別にその相手は誰でもよかった――否、何でもないような男であればあるほどよかった。 彼女という一個人の抱えたもの全てを、何も知らず盲目的に無責任に近寄ってくる雄の蛾―― だから彼女をあっさりと部屋に連れ込めた幸運さえ、彼はあまり深く考えていないのだった。 女は男の望む通りに、その裸体を彼の前に晒す。だが決して恥じらいのないではない、 産まれて初めての、異性の前に――頬を紅く染め、乳房に手をかざしてもみせる。 けれど彼女のあまりに大きな胸は、腕一本でごまかせるような程度ではなく、 少し離れた彼の立つ位置からは、乳房に見合った広く円い乳輪が無防備に覗いている。 服の上からでさえ――もっとも、それは肌に密着した青い肌着のようなものだが―― 明らかにずっしりと、弾力を五感に訴えかけるぶ厚い強さを持っていた。 それは雄というものの本能に、言葉よりも鋭敏に訴えかけてくるのである。 目の前に、何も纏わぬそれの現れ出たとき――生唾を呑んだ彼を、誰が責められよう。 男は間抜けな調子で、女に何度目かの真意を問うた。だがやはりあしらわれて終わりだ。 彼女はただ、自分を求めてくれる雄のいることだけを望んでいるかのようだった。 そして腕の支えすらなくなった途端、乳房は乳首ごとだるんと重力に引かれて回り、 彼の目に、桜色の残像を残して――深い、彼の性器を容易く呑み込める深い谷間を見せつける。 夢中になって男は目の前の二つの巨大な肉塊をこね回す。それが彼女の持ち物で、 一人の人間の身体の一部位であることを、完全に忘れ果てたかのよう。 あげくに女の喉から艶めいた声の出るのを聞いて――ようやくそのことを思い出し、 触覚だけで十二分に昂ぶっていた獣欲が、視覚と聴覚の助けを得て一気に噴き出すのである。 寝台に押し倒しても。その胸を捕まえるように馬乗りになり、散々に揉みくちゃにしても。 女はただ微笑んでいる。白痴のように。しかし、蠱惑的な――恐ろしささえ纏って。 欲に脳髄まで侵された男は、無論そんな些末なことになど拘泥しない。 まるで銀河全ての王となったかのように、大きな獲物二つをこね回して遊んでいる。 だが事実、銀河のどこにいけばこんなものが見つかるというのだろうか? 遠く離れた地球由来の人種の――美しく長い金髪。碧い瞳。凹凸豊かな柔らかな肢体。 どこぞの市場に流せば末代まで遊んで暮らせる報酬が手に入るだろう――それを積んでさえ、 この美貌を、他の誰かが後から横入りして奪うことは難しいのであった。 それは単に、彼女がよほどの気紛れでこうして身体を売り捨てたことに因るのではない。 この女を正面から抑え込める剛の者が、果たして宇宙に何人いるか――という問のためだ。 日夜安酒に溺れるような男の知るまいが、彼女の名は銀河中に轟いていたし、 稼いだ賞金の総額は、男がこつこつ貯めた酒代の付けなどあっさり吹き飛ばしてしまう。 金に困って、そんなことをしたのではないし――彼の支払えるものなど知れている。 そして女はそもそも、彼に代価を要求してもいなかったのである。 ただ彼の誘うままに。酒気に任せて見ず知らずの女の手を握る蛮勇に。 今や銀河に唯一の、歪な遺伝子の集合体と――怪物と成り果てた彼女を、 一匹の雌としてしか見ないその愚かな無垢さに――流されたくなったのである。 男は乳房を堪能し終えたあと、収まるべくして収まったかのようにすっぽりと、 自身の性器を、彼女の胸の谷間に埋めてしまって、独りよがりに腰を振り始めた。 先端はすっかり隠れている。四方八方から押し寄せる柔らかな肉の圧力、 そこにしっとりと溜まる乳汗、それは自然と潤滑油として滑りを良くしてくれる。 女は彼のそうするのを、にっこり微笑んで、ただ受け入れている。 乳房と乳房の間に、今にも破裂しそうなほどに硬く、震える熱の塊が挟み込まれているのに、 その持ち前の質量だけで完全に、彼を呑み込んでいた――どれだけ擦ったとて、 主導権は好き勝手に乳房を弄ばれている女の側に残っていたし、 男はその滑稽にも映る腰使いで、己の快楽だけに没頭している。 ただ、雄の臭い――先走り汁と、既に垂れた精汁の臭いは、次第に汗の臭いに勝ち始めていた。 どぽり、と重たげに跳ねた精。勢いだけは良く、女の谷間を縦断して下顎にも雫が跳ねる。 荒くなった息を整える彼を――女はやはりにこやかに受け入れていた。 そして彼が乳房から性器を引き抜くために、乱暴に腰をぐいっと離すと、 谷間にぼとぼと、精の塊が垂れる――体温に蒸されて、濃くなった、強い臭い。 ほとんど無自覚に女の鼻はひくつく。雌の身体に生まれついたのだ。 雄そのものを間近に見せられて、疼かぬわけもない――自然に腿を、ぬるりとした滴が通る。 その変化を男は見逃さない。乳房を思いきり弄ばれて、乳間に射精されて、 それで独りでに濡れてしまう、淫乱な彼女を言葉で散々にいたぶり尽くす。 だがどうして彼女が、銀河最強と言われ――その肉体に数多の生物の遺伝子を取り込み、 名実ともに人ならざる力を得た存在であることを知れようか。今の彼にとっては、 雄の誘いにほいほい付いてくる、自分の身体の価値も知らない馬鹿な女でしかないのだ―― 掌で乳房に精液を塗りたくってやりながら、もう一方の手を彼女の股間に伸ばし、 男はその敏感な肌を、いよいよ本格的に自分のものにするための侵略を始めていく。 もう彼は、よもや美人局であるまいな――と、危機感を抱いたことさえ忘れているのである。 ますます鼻息を荒くして、女の唇に強引に酒臭い舌を差し込んで唾液を啜ったり―― ぷっくりと盛り上がった乳首を、摘みでも回すかのようにぐりぐりといじりながら、 また硬さを取り戻したそれの先端を、彼女のむっちりした腿にぺちぺち当てるのだった。 陰唇に添えられた槍の穂先は、ずぶずぶと――取り返しの付かない深さまで、 内より垂れたる滑りによって誘われていく。絡みつくような、甘やかな締まり。 それは彼女の純潔の証であり――同時に彼にとっては、こんなにも不用意に、 男に処女をくれてやるような、愚かな女の証左として映る。 だが粘膜と粘膜が重なってしまえば、もうそこに言葉はいらない。 破瓜の痛みを彼女がぐっと堪えたのをいいことに、男はまた自分のためだけに腰を振り、 相手を喜ばせようとする意思の欠けたまま、未踏の膣肉の中に歩みを進める。 それも当然か――賞金稼ぎとして生きる中で、この程度の苦痛など無数に乗り越えてきた。 今の今まで、残せていたこと自体が――いわば僥倖とも言えたのである。 また呆気なく、男は精を吐く。今度は、雄と雌の交わりの本義、 子を生すための――本来的な射精を、会ったばかりの女の胎内へ、する。 彼はある種の自棄に囚われていた――この快楽のためなら何だっていい、 感染性の死病に囚われた女の死出の巻き添えだろうが、後から雄を喰らう怪物だろうが、 それとも本当に、美人局としての茶番劇が始まろうが――で、ある。 だが女は、避妊もなく射精されてなお、その笑顔を崩さずにいるのだ。 まるで最初から、それを望んでもいたかのように――不思議なほどに。 腕枕に彼女を寝かせながら、男は何度も逃げるための機会を伺った。 すると女は、それまでの雰囲気とは一変した、獣のような鋭い気を放ち、彼を離さない。 窓の外は白んで――そのまま青々とした朝が宇宙鶏の鳴き声とともにやってくる。 なぜ自分なのか、と彼は問うたが――それに彼女は答えを返さなかった。 柔らかな胸をぐいっと押し付けて、甘い体臭を彼の肌にすり込んでくる―― 結局彼は、彼女の望むままに――そして彼自身の動物的本能の訴えかけるままに、 眼の前の雌の胎内に精を吐く。それは女王蟻に見初められた雄蟻のようでもあり――無力だった。 けれどその柔らかな身体に溺れていくうちに。彼女が生活の一切を預かってくるうちに。 もう、このままずっといていいかのように、思えてくる。 すっかり大きくなった彼女の胎内に、無駄打ちと知りながら精をぶちまけて、 さらに重みを増した乳房を鞠のように両手の間で転がし、振りまわしながら、 締まりなく垂れる母乳を無駄にしないよう、唇を添えて吸うのである。 そうすると彼女は決まって、母性に満ちた顔を彼に――そして胎の子に向けるのであった。 地球人種だけでなく、鳥人族――そしてその作り出した生物兵器。さらに、その獲物、 あらゆる生物に取り付き殺す寄生生命体――の、集めた数多くの生物の遺伝子。 それらが彼女の体内で、銀河に二つとない歪つな渦を作り出していた。 そしてその混沌は――同種の地球人種の雄とさえ、番えるかどうかを不透明にする。 自分はもう、人ではない――人とともにいることすら望めない存在。 そんな思考から、一時の彼女が自棄的な想いに囚われていたのは確かであろう。 だがそれも昔のこと。彼女の悩みは杞憂であったと、何より明確に示された。 心地よい重み。安心感のある弾力。皮を隔てた内側の、間違いない、自分の子の存在。 それは彼女を、銀河に一人きりの孤独から救うものである。 男は女の内心を知り得ぬ。彼女がそうして、己に子を授けた彼に感謝していることも。 ただいつ、彼女が手のひらを返して――一切を台無しにするかと、怯えている。 それもまた杞憂なのだ――彼の知る日はそう遠くもあるまい。 女の誘うままに、男は彼女膨らんだ腹に耳を当て、内なる音を確かめる。 その胎動は、単なる地球人種同士の間に成立した子の鳴らす音の範疇に留まっていて―― 産まれ出でた子もまた――ごく普通の金髪をした、ごく普通の赤子に過ぎないのであった。