切り口から新たな腕が生える。 そして後退するのではなく逆に体勢を低くして前へと突っ込む。ショルダータックルである。 タックルを食らった衝撃で一瞬未来予測のビジョンが途切れる。 ライトはその隙を待っていたかのように肆號の両腕を肘を軸にして閂状態で捕らえる。 するとそのまま豪快に持ち上げスープレックスを決めると肆號の肘の関節は壊れ、腕を操作することが困難となった。 サマーソルトキックを食らった一瞬の間にがーすけと体の支配権を入れ替える。 『希望』の聖剣はライトの動きを予測していたため、思考の違うがーすけの動きを予測できなかったのだ…。    *   *   *   *   * 漆號は大振りの大剣を軽々と振るいミレーンへ斬りかかる。ミレーンは距離を取りながらそれを避けて行く。 「オラ!どうした! 逃げてるばかりじゃ俺を倒せねぇぞ!」 「そうだな、確かにこれでは勝負にならないな。じゃあ今度は俺も武器を使わせてもらう…」 ミレーンは腰に刺していた布にくるまれた長い棒状の物を取り出す。 布を外して中の物を取り出すと漆號の目つきが変わった。 「まさか…お前それは…」 「そうだよ仇號とやらが持っていた試作聖剣だ。こいつを食らったら何でも折れて戻ることがない不可逆のダメージを受けるんだろ。回復力が高い不死身のお前がやられたらどうなるのがコイツはちょっとした実験ってやつだ」 ミレーンは仇號の聖剣をフェンシングのスタイルで構える。 「少しばっかりブルっちまったが、所詮は細い棒っきれ。俺の聖剣の斬撃を受けたら一発で粉微塵だ!」 「そうか…。じゃあ俺から行かせてもらうぜ!」 ミレーンは素早い突きを繰り出す。 学んでいた流儀が違うとはいえ、かつては剣士を志していただけに細身の剣の扱い方も知っていたのであろう。 漆號はミレーンの突きを切り払おうと聖剣を構えるが、何かに気づいてバックステップで逃げる。 術式により移し替えられていた漆號の命が収められている場所は、彼の持つ聖剣であったからだ。 もし破壊されてしまえば、命は元通り自身の肉体に戻ってしまうため不死身のアドバンテージを失ってしまうのである。 ミレーンの攻撃は激しさを増す。 やべぇ…避け切れねぇ…、そう思った漆號は右腕でガードをする。 それは迷いのない動きであった。 漆號の右前腕が90度の角度で反り返る。 いつもなら直ちに修復されるのだが、今回は全くその気配がない。 これが不可逆のダメージの影響か…。 「しゃあねぇ!やるしかねぇか!」 漆號は覚悟を決めると自らの聖剣で右前腕を断つ。 すると傷口から新たな腕が生える。今度の腕はまっすぐな元通りの腕であった。 ミレーンはその様子を見て違和感に気づく。そして惨號の語っていた他の人造勇者たちのスキルについて思い出す。 漆號は命を別の場所に移し替えているから不死身だということを…。 どうやら突破口は見つかったようだ。    *   *   *   *   * 弐號は大剣の試作聖剣を振るってシュウに斬りかかる。 シュウはそれを上手く躱して行くが、避け切れないものも出てくる。だがそれは反転の能力で相手へと返される。 自らに跳ね返って来る聖剣を弐號は金属製の腕でガードする。どうやら真向勝負をするには不利な相手だと理解したのだった。 「面倒なスキルだがまぁいい。どうやらお前は攻撃するための手段を持たないようだから、私はこうやって待つだけで十分だ。その内我々の仲間が勝負を決めてこっちへ来る。数的優位が作れればそのスキルを使った隙間を狙うこともできるからな…」 弐號は防御障壁を周囲に展開させる。シュウはすかさず反転の能力を使うも変化は全く無かった。 「攻撃でない物を反転させたところで障壁の向きは変わるかもしれんが、残念ながらこいつは表側も内側にも固いのでね。大して違いはない…」 俺はシュウと弐號の戦いの様子を横目で見る。 どうやら反転のスキルは効果がない…ということを思い込ませたのは収穫だ。 「そろそろ頃合いだ! 交代するぞシュウ!」    *   *   *   *   * 両腕の肘関節を破壊された肆號は、ライトと距離を取り腕の動作状況を確認する。 上腕と指は正常に動作が可能なので腕を振り回す程度のことはできる。 両腕を背後に回して腰にマウントしているメインウェポンの鉈型聖剣を取ろうと試みる。 肘がグラつくのでなかなか上手く取ることができない。 もたつく様子を見てライトが攻撃を仕掛ける。 肆號は必死に避けている内に右手の指が鉈型聖剣の刃部分を掴むことができた。 強引に引っ張って取り出すことに成功する。 肆號は右上腕を大きく振るわせると手に持った鉈型聖剣をライトに投げつけた。意表を突かれたが避けれないわけではない。 ライトは上体を右側にスウェイすると、投げつけられた聖剣を躱した。 肆號の攻撃は腕をでんでん太鼓のように振るうことしかできないため、自然と蹴りがメインとなる。 だが蹴り技は動きが大味になるため、素早いライトにとっては絶好のカウンター機会であった。 一気に距離を詰め、右腕の刃で肆號に斬撃を加えようとする。だが次の瞬間ライトの背中に衝撃と激痛が走ったのだった。 ライトの背中に肆號が投げた鉈型聖剣が突き刺さる。何で…とライトが困惑すると鉈型聖剣は回転し背中から飛び離れて行く。 「聖剣、銘は『従順』。意思、そのままに動く。これが、奥の手…」 苦痛でよろけたライトに肆號は右足の『共感』の聖剣を突き刺す。 今まで彼女に加えてきたダメージが一気にライトへと帰って行く。ライトは膝を突いて倒れないように堪えるだけで精一杯の様子だ。 背後には『従順』の気配、そして正面に立ちはだかるのは肆號。ライトは荒くなった息を必死に整える。 「これで終わり、死ね…」 肆號は両腕を振り上げる。そのまま最上段から斬り伏せ、さらには『従順』で首を跳ねようとしているのであろう。 『従順』が動き出した瞬間、ライトは絶叫と共に高出力のブレスを放つ。 ブレスが肆號の腹部を撃ち抜くとライトはそのままうつ伏せに倒れる。 ライトの背後にあった『従順』はその勢いを維持したまま肆號の胸元に突き刺さったのであった。 いくら痛みを感じない肆號であっても、これだけのダメージを受ければ立つことはできず倒れる。 つまりこれはライトの勝利であった…。 (続く)