『北方の雄、サンク・マスグラードの皇帝、レストロイカがウァリトヒロイを訪問した。ウァリトヒロイ女王、シュティアイセと魔王討伐後の情勢について意見効果を行う他、魔王軍残党を取り込んで脅威を増す反社会組織ヒュドラ撲滅に向けた国際的な連帯について表明──』  新聞を読んでいた美丈夫の肩を、赤毛の少年が叩いた。美丈夫は新聞を畳むと赤毛の少年に顔を向ける。 「ふん、少しはましな顔になったようだな。ラーバル」 「おかげさまで。……積もる話もありますが、時間は有限なのでさあこちらへ」  頷きながら美丈夫──レストロイカがサングラスをかけ、ラーバルの後を突いていった。  目的地にたどり着くとレストロイカはサングラスを外し胸ポケットに仕舞う。そこには多数の冒険者や軍人たちが集い、彼の到着を待ちわびていた。  勇者にしてレンハート王国の指名手配犯──ヤン・デホム。  魔王城攻略時に数多くの武功をあげし二人の聖騎士──サーヴァイン・ヴァーズギルトとクリスト。  レストロイカを前にしガチガチになりながら直立しているサンク・マスグラード帝国のヒナドリ隊の兵士──イワン。  千両役者と評されし魔術師──マーリン。  凄腕のシーフにして絶世の美少年──フレイ。  経歴一切不明の超実力派冒険者──スプドラート。  そして、耐えがたきをたえ、忍び難きを忍び、名誉を回復したエビルソード軍攻略の第一功労者──ボーリャック。  一斉に彼等の視線がレストロイカに集まる。静かに瞑目し、精神を集中させるとレストロイカは目を見開き、口を開いた。 「皆の者、今日は何の日であるか?」  一斉に男たちが口を開く。 「「「「「「「「「メンズバレンタインデー!!」」」」」」」」」 「メンズバレンタインデーとは何の日だ?」  再び男たちが口を開く。 「「「「「「「「「男性から女性に下着を贈って愛を告白する日!!」」」」」」」」」  レストロイカが男たちの向こう側に建っている建物を指さし声高に叫ぶ。 「今から我らが突入すべき建物はなんだ!?」  男たちが叫んだ。 「「「「「「「「「ランジェリーショップ!!」」」」」」」」」 「そうだ!今から俺たちはウァリトヒロイ1と名高いランジェリーショップに突入し、武功(下着)を挙げる!合言葉は!?」  レストロイカが拳を掲げると、男たちも一斉に拳を掲げ応える。 「「「「「「「「「赤信号、みんなで渡れば怖くない!!!」」」」」」」」」 「───その言葉が、聞きたかった」  レストロイカが微笑む。その眼から一筋の涙が零れるのを見て、男たちの目にも涙が光った。特にイワンに至っては号泣している。 「さあ、行こう。俺たちの戦場へ」  男たちが左右に分かれた。レストロイカがランジェリーショップに向け足を踏み出した。無言で男たちも彼の後を続く。  レストロイカがドアノブを握る。 「行くぞ野郎ども。一歩足を踏み入れたら、目当てのものを得られねば死。その覚悟はできてるか?」 「「「「「「「「「愚問ッ!!!」」」」」」」」」  満足げにレストロイカは笑うと、勢いよくドアを開けた。 「「「「「「「「「「よろしくお願いいたしまぁぁぁぁぁす!!!!!」」」」」」」」」」  ランジェリーショップは混乱の極みにあった。顔面偏差値Sランクの、超美形美青年、美少年が戦場になだれ込むような決意に溢れた顔で一気になだれ込んできたのだから無理もない。 「なに!?なんなの店長!?怖い!」 「お、落着け!素数を数えるんだ!1,3,5……」 「店長、それは気数です!」  パニックに陥る哀れな店員を、威厳に満ちた挙動でボーリャックが落ち着かせる。 「心配いらない君たち、我らは客だ」 「……へ?」  クリストの羞恥は早くもMAXに達していた。奥ゆかしく、敬虔な教徒でもある彼にとって、ランジェリーショップの中にいるなど拷問に等しい苦行。それでも此処にいるのは一人の女性のためだった。 (い、イザベラ様に。この日に相応しいプレゼントを…!)  真っ赤に顔を染めながらランジェリーを眺めるクリストの背後を、どたどたとやかましい足音を立てながら、これもまた顔を真っ赤にしたマーリンが駆け足で通り過ぎた。 「うおおおおお!!!!あいつに似合うのはどれだぁぁぁぁ!!?」  叫びながらマーリンが駆け去ったかと思えばまた逆走し、クリストの肩を掴んでガタガタと揺らす。 「なぁアイツにどんなブラジャー買った方がいいかアドバイスくれよ!やっぱフルカップ!?シームレス!?スリップ!?いっそ冒険してガーターベルト行っちゃう!?」  プチッ 「僕が知るかぁぁぁぁぁ!!!」 「む」 「うん?」  一つの下着に二人の手が伸ばされた。目当てのスポーツブラに向かって手を伸ばすヤンと、ギルの視線が交差する。 「……譲ってもらおうか。ハナコにはこういうのが相応しい」 「悪いが俺が先だ。スパーデにこそこういうブラがよく似合う」  場が緊張感に包まれる。無言でいること数秒。二人はバッと飛び退き、ギルは棺から剣を、ヤンはマントの中から長剣を取り出した。 「むぅ…」  イワンは腕を組んで唸っている、彼の前にあるのは色とりどりのノンワイヤーブラ。フリフリの下着が北国の純朴な少年であるイワンには何とも目に毒で、耐え切れずイワンは目を逸らした。 (やっぱ、俺にはむりだったかなぁ…)  恋人のナタリアのためと、今回の催しをラーバルから聞いた時は喜び勇んで馳せ参じたものの、いざ現物を目の前にすると彼の中の勇気が音を立ててしぼんでいくのをイワンは肌で感じていた。 「お前の、恋人は、胸が大きいのか?」 「ん?ああ。そうなんだよ。だからノンワイヤーがいいかもってここに来るまで読んでたファッション誌見て何となく思ったんだけど……ん?」  ここでようやく自分に掛けてきた声の違和感に気づいたイワンがギギギギ…と、ぎこちない動きで振り向く。そこには、レストロイカが興味深げに立っていた。 「へ、へへへへへへ陛下ぁ!!??な、何たる無礼を!!」 「ああ、楽にしたまえ。身分は違えど、俺とお前は大切な女性に下着を送るという点で、いわば同胞と言ってもいいのだからな」  無論「じゃあお言葉に甘えて」など言える度胸はイワンにはなく、口から心臓が飛び出そうになりながら、レストロイカと下着選びにショップ内を回ることになるのだった。 「お前のパートナーはどんな人だ」 「アリシアといって姉みたいな人。すっごく逞しくてしっかりしてるんだ」  ランジェリーショップを回りながらラーバルとフレイは雑談に興じる。 「王子様は?」 「王子様はやめろ、ラーバルでいい。そうだな…ジーニャって言うんだが一見すると男より男らしい女だな」  フレイの脳内にゴリラみたいな烈女の姿が浮かんでき、怪訝な顔を浮かべる。 「た、逞しい人なんだね……」 「…不思議だ。俺がパートナーのためにこういう下着を選ぶ、そういう日が来ることが」  セクシー下着を品定めしながらボーリャックが、同じくセクシー下着を見比べているスプドラートに商品から目を離さないまま声を掛けた。 「俺に、幸せになる権利などない。そう思っていた。……いや、今も思っているのだが」  ここで一旦スプドラートが言葉を区切り、ボーリャックに苦笑いを向ける。 「酔いどれのアル中女でしょっちゅう困らせられてばっかだが……今の俺にはかけがえのない女性だ」 「……わかるな。俺も事が終わったら地獄に落ちる事ばかり考えていた。それが今では、アイツのためにこんな所に来る男になっちまった。不思議なものだ」 「……同感だ」  目当ての品物を掴み取った男、いや漢たちは争うようにレジに並び、奔流のように店の外に飛び出す。全員買い物袋を手にしていることを確認したレストロイカはすぅぅ…っと息を吸い、思い切り叫んだ。 「俺たちは、買ったぁァァァ!!!」 「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」」」」」