・01 「今日の道徳でやってた立派なオトナってさー、シュウはわかった?」 「ンなもんわかんねー!オレずーーーっとダイシューのコト考えてたゼ!」 夕焼けの中、二人の少年がランドセルを地面に引きずりながら授業の話をしていた。 シュウと呼ばれた少年が頭をボサボサにかきむしっていると、背後から駆け寄って来た少女が驚いた顔で話しかけてきた。 「ちょっと祭後くん、結城くん!何やってるの!」 「おつかれさまです〜」 それは黒い長髪を揺らすいかにも真面目そうな少女と、眩いばかりの金髪が華奢な白い肌に映えるおっとり気味な少女だった。 「いやだってシュウがよ〜こうした方が楽だってよ〜」 「タ、タカアキ!そんなコトより立派なオトナの話しようゼ!」 慌てて黒色のランドセルを背負った少年・祭後終は親友の言葉を遮って強制的に話を変える。 「授業の振り返りなんて祭後くんにしては真面目じゃない?」 「うるさいやい」 ジト〜っとした目でそう言われたシュウは少し怒った顔で悪態をつく。 「ん〜誰かの為に頑張れるヤツ…とか?」 「あら。良い答えじゃないですか?」 金髪の少女に褒められたタカアキは僅かに顔を赤くしながら、パッと逸らした。 シュウはニヤっと笑いながらタカアキの背中をバシっと叩き「ソレを授業で言えよな〜!」と笑う。 「ん〜?それもそうか!」 タカアキの大きな笑い声に釣られ、少女二人も笑うとそれぞれの帰り道に別れていった。 ・02 デジモンイレイザーに囚われた異父妹ミヨを助けるため、異世界の冒険を続ける青年・祭後終は、デジビートルから顔を覗かせると、その景色に息を飲んだ。 崖に挟まれた参道を抜けた先に広がっていたのは、果てしなく続く広大な丘だった。 その中心には、蛇が絡みついたような構造の巨大な塔が、地の底から生えるように建っている。 無理矢理引き伸ばされたような丘には、細かな崖や縦にずれた断層がいくつも入り組んでいた。 「ぼーっとしてどうしたンだよ!」 シュウが塔の所々に見える小さな穴を凝視していたところ、下から頭を突き上げたユキアグモンに押し出され、デジビートルから転がり落ちてしまった。 ユキアグモンも目の前の景色に「ほえー」と呆けているが、デジビートルの足元でシュウは不満げな顔をしていた。 「お前な…人は階段二段目から死ねるんだぞ?」 「生きてるからいいじゃねぇかよ」 「よかねぇよ…」 シュウはぶつぶつ言いながら、デジビートルを収納する準備を始めた。 丘は通り道として使いやすいよう、足元が均されているようだった。 シュウの考え通り、ここは何かしらの拠点として使われているらしい。 そして彼らの予想通り、その影から複数の獣デジモンが飛び出すと、シュウとユキアグモンに襲いかかってきた。 「おうおう。当たりだったな」 「準備運動にしてやるゼ!」 ユキアグモンは、こちらへ飛びかかってくるガジモンに獰猛な笑みを浮かべると、体勢を低くしてダッキングのように懐へ潜り込む。 そのまま敵の腹へアッパーを叩き込み、上空へ吹き飛ばした。 ガジモンがドサッと頭から落ちると、残った敵たちがざわつく。 次々と牙を剥いて飛びかかってくる敵に、ユキアグモンは胸をバシバシ叩いて吠えた。 「っしゃあ!かかってこい!」 飛びかかってきたサイケモンをユキアグモンが捕まえる。 そのまま身体を振り回し、他の敵の集団へ投げ飛ばした。 突然投げ込まれたサイケモンを受け止めきれず、何体もの敵がもつれ合って倒れる。 その隙を逃さず、ユキアグモンは周囲の敵を蹴散らしていった。 それからものの数分も経たないうちに、獣デジモンの群れは散り散りになって逃げていった。 「やるじゃねぇか」 シュウはほっと息をつくと、ユキアグモンと拳を合わせる。 だが、その瞬間。一人と一匹の顔に影がかかった。 二人がゆっくりと顔を上げる。 上空を飛行していたのは、焦げ茶色の装甲に身を包んだサイボーグデジモンだった。 長い耳にも、翼にも見えるパーツを備えたその姿を、シュウは見覚えていた。 【ブラックラピッドモン:完全体】 デジヴァイス01に、再びその名前が表示された。 「相変わらず弱っちぃな」 「またおめーか! なんの用だ!」 ユキアグモンが騒ぎ立てるが、シュウはそれを手で制した。 「会う度に意味深なコトばっか言われてイラついてるんだけどさ。そろそろ素直に答えてくれよ」 「ご察しの通り、この塔がイレイザーベースだ。だが、その程度じゃミヨの元へは行けない……」 空中から見下ろしながら放たれたブラックラピッドモンの言葉に、シュウの目が鋭くなる。 ユキアグモンが反射的に構えるが、ブラックラピッドモンはまだ動かない。 「ンじゃあ、オマエはイレイザーベースの守護完全体ってワケか!」 「だが今は、それよりも…お前がミヨの名前を気軽に呼んだ理由を、よーく教えてもらいたいね」 シュウは眉間を叩きながら、ブラックラピッドモンを睨みつけた。 「──いや、行かせない!」 ブラックラピッドモンはそう言って目を光らせると、各部のスラスターを噴射して飛び上がった。 そして、背中のシリンダーのようなパーツから、無数のミサイルがばら撒かれる。 「シュウッ!」 「はや…!」 ユキアグモンが咄嗟に体当たりし、シュウを突き飛ばした。 その直後、二人がいた場所へミサイルが着弾する。 轟音とともに地面が抉れ、土煙が一気に吹き上がった。 「うおっ!?」 土煙の向こうから、ブラックラピッドモンの姿が消える。 ─いや、見えなくなった。 そして今さらになって、シュウのデジヴァイス01から警告音が鳴り響いた。 「…デジヴァイス01の認識が遅れている?」 「ブラックラピッドモンは、気配を消すのが得意だって聞いたことがあるゼ!」 ユキアグモンは周囲へ鋭く視線を走らせる。 次の瞬間─ユキアグモンは、背後に現れた黒い影へ咄嗟に拳を振り抜いた。 しかし、その拳はブラックラピッドモンの装甲に阻まれた。 「い〜〜っ!?かてぇ〜〜っ!」 拳を痛めたユキアグモンが、手を振りながら飛び跳ねる。 ブラックラピッドモンは、その様子を冷たく見下ろしていた。 ブラックラピッドモンはユキアグモンを無視し、シュウの膝・腹へと立て続けに打撃を叩き込んだ。 「ぐっ…!」 身体をくの字に折り、蹲ろうとしたシュウの顔面を、ブラックラピッドモンの蹴りが捉える。 「がはッ!」 そのままシュウの身体が地面を転がった。 「障害は排除する。ミヨのために」 ブラックラピッドモンはゴボッと血と涎を吐きながら転がるシュウを鼻で笑うと、再びスラスターを噴射した。 そのまま断層の上まで舞い上がり、着地する。 シュウはなんとか立ち上がると、ふらつきながら血を吐き捨てた。 「ミヨを助けるまで俺は…いつまでも粘着してやるよ…」 「おうおう!オレもおめーみたいなスカし野郎は嫌いだからな!ブッ飛ばしてやるゼ!」 ユキアグモンは指をビシッとブラックラピッドモンへ突きつける。 「ちょっと待て…みたいって俺も含まれてるのか?」 「…シュウ、もしかして自分のことをクールな男だと思ってるのか!?」 「俺はクールで頼れる男を演じて…いや、クールそのものだが」 「ブッ!」 シュウの言葉に、ユキアグモンが汚い音で吹き出す。 「その顔でクールは無理があるぞ!」 「お前なぁ…!」 笑いながら言い合うユキアグモンに、シュウも思わず言い返す。 だが、一人と一匹が喧嘩を止めた時には、すでにブラックラピッドモンの姿は消えていた。 「あ、あれ…」 「アホなことやってる内に逃げられちまった…」 所々に引っ掻き傷をつけたシュウのデジヴァイス01が、またも警告音を鳴らす。 再び敵デジモンの接近を伝える音に、ユキアグモンが振り向いた。 「そんじゃ、まずはアイツらだゼ!」 「た、たすけてぇ…!」 その時、飛び出してきたのはイレイザー配下の獣系デジモンだけではなかった。 その群れから逃げるように、ボロボロになったエレキモンが姿を現した。 ・03 「大丈夫か?エレキモン」 イレイザー配下のデジモンを追い払ったシュウたちは、傷ついたエレキモンの手当てを済ませた。 「みんなのおかげで助かったよ」 「どういたしまして。それで、どうして追われているんだ?」 シュウに問われ、エレキモンは拳をぐっと握り締める。 「ヤスヒコを助けないと…ヤスヒコは、あの塔にいるんだ」 その名前を聞いた瞬間、シュウとユキアグモンの表情が変わった。 「ヤスヒコって…猿田ヤスヒコくんか?」 「ヤスヒコを知ってるの!?」 エレキモンは飛び起きるが、体の痛みに引っくり返ってしまう。 「あぁ、あれは…」 かつて出会った彼は、エテモンと共にそこら中で迷惑行為を働いていた少年だった。 その活動は次第にエスカレートしていき、ただのイタズラやデジモンを匿うといった行為から、やがて"悪行"と呼べる領域にまで発展していった。 それでもヤスヒコが憧れの眼差しを向けていたエテモンは、彼の言動とは裏腹にどうすればヤスヒコを更生させられるのか悩んでいた。 エテモンが放つ技が人を傷つけることはなく、イタズラも最後には失敗に終わっていた。 そのことを知ったシュウとユキアグモンは、エテモンから真意を聞かされると、密かに手伝うことを約束した。 だが、その矢先だった。 以前ヤスヒコたちにイタズラを仕掛けられた西城会の面々が、エテモンたちへ総攻撃を仕掛けた。 そして、エテモンは死亡(デリート)してしまう。 西城会を撃退することには成功したものの、シュウは自分の無力さに歯を強く食いしばった。 エテモンのデジタマを抱えたまま、行く場所がないというヤスヒコを、シュウはしばらく自宅に泊めることにした。 しかし、ある日を境にヤスヒコは姿を消してしまった。 「─そのデジタマから生まれたのがお前だったのか」 「でも、おれじゃダメだったんだよ…おれは、エテモンじゃなかったんだ」 デジモンは死を迎えるとデジタマへ戻り、再び生まれ変わる。 しかし、以前の記憶を保持したまま生まれ変わるのは稀なケースだ。 ヤスヒコにとって、目の前にいるエレキモンはエテモンではなかった。 その現実を受け入れる余裕が、彼にはなかったのだ。 逃げ出したヤスヒコを追いかけるうち、一人と一匹はデジタルゲートに巻き込まれ、その果てに危険なイレイザーベースへ迷い込んでしまった。 エレキモンはヤスヒコを逃がすため、危険なデジモンを自分へ引きつけ、別方向へ走った。 そして、その先でシュウたちと出会った。 …それが、今の出来事だった。 「ひでーヤツだな!ヤスヒコは!」 「ヤスヒコをせめないであげてね」 「そうだぞ。人っていうのは、あんまり簡単に過去を乗り越えられたりはしないんだよ」 シュウはそう言って、エレキモンの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。 泣きそうになっている相手を安心させるような、いつもの笑顔だった。 「でも、おれ…エテモンになれなかったから…記憶がないから…」 「いいか?お前はエテモンだったかもしれない。でも、その過去に振り回される必要なんてないんだ」 迷いのない言葉だった。 まるで、ずっと前から誰かにそう言ってきたかのように。 シュウは立ち上がると、隣にいたユキアグモンの頭をぺしぺしと叩いた。 「見ろコイツを!コイツはせっかく記憶あるのにバカだから気にしてないぞ!」 「おい!オレだってけっこー繊細なんだゼ!?」 「お前は他の誰でもない。お前自身になったんだからな」 「おれ…自身…」 エレキモンがその言葉を噛み締める。 「そ。だから、お前がやりたいようにすればいいんだよ」 シュウは笑った。 「お前は、なんでヤスヒコを助けたいんだ?」 その問いに、エレキモンは顔を上げた。 「ヤスヒコは、おれをここまで育ててくれた。おれがエテモンになれなかったとしても、それは変わらない…!」 声を震わせながら、エレキモンの身体に電気が集まり始める─感情が高ぶっている証だった。 シュウはそれを見て、少しだけ目を細める。 自分自身のために何をしたいのか…そう問われれば、きっと自分なら別の答えを探してしまう。 けれど今は、そんなことを考える必要はなかった。 「うおーーっ!エレキモンわりぃ!オレもいくゼ!」 ユキアグモンが勢いよくエレキモンへ駆け寄り、肩をガッシリと掴む。 「あびゃーーーーっ!?」 全身を電気に痺れさせたユキアグモンが、その場でビクビクと震え始めた。 「ご、ごめん…!」 エレキモンは泣き笑いのような表情を浮かべつつ、そう言って何度も頭を下げた。 「いいってことよ!それより早く行こうゼ!」 痺れたまま笑うユキアグモンを見て、シュウも小さく笑った。 「…じゃ、ヤスヒコくんを助けにいくとしますか」 シュウは伸びをする。 その笑顔はいつも通りだった。 ・04 「エレキモン、いけ!」 「おりゃーっ!」 【スパークリングサンダー】 ユキアグモンによって一か所に誘導された獣系デジモンたちは、エレキモンの放つ電撃をまとめて浴びて気絶した。 どさどさと倒れ落ちる彼らを後ろに、シュウたちはようやく塔の外壁をぺちぺちと触りながら調べ始める。 エレキモンが「ヤスヒコは、なんとなくあそこに向かってる気がする」と丘の上に建つ塔を指差したため、当初の目的通り一人と二匹は塔へ向かっていた。 石を編み込むように造られた巨大な塔には扉らしきものはない。 だが、金網のようになった外壁の隙間から覗き込むと、その内部には大きな空洞が広がっているのが見えた。 「…なんにもなさそう?」 「向こう側の光も見えるな…となると」 ユキアグモンは「はやくこいよー」と跳ねながら先へ進もうとしている。 その一方で、シュウは彼の足元へ続く坂を見つめ、大きくため息をついた。 先ほど、塔に巻き付いた蛇のように見えていたもの…その正体は、塔の外周をどこまでも続いているかのような、緩やかな坂だった。 「見りゃわかるんだけど…嫌だなぁ」 「ヤスヒコも、こんな所を登っていったのかなぁ」 「そう言われると、行かざるを得んな…」 エレキモンの言葉にシュウは頭を掻く。 しばらく坂の先を見つめた後、意を決して歩き出した。 (腰、痛めるだろうなぁ…) そんなことを考えながら、シュウは長い長い坂を登り始めた。 しかし、相棒の心配も他所にユキアグモンは「おさき〜」と坂を駆け上っていく。 「あっ、バカ。突っ込むな!」 「そうだニャ。迂闊だニャ」 直後、ユキアグモンの足元へ光線が降り注いだ。 「うおっ!?」 慌てて左右へ踊るように飛び跳ね、どうにか直撃を避ける。 「ぜーっ、ぜーっ…誰だオメーら!」 そこに現れたのは翼を生やした猫のような姿をしたイレイザー配下の成熟期デジモンだった。 【トブキャットモン:成熟期】 複数のトブキャットモンは編隊を組み、塔の壁に沿うように旋回しながら、至近距離から次々と光線を放ってくる。 「今度は逃がさねーニャ!」 「コロコロしてやるニャよ!」 シュウたちは坂を滑り込むようにして、大きな石の手すりの陰へ身を隠した。 「くっ…一方的だ!」 ドドドドッと豪雨のように降り注ぐ光線が、次々と石の手すりへ叩き込まれる。 「うう、あいつこわい…」 「シュウ!コレじゃ近づけねーぞ!」 統率の取れた遠距離攻撃に二匹は反撃することもできず、ただひたすら身を隠すしかなかった。 ユキアグモンは苛立ち、拳をバシバシと打ち付ける。 このままではじり貧だ…そう判断したシュウは、眉間を親指で叩きながら周囲を見回す。 (考えろ…考えろマクガイバー…!) 飛び交う光線、迫り来るトブキャットモン。 そしてシュウは、手すりに走っている大きなヒビへ目を止めた。 「…!」 何かを思いついたように目を見開く。 そして、ニヤッと笑った。 「壁に背中をつけてくれ!そうしたら、ギリギリまで引き寄せてから反撃だ!」 二匹は顔を見合わせると、すぐに頷いた。 再び光線が迫る─命中する寸前、ユキアグモンとエレキモンが同時に攻撃を放った。 氷と電撃。 異なるエネルギーが正面からぶつかり合い、大きな爆発を引き起こす。 「へっ!死んだニャ!」 「待つニャ!煙の端を見るニャ!」 爆発を見たトブキャットモンたちは勝利を確信し、口元を歪める。 だが、その中でリーダーと思しき個体だけは煙の向こうへ鋭い視線を向けていた。 「そうニャ!どっちからか出てく─ぐぼっ!」 叫んだトブキャットモンの身体が、突然地面へ墜落した。 「ニャッ!?」 何が起きたのか理解できないまま、他のトブキャットモンたちも慌ててその場を離れようとする。 だが、次々と何かが飛んできてトブキャットモンたちを撃ち落としていく。 「ぐぼっ!」 「ニャアッ!?」 やがて煙が晴れると、そこに立っていたのはいくつもの石礫を抱えたストライクドラモンだった。 「よォ…やらねぇか?石合戦」 「フニャーッ!」 怒りと焦りに駆られたトブキャットモンが、一斉にストライクドラモンへ飛びかかる。 しかし、その動きはあまりにも単純だった。 「おっと!」 ストライクドラモンは迫ってきた一体をあっさりと捕まえ、そのまま身体を反らす。 「どりゃあッ!」 バックドロップ─トブキャットモンの頭が、積み上げられていた石の山へ叩きつけられた。 「んぼごぁっ!?」 「煙で視線を逸らした隙に進化して、壁を壊す。そこから落ちた石ころを投げる…俺の作戦通りだな」 「お、おのれ…またしても…」 シュウが手すりの向こうを見ながら、満足そうに呟く。 痙攣するトブキャットモンはシュウを睨みながらデジタマへと戻っていった。 「ありがとなシュウ!助かったゼ!」 ストライクドラモンが手をパンパンと叩きながら、笑顔でシュウへ振り返る。 「いいってことよ。それより、さっさと行こうぜ」 シュウも笑って親指を立てる。 ストライクドラモンも同じように親指を立て返した。 「おう!」 (しかし"今度は"だの、"またしても"だのと…何か起こってるな?) シュウはトブキャットモンの言葉に思考を巡らせつつ、先を進む二匹の背を追いかけた。 ・05 少し塔を登ったところで、遠くから見えていた穴の正体が、塔の途中に設けられた踊り場だと気づいた。 「おっ、休憩できるゼ!」 「できたらいいんだがな」 シュウが入口を潜った、その瞬間だった。 「うおっ!?」 物陰から飛び出してきた影に押し倒される。 「ぐえっ…な、なんだぁ!?」 シュウの上にまたがり、拳を振り上げていたのは─エレキモンのパートナーである少年、ヤスヒコだった。 「お、おっさん!こんな所でなにやってんだよ!」 ヤスヒコはぱっと手を納めると、ぎゅっと目を瞑りながら叫んだ。 「なんだよ、こんな所まで来て…オレのことなんか、どうでもいいだろ!」 「どうでもいいわけあるか!お前は…!」 シュウはヤスヒコの襟を掴もうと手を伸ばす。 だが、その顔に亡き親友の面影が重なり…伸ばしかけた手が、そこで止まる。 「ヤスヒコ、やめて〜」 エレキモンの声に、ヤスヒコがビクッと身体を震わせた。 「……う」 ようやくシュウの上から退くと、ヤスヒコは頭を掻きながら立ち上がった。 「どうして出ていったんだ?」 シュウも身体を起こし、問いかける。 「おっさんに、もう迷惑かけてらんないなって…」 「…そうか」 シュウは踊り場の外壁に背を預け、そのまま座り込んだ。 しばらくヤスヒコの話を聞いた後、大きく息を吐く。 そして足を組み、ヤスヒコへ視線を合わせた。 「俺は、迷惑だったなんて思ったことはないぞ?」 「オレもオレも!というか、シュウが仕事ばっかで暇だったからよ〜。ありがたいくらいだったゼ!」 ストライクドラモンが横から口を挟む。 「へへ…そうか…?」 ヤスヒコは照れくさそうに笑った。 その顔を見て、シュウの口元にも自然と笑みが浮かぶ。 「え、えっと…」 少し塔を登ると、その遠くから見ていた穴の正体が踊場である事に気づいた。 「おっ、休憩できるゼ」 「できたらいいんだがな」 シュウは入り口を潜ると飛び出してきた影に押し倒される。 「ぐえっ…な、なんだ!?」 「お、おっさん!こんな所でなにやってんだよ!」 マウントを取って拳を振り上げていたのはエレキモンのパートナーである少年・ヤスヒコだった。 「なんだよこんな所まで来て…オレの事なんかどうでもいいだろ!」 「どうでもいいわけあるか!お前は…!」 シュウがヤスヒコの襟を掴み返そうとした時、亡き親友の顔がダブって思わず手を止めた。 「ヤスヒコやめて〜」 エレキモンの声を聞いて思わずビクッとしたヤスヒコをようやくシュウの上から退くと、彼は頭をかきながら立ち上がった。 「どうして出ていったんだ?」 「おっさんにもう迷惑かけてらんないなって…」 シュウは踊り場の外壁に背を預けて座り込みながらヤスヒコの話を聞いていた。 大きくため息をついたシュウは足を組みながら「俺は迷惑だったなんて思ったことは無いぞ?」とヤスヒコに視線を合わせる。 「オレもオレも!というかシュウが仕事ばっかで暇だったからよ〜ありがたいくらいだったゼ!」 「へへ…そうか…?」 ストライクドラモンからそう言われ、照れくさそうに笑うヤスヒコに思わずシュウも笑みが溢れる。 「え、えっと……」 エレキモンが緊張した面持ちでヤスヒコへ話しかけようとした、その時だった。 【デスキャノン】 轟音─踊り場の外壁が爆発し、凄まじい衝撃が一同を襲った。 「うわっ!?」 ヤスヒコが身を伏せ、エレキモンも咄嗟に身体を丸める。 シュウたちが煙を払いながら顔を上げると、そこには致命傷を負い、動けなくなったラモールモンが倒れていた。 「が…がぁ…っ!」 「ここまで来れるとは、正直思ってはいなかったよ」 ラモールモンを踏みつけ、部屋の中央へ躍り出た影。 それは、あのブラックラピッドモンだった。 「おうおう!ちょっとオレのことナメ過ぎじゃねーのかよ!?」 ストライクドラモンが拳を握って食ってかかるが、ブラックラピッドモンは無視した。 視線は、ただシュウへ向けられている。 シュウも何も言わず、じっとブラックラピッドモンを睨み返す。 しばらくの沈黙…また、ブラックラピッドモンが舌打ちした。 「君たちはミヨを助けようとしてるみたいだが無駄だ。弱者の抵抗など、いたずらに彼女の死を早める障害でしかない」 「おい、ラモールモンを離してやれ。もう闘う気力なんてないだろ」 シュウがそう言う。 罵声が聞かないというよりも、耳に入れる必要も無い雑音だとしか思われてない。 ブラックラピッドモンはため息をつくと、ラモールモンを蹴り退かした。 エレキモンとヤスヒコは、相対する一人と一匹の間に漂う殺気に思わず後ずさる。 その一方で、ストライクドラモンだけは腰を落とし、いつでも飛び出せるように身構えていた。 「仲間を連れてきたか…だが、結果は変わらない」 「は?オレは今、たまたまソコで会ったばかりで…」 ヤスヒコの背後には、すでにブラックラピッドモンが立っていた。 「ぐっ…!?」 ブラックラピッドモンの腕がヤスヒコの首へ伸び、そのまま掴み上げる。 「ヤスヒコッ!」 エレキモンが息を呑む。 「何の役にも立たないってことを、教えてあげるよ……!」 ブラックラピッドモンの声が、次第に荒くなっていく。 「やめろォッ!」 エレキモンが反射的に飛び出した。 そのまま体当たりを仕掛けるが、鉄の装甲へ激突した身体はあっさりと弾き飛ばされる。 「エレキモ…うわっ!」 ブラックラピッドモンは、掴んでいたヤスヒコを乱暴に放り投げた。 宙を舞った身体が、そのままエレキモンへ叩きつけられる。 「ぐえっ!」 二匹の身体が絡み合ったまま、地面を転がった。 「エレキ…モン…?」 ヤスヒコの腕の中で、エレキモンの身体が小さく震える。 やがて、その身体が小さな光に包まれた。 光が消えた時…そこに残っていたのは、プニモンだった。 デジモンの退化には、大きなダメージや疲労から身を守るためのセーフティ機能という側面がある。 退化することで身体の状態をリセットし、これ以上のダメージを受けることを防ぐのだ。 当然、退化する気力すら残らないほどの損傷を受ければ、そのままデリート…デジタマ化してしまう。 特に幼年期の身体は、成長期や成熟期と比べて戦闘に耐えられるだけの強度を持っていない。 ここまでの道程を強行突破してきたエレキモンは、すでに限界を迎えていた。 「なんでッ!もう、お前とオレは関係ないだろ!」 ヤスヒコの声に、プニモンは小さな身体を震わせながら顔を上げる。 「関係ある!ヤスヒコは、おれをここまで育ててくれた…だから、おれは戦う!」 『ミヨは…僕が守る!』 その言葉が、ブラックラピッドモンの動きを止めた。 一瞬だけ、その脳裏に蘇ったのはかつての自分だった。 守りたい。隣にいたい。 そのために、もっと強くなりたい。 あの頃の自分が抱いていた感情と目の前の小さなデジモンの言葉が重なり、ほんの僅かな隙が生まれた。 【ドラモンクロー】 「ぐあっ!?」 ストライクドラモンの火炎を纏った強烈な飛び蹴りが、ブラックラピッドモンの側頭部を捉えた。 巨体が吹き飛び、何度も地面を跳ねながら壁へ激突する。 そのまま身体を壁に預けるようにして、ずるりと地面へ落ちた。 「うおーっ!よく言ったゼーッ!」 ストライクドラモンが拳を突き上げる。 「そうだ。オレたちは戦う」 シュウも立ち上がり、ブラックラピッドモンを見据えた。 ブラックラピッドモンはゆっくりと身体を起こす。 凹んだボディを確かめるように見下ろし、やがてその顔に怒りと絶望が入り混じった表情を浮かべた。 「やはり…お前たちは障害だ」 両腕を地面へ突き立てる。 そして、その腕が強く発光した。 【ジゴワットレーザー】 ブラックラピッドモンの両腕から放たれた凄まじいエネルギーが、地面を引き裂きながらヤスヒコたちへ迫る。 「くっ…!」 咄嗟に身体が動いたストライクドラモンが、二人の前へ飛び出した。 だが受け止めるより先に、ジゴワットレーザーの強烈な風圧が巨体を吹き飛ばす。 「うおおおッ!?」 ストライクドラモンが地面を転がっていく。 ヤスヒコはそう叫ぶと、反射的にプニモンを胸へ抱き寄せた。 「もう、お前まで失うのは嫌なんだよ!」 「…!」 その時、彼のポケットから携帯電話が滑り落ちると硬い音を立てて地面へ転がった。 同時に、シュウの懐からナガトに貰った石がひとりでに飛び出した。 「な、なんだ…!?」 宙へ浮かんだ石から放たれた光が、地面に落ちた携帯電話を包み込んだ。 表面を、テクスチャーがバグったかのようなノイズが走る。 画面が明滅し、輪郭が歪み、データの粒子が次々と剥がれ落ちていく。 そして携帯電話は、桃色のデジヴァイスへと姿を変えた。 「デジヴァイスだゼっ!」 「で…デジヴァイスぅ?」 ストライクドラモンの声に、ヤスヒコが反射的にそれを掴む。 瞬間─デジヴァイスの内側から眩い光が膨れ上がった。 「うわっ!」 光はヤスヒコの手から溢れ出し、迫っていたジゴワットレーザーを正面から弾き飛ばす。 「!?」 シュウも、ブラックラピッドモンも、そしてヤスヒコ自身も目を見開いた。 「な、なんだよ…これ…!?」 ヤスヒコの手の中で、桃色のデジヴァイスが強く輝いている。 その光が、プニモンだけを包み込んだ。 「プニモン…」「ヤスヒコ…」 小さな声が重なる。 プニモンの身体が、ゆっくりと宙へ浮かび上がった。 「おれ…エテモンじゃないけど…」 息を呑むヤスヒコの前で、眩しく光るプニモンの身体が少しずつ大きくなっていく。 「あ…ああ。知ってるよ」 ヤスヒコは恥ずかしそうな目を逸らすが、デジヴァイスを強く握り締めていた。 その言葉に、プニモンの瞳が大きく開く。 「エテモンじゃなくてもいい。お前がここまで来てくれたことも、お前が俺を助けてくれたことも…全部、本物なんだから!」 「ヤスヒコ…!」 プニモンの身体が、さらに膨れ上がる。 小さな身体を覆っていた光が弾け飛び、その輪郭が大きく変化していく。 やがて、その姿は恐竜を思わせる巨大なシルエットを形作った。 その身体へ、先ほど弾き飛ばされたジゴワットレーザーの残留エネルギーが引き寄せられていく。 まるで、四散した力をその身へ装着するかのように。 「…くそっ。くそっ!」 ブラックラピッドモンの表情が変わった。 ただの進化ではない…目の前で生まれようとしている力に、本能的な危機感を覚える。 それは、かつて自分がミヨと得た光にそっくりだった。 ブラックラピッドモンは咄嗟に背部のシリンダーを展開し、無数のミサイルを一斉にぶちまけた。 光が弾け飛ぶ─そこに現れたのは、鉄の装甲に身を包んだサイボーグの恐竜型デジモン。 【メタルティラノモン:完全体】 「ヤスヒコを傷つけさせはしない!おれが、この鉄の体で!」 メタルティラノモンが大きな口を開き、空気を震わせる咆哮を轟かせる。 迫っていた小型ミサイルが、その衝撃に弾かれるように次々と撃ち落とされた。 「ジゴワットレーザーの持つ機械的な性質を吸収したのか…?」 シュウはデジヴァイス01の仮想モニターに表示されたデータを見ながら呟く。 その一方で、ヤスヒコは綺麗に広がっていく爆風を前に、どっしりと構えるメタルティラノモンの姿に見惚れていた。 【ツインミサイル】 ブラックラピッドモンが両腕からミサイルを放つ。 着弾した天井が大きく吹き飛び、そこから青空が覗いた。 ブラックラピッドモンはそのまま外へ飛び出していく。 「待て!」 ヤスヒコはすぐさまメタルティラノモンの身体によじ登った。 その声は、どこか楽しそうだった。 「よし、追いかけよう!」 「ヤスヒコくん。コレは俺たちの戦いだ」 「メタルティラノモンもそーだゼ!完全体になれたからって、コイツは遊びじゃねェぞ!」 ストライクドラモンが拳を構える。 「ストライクドラモンたちには、世話になりすぎちゃったから…」 メタルティラノモンが顔を上げる。 「アイツを倒すなら、おれたちも行くよ!」 シュウは少しだけ考えると、やがてゴーグルを装着してニッと笑う。 「…そうだな」 その視線が、ヤスヒコとメタルティラノモンへ向く。 「行くか!」 「うん!」 ヤスヒコも笑い、額に上げていたサングラスを手に取った。 それは、かつての相棒・エテモンの形見だった。 それを静かに顔へかけると、自らの両頬を叩いて気合いを入れた。 「…よし!」 そのままメタルティラノモンの背に跨がると、シュウたちとともにブラックラピッドモンの後を追った。 【メタルティラノモン:完全体】 「ヤスヒコを傷つけさせはしない!おれがこの鉄の体で!」 光を破裂させると現れたのは鉄の装甲に身を包んだサイボーグの恐竜…完全体・メタルティラノモンであった。 メタルティラノモンは大きな口で空気を揺らす咆哮を轟かせると迫る小型ミサイルを打ち落とした。 「ジゴワットレーザーの持つ機械性質を吸収したのか…!」 シュウはデジヴァイス01に表示されたデータを元に推察するが、ヤスヒコは綺麗に広がる爆風を前にどっしりと構えたメタルティラノモンに見惚れていた。 【ツインミサイル】 両腕から放ったミサイルで天井を爆破したブラックラピッドモンはそこから外へと抜け出す。 ヤスヒコはすぐにメタルティラノモンへよじ登ると「追いかけよう!」と楽しそうな声でそう言った。 「ヤスヒコくん、コレは俺たちの戦いだ!」 「そーだゼ!オマエが完全体でもコイツは遊びじゃねェぞ!」 「ストライクドラモンたちには世話になりすぎちゃったから…あいつを倒すならおれたちも行くよ!」 シュウは少し考えるとゴーグルを装着してニッと笑い、ヤスヒコとメタルティラノモンを見た。 ヤスヒコも微笑み返すと額に上げていたエテモンの形見であるサングラスをかけた。 「じゃ、行きますか」 上の階層へ繋がる外の坂へ、二人と二匹は飛び出した。 その直後、上空からブラックラピッドモンが高速で飛来する。 「来るぞ!」 シュウが叫ぶより早く、その黒い巨体が四人の横を通り過ぎた。 遅れて、小型ミサイルが坂へ着弾する。 轟音とともに爆発が巻き起こり、シュウたちは爆風に煽られた。 「くっ…!」 シュウは手すりへ手をつき、体勢を立て直す。 そのまま下を覗き込むが、ブラックラピッドモンの姿はもうどこにもない。 「消えた…?」 「違う─後ろだ!」 ストライクドラモンが振り返る。 塔の外周を一周したブラックラピッドモンが、今度は背後から現れた。 シリンダーと両腕が同時に展開する。 【ラピッドファイヤ】 大量のミサイルとエネルギー弾が、坂を駆け上がるシュウたちへ一斉に放たれた。 「させないっ!」 メタルティラノモンが踏み出す。 その両手のひらに備わったシャッターが開いた。 【エナジーショット】 内部から撃ち出された巨大なエネルギー球は、空を飛び交うミサイル群の中心を一直線に貫いた。 直後、爆風が周囲へ広がり巻き込まれたミサイルが次々と誘爆していく。 「なにっ!?」 ブラックラピッドモンの周囲で爆発が連続する。 凄まじい風圧に煽られ、その身体が大きく傾いた。 「今だ!」 煙を引き裂くように、一つの影が飛び出した。 ストライクドラモンの巨体は、まるで一本の矢のようにブラックラピッドモンへ迫っていく。 「うおおおおーっ!」 【ストライクファング】 青い炎を纏ったその姿は、流星と見紛うほどの速度でブラックラピッドモンへ突っ込んでいく。 本来、空を飛ぶことのできないストライクドラモンが、必殺技の爆発的な推進力だけを頼りに無理やり空中戦へ持ち込んでいた。 青い炎がまるでロケットの噴射のように背後へ吹き出すたび、その巨体が空中を一気に加速する。 「だりゃあああああッ!」 突き出された太い腕が、ブラックラピッドモンの鉄の装甲を再び凹ませた。 「いくぞ!駆け上がれ!」 シュウはデジヴァイス01からストライクドラモンへ指示を送りながら叫ぶ。 ブラックラピッドモンとの空中戦を横目に、ヤスヒコとメタルティラノモンは坂を駆け上がる。 「登ろう!メタルティラノモン!」 その間にも、空中では二体の戦いが続いていた。 ストライクドラモンは青い炎を噴き出してはブラックラピッドモンへ食らいつき、攻撃を繰り出した直後には勢いを失いかける。 そのたびに再び必殺技の推進力を爆発させ、無理やり空中へ舞い上がっていた。 対するブラックラピッドモンは、その動きを見切るように旋回。 ブラックラピッドモンはストライクドラモンの足を掴んだ。 「調子に乗るなよ」 「おおおおおッ!?」 そのまま身体を大きく振り回し、ジャイアントスイングを仕掛ける。 放り投げられたストライクドラモンの巨体が、勢いよく外壁へ叩きつけられる。 重い音を上げ、その身体は岩壁の中へめり込んだ。 「ぐっ…!」 そこへ、ブラックラピッドモンが放っていたミサイルが次々と着弾する。 轟音と爆炎が、ストライクドラモンの姿を覆い隠した。 「障害が…ようやく黙ったか…!」 ・06 屋上闘技場へたどり着いたシュウ、メタルティラノモン、ヤスヒコの前にブラックラピッドモンが静かに着地した。 「─俺の後ろ!」 シュウの声に反応し、メタルティラノモンが振り向きざまに拳を振り抜く。 その背後へ回り込んでいたブラックラピッドモンの身体を、鋼鉄の拳が捉えた。 「ぐっ!」 直撃を受けたブラックラピッドモンは大きく吹き飛ばされる。 だが空中で身体を翻すと、全身のスラスターを一斉に噴射した。 細かい調整により、黒い巨体が空中でぴたりと静止する。 「メタルティラノモン!」 ヤスヒコの叫びに応え、メタルティラノモンの両手のシャッターが再び開いた。 【エナジーショット】 手のひらから放たれた巨大なエネルギー弾が、ブラックラピッドモンへ向かって一直線に飛んでいく。 ブラックラピッドモンは両腕を構える─その腕部ち、エネルギーが猛烈な勢いで集束していく。 【デスキャノン】 だがそのエネルギーは、迫り来るエナジーショットへ向かって拳ごと叩き込まれた。 拳とエネルギーが衝突した瞬間、凄まじい閃光が弾ける。 エナジーショットを正面から打ち消され、ヤスヒコが目を見開く。 「嘘だろ…!」 その一瞬の隙を、ブラックラピッドモンは逃さなかった。 閃光の中から一気に距離を詰める。 「─遅い」 メタルティラノモンが拳を構えるより早く、その懐へ潜り込んだ。 ブラックラピッドモンの拳が、メタルティラノモンの胴体へ深々と叩き込まれる。 「がっ…!?」 メタルティラノモンが大きく仰け反る。 ブラックラピッドモンはその隙を逃さず、至近距離から小型ミサイルを連射した。 「ぐおおおッ!」 爆炎がメタルティラノモンの巨体を包み込む。 やがて煙の中から、ボロボロになったメタルティラノモンが炎を掻き分けて姿を現した。 装甲のあちこちが焦げ、傷口から火花が散っている。 それでもメタルティラノモンは踏みとどまった。 「グォオオオオッ!」 咆哮とともに放たれた衝撃が、迫っていたミサイルを次々と撃ち落とす。 だが、すべてを防ぎきることはできなかった。 いくつかのミサイルが装甲へ直撃し、身体の一部から激しく火花が散る。 「メ、メタルティラノモン…大丈夫なの!?」 「任せて!」 背後で心配するヤスヒコに、メタルティラノモンはすぐにそう答えた。 明らかに無理をしている。 それでも、ヤスヒコを安心させるように、力強く胸を張った。 「強がりを…だが、僕の行動が何故読めたんだ」 ブラックラピッドモンが舌打ちする。 シュウはゴーグルの位置を直しながら、目を細めた。 「お前は音もなく高速移動ができる…だけど、それを後ろに回り込むことにしか使ってないのさ」 最初の奇襲、背後への出現、そして今の攻撃…どれも最後に狙う場所は同じだった。 シュウは鼻の前で指を二本立てる。 そして、それを閉じるようにしてから、そのままブラックラピッドモンへ突きつけた。 「ワンパターン戦法は、マイナス二千点だぜ?」 「祭後終…君も障害だ…!」 明らかに苛立ったブラックラピッドモンを前に、シュウは鼻で笑った。 「はっ。事情があるみたいだけどよ…詳細も語らねぇし、否定しかしてこねぇ。テメェの話なんか聞いてられねぇんだわ」 「どの道、君は死ぬ運命だ!その前に、僕が苦しむよりも早く消してあげるよっ!」 ブラックラピッドモンが両腕を振り上げる。 そのまま地面へめり込ませるほどの力を込め、片足立ちになる─これまでの戦いとは明らかに異なる、独特の構えだった。 やがて、凄まじいエネルギーが空間そのものを揺らし始める。 シュウのデジヴァイス01が激しい警告音を響かせた。 【ゴールデントライアングル】 「なんだこの出力は!?」 両腕の端と爪先に、高エネルギーの力場が形成される。 そこから放たれた電撃がそれぞれを繋ぎ、三つの頂点を結ぶように黄金の電撃が走る。 その姿はまさに巨大な三角形を形作り、さらにエネルギーを高めていく。 対するメタルティラノモンも、大きく身体を震わせた。 「グォオオオオオッ!」 咆哮を上げながら気合を込めると、背鰭が激しく明滅し始める。 やがて、その光が左腕へと集まっていく。 先ほどのエナジーショットとは、明らかに桁が違う。 「いけぇっ、メタルティラノモン!」 ヤスヒコの声に応えるように、メタルティラノモンが左腕を突き出した。 【ヌークリアレーザー】 左腕から放たれた光線が、黄金の三角形から放出されたエネルギーと正面から衝突する。 「ぐおおおおおッ!」 「うおおおおおおッ!」 二つの光線が、その場で拮抗した。 衝突地点から凄まじい衝撃波が広がり、空間そのものが歪んでいく。 やがて周囲に、小さなデジタルゲートが次々と発生し始めた。 「デジタルゲートが…!」 シュウはデジヴァイス01の画面へ目を走らせる。 エネルギー出力、空間への干渉、この規模のデータ反応。 シュウはゴーグル越しに、拮抗する二つの光線を見つめた。 デジヴァイス01の警告音が、なおも鳴り響く。 「まるで究極体同士がぶつかってるみたいだ…!」 「終わりだ、障害!なにもかも!」 ブラックラピッドモンがさらにエネルギーを注ぎ込む。 黄金の光が一気に膨れ上がり、ヌークリアレーザーを押し返していく。 「ぐおおおおおッ!」 メタルティラノモンは必死に踏みとどまるが、あまりの眩しさに思わず目を細める。 それでも左腕を突き出し続けるが、もう限界だった。 必殺技を放ち続けることすらできないまま、光線が押し切られようとしている。 「ここまで来た意味なんてなかったな!素直に消えればよかったんだ!!」 ブラックラピッドモンが叫ぶが、シュウはそれを鼻で笑った。 「何がおかしい…!?」 「意味ならあるさ」 そう言って、シュウはヤスヒコとメタルティラノモンを見る。 追い詰められているというのに、二人は笑っていた。 ヤスヒコはメタルティラノモンと一緒にいられることを嬉しそうに噛み締め、メタルティラノモンもまた、そんなヤスヒコを守れることを喜んでいる。 「コイツらの笑顔、悪くないだろ?」 『私、ロップモンの笑ってるところ…見たいな』 一瞬、ブラックラピッドモンの脳裏にミヨの声が重なった。 「…だからさ」 シュウがブラックラピッドモンへ視線を戻す。 「俺たちがここまで来たことも、無駄じゃないんだよ」 その瞬間、シュウがニヤッと笑った。 【ガードブレイク】 ブラックラピッドモンの足元が、突然爆発する。 「なっ!?」 予想外の衝撃に、ブラックラピッドモンは咄嗟に飛び退く。 発射の体制が大きく傾き、黄金の光線がそこで大きく揺らぐ。 【変異種防壁(イリーガルプロテクト)】 爆煙の中から、一つの影が飛び出した。 「うおおおおお─ッ!」 ストライクドラモンだった。 そのまま空中のブラックラピッドモンへ突っ込み、その顎にデジメモリから展開したバリアを叩き込んだ。 「ぐうううーーーっ!?」 最硬の防壁による一撃に、ブラックラピッドモンの身体が大きく弾き飛ばされた。 「お前が撃ち込んだミサイルを利用して壁を破壊。ストライクドラモンを塔の内側へ潜り込ませたのさ!」 シュウはしたり顔でブラックラピッドモンを指差した。 「後はテメーが調子に乗るのを待つだけってなぁ!」 【とうしのこぶし】 二撃目を振り上げて叩き込んだストライクドラモンはそのまま落下し、屋上へ転がるように着地する。 「おう、待たせたな!」 「事前の作戦通りだったな」 一人と一匹はハイタッチする。 ブラックラピッドモンは空中で身体を捻り、スラスターを全開にしてどうにか姿勢を立て直す。 「く…!」 だが、さすがに完全には制御しきれていない。 それでもブラックラピッドモンは両腕を構え、黄金のエネルギーが再び集束させていく。 不安定な姿勢のまま、それでも再び必殺技を放とうとしていた。 「また来る!でも、ヌークリアレーザーじゃ…!」 焦燥感に駆られるヤスヒコと、デジヴァイス01の仮想モニターへ目を走らせるシュウ。 ヌークリアレーザーではもう押し切られるが、他に使える技があるのかもわからない。 『アチキの技を使ってくれ』 メタルティラノモンの脳裏に聞いたことの無い声が響き、焦ったように周囲を見回した。 なぜか懐かしさもある声…メタルティラノモンはその事に気付くと、覚悟を決めた。 「…おれは、それに賭ける」 「え…どうしたんだよメタルティラノモン」 ヤスヒコが心配そうに顔を覗き込むが、メタルティラノモンは答えない。 ただ、ゆっくりと両腕を胸の前で組む。 「おれは…」 両手の間に、漆黒の電撃が生まれた。 バチバチッと小さな光が弾け、やがて一つの球体へと形を変えていく。 「な、なんだ…いや、それは…!」 ヤスヒコが目を見開く。 漆黒の球体は、数度にわたって膨張した。 そのたびに周囲の空気が震え、屋上の床に細かな亀裂が走る。 「メタルティラノモン、何をするつもりだ!?」 シュウが叫ぶ。 だが球体はさらに膨れ上がったかと思うと、今度は急速に収束し始めた。 膨大なエネルギーが一点へ集められ、漆黒の球体が異様な密度へと圧縮されていく。 「…これは!」 シュウのデジヴァイス01に、新たな技名が表示された。 【ダークスピリッツ】 その文字を見た瞬間、シュウは目を見開く。 一方、ヤスヒコの瞳には涙が浮かんでいた。 「やっちゃえええっ!メタルティラノモーーーンッ!」 「行くぞ!」 メタルティラノモンは、両手の間に生まれた球体を掴む。 そして、それを放り捨てるように上空へ投げ飛ばした。 「『ダークスピリッツ!』」 漆黒の球体が、ゴールデントライアングルへ向かって飛んでいく。 不完全なまま放たれた黄金の三角形と、漆黒のエネルギーが正面から衝突した。 一瞬だけ二つの力が拮抗したものの、漆黒の球体が黄金の力場を内側から砕いた。 その爆発により三つの頂点を結んでいた光が引き裂かれ、ゴールデントライアングルが崩壊する。 「ぐあああああッ!?」 ブラックラピッドモンの身体が、衝撃に弾き飛ばされた。 凄まじいエネルギーの余波が屋上を駆け抜け、シュウとヤスヒコの身体が吹き飛ばされそうになる。 「やっ、やりすぎだよーっ!」 「ごめんねヤスヒコ〜!まだ調子がわからなくて〜!」 メタルティラノモンはヤスヒコを押さえ、慌てたように謝る。 その横では、ストライクドラモンが目を輝かせていた。 「オレもアレやりてぇな〜っ!」 「そこじゃない…っていうか助けろ!」 シュウが思わずツッコむ。 やがてようやく爆風が収まると、ヤスヒコが恐る恐る顔を上げる。 「……どうなったの?」 ブラックラピッドモンがいたはずの場所には、もう誰の姿もなかった。 「逃げた…?」 メタルティラノモンが辺りをキョロキョロと見回す。 その時…何かが床へ落ち、軽い音がした。 「ん?」 シュウがゆっくり振り返ると、足元へ転がってきていたのは焦げ茶色のタグだった。 シュウはそれを拾い上げ、しばらく眺めた後…ヤスヒコたちへ向かって微笑んだ。 「俺たちは…勝ったみたいだぜ?」 その言葉を聞いて、ストライクドラモンはユキアグモンに、メタルティラノモンはエレキモンへと退化し、二匹ともようやく臨戦態勢を解いた。 「ハラへったゼ〜〜」 「おれも〜」 さっきまで死闘を繰り広げていたとは思えない二匹の様子に、シュウは思わず苦笑する。 そんな二匹を眺めていると、ヤスヒコが先ほどのキラキラした石を差し出してきた。 「はい、これ。オッサンのだろ」 「ありがとな。にしても、コイツはただの石じゃあなさそうだな…」 シュウは受け取った石を指先で転がし、光にかざす。 透明な輝きの奥を覗き込むように少し睨んだ。 「ま、今はいいか」 しばらく眺めていたがやがて肩をすくめると、石を懐へ仕舞い込んだ。 「おい、エレキモン」 「ん?」 ヤスヒコはエレキモンを抱き上げると、そのまま真面目な顔でシュウへ向き直った。 「なぁ、オッサン。オレもついてっていいか?」 「んお!?」 ユキアグモンが目を輝かせる。 「ヤスヒコとエレキモンがいれば百人力だゼーーーっ!」 「お前はちょっと黙ってろ」 「なんでだよ!?」 ギャーギャー騒ぐストライクドラモンを横に、シュウは少しだけ考え込んだ。 そしてヤスヒコへ視線を戻すと、シュウはゆっくりと口を開いた。 「…そうだな」 「君には、言っておきたいことがあるんだ」 その声音には、いつもの軽さがなかった。 ヤスヒコも、それを感じ取ったのか、黙ってシュウを見つめる。 シュウは一度だけ息を吐くと、かつてエテモンから聞いた言葉を思い出していた。 ・07 迷い込んだデジモンをデジタルワールドへ追い返したものの、終電を逃してしまったシュウは、偶然にもエテモンを見つけた。 分厚いコートやサングラスで着飾り、人間に紛れていたエテモンをシュウがデジモンだと認識できたのは、日頃から彼らと騒ぎを起こしていたからだろう。 「ヤスヒコがイタズラをしてるとき、アチキを見ていたのは気付いていた。本当は学校に行った方がいい…そんなのはわかってた」 二人は自動販売機の前に並んで、田舎とも都会とも言えない白夜の空を見ていた。 「でも、アイツはアチキの歌を褒めてくれたんだ!初めてだった…歌を褒められたのも、友達ができたのも!」 エテモンは、わずかに肩を震わせながら続ける。 「だから気持ちがいい。ここに留まりたくなっちまった…でも、ソレだけじゃヤスヒコのためにはならないだろ?」 シュウは何も言わずに聞いていた。 「アイツはもっとちゃんとした才能があると思う。今からでも遅くない。学校に行って、虐めてきたヤツらも、助けてくれなかったセンコーも、バカ親もブッ飛ばして、堂々と卒業しようぜ!」 そこまで言って、エテモンは言葉を止めた。 「…って言いたいんだけどさぁ」 極端に甘い期間限定の缶コーヒーは、どうやら不評らしく少しだけ値段が下げられている。 それがシュウには都合よく、ためらいなく自動販売機のボタンを押した。 ガコンと音を立てて缶が落ちた。 「アチキは、ヤスヒコが思うほどにはワルじゃなくて、強くなくて、カッコよくもないから……それを言う勇気がないんだ」 シュウは缶を拾い上げ、エテモンへ差し出した。 「自分に勇気がないって言えるのは、勇気のあるヤツだけだよ」 「……え?」 「少なくとも、俺はそう思うけどな」 シュウは自分の分も取り出し、プルタブを開けた。 「エテモンは、ちゃんとヤスヒコのこと考えてるじゃないか」 「…でもよ」 「それだけで十分だと思うけどな」 そう言いながら、冷たい夜空の下で冷たいコーヒーを一口飲み込んだ。 "俺が、そうじゃないから"…その言葉と共に。 「─なんでエテモンが俺にそんな事を話したかはわからない。けど、まぁそういうコトだ」 「オレ、デジヴァイス01の中で爆睡してたから全然知らなかったけどよぉぉぉ…アイツいいヤツだったんだなああっ!!」 ユキアグモンはだばだばと涙と鼻水を垂れ流しにしている。 話を聞いたヤスヒコは更に強くエレキモンを抱き締めると「悪い!オレ、やっぱ学校に行くよ!」と顔を上げた。 「じゃあおれも一緒に行くぞ!」 エレキモンもそう言ってヤスヒコの頬をぺたぺた触り、涙を拭う。 「それがいい。エテモンとの約束、果たそうぜ」 「音楽だな!音楽やるぞ!」 ヤスヒコとエレキモンはそう言いながら笑い合う。 「オッサ…シュウさん、ありがとな」 「今更名前で呼ばれても恥ずかしい。やめろ」 シュウに手をしっしっと振られるとヤスヒコはニヤニヤしながら彼の名前を何度も呼ぶ。 「─なんでエテモンが俺にそんなコトを話したのかはわからない。けど、まぁ…そういうコトだ」 シュウが話を終えると、ユキアグモンが大きく鼻をすすった。 「オレ、デジヴァイスの中で爆睡してたから全然知らなかったけどよぉぉぉ…アイツ、いいヤツだったんだなああっ!!」 だばだばと涙と鼻水を垂れ流すユキアグモンを横目に、シュウはちょっと引いている。 その話を聞いたヤスヒコは、腕の中のエレキモンをさらに強く抱き締めた。 「悪い!オレ、やっぱ学校に行くよ!」 ヤスヒコが顔を上げる。 「じゃあ、おれも一緒に行くぞ!」 エレキモンも嬉しそうに答え、ヤスヒコの頬をぺたぺたと触りながら、流れていた涙を拭ってやる。 「それがいい。エテモンとの約束、果たそうぜ」 「音楽だな!音楽やるぞ!」 二人は顔を見合わせると、声を上げて笑った。 その笑い声を聞きながら、エレキモンはふと先ほどの戦いを思い出していた。 メタルティラノモンだった自分に、聞こえてきた声。 あの時は、誰が、なぜ伝えてきた言葉かはわからなかった。 けれど…今ならわかる。 「…エテモン」 エレキモンが、小さく呟く。 あの声は、自分の中に残っていたエテモンの記憶でも、ただの幻でもなかった。 きっと、エテモンが自分に語りかけてくれたのだ。 「ありがとう」 エレキモンは彼が自分に託してくれた事を感謝し、ヤスヒコの腕の中で小さく笑った。 「オッサ…シュウさん、ありがとな」 「今さら名前で呼ばれても恥ずかしい。やめろ」 シュウが手をしっしっと振る。 「シュウさん」 「やめろって」 「シュウさーん」 「だからやめろ」 「シュウさん、シュウさん、シュウさーん」 「お前なぁ…」 ニヤニヤしながら何度も名前を呼ぶヤスヒコに、シュウは頭を抱えた。 その様子を見て、エレキモンが楽しそうに笑う。 塔の屋上には、しばらく明るい笑い声が響いていた。 幾つかのデジタルゲートにデジヴァイス01を向けると、そこに表示された数値は、偶然にも二人のいた世界と時間に繋がるものだった。 「少し出来すぎな気もするが、ここから帰れるな…あ、俺の家に置いてあるお前の私物は持って帰れよ」 「へへっ。考えとくよ!」 そう声を張り上げたヤスヒコは、エレキモンと手を繋いでデジタルゲートへ飛び込んだ。 二人の姿がゲートの向こうへ消え、光とともにゲートそのものも消滅する。 辺りから吹く風が、シュウの気分を爽やかにさせた。 「よかったのか、シュウ」 「当たり前だろ? ヤスヒコくんは平和に暮らしてて…」 「いや、そうじゃなくて」 ユキアグモンが、何気なく背後を指差す。 「この塔、倒れて来てるゼ」 「…は?」 シュウが振り返ると、視界が少しずつ斜めに傾いていく。 凄まじい攻防の果てに、塔はすでに限界を迎えていた。 シュウの悲痛な絶叫が、崩れ落ちていく塔とともに辺りへ響き渡った。 集めるべきタグは、あと二つ。 おわり .