・Vre.25/02/12 vsエテモン/vsブリザーモンvsバステモン vsベツモン ・Vre.25/02/14 vsゴクモン/vsティンカーモン/vsベガスモン vsダークドラモン ・Vre.25/02/18 vsボンバーナニモン/vsゴシップモン/vsデビドラモン ・Vre.25/03/14 vsミノタルモン ・Ver.25/04/25 vsアガルタディモン/vsスカモン(たくさん)/vsマッハモン vsドクグモン/vsバンチョースカモン ───────────────── ・vsエテモン  猿田ヤスヒコ 「あちょーーっ!」 エテモンが放り投げた黒い玉・ダークスピリッツは真っ直ぐストライクドラモンへと向かっていくかに見えたが、直前で急旋回するとガソリンスタンドの壁面に激突した。 次の瞬間、轟音とともに炎と黒煙が空を裂き、爆風が周囲の瓦礫を巻き上げた。 「うおーっ!やったねエテモン!こりゃあとんでもねぇワルだよ!」 目を輝かせ、炎を背に小躍りしながらガソリンスタンドを何度も指差すのはツインテールの少年・猿田ヤスヒコ。 その隣で、大粒の汗をかきながらエテモンは拳を握りしめていた。 それは戦闘の緊張からではなく、むしろほっとしていたからであった。 (よ、よ、よかった〜!誰も怪我してない!) そう胸をなでおろしながら、エテモンは勝鬨を上げるように腕を天へ突き上げた。 その動作はまるで自身の強さを誇示しているかのように見え、ヤスヒコも釣られて手を掲げる。 対するシュウは、炎を反射するゴーグル越しにエテモンの様子をじっと観察する。 何度も戦ってきたが、エテモンが本気で戦っているようにはどうしても思えない。 (あの玉が本気ならビルだってフッ飛ばす威力もあるはず。ストライクドラモンがまともに喰らえばデリートは避けられない…それなのに、どうも攻撃のコントロールが妙だ) まるで最初から狙いを外すことが決まっていたような軌道へシュウは疑念を深めるが、それはそれとして。 「コイツはよくなそうだな…」 ぼそりと呟いたシュウに、ヤスヒコが振り返る。 ヤスヒコはまるでエテモンの偉業を讃えるように、火柱を上げるガソリンスタンドを指差し続ける。 「おいオッサン!エテモンが本気を出せばアレだぞ、ア〜レ〜っ!!」 ───────────────── ・vsブリザーモン  霜桐雪奈 シュウが都心の某駅構内を暫く歩いていると空気が突然一変した。 壁・天井・床…人さえも凍りつき、氷に覆われた照明からはぼんやりとした青白い光が放たれていた。 駅の複雑さも相まり、シュウはまるで氷のダンジョンに閉じ込められたかのように感じた。 「何故俺は無事だったんだ…あっ。待て」 デジヴァイス01から勝手に飛び出したユキアグモンが「デジモンの臭いだぜ!」と走り出してしまう。 シュウはさっさと走り出したユキアグモンを追って氷の迷宮を進んでいくと、視線の先に影が動いているのを見つけた。 「大丈夫かい?」 駆け寄ってきたシュウを見た少女は安心した顔で頷いたが、彼女の隣にいるブルコモンは僅かにこちらを警戒しているようだ。 だが彼がデジモンと共にいると知ると、状況を察したようだった。 「よ、よかった…。友達もみんな動かなくなっちゃって…」 「その友達にテイマーは?」 「はい…トリケラモンとか、ゴブリモンとか…」 「成る程…氷の特性を持つデジモンを相棒にしているテイマーだけがこの状況でも動けているワケか…?」 シュウは額を親指で押しながら思考を巡らせ、仮説を口にする。 「わっ、わたし!霜桐雪奈です!この子はブルコモン!」 「俺は祭後終、コイツはユキアグモン。よろしくな」 あっ…と声を出した雪奈は頭をぺこぺこと下げながら自己紹介をする。 互いに名乗り合い視線を交わしたその時、上の階から低いうなり声が響いた。 「シュウ!上だゼ!」 「わたしたちも行きます!ブルコモン、お願い!」 即席チームは道を駆け抜け、広々とした改札口に辿り着いた。 その時、天井から強烈な冷気を放つブリザーモンが大きな音を立ててドシンと着地した。 雪奈はブリザーモンの瞳にはただの敵意ではなく恐怖が宿っている事に気付く。 突然人間界に迷い込んでしまった彼は混乱し、結果として駅を凍らせてしまったのだろう。 「落ち着かせないと…」雪奈がそう呟きながら前に出ると、シュウはそれよりも前に出てゴーグルを装着した。 「女の子に戦わせるワケにはいかないな」 ───────────────── ・vsバステモン  鉄塚クロウ/Ms.レア 路地裏の薄暗がりの中、バステモンとストライクドラモンの鋭い爪が幾度となくぶつかり合う。 その度にキン!という甲高い金属音と砂埃が舞い上がり、シュウの視界を曇らせる。 互いの攻撃はことごとく相殺され、決定打には至らない。 ストライクドラモンは荒い息をつきながら次の一手を探すが、バステモンはそれを待たない。 俊敏な動きでビルの壁を連続で蹴って斜め上から間合いを詰めると、大きく腕を振りかぶった一撃を放った。 だがバステモンの鋭い爪がストライクドラモンの身体を貫くことはなく、間に割って入っていた一枚の黒い盾に弾かれていた。 「見つけたぜ、兄さん。一人で行くなんて薄情だぜ?」 雑居ビルの外階段に腰かけるバンダナの少年は少年は勝ち気な笑みを浮かべ、気安い口調でそう言う。 「一人じゃない。コイツもいる」 「そ〜だゼっ!」 ストライクドラモンはボロボロになりながらも拳を握り締め、ガッツポーズを取りながら笑みを浮かべる。 その無邪気な声と共に歯をキラっと光らせるストライクドラモンだが、彼の身体には無数の傷が刻まれており多少の強がりが見える。 「ふぅん…なるほどね。トゲトゲ頭の坊や、ウチの上司がよく話題にするコじゃない?」 バステモンのパートナーである派手な化粧を施し、威圧的な雰囲気を纏った大男は興味深そうに口角を上げる。 ティアルドモンは一歩踏み込みながら放った強烈なシールドバッシュでバステモンの身体を弾き飛ばす。 しかしバステモンは華麗な身のこなしで壁に張り付き、盾を構え直したティアルドモンを睨んだ。 「じゃ、アタシたちもう少しホンキ出してあげようかしら」 ───────────────── ・vsベツモン  映塚黒白/唐橋チドリ/イソノインナナヨ 「幽霊〜?」 「そ、そ。最近この辺りで幽霊が出るって噂、聞いたことありゅ?」 ある晴れた日、じめっとしたペットショップでシュウは酒臭いチドリの言葉に顔を歪ませた。 「今度は幽霊退治か?便利屋じゃないんだぞ俺は」 シュウは大量の砂糖が溶けきらないままのコーヒーを飲み干してから悪態を垂れていたが、結局は噂となっている廃トンネルの前に立っていた。 「シュウ〜なんか寒くね?」 「あと百回くらい自分の名前を言ってくれ」 一人と一匹がひび割れたアスファルトを踏みしめていくと、その先に"ソレ"は確かにいた。 青白くぼやけつつも薄く光るその人影にシュウは眉をひそめるものの、意を決して話しかける。 「よっ。噂の幽霊さん」 声をかけられた人影が振り向くと、その顔はデジタルなエフェクトでよく見えないがとりあえずショックを受けているのは伝わってきた。 「えっ…俺が?」 「クロシロー。そんな姿でこんな所にいたら幽霊そのものだぞ」 物陰から現れたソーラーモンにクロシロと呼ばれた少年は額に手を当て、少し大げさなジェスチャーで嘆いた。 「俺は幽霊じゃなくて…何て言うんですかね…電脳体というか…」 「まぁ行く宛もなくさ迷ってるんだぞ」 「なんかかっけーぞ!オレもやる!」 「やらんでいい…ま、悪いコトしてないならいいか」 シュウは眠たげな顔でそう言うが、その余裕も束の間だった。 冷たい風が吹き抜けた瞬間、空気が変わったのを感じた二人は反射的に振り返る。 【ベツモン:成熟期】 そこに立つのは青い顔をしたベツモンだったが、彼は仰向けに倒れてしまう。 やがてその腹を破りながらノイズの走った女の顔が現れ、その脇から虫のような脚を生やしていく。 ボソボソと呟いていたもう一つのの顔はトンネルに響く大きな金切り声を上げた。 「…本物かよ」 ───────────────── ・vsゴクモン  西城カズマ/猿田ヤスヒコ/チャラ男さん 砕けたアスファルト、中身を飛び散らせる自動販売機…深夜の街に破壊の爪痕が広がっていた。 「おうおう…このザマかい。情けねぇなァ〜?」 ゴクモンとその部下達がニヤニヤと下品な笑みを浮かべ、シュウたちを取り囲んでいた。 シュウの腕の中ではユキアグモンのデータが今にも消えかけていた。 「ひひっ。いい姿じゃねぇの?」 「ニンゲンのデリートされるところが見てぇなぁ〜っ!」 ユキアグモンの小さな体にはノイズが走り、安静な場所でデータの自然回復を待たないとデリートは免れないだろう。 だが、ゴクモンはそんなことさせないとシュウたちに向かって腕を振り上げた。 「兄ちゃん。お前にゃ何もできねェよ」 「…ヤスヒコ。オマエはもう、こんなことやめろ」 エテモンがそう言うと、その言葉にヤスヒコははっと顔を上げた。 彼は既にユキアグモンたちを庇い、その体を両断されていた。 「エテモン?」 「こんなクソみてぇな道は歩むモンじゃねぇってことヨ」 エテモンがサングラスの奥の目を細め笑うと、彼はデジタマへと還った。 「はっ。今更お寒いガキの更正ごっこか…」 「終わりかぁ。つまんねぇ〜っ!」 ゴクモンの部下たちがギャハギャハと笑い合うのを見たシュウはヤスヒコの腕を掴むが、彼はその場を動こうとしない。 「ヤスヒコくん!行くぞっ!」 「逃げるのかよオッサン!エテモンが…エテモンがあんなことになったのにぃ!」 ゴクモンがニヤリと笑う。 「ほぉん?じゃテメェもブッ消してやろうかァ?」 殺気を孕んだ声が響いたその時、爆発のような音を伴って現れたバイクがゴクモンの部下たちをなぎ倒す。 キッとブレーキをかけ、バイクから降りながらヘルメットを脱いだ男は「待て」とただ一言そう言った。 その場の全員が思わずそちらの方向を向くと、雲一つ無い月光が男の姿を隠すように眩しく光っていた。 ゆっくりと前に進む彼の姿を一瞬壁が遮ると青白い光が一瞬輝く。 ゴクモンが思わず細めた目を開いた時、そこにいたのは男ではなく銀色の騎士だった。 赤きマントを纏い、槍を構える聖騎士は僅かに姿こそ違うがデュークモンそのものであった。 「ヒーロー気取りが…頭に乗るなよ!」 思わず後ずさる部下の中心でゴクモンが鋭く舌打ちし、ソレを前にデュークモンは静かに槍を構えた。 【髑髏乱舞】 【LIGHTNING SLASH】 刹那、両名の武器が強く光ると爆裂と共に打ち合った。 その余波で周囲に次元の穴─デジタルゲートが幾つも開いてゆく。 「─勝ち目は無いぞ」 「ま。俺にゃまだ殺ることがあんだからよ…見逃してやるわ」 ゴクモンたちは深夜の街に不吉な言葉を残してその体を闇に溶かした。 訪れた静寂の中、デュークモンは槍を下ろすとヤスヒコの前にエテモンだったデジタマを置く。 エテモンがいた場所を見つめたまま何も言えないでいる彼らにデュークモンは声をかけると、彼もその姿を消した。 「君たちは…大切なものを失ってはならない」 ───────────────── ・vsティンカーモン  アリエノール/MG-21号 爆ぜる光、弾ける破片─。 シャッターの奥から吹き出した爆炎が周囲を一瞬だけ白く染め上げると、逃げ惑うMG-21号たちの進路を断った。 彼女のパートナーデジモン・ティンカーモンも顔を汚しながら狼狽えている。 「ひえ〜っ!ど、どうしましょう!」 「ちょ、ちょっとォ!?オジサン子供相手にマジになっちゃうワケ!?」 「へぇ。キミいくつ?」 「んん〜ん…」 彼女たちと瓦礫を挟んでいるシュウは眠そうな顔と薄ら笑いで質問すると、MG-21号は汗を流しながら答えを口ごもった。 そんなシュウの隣ではいつも通りマイペースなユキアグモンが準備運動をしており、更にその横でアリエノールがロザリオ片手に満足した顔で頷いている。 「おー!こいつぁ派手にやったなー!」 「悪しき者を逃がす事など、神は望まれませんから」 「うーん…まずい奴等と出会っちまった気がするぞ」 アリエノールの相棒・黒いアグモンは過激な行動が目立つ彼女が過激な行動をする男と意気投合してしまった現状に不安を感じている。 しかし、辺りから焦げた匂いがする状況にありながらまだ余裕そうなので彼の感覚もズレていた。 「ぐへへ。MG-21様のためにここはワレワレが…」 「今こそ我々の忠誠を!」 「くそう!なんで私がこんな連中を従えなきゃならないの!?これじゃただの不審者集団じゃないの!」 シュウたちの前にMG-21号の部下であり、彼女と似た女児服を着用した成人男性達が立ち塞がる。 しかし、この混沌とした状況に彼女はメスガキ演技と忘れて悶えだす。 「もっ、もう降参でいいんじゃないでっスかね!」 「ティンカーモンはもう少し尊厳を持ってね?」 MG-21号にそう言われたティンカーモンは意を決して槍を握り直すと前に進み出る。 アリエノールもゴリゴリと低い音を立て、金属バットをアスファルトに引きずりながら歩きだす。 「ぴぎゅっ」 ティンカーモンは一瞬硬直した後に槍をぽいっと放り投げ、ブルブル震えながらMG-21号の背中に隠れてしまう。 必死にティンカーモンを励ますMG-21号をシュウたちは無言で見下ろしていた。 「が、がんばれ…がんばれっ!」 ───────────────── ・vsベガスモン  トニー・ロラーン/竜崎大吾/BJ-21号/三津門玲寧 シュウが歯医者の裏口に入ると、そこはオアシス団のBJ-21号が運営する違法カジノだった。 外から壁に見えたものはすべてマジックミラーで、館内にはテイマーのいない野良デジモンたちが普通に歩き回っている。 華やかな調度品で取り繕われているが、そこかしこに滲むアングラな雰囲気は隠しきれない。 「や。祭後クン」 振り向くと、銀のコインを指先で踊らせる細身の女性がいた。 これでもかとマジシャンらしい格好をした彼女は、シュウの元同級生・三津門玲寧とその相棒・ルナモンだった。 「ようこそ…ホントに来たね」 「当然。俺、粘着質だからさぁ」 シュウは以前BJ-21号に屈辱的な負け方をし、見逃された。 玲寧はここでマジックショーを頼まれていたが、まさか違法カジノだとは知らなかった。 つまり、ココをどうにかしたいという互いの目的は一致している。 「で、勝算はあるのかい?」 「アナタの知っての通り、彼はとんでもないギャンブラーなのよ」 そう忠告したルナモンの目の先では、今まさにブラックジャックで大勝したBJ-21号が負けた客の高そうな服を次々と部下の黒服に脱がさせていた。 それを見て笑うBJ-21号とその相棒・ベガスモン…ここにおいて敗者は文字通り"身ぐるみを剥がされる"仕組みだった。 「このカジノでは持ち金が尽きると衣服が賭け金になるんだ」 「アレが敗者の…本来の俺の末路だったワケかよ」 「その通り。キミの裸も見てみたかったね」 苦笑いするシュウの横で玲寧が肩をすくめる。 「なるほどね…じゃ、あそこの人もそういうワケか」 シュウの声に玲寧がマジックミラー越しに外を見ると、そこには一糸纏わぬ筋肉ムキムキの金髪男が無言で道路の真ん中を歩き回っていた。 表情は一切変えず、堂々とした足取りで怯える通行人の視線を一身に浴びては様々なポーズを取る。 だが、彼はすぐにお巡りさんに囲まれると静かに連行されていった。 「うぅぅん…いやアレは……どうだろう…?」 「どっちにしろヤってる事はヤってんだ。こっちとしちゃ大義名分ができて万々歳だ」 「祭後クン、怒ってるね」 「子供たちからはコレでも"頼れるお兄さん"で通ってるんだ。負けっぱなしは恥ずかしいだろ?」 シュウは人差し指をぐるぐると回し、ニヤりと笑う。 「じゃ、私は当初の予定どおり一発大きなショーをご覧に入れよう」 玲寧もにやりと笑い返し、握ったコインを二枚のトランプを変えて見せた。 「何か考えてるな?」 「マジシャンたるもの、イカサマのひとつやふたつはお手の物…ってコトさ」 シュウたちが共にカジノの奥へ歩みを進めた時、外には一人の大男と一匹のアグモンと共に建物を睨んでいた。 「こちら竜崎、オアシス団の違法賭博場と思われる場所を特定しました。もう突入します」 ───────────────── ・vsダークドラモン  鮎川聖 シュウが屋上階の扉を押し開けると、夜風に髪を揺らすひとつの影をそこに見つけた。 隣のビルの縁に立ち、静かに壊れゆく街を見下ろす女性は鮎川聖だった。 彼女の足元には薄汚れたCDプレイヤーが無造作に置かれており、そこから流れるのはどこまでも高揚しながらも単調な旋律。 モーリス・ラヴェルのボレロ…その音楽だけが、闇の中で執拗に繰り返されていた。 シュウはふとズボンのポケットで微かな振動を感じ、その原因の元となる板を取り出す。 ブーッとくぐもったモーターの音がするスマートフォンの画面にはたった二文字の名前が浮かんでいた。 【鮎川】 指が、わずかに震える。 それでもシュウは親指を押し付け、画面をゆっくりと上へなぞった。 電話の向こうからもボレロの旋律が微かに流れてくる。 二つの異なるスピーカーから発せられる単調なリズムが、まるでシュウを逃がさないようにと見えない檻を生んでいるかのようだった。 「私、結構貴方のこと気に入ってたの」 不意に耳に届いたのは、穏やかすぎるほどの声。 まるで、他愛ない世間話でもするかのように聖は続ける。 「言動に潜む虚無感、拭えない幸薄さ、底から覗かせる破滅願望…」 彼女の声色には、焦燥も興奮もない。 まるでこれが日常の一幕であるかのように、当たり前のことを述べているだけだった。 「貴方といたらこの町も好きになっちゃったの。だからね…壊れたらどんな気持ちになるのか、ちょっと興味があるの」 その言葉を聞きながらシュウは過呼吸になりかける息を静かに、ゆっくりと吐いた。 「俺が、貴方を止めます」 スマートフォンを下ろして視線を僅かに横へ向けると、夜の闇から一際浮く相棒と目を合わせる。 一瞬の沈黙の後、ユキアグモンは力強く頷き地を蹴った。 その白い身体はだんだんと加速しながらビルの端を駆け、飛び上がる。 空中で光球となった彼の前方には二つの影が蠢いていた。 その影は強くうねり、やがて一つの渦を形成…光と渦は同時に漆黒の雷を辺りにぶちまけながら破裂した。 【ダークドラモン:究極体】 【ダークドラモン:究極体】 現れた巨竜はその存在だけで周囲の時空を切り裂き続け、空に亀裂を走らせる。 二対のダークドラモンが月光の元、その腕に備えた巨大な槍を激突させる。 その衝撃は一瞬でアスファルトの地面と大量のデジモンを破裂させ、砕けた地面からは水や炎を溢れさせた。 瓦礫とデジタマを空は舞い上がり、赤・青・灰色…カラフルなそれらが緊迫した中に異様な空気を産み出した。 「俺も、たぶん、貴女は嫌いじゃなかった」 ───────────────── ・vsボンバーナニモン  三上竜馬 ビルの谷間に爆音が響く。 炎と煙の中、シュウとストライクドラモンは爆弾魔・ボンバーナニモンを追跡していた。 「ったく、手間かけさせやがって…」 「オレは暇だったから助かったところだゼ!」 シュウが舌打ちしつつなんとか瓦礫を乗り越えると、その横で軽く瓦礫を飛び越すストライクドラモン。 彼は手をボキボキと鳴らしながらそのままシュウを追い抜いていく。 《事故に巻き込まれました。遅れます》 (貴重な昼休みが台無しだよ全く…) 社用携帯から職場に連絡を送ると、ボンバーナニモンが向かった屋上を見上げながらネクタイを緩めた。 「ほらほらブッ飛びなァ!」 広いマンションの屋上ではボンバーナニモンが次々と投げた爆弾によって瓦礫が宙を舞う。 だがその破片の間をダッキングのような姿勢で素早く潜り抜けたストライクドラモンは更に加速して距離を詰めた。 【マッハラッシュ2】 拳が唸りを上げて連続で突き出されるが、ボンバーナニモンは奇妙な動きでソレを素早く回避してみせる。 続けて爆弾が投げつけられるがストライクドラモンは爆風の中を強引に突破すると、勢いのまま飛び蹴りをボンバーナニモンの顔面に突き刺す。 炸裂した蹴りはボンバーナニモンの体を弾き、ガシャっという音と共に高い柵に叩きつけた。 ボンバーナニモンは柵を蹴り、その反動で弾け飛ぶとそのままストライクドラモンの腹に膝蹴りを叩き込んだ。 うめき声を上げ、後退するストライクドラモンに向かって続けざまに拳が打ち込まれる。 ストライクドラモンが応戦すると拳と拳がぶつかり合い、屋上に衝撃が走った。 「ちっ。こうなったら全部巻き込んでブッ飛んでやるよぉ!」 ボンバーナニモンの頭部にある導火線がバチバチと火花を起こし、自爆の準備を始めてしまう。 シュウは目をぎょっとさせるとストライクドラモンにデジヴァイス01で指示を出す。 ソレを受けたストライクドラモンが、掴みかかろうとしてきたボンバーナニモンの腹にカウンターを決める。 ボンバーナニモンがよろめいた所に強烈な蹴り上げが決まった。 (ぐっ、蹴りの角度がズレちまってる…!) シュウの懸念通り、ボンバーナニモンの体は上空ではなく隣のマンションへと飛び出してしまう。 だがその時─轟音とともに隣のマンションの壁が崩れ、トリケラモンが現れた。 「…ぬん」 トリケラモンは自身の上に立つ少年の年不相応に低い声に答え、瓦礫を払いのけてから巨大な角を振り上げた。 角に下から突き上げられたボンバーナニモンは上空へと跳ね上げられる。 「そっ、そんなーー!」 誰も巻き込むことなくボンバーナニモン自身だけが轟音と共に爆散し、デジタマへと戻った。 シュウはトリケラモンのパートナー…黒い学ランに身を包み、無言のまま佇む彼に目を向ける。 デジタマをキャッチした彼の表情は、まるで何もなかったかのように冷淡だった。 「助かったよー!でも勉強しろよー!」 「アイツ、たまに助けてくれるヤツだゼ!」 シュウとストライクドラモンが笑顔で手を振ると、にへっとしたトリケラモンが手を振り替えす。 少年がトリケラモンの首を撫でると、彼はビルから飛び下りてそのまま去っていく。 また、子供を巻き込んでしまった…シュウはその表情とは裏腹に、心の中で負い目を感じていた。 「ほんとに…情けねぇ大人だ」 ───────────────── vsゴシップモン  滝谷陽奈美 《SSさんコンビニのプラスチックスプーン一人占め》 《SSさんチャック全開・灰色パンツ大公開》 《SSさん、抜け毛が大量》 「…は?」 夕焼けも沈みだし、シュウは帰路につきながらスマホを弄っていると明らかに自分らしき人物が写った謎の記事が伸びていた。 濃いモザイク付きではあるものの、周囲の視線がやけに気になったシュウはいつもより速足で帰路についた。 「こりゃ間違いなくデジモン絡みだゼ!ホントの事を混ぜてるのが厄介だゼ!」 「いや全て嘘だが」 マンションの自室でユキアグモンと話し終え、大きな溜め息をついたのと同時にチャイムが鳴った。 「す、すみません!」 シュウがチェーンつきの扉を開くと、そこには制服姿のスタイルが良い少女が立っていた。 彼女は両手でスマホを握りしめ、少し怯えたような表情をしている。 「えっと、あの。これ…貴方、ですよね?」 シュウがムッとした顔で扉を閉めようとすると─そのとき、彼女の胸元に光る名札が視界に入った。 《滝谷陽奈美》 (─幸奈ちゃんが言ってた、同じクラスの子って…この子か?) とっさに扉を閉める手を緩めた瞬間、陽奈美が「わっ、わっ、私もなんですぅぅ!!」と叫びながらスマホの画面を突きつけてくる。 「ごめん。なんも見えない」 「ああーーっ!ごめんなさい!!」 《HTさん裏アカで教師を中傷!?》 《HTさん、太る》 《HTさんの男子を弄ぶ魔性のふとももはこちら》 「…っだらねぇな」 「で、ですよねぇ!確かに最近甘いものが増えてましたけど!あ、いや…」 部屋に招き入れられた少女・滝谷陽奈美は興奮しながらシュウに顔をぐぐっと近づけてくる。 「…あの時、環境学習センターで……助けてもらいましたよね?」 「ちらっとキミの顔は見た気がするな」 シュウは目を細めて、彼女の反応を観察した。 彼女の言葉の中に、幸奈の名前はなかった。 どうやら、あの時の"ヒーロー"が自分ひとりだと認識されているらしい。 「あの時の人がシュウさんだったって顔を見たらすぐに分かりました」 「俺はたまたま通りがかっただけだよ」 シュウは肩をすくめて小さく言うと、陽奈美は手元のスマホをぎゅっと握ったまま視線を落とした。 「…あのとき、ドラコモンは連れてなかったんです。先生にデジヴァイスをオモチャと勘違いされたことがあって…」 「真面目だな」 シュウが苦笑混じりに呟くと、陽奈美は恥ずかしそうに頬をかいた。 「でも、あの時ほんとに後悔しました。持ってきてれば、少しは…何かできたかもしれないのに」 彼女の指が、制服のポケットに入れたデジヴァイスをそっとなぞるように動いた。 その言葉にシュウは少しだけ息を吐き、言葉を選ぶように口を開いた。 「…陽奈美ちゃんは子供で、学生だ。それでいいんだよ」 「え?」 「変な責任感とか、無理に背負わなくていい。そういうのは…大人がやるべきことだからな」 シュウの脳裏には共に戦った子供たちの顔が思い浮かぶ。 そして、それは子供を巻き込んだ自分自身への戒めも含んだ言葉だった。 陽奈美は何かを言いかけたが、結局小さく頷くだけだった。 「…さて。話を戻そうか」 「ヒトサマの信頼を利用するなんてヒキョーなやつだぜ!」 陽奈美のパートナー・ドラコモンは憤慨し、ずっと文句を足れている。 「コレはおそらくゴシップモンの仕業です!なので彼をおびき出すような、ハデな嘘をネットに広げるんです!!」 ヤル気満々で拳を握る陽奈美を見て、シュウは思わず顔をしかめた。 「んー…ハデな嘘って言われても…」 「はいっ!ゴシップモンは所謂バズれる情報に引き寄せられるはずですから!」 陽奈美の言葉に、ユキアグモンは自信満々で手を上げた。 「はい!はい!はーーい!オレは肉まん無料食べ放題がいいと思うゼ!!」 「そんなので釣られるのはお前だけだろ…」 「アイツの情報はデジモンを相手に商売してるんだ!バカみたいなモノでも可能性はあるぜ!」 「もしかしてオレのことバカって言ったか?」 《ユキアグモンさん次期ロイヤルナイツ確定。渋谷駅周辺工事現場にて21時頃授与式開催。来賓:オメガモン》 ドラコモンの提案した偽の情報は数分も経たないうちに、その投稿は急速に拡散され始める。 「なぁシュウ。ロイヤルナイツってなんだ?」 「…まぁ伸びてるからよし!」 (適当に考えたとはいえ元同僚を利用するのは心苦しいな…) 渋谷駅周辺で様子を伺っていると、ついに偽情報におびき寄せられたゴシップモンが現れた。 「残念でした!貴方は謝っても許しません!」 「うるさーい!よくも騙したなぁーーっ!」 「加害者が被害者ツラとは…ケジメをつけさせてやろう」 ゴシップモンが陽奈美の言葉に体をぐねぐねさせる前でドラコモンとユキアグモンが戦闘の構えを取る。 シュウはイラつきながら溜め息を吐くとゴーグルを装着した。 「謝罪文は画像でツイートすんじゃねぇぞ」 ───────────────── vsデビドラモン  千本桜冥梨栖/MKT-820号/優木才 「シャウトモン様の食べっぷりを見たか!!おかわり!!」 「オレも負けられねぇ!!おかわりだゼ!!」 「うるせぇ!お前らちょっとは静かに食え!」 ここはえげつないデザインの眼帯をした店長とその相棒・オーガモンが経営するデジモン同伴可能のラーメン屋。 シュウは先日の会話どおりMKT-820号たちと向かい合いラーメンを啜っていた。 「私はもうお腹いっぱいだ!!」 「安易な大盛りはやめろって言っただろ!」 「はーっ?貴様が食べれば無問題だがー!?」 私服姿の彼女は自分のどんぶりをシュウの前に押しやり、腕を組んで得意げに笑う。 まるで策略が成功したかのように凄まじいしたり顔だ。 「シュウが一番うるせーぞ」 「そうだそうだ」 「無職はやはりマナーがなってないな」 「こいつら…」 騒がしい食事を続けていた時、店の壁が爆音とともに日常は砕け散った。 瓦礫と土煙の向こうから異形の黒竜・デビドラモンたちが鋭く赤い瞳で奥の客…ラーメン屋には似つかわしくないお嬢様風の少女を睨んでいる。 「な、なんだ!?地震かぁっ!?!?!?」 「お前は地震よりも自身の声の大きさを気にしてくれ」 「は?」 「うわぁ急に落ち着くな!」 「千本桜冥梨栖─ここにいたか!」 「あら。見つかってしまいましたわね」 冥梨栖は落ち着き払った表情をパッと崩し、目を潤ませて怯えたように震えてシュウの腕にしがみついた。 「た、たすけてくださいまし…!」 「んんんー?キミ何したの!?」 「なにもしてませんわ!ただのしつこいストーカーですわ!」 「ストーカーが壁ぶっ壊してくるかなぁ!?」 「しますわ!彼等は私を殺し足りないだけみたいですわ!」 「ごめん今なんて言った???」 「…えっなんですかこの状況は」 「俺が聞きてぇよ…」 騒然とし過ぎる店内に困惑したデビドラモンはそう言うが、シュウも困るばかりでなにも言えない。 「その女を庇うならキサマらも始末すぶべっ!」 二匹目のデビドラモンが言葉を最後まで発するよりも早く、シャウトモンの飛び蹴りがその顔面を打ち抜いた。 そのままの勢いでデビドラモンは吹き飛ばされ、店の壁に三つ目の入り口を作った。 「はーっはっは!26歳・無職!貴様が辛そうにしてて大変心地がよい!我々はこの騒動に乗った!」 「喧嘩上等じゃねーかっ!!!次はどいつだーーーっ!!!!?」 「いい心構えですわ!」 「…次は無いからな!?」 シュウは舌打ちすると冥梨栖の手を引き、ユキアグモンと共にその場を離れようとする。 騒ぎを避けるならここは逃げの一手が得策だ。 「おいシュウ!逃げるのか!?せっかくの大乱闘だゼ!?」 「あのな!俺たちはただラーメンを食いに来ただけなの!!」 だが、彼らはこの少女がただの厄介者ではなく"幽霊でありデジモンでもある"ということをまだ知らなかった。 「あの…うちの店の壁…」 ───────────────── vsミノタルモン  神田颯乃 夕方。 シュウは職場に送った資料を眺め、ため息をついた。 まるでお使いのような雑用を押しつけられ、ようやく終わったところだ。 「デスクワークの俺が、なんでこんなことを…」 愚痴をこぼし終えたものの、気は晴れない。 ふと視線を上げると、目の前には中学校の校舎があった。 何気なく見つめながら、失踪した義父妹・ミヨのことを思い出す。 (あの頃、アイツもこんな校舎に通っていたのだろうか) その頃、校内の図書館。 一人の女子中学生が健康に関する本を読んでいた。 しかし、その指はページの上で止まる。 わずかに目を細め、静かに息を吐いた。 「…何かが起こる。行くぞ、ゴブリモン」 立ち上がると、壁に立てかけてあった竹刀を手に取り、足早に図書館を後にした。 突如として響く轟音。 シュウが顔を上げた瞬間、地鳴りのような振動が足元を揺るがした。 次の瞬間、校舎の向こうから巨大な影が現れる。 頭には猛牛のような角、全身は隆々とした筋肉で覆われた獣戦士─成熟期・ミノタルモンが咆哮を上げた。 一直線にこちらへ向かってくる巨体に人々が悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。 「シュウ!狭間(デジタルポイント)から現実(リアルワールド)に迷い込んだヤツが出てきちまった!」 「今日は直帰でよかったぜ」 デジヴァイス01越しにユキアグモンの声を聞くとシュウは苦笑し、立ち尽くす女性へと駆け寄った。 足がすくんで動けないであろう彼女の手を引く。 「ここにいたら危ないぞ!」 「え。ちょ、えっ?」 訳が分からないという顔で引っ張られる女性だったが、シュウの真剣な表情を見てようやく細い体を動かし始める。 その瞬間、ミノタルモンの足が地面を踏み砕いた。 衝撃で周囲に砂埃が舞い上がる。 「くそっ、早く!」 シュウは女性を安全な場所まで連れていくと、すぐに踵を返した。 まだ逃げ遅れた人間がいるが、あまり人前でデジモンを戦わせたくはない気持ちもある。 人々の波が一方向に流れていく中…ただ一人、それに逆らうように進む影があった。 小柄な少女の制服に『神田颯乃』と書かれた名札があった。 竹刀を片手に迷いなく歩を進める彼女の姿にシュウは眉をひそめた。 「おい、そこのキミ!」 颯乃は振り返ることなく、まっすぐに突き進む。 むしろ差し出されたシュウの手を振り払うと言い放った。 「貴方は隠れていてくれ。私には成すべきことがある」 その瞳には、強い決意の光が宿っていた。 だがその時─背後のミノタルモンが足を振り上げて地面を砕いた。 瓦礫が舞い、粉塵が辺りを包む。 「!?」 不意を打たれた形の颯乃は揺らぐ足元に姿勢を崩してしまう。 ミノタルモンは視線を彼女に向けると、今度は銃身を振り上げた。 迷わず駆けたシュウが、颯乃を突き飛ばす。 その直後、銃身が地面を砕いて衝撃波を辺りに放った。 シュウは砕けた破片を浴び、腕に鋭い痛みが走る。 颯乃の視線の先には右腕の古傷から血を滲ませる男がおり、彼女はその姿に胸の奥をざわめかせた。 静かに立ち上がったシュウは袖で血を拭うと、己の臆病な態度を反省した。 「誰かを守ることに躊躇う必要なんて無かったんだ」 シュウは逃げ惑う人々を背にポケットからデジヴァイス01を取り出し、右手首に添えた。 すると、バンドが自動で巻き付き、カチャンと音を立てて締まる。 「多分、キミは強いんだろうな」 「っしゃーー!ようやく出番だゼ!」 デジヴァイス01はひとりでに光るとすぐユキアグモンが大声で飛び出し、やかましくシャドウボクシングで準備運動を始めた。 それを見た颯乃はフッと笑い、一歩前へ出ると懐から取り出したディーアークに力を込めて告げた。 「私も共に戦う。ゴブリモン、来い!」 「あらよっと!」 ディーアークから空に放たれた光が割れると、現れたゴブリモンが着地しながら武器を構えた。 「おい。こういうのは大人に任せればいいんだよ」 シュウはネクタイを締め直しながらそう告げるが、颯乃はイタズラっぽく微笑んで見せると彼の横に並び立った。 「なら守ってくれよ。大人なんだろ?」 ───────────────── vsアガルタディモン  ホムコールモン(成長期時代) 灼熱の大地に、激しい炎が渦巻く。 戦場の中心で、二対の巨体が対峙していた。 「我輩がまとまりのない無能どもを支配してやろうというのだ…わかるか?ん?」 裏切りの日竜将軍・アガルタディモンは嘲笑しながら、周囲の焦熱を纏う。 深紅に染まったその身体から放たれる光は、宇宙(そら)からでも確認できるほどだった。 対する火竜将軍・テラケルモンは、無機質な眼光で日竜将軍を見据えた。 「貴様の裏切りに赦される道理なし。一切の希望を捨てよ」 その声には、一片の揺らぎもない。 粛清こそ、主より賜りし絶対の命令。 左右から究極体デジモンが飛びかかる。 だがテラケルモンが彼等の足元に虚無が発生させると、その刃を振るう事もできずに姿勢を崩した。 さらにテラケルモンはその頭部にも虚無を発生させ、二体を沈黙させた。 「雑魚を消した程度で調子に乗るなよ…貴様の火ではこの太陽を焦がすこともできんのだ!」 日竜将軍は炎を纏った剣を振りかざし、テラケルモンに襲いかかる。 しかし、テラケルモンの姿は突如として掻き消えた。 次の瞬間、彼はアガルタディモンの背後─いや、前からも同時にテラケルモンが現れていた。 一瞬、どちらへ攻撃を行うか迷ったアガルタディモンの前後から拳が打ち込まれる。 「我は迅。たかが光速の8倍、当たる道理無し」 「ぐっ…速いだけではぁーっ!」 怒りに燃えたアガルタディモンがテラケルモンの全方位に空間の裂け目を産み出すと、そこからエネルギーの剣を一斉に解き放った。 「否─我は堅。主を守る最後の盾」 だが刺さるはずの剣先はすべて砕け散っており、その破片はガラスのように散乱していた。 それを予測していたアガルタディモンは接近を遂げており、強力な突きを放っていた。 瞬間─テラケルモンが瞬時に背後へ移動するとアガルタディモンの腕が爆発し、吹き飛んだ。 「…グレートバニシング」 それは、瞬間移動と共に自身がいた地点に爆発を発生させるテラケルモンの得意技。 だが、アガルタディモンの腕は既に再生を完了していた。 この再生力による消耗戦により、彼は既にネオデスジェネラルの仲間を二体葬っている。 (無駄─我輩は不滅!) アガルタディモンは不敵な笑みを浮かべ、背を向けたままのテラケルモンに至近距離から必殺の爆発波動を放つ。 「ジエンドブレイザーッ!!」 爆風が辺りを火山地帯と見間違えるほどの有り様へと変える─が、テラケルモンの鎧に触れた爆発はジュッと音を立てて消滅した。 「じ、ジエンドブレイザーが…蒸発…!?」 「我は焔。あらゆる熱は、我が前ではただの幻」 歯噛みしながらアガルタディモンは猛然と剣を振るうものの、再びテラケルモンの姿が掻き消える。 そして次の瞬間、アガルタディモンの体内からズワッと音を立てて出現した。 「がああああっ!!?」 千切れ飛んだ肉片が地面に落下するよりも早く、アガルタディモンの体は完全回復していた。 だが─立ち上がろうとする彼の身体が、ガクンと崩れ落ちる。 「───ッあ゙?!? 」 内部に、虚無(ダークマター)が生まれていた。 「我は終。一切の法則外にある者成り」 悲痛な叫びすら上げることなく、アガルタディモンの身体は崩壊していく。 数々のネオデスジェネラルに痛手を負わせたその爪も、腕も、足も、次々と虚無へと呑まれていく。 「しっ…し…!」 アガルタディモンは最後の力を振り絞り体内の炎を解放─自爆を行った。 だが内側から広がる虚無がその爆発が生まれるよりも早く、それを"なかったこと"にした。 それを見届けたテラケルモンは何の感傷も無く主の元へと瞬間移動した。 その戦いを見届けていた小さな影がいた─それは、後のネオデスジェネラル水龍将軍・ホムコールモンだった。 「僕もあんな風になりたい…それで、オキグルモン様の役に立つんだ…!」 ○日竜将軍・アガルタディモン(Agarthadimon) レベル:究極体/タイプ:獣戦士型/属性:ウイルス ○概要 全身に太陽の如きエネルギーを宿す高位の獣戦士型デジモン。 その武力と不老不死能力に慢心し、独自の軍を築きクーデターを決行。 ネオデスジェネラルに身を置きながらネオデスジェネラル殺しを役目とする粛清者テラケルモンに存在を抹消される。 獣戦士型の通りテラケルモンの持つ対龍能力は発動しておらず、それが慢心に繋がった。 ○能力 ・陽核(ひのたま):これがある限り超再生可能。ただし、陽核は実在せず破壊不可能。 ・ジエンドリジェネレーション:敵対者の生存を吸収し、不死身レベルで回復する。 ・ジエンドサークル:周囲にエネルギー剣を発生させ、一瞬で貫く得意技。 ・ジエンドブレイザー:両腕から太陽級の爆風を放つ必殺技。 ・ジエンドノヴァ:陽核を逆転解放し、半径3000kmを爆炎で消し飛ばす自爆技。 ───────────────── vsスカモン(たくさん)  スカモンカイザー/鳥藤すみれ/三下慎平 「祭後くん、あなた最近どこか爆破した?」 鳥藤すみれは腕を組み、シュウをじっと見据えた。 交番の中は夜の静けさに包まれているが、彼女の視線だけは厳しい。 シュウはカウンターの向こう側に腰を下ろし、コンビニ袋から"獄辛"と書かれたお菓子を取り出す。 「いやいや姉さん。そんな物騒なことするわけないでしょ?」 「私はアナタの "お姉さん"じゃありません」 「じゃ"すみれ先生"? それとも"すみれ委員長"?」 「からかわないの」 すみれは小さくため息をつくと、机の上の書類をめくった。 「それより、最近妙な通報が増えているの。署内でも問題になっていて…」 「妙な通報?」 「知らない場所に迷い込んだと思ったら、突然顔に汚いものをかけられたって事件なの」 「汚いものぉ?」 シュウが首を傾げると、すみれは少し言いよどんでから、咳払いをする。 「その、いわゆる…排泄物…です」 「えぇ…そこで恥ずかしがるのかよ」 シュウは幼馴染みの反応に呆れて苦笑いする。 「つ、つまりはデジタルポイントで推定スカモンが暴れてるってこと。事件は閉鎖された工場の周辺でのみ起きているのよ」 シュウはわざとらしくお菓子をもう一つ摘まむと、溜め息をつく。 「…こっちが本題だな?」 すみれはまっすぐに彼を見据え、真剣な口調で答える。 「そ。推定スカモンによる被害が広がっているの。警察内ではデジモンとの共存派・排除派が意見を戦わせているのだけれど、いま上層部はリソース不足で電捜課(わたしたち)を動かすことができない…その間にも被害はどんどん増えていってるの」 「ソコに俺が偶然現れては警察が動けない間に片付けてしまった…と」 すみれは頷かなかったが、その目線は肯定を告げていた。 「…できるだけ穏便に、でも確実に事態を収めてほしいわ」 「このままスカモンを放置してたら排除派の意見が強くなりすぎるってワケだな」 「ええ…そうね」 「わざわざ俺の所に来るんだ。竜崎さんとかは動けないんだろ?」 「竜崎さんはいまヤクザの資金源の一つを潰すとか言いながら単身で中国に飛んでるわ」 「こっわ…」 シュウの脳内ではデュワ!と奇声を上げながら海を一飛びで横断する大男の姿が思い浮かぶ。 「まぁとにかくデジモンがみんな悪いヤツなんて事は無いからな」 すみれはそれを聞いて少し安心したような表情を浮かべる。 「ありがと。助かるわ、祭後くん」 すみれは手で口元を少し隠すようにして、わずかに笑いを抑え込んだ。 安心したように見えたがその表情をすぐに硬直させる彼女の様子をシュウは見逃さず、軽く眉を上げる。 「どうしたすみれ姉さん?そんな顔して」 「…何でもないわ。仕事に集中してるだけ。」 すぐに表情を引き締めて冷静に答えるが、内心ではシュウを巻き込んだ事に対する複雑な感情が渦巻いていた。 すみれはそんな気持ちを振り切るように、書類の下から二枚の写真を取り出してシュウの前に差し出した。 シュウは眉をひそめながら写真を手に取る。 一枚目─黒と緑のジャージ姿の少年。年齢は十代半ば、どこか自信なさげな表情で髪はぺたっと垂れている。 二枚目─紫色の軍人然とした格好をした少年。目元にはうっすらとした笑みが浮かんでおり、どこか人を小馬鹿にしたような印象を受ける。 いや、それよりも─ 「ウンコだこれーーーっ!?」 その凄まじい被り物と肩の装飾にしか目が行かない。 写真を見た瞬間、シュウは思わず叫んだ。 「祭後くん、下品よ」 すみれは呆れたように眉をひそめながら、シュウの騒ぎを制した。 しかし二人が覗く写真の中には、どう見ても異様な格好をした少年が映っている。 「いやいやいや…コレどう考えても犯人だろ!犯人じゃなかったらここで裸になってやるよ!」 「誰に需要あるのよ…いやそれより、この二人は事件が起きた工場周辺で目撃されているの」 「そうだろうね!」 シュウはメモのために持っていたペンを思い切り机に叩きつけた。 「二人目の彼はスカモンカイザー…そう呼ばれている噂もあるわ」 「そうだろうね!」 シュウはメモ帳そのものを思い切り机に叩きつけた。 「正直、私だってこれ以上ないくらい犯人だと思うわ。でも決定的な証拠も、彼らが何者なのかもわかってないの」 すみれは腕を組みながら慎重に言葉を選んだ。 シュウは写真をじっと見つめ、指で軽く弾くようにして机の上に戻した。 「はー…はー…。まずは会ってみるのが手っ取り早いか。どこにいけば見つかる?」 「疑惑の廃工場をいくつかピックアップしてるわ。彼らが夜遅くに出入りしているのを見たって証言もある」 「了解。じゃ、ちょっくらお邪魔してくるか」 シュウは気楽な調子で言いながら、立ち上がる。 コンビニ袋を掴んで軽く肩を回す仕草は、まるでこれからちょっとした用事にでも向かうかのようだった。 しかしすみれの視線は彼を追い、微かに不安げに揺れた。 「…お願いだから、危ないことは避けてね」 その言葉に、シュウは一瞬だけ目を細める。 「おっと、心配してくれるんだ?」 「相手は成熟期の集団。当然でしょう?」 すみれの声には微かな温かみが混じっていたが、それを悟られまいとするように真顔を保っていた。 シュウはふっと笑い、コンビニ袋をガサゴソと漁る。 「ん」 彼が差し出したのは、例の獄辛スナックだった。 「…あなた、食べるまで引き下がらないつもりね」 暫くの間の後、すみれは半ば諦めたようにため息をつくと手袋を外す。 少し荒れた指先が少し躊躇いながら、お菓子をつまんだ。 そして口に入れた瞬間、強烈な辛さが舌を襲った。 「げほっ…!何これ…!?辛すぎ…!」 すみれは喉を焼かれるような感覚に耐えきれず、慌てて机の上のペットボトルを掴んだ。 「俺のやり方はこれくらい辛めかもしれないけどな」 涙目になるすみれをニヤリと笑いにながら見つめる彼の横顔はどこから見ても悪戯っぽかった。 「もっ、もう…祭後くんのバカ…!」 ───────────────── vsマッハモン  ゲオルグ・D・クルーガー 鉄と硝煙の匂いがこもる訓練ドーム─FE社の地下深くにある外界と断絶されたこの空間は、まるで"彼"そのもののように冷たく無機質だった。 中心に立つのは時令狼渡の顔には感情の波一つ浮かんでおらず、この死人のような双眸が辺りの気温を下げてい原因かのようだった。 「無様に転ぶな。せめて足元くらいは見ておけ」 「くっ…時令様が来るぞ、みんな構えろ!」 突風を纏い先陣を切ったマッハモンはその車輪で地を裂き、エンジンの強い振動で大気を揺らした。 瞬間、爆風。 気づけば崩れていた壁にはクモの巣のような亀裂があり、その中心ではマッハモンがほぼデリート直前になっていた。 「いるかもわからない神に何を祈っていた」 それは罵倒というより、無意味な消耗を避けろという助言のつもりだった。 彼の言葉は刃のように鋭いが、それを振るう意図はいつだって誰かを生かすためにあった。 【ヴァイスピラーレ】 五つのスレイヴ型デジヴァイスに今さら技の発動警告音声が鳴ると、イェーガードルルモンがその姿を現す。 完全体とは思えないあまりの俊敏性・攻撃力に他の隊員たちが動きを怯ませる。 重装の巨体・メガログラウモンが砲撃体勢を取り、イェーガードルルモンを狙い打つ。 しかし爆煙が晴れた頃、メガログラウモンの機械化された四肢がまとめてVの字に切断されていた。 悲鳴と共に倒れ込むメガログラウモンの影からイェーガードルルモンはその姿を現した。 「ただの力押しが通じると思うな。犬にも知恵はある」 ロードにとってソレは戦場に立つ者としての最低限の"教育"だった。 彼は教えたかったのだ。 ただ、選ばれた手段は圧倒的な暴力であった。 第三の影・クライモンが背後から影のように襲いかかるが、振るわれたマントによって胴体は跳ね飛ばされていた。 遅れてマントから吹いた風が刃となり、その奥にいたガードロモンの機能を停止させる。 「背中を取るならせめて存在感を消せ。子供のかくれんぼか?」 ロードは敵意も殺意も容赦なくぶつけられる戦場こそがこの世で最も"対等"であり、敬意を示せる場所であると考えている。 "お前にはまだ伸びしろがある。だから生き残れ"─彼の言葉にはそんな不器用すぎる激励が込められていた。 そして、唯一その言葉を理解するイェーガードルルモンはニヤリと薄く笑った。 その時、空からクロスモンが黄金の光を散らしながら襲いかかった。 だが─イェーガードルルモンが放った気迫は暴風となり、真空がクロスモンをズタズタにしてから地へと叩き落としてしまった。 【ドルルトルネード】 「これまで何を学んだ。あいうえおの書き方か?」 ロードにとって、兵を再起不能にすることは目的ではなかった。 戦場においてロードを越える力を持つ者は当然存在する。 その事態に耐え、生き残る者を決める極めて誠実な選別だった。 「…!?」 数分足らずで五体のデジモンが幼年期へと退化させられた彼ら足を竦ませて戸惑う。 その嵐が収束するのと入れ替わるように、空気が熱を帯びた。 硝煙を裂いて重い足音が響き、現れたのは五行において"火"を冠する教導官・ゲオルグ・D・クルーガー。 かつて修羅場を渡り歩いた猛者がその鋭い眼光をドームの中心に向け、睨んだ。 その後ろに続いて現れた隻眼のソルガルモンは鎧の隙間から魔炎を滲ませ、ゲオルグへの殺意を隠そうとしない。 「きょ…教官!」 「随分と華々しいお遊びだな。他人の花壇を好き勝手に荒らす癖でもついたか?」 怒気に加え、諦めにも似た苛立ちが混じる声。 ゲオルグは社内外から有望な人材を探し出し、引き抜いては鍛えてきた。 だがその何人かはより深い実戦訓練という名のもと、ロードによって"再起不能"か"離脱"という結末を迎えていた。 「ゲオルグ・D・クルーガー…私の見立てが正しければ、貴様は怒っているようだな」 表情も変えず、トゲのある言葉も自覚なし。 むしろ"気遣って"さえいるのが厄介だった。 「他部署から引き抜いた若い芽を、勝手に土に叩きつけて水もやらねえ。そりゃあ俺じゃなくても人事が泣くわけだ」 「水─発想としては面白い。私は植物の世話をしないので、その譬えは思いつかなかった」 ゲオルグの怒声がドームを揺らす。 「お前の"できるヤツがやりゃいい"って理屈は否定しねえ。だがソレは潰すためにやってるとしか思えねえんだよ!」 「潰れるような兵は、貴様が育てても底が知れる。効率的だ」 「…ああ?まるで人を壊すのが仕事みたいな口ぶりだな」 皮肉のつもりだったが、ロードは顎に手を当てると小さく頷いた。 「貴様の私にはない視点はいつも参考になる。だが、案外メルヘンチックだな」 「…っ!」 ゲオルグの顔が引き攣る。皮肉が通じないこと以上に、その"真顔の賞賛"が苛立ちを煽った。 頭を抱えるゲオルグの背後で、ソルガルモンが喉を鳴らす。 ソルガルモンは自身から全てを奪い、未だに他者から何かを奪う側の男が一方的に奪われている事実が楽しくて仕方なかったのだ。 「なら俺が"テスト"してやる。お前のやり方が正しいってん言うなら、ソレを実戦で証明してみろや取締役員サマよぉ!」 「マスター、彼ら本気のようですよ」 「俺が、全力で、"潰して"やるよ」 イェーガードルルモンの嬉しそうな声を受け、ロードは一歩前へ出た。 威圧も気迫もなく、ただ"結果"を導き出すための動作。 ロードは彼が本気で来てくれることを嬉しく思っていた。 命の削り合いの中でこそ、本物の資質は磨かれる。 そして勝ち残った者だけが、真に守る側に立てる…そう信じていた。 花が強くあるべきなのは花弁ではなく、根であるべきだと。 だが、その想いは伝わらない。 冷たい口調も表情も、誤解を招くには十分すぎた。 善意のつもりの言葉は、いつだって誰かの癇に障る。 「─期待している」 ───────────────── vsドクグモン  ガモ 仕事帰りの夕暮れ、春とは思えない冷たい風がビルの隙間をすり抜ける。 一人の青年・祭後終は僅かに汚れたビジネスバッグを片手に、いつもの住宅街を通り抜けようとしていた。 繁華街から外れたその一角は人気も無く、空の色さえも灰色にくすんで見える。 「…そこの眠そうで不運そうなおっさん、占ってやろっか?」 不意にかけられた声に、足が止まる。 振り返ればビルとビルの狭間では歳の見えない女が尖った歯を見せて笑っていた。 瞳を隠すグラサン、ひどく派手な柄のアロハシャツ、手に持つタロットカード…見るからに怪しい人物だった。 「は─うおっ!?」 返事をするより早く、彼女の手が袖を掴む。 細くて冷たいが、到底叶うとは思えない程に力強い手だった。 「ほら取って食おうってワケじゃないからさー」 渋々引き込まれた路地裏の地面はひび割れていて、微妙に湿っぽい。 壁と壁の間に立て掛けられた突っ張り棒には「うらない・ひゃくえん」と荒い文字で書かれたチラシが風に揺れていた。 「私、ガモ。ま、名前なんてどーでもいいけど」 ガモと名乗った女は、まるで遊びのようにカードを切った。 だがその手つきはどこか乱暴で、カードの角はすでに何度も折れ曲がっていた。 彼女はカードを数枚並べて眉を寄せて唸ったあと、なぜかバッグから初心者向けの薄い解説書を取り出すとページをめくり始める。 「結果は…お、あったあった。"待ち人、来る"ってさ!」 「…お前それおみくじの本だぞ」 「あっ」と言うガモを前に苦笑いするシュウだが、その脳裏にはひとつの顔が浮かぶ。 今すぐにでも会いたいと思ってい名が、胸の奥に沈殿しているようだった。 ─だが次の瞬間、その空気は一変する。 路地の影が揺れたかと思うと、ぬるりと現れたのは見覚えのある影─赤狼・ファングモンだった。 「お、お前何者だ!?コイツは倒したハズだろ…!?」 シュウの口から思わず声が漏れ、闇の中から現れたその姿に一歩後ずさる。 「そいつはオレを追ってたやつとは別モンだゼ!」 カバンの中のデジヴァイス01から勝手に飛び出したユキアグモンがそう言い放つ。 言われてみるとその赤い影は記憶の中のソレよりもずんぐりとしており、肉が揺れるような足取りでゆったりと歩いていた。 「へー。お兄さん初心者?」 「ニンゲンだって似たようなのがごちゃまんといるだろ?」 ファングモンが口の端を吊り上げると、ガモは「こりゃちょっと戻りすぎたかなー」と呟いた。 ガモはその手のおみくじ大全集と書かれた本を投げ捨てると、懐から何かを取り出した。 シュウの手に置かれたソレは包みにくるまれた、小さなスノーボールクッキーだった。 「ビビらせたお詫び…ってことで」 「あんた詳しそうだな…」 シュウが受け取った袋を見ながらそう言った時、先程投げ捨てられたおみくじ大全集が風に煽られて軌道を変えた。 何ページか開いたまま、くるくると回転してやがてボスッと何かに命中する。 それは、暗がりに潜んでいた野良のドクグモンだった。 街の排気とホコリにまみれ、身体をところどころ錆つかせたような鈍い茶色に変色させていた。 しかし、その全身からは獣じみた嫌な気配と唸るような低い声が挙げられていた。 毒針のついた牙が、ギチギチと不快な音を立てて持ち上がる。 「あはは!逆に…ほら、ナイスコントロールってか?」 「笑ってる場合じゃねぇぞ!」 野球の素振りをしているガモにシュウが思わずツッコミを入れるものの、彼女はにへらと笑うだけだ。 その時…ガモの背後から、ドクグモンを見ていたファングモンがすぅっと立ち上がった。 「そうか…!ユキアグモンとお前なら行けるぞ!」 シュウはカバンからデジヴァイス01を取り出すと手首に装着する。 「きのう子供と追いかけっこしてたら階段上がっただけで心臓バクバクだったからパス」 そう言って壁伝いにぬるっと後ずさった彼は、自らの丸いお腹をポンと叩いた。 シュウは思わず、「あら〜っ!?」と大声を出しながらその場で転んでしまった。 「ずっこけてる場合じゃねぇ!来るゼ!」 そんなやり取りをしている間にもドクグモンは毒針を振りかざし、こちらに向かって跳ね上がった。 ユキアグモンもファイティングポーズを構える。 「畜生…こうなったら俺たちだけでやるぞ!」 ───────────────── vsバンチョースカモン  花尾かぐや 草むらの向こうから重々しい足音が響いた。 思わず花尾かぐやは変な声をあげ、反射的に振り向く。 「んひぃーっ!?」 「ぎゃーっぎゃぎゃぎゃ!怖がらなくていいぜお嬢ちゃん!」 ダミ声の笑いと共に、ブリンブリンな装飾をまとった巨体が現れる。 片目が隠れるほど深く被られた学帽、ファーで彩られた特攻服─正にバンチョー的バンチョーであった。 「オメーが…バンチョースカモンだな?」 バンチョースカモンは、全身を見下ろすように見つめてくる巨体を睨み返した。 「そうだけどよォ、誰だアンタ?」 「オレサマはバンチョーアンキロモン。訳あってオメーを探してたんだゼ」 そう名乗った巨体は襟を整えながら生意気そうな笑顔を浮かべた。 バンチョースカモンはガタガタの歯の中にチラつく金歯をキラリと光らせ、バットを肩にかける─彼もまさにバンチョー的バンチョーであった。 その後ろでバンチョースカモンと旅をする少女は、地面に正座してため息をついていた。 「ま、またわけわからんの来た…」 バンチョーアンキロモンはドン!と一歩前に踏み出し、片目をギラリと光らせた。 「オレサマはネオデスジェネラルと抗争をするためにニジウラ大陸バンチョー連合を設立することにした!そこでオメーの力を借りてぇんだ」 「連合、ねぇ…?」 かぐやがぽつりとつぶやく。 話のスケールについていけていない様子で、隣のスカモンとアンキロモンを交互に見比べる。 「へッ、悪くねぇハナシだ。俺もデジモンイレイザーのヤロウにはキレてた所よ…」 真摯な彼の声にバンチョースカモンも金歯を見せ、ニヤリと笑ってみせる。 だが次の瞬間、木刀がバンチョーアンキロモンの顔面を打った。 スカモンがジャンプして叩き込んだ一撃─だが、アンキロモンは防ぎもせず頑丈な石頭で平然と受け止めて見せた。 「んっ!?んぎぇーっ!?なにしちゃってるの!?」 いきなりの暴力沙汰に、かぐやは目を飛び出させるほど驚く。 だがアンキロモンは地響きを起こさんばかりにバカ笑いした。 「ぎゃーっぎゃぎゃぎゃ!そうこなくっちゃ…なぁッ!」 バンチョーアンキロモンが笑いながら大きな足を振り抜くと、今度は着地したスカモンの顔面を蹴り飛ばす。 だがスカモンもその一撃を受け止め、一歩も引かない。 そしてふたりは互いに笑い合うと、同時に飛び退いた。 バンチョーアンキロモンの太い腕が唸りを上げる。 肩に巻かれた鎖がばしゅっと伸び、バンチョースカモンの胴に絡みついた。 抵抗する暇さえ与えず、バンチョーアンキロモンは容赦なく鎖を高速で手繰り寄せた。 その質量とパワーをもって、バンチョースカモンの身体がまるで鉄球のように振り回される。 ドゴン!ドゴン!と音を響かせながら地面に、岩に、木に、スカモンが次々と打ち付けられていく。 その雪雪崩の如き勢いに大地が裂け、遠くの鳥系デジモンが飛び立った。 無慈悲な連撃ののち、やがてバンチョーアンキロモンはスカモンを空高く放り投げる。 突き出したその拳に輝くのは、遮光の三指輪。 「オラァッ!阿羅三弾(アラミタマ)ッ!!」 指輪から三発の赤き破邪光線が放たれ、それぞれが宙を舞うスカモンの身体に突き刺さる。 烈風と共に大爆発し、空を真っ赤に染めた。 だが、飛び散ったバンチョースカモンの破片が空中でキラリと光を宿す。 一つ一つが彼の意思のように強く硬質化し、無数のトゲとなって再構成される。 「かかったなぁ!!」 【吶降打圧(とっこうだーつ)】 かぐやのデジヴァイスから技の発動による音声が響く。 鉄の礫となったバンチョースカモンが弾幕となってバンチョーアンキロモンに襲いかかる。 地響きと爆風が巻き起こり、周囲はまるで空襲のような地獄絵図と化す。 やがて巻き添えを食らったかぐやは、空を舞いながら絶叫した。 「そもそもバンチョーってなに…なんなのぉおおおっ!!?」 ───────────────── vsマメモン  戌井透 デジタルワールドのどこかにあるアリーナ─その歓声が、天井の高い闘技場を揺らしていた。 シュウはイレイザータワー攻略に向けてタグを集める最中、些細な事件の解決で知り合った青年・戌井透に誘われてこの場所へ足を運んでいた。 今日の中規模トーナメントは、既に決勝戦を迎えている。 その中央で向かい合う二人のテイマーを、観客たちは固唾を呑んで見守っていた。 「やっぱりここまで来てくれたね」 対戦相手として向かい側に立つ透は、いつもの人好きのする笑みを浮かべている。 その隣には、彼の相棒である球体に人の四肢が生えたような成熟期デジモン・マメモンが立っていた。 「ここまでの試合、なかなか面白い動きだったね」 「そりゃどうも」 シュウは軽く肩をすくめ、隣に立つストライクドラモンへ目をやった。 「じゃあ、そろそろ始めようか」 「その前に一ついいか?」 透が頷く。 「さっきの事件でも思ったが…まだ本気出してくれてないよな」 「あー、それか」 透はマメモンへ目をやる。 「そのほうがいいだろう?」 「…なるほど」 気を遣われている─いや、下に見られている。 シュウは小さく笑った。 「君の相棒に合わせたつもりなんだけどね。アリーナは殺し合いじゃない。観客に楽しんでもらう場所だからさ」 その言葉に、シュウはデジヴァイス01を右手首へ当てる。 自動でバンドが巻き付き、固定された。 「本気でやったら勝負にならないと思ってるな」 「へっ、まだ何か隠してやがんのか!」 「ああ。俺たち、舐められてるぜこりゃ」 「そういうつもりでは─」 「いいよ」 シュウは遮る。 「だったら、勝負にならないってところを見せてみろよ」 眠たげな目のまま言い放つシュウに、透は一瞬だけ笑みを消した。 「…舐められてるのは"俺"の方かもな」 透は小声で呟くと、観客席へちらりと視線を向ける。 「私のプリンセスは、あと一回進化を残している」 そう言って透は片手を掲げ、指を一本立てた。 「一回…?」 「つまり究極体だ。君の相棒が成熟期までしか進化できないことくらい、見れば分かる」 彼の視線はシュウとストライクドラモンの方を向く。 「ンだよ…!」 拳を握り、ストライクドラモンの目が仮面の下で輝く。 「それがマジなら、ワクワクしてきたじゃねーか!」 ストライクドラモンの態度に観客席からざわめきが起こり、シュウは呆れたように息を吐く。 その様子を見ていた透は、ふと違和感を覚えた。 シュウの視線が自分やマメモンではなく、時折手元のデジヴァイスへ落ちている。 戦いを前にしているというのに、妙に集中していない。 「私からも一ついいかい」 「どうぞ」 「君の顔は私との試合だけを考えている顔じゃないだろ」 シュウは一瞬だけ透を見る。 だが、それ以上は何も言わずに透は肩をすくめる。 「まあいいさ。君がその気なら、私も楽しませてもらおう」 「お兄様。どうしますの?」 「失礼には失礼だ」 透が上着の襟を整えると、マメモンが一歩前へ出る。 その優雅な動きだけで、観客席から歓声が上がった。 「行くぞ、ストライクドラモン。ちょっとはやる気になったらしいぜ」 「おう!」 シュウは手の中で弄っていたタグを握りなおし、デジヴァイス01の仮想モニターを展開した。 ストライクドラモンが炎と共に拳を握る。 透は指を二回鳴らし、その笑みをより深くした。 「それじゃあ、せめて君たちが納得できるくらいには、付き合ってあげるよ」 ───────────────── vsバルブモン ─ 「ぐおおおおッ!」 ストライクドラモンの巨体が地面を転がる。 目の前に立ちはだかるバルブモンは強かった。 内部から現れる大量の兵隊たちとの消耗戦を潜り抜けられたものの、バルブモン自体の戦闘力もそれなりのものだった。 拳を叩き込んでも受け止められ、巨腕による反撃を受けるたびに身体が大きく弾き飛ばされる。 「クソッ…!まだだァッ!」 立ち上がったストライクドラモンが再び飛び出した、その時だった。 空から、無数のミサイルが降り注いだ。 「─ギギガッ!?」 轟音が連続して響き、大地が爆炎に包まれる。 シュウもストライクドラモンも、とっさに身を伏せた。 やがて煙が晴れていき…そこに立っていた敵の姿はなくなっていた。 残されていたのは、一つのデジタマだけだった。 「…あ?」 ストライクドラモンが目を丸くする。 その視線の先、少し離れた空中に黒い影が浮かんでいた。 黒い装甲、長い耳、そして─背中から伸びたミサイルポッド。 【ブラックラピッドモン:完全体】 「へっ…中々やるじゃねーか!助かったぜ!」 ストライクドラモンが拳を握って笑う…だが、ブラックラピッドモンは答えない。 そのままゆっくりと地面へ降り立つと、転がっていたデジタマを一瞥した。 「経験値稼ぎにもならなかったな…」 「……?」 ストライクドラモンの笑顔が引きつる。 ブラックラピッドモンは、何でもないことのように続けた。 「デジモンイレイザーに逆らってる奴らがいるって聞いたけど…こんなモンか」 その言葉に、シュウが眉をひそめた。 「助かったと俺も言いたいが…素直に感謝したくなくなること言ってくれるな」 風に転がされたデジタマを掴むと、ゆっくりと立ち上がってブラックラピッドモンを見る。 ストライクドラモンが振り返る。 「ンだよシュウ!助けてもらったんだから、素直に礼くらい言えって!」 「お前はもう少し人の言葉の裏を読め」 「裏?」 「弱いって言われてんの」 「なんだとーっ!?」 ガーッと怒り出すストライクドラモンを横に、シュウが肩をすくめる。 そのやり取りを、ブラックラピッドモンは黙って見ていた。 やがて興味を失ったように視線を逸らす。 「イレイザーベースを潰して回ってるのはお前たちだけじゃないって事さ」 「おっ、おい!」 呼び止めるストライクドラモンを気にする様子もなく、ブラックラピッドモンは再び空へ浮かび上がった。 シュウはその姿を見上げ、呟く。 「なんだかまた会うような気がするな」 ───────────────── .