グラウンド666。かつてのバルロス事変時に機工竜バルロスが起動の際に起こした衝撃波が作り出した不毛の地。ここには草木も生えず、ただ一面の荒野が広がっていた。 そこに軍服を着た二人の女性が立っている。人造勇者惨號ブリッツクリークと捌號キューケン=ピープであった。 「ここは一体?」 状況の把握をしようと捌號は周囲を見渡す。 「グラウンド666さ。ここなら何も無いから君の能力も使えないでしょ。それにちゃんと話もしたかったしね…」 ブリッツの能力を使い二人はここまで移動してきたようだ。 「話す?一体何を?裏切り者の言い訳なんて聞きたくないわよ」 「私がアイツらと一緒にいるのはほんの成り行きだよ。アイツらとシュッツガイストの奴に嵌められたようなもんでね」 「みんなのことは仲間として好きだし信頼もしている。だが今みんなが行おうとしていることを間違いだと思っているのも正解だ」 ブリッツはいつもの弱気な口調と違い、はっきりとした意思を伝えるように語る。 「やっていることがおかしいと思うのはボクも同じだよ。でもアインスが、私たちのリーダーが決めたことだからしょうがないでしょ」 「それは間違いだよキューケン。確かに昔みたいな軍組織だったらしょうがないけど、今はただの同志の集まりなんだ。仲間が間違いをしでかしたらそれを正すのも仲間の義務だよ…」 言いたいことを言い終えるとブリッツの視線は遠くを見つめている。 「ここから大講堂まではかなりあるからね。君が着くころにはもう白黒付いているはずさ。私はこれでお暇するよ、何せ皆に追われる裏切り者だからね…」 そう言うとブリッツは姿を消したのであった。    *   *   *   *   * 「またお前かコージン=ミレーン。私の防御障壁を破る方法は見つかったのか?」 弐號は余裕の表情で俺を迎え撃とうとしている。 「そうだな…、お前にもコイツを試してみようかと思う…」 俺は折るという概念武装である例の仇號の試作聖剣を取り出す。果たして物理的ではないスキルにも通じるのか?これは一つの賭けであった。 俺は試しに弐號へと蹴りを放ってみる。何か固い物に当たる感触がある。今現在障壁は展開中の様子だ。 おもむろに試作聖剣を弐號の真正面の空間に突き立てる。強烈な衝撃が聖剣に伝わり、空間がひしゃげたような錯覚を感じる。初めての経験に当の弐號も狼狽を隠せない。 もし隙間が出来ているのなら通り抜けられるはずだ…。俺はショルダータックルの要領で聖剣を突き立てた空間に突っ込む。 先程障壁があった場所から少し先に進むことができた。どうやら本当に隙間を作ることができたらしい。 隙間が出来たのなら後はこじ開けるだけだ。俺は両の腕を当てて伸ばし、障壁の隙間を広げようと試みた…。    *   *   *   *   * ライトは横たわる肆號を見下ろすと、高速に震わせた右腕の刃で肆號の両手両足の義肢と『従順』の聖剣を切断する。 彼女から戦闘能力を完全に奪い取ったのだった。 ライトが無力化させた肆號から離れようとすると、彼女はいきなり笑い出した。 「屈辱、殺せ。情け、いらぬ」 「君は殺されてもいいっていうのか?」 ライトは人としてごく当たり前のことを聞く。 「痛み、ない。死、眠りと同じ。生存、リベンジ。お前、仲間、家族、全部…」 生かしておけばライト本人だけでなく、仲間や家族まで対象とするという予告である。コイツは生かしてはおけない、だが人を殺すと思うと躊躇するのもライトの良心である。 「なぜ、ためらう。お前、偽善者」 肆號はせめてもの仕返しとばかりに煽り倒す。やらなきゃならないか…ライトが覚悟を決めようとした瞬間であった。 『もう良い…』 ライトの瞳と声色が変わり、圧倒的な強者のオーラが漂う。見かねたがーすけが主導権を交換したのであった。 「お前、何だ…」 先程とは明らかに違う変貌ぶりに肆號は狼狽する。 『この者は確か痛みを知らないのであったな。痛みを知らぬから恐れを知らぬ、故に死も恐れない。こういう始末に追えん相手はどうすれば良いか分かるか。自ら死にたくなるような生を与えてやれば良い…』 がーすけは深呼吸をする。そして黒いモヤのような物を吐き出すと、それを凝縮させ肆號の腹部に開いた穴に叩き込んだ。 腹部の穴の中から黒く小さな何かが大量に蠢き湧き出した。それは虫のようでもあり小型の爬虫類のようでもあり軟体生物のようでもあった。 それらが肆號の動けない全身にまとわりつく、ぬめりつくような感触が実に不快だ。そして黒い何かは全身に広がると肌に噛みつき肉を食い始めた。 黒い何かは目にもかぶりつく。視界が無くなり自分が今どんな状態か分からなくなる。耳には黒い何かが体液を吸い肉を食い漁る音だけが聞こえる。 肆號には痛覚はないので痛みは感じない。ただ体を貪り食われているという感覚だけはある。 とにかく不快だ。早く殺してくれ、なぜまだ生きている。頼む殺してくれ。 肆號は懇願するように叫ぶ。だが声は出ない。黒い何かは声帯を食い漁ってしまったからだ。 嫌だ嫌だ嫌だ。まさか骨になるまでこの気色の悪い状況は続くのか…。そう思うと肆號は心の何かが切れたような感覚に陥る。 そして肆號はただ引きつったような笑いだけを発するようになった。恐らく彼女の精神は完全に壊れてしまったのだろう。 「(がーすけ、何をしたの?)」 『この者は痛みを知らぬ駄々っ子のようなもんよ。手をかける価値もない。所謂メスガキというやつだな。そういう者にはわからせをさせるのが定番なのだろ』 『痛みを感じずとも快不快の感覚ぐらいがあったのは好都合であった。我が友を散々愚弄してくれたのだから相当濃い幻覚を食らわせてやった。死ぬか生まれ変わるかでもなければ晴れんぐらいのな…』 人を殺さずとも完全に無力化させることはできる、そう学んだライトであった…。 『すまない我が友よ。我が主導権を奪ってしまったために、また少し我が友の人格が削れて行く…』 「(いいよ…君は僕のために代わってくれたんだろ…)」 『そのついでと言っては何だが、何かとてつもなく嫌な予感がする。しばらくこの体の主導権を借りておくぞ…』    *   *   *   *   * 「ぬぅおぉぉぉぉぉ!!!!!!」 俺は全身の力を込めて障壁の間に生まれた空間を広げて行く。 するとその隙間から涼やかな風が流れてくるのを感じる。確かに障壁は開いてきているようだ。 力を入れると俺の体を挟む隙間はどんどん広がる。 障壁をこじ開けながら俺は前へ前へと進んで行く、待っていろもうすぐお前を捕らえてやるからな…。 弐號は始めて食らう状況に困惑している。 今までどんな攻撃にも耐えて来た見えない障壁が破られるだけでなく、まるで物理的にそこにあるかのように扱われているのだ。 敵が障壁をこじ開け、中に侵入しようとしている。弐號は大剣を構えて突きを放って迎撃しようとする。 だがそんなことぐらいこちらの想定済だ。 弐號の突きに合わせて俺は右足を振り上げる。剣を跳ね飛ばし敵を丸腰にさせる。 「どうした…もうすぐお前のとこまで辿り着くぞ…」 この能力を得てから始めて体験する窮地に弐號は恐怖した。 弐號は軽く狼狽をするも気を取り直し、両の拳を自身の顔の正面で突き合わせる。 得意技のアイゼンバイスを発動するつもりなのであろう。 見た目には拳と拳の間に挟んだゴムボールを少しづつ潰していく…。 そんなふうに見える無造作なムーブであるが、障壁に挟まれているこちらにはその何万倍もの力が加えられている。 まるで重機がこちらに向ってトルクをかけるような圧倒的なパワー。 だがこちらもおいそれと潰されるわけにはいかない。 俺は全身の体力気力精神力を振り絞る。そう『勇者のクソ力』だ! 障壁の間隔は俺の両腕が伸び切るほどにまで広がる、俺は一歩づつ歩みを始める。 自慢の堅牢な関門はもはやフリーパス状態だ…。 「その剛力、賞賛に値する。だが私のアイゼンバイスはその程度で屈っしはせん!止めだ!食らえ!」 弐號は全力の力を込めて拳を突き合わせようとする、俺はそれを待っていた! 「今だ!やれ!シュウ!」 漆號と対峙していたシュウがこちらへ飛んでくる。想定外の展開に弐號は動転する。 最初にシュウを弐號と戦わせたのは、シュウのスキルが弐號には通じないという先入観を植え付けるためであった。 「反転!」 シュウの右手が弐號の障壁に触れる。すると俺を潰そうとした障壁のベクトルが一気に弐號自身へと返って行く。 当初シュウの能力が通用しなかったのはあくまでも力のベクトルのない防御一辺倒だったためである。 だがアイゼンバイスは明らかに敵を倒すための攻撃の力であるから反転も効くのだ。 弐號は金属製の義手のパワーでそれを支えようとするが、俺を押しつぶそうとした最大の力はそんなものでは耐えられない。 両腕の義手はへし折れ、弐號は障壁に押しつぶされたのであった…。 (続く)