宴会場の扉を開けたギデオンは、思わず目を見開きました。
目の前には、色とりどりのごちそうがずらりと並んでいたのです。
ローストビーフ、あつあつのパイ、宝石のようなデザート。
見たこともない料理が、テーブルの上をうめつくしていました。
「いろんなのを、少しずつ味見して、感想を聞かせてね」教主は優しくほほえんで、ひとつのチョコを手渡してくれました。
朝ごはんを抜いてきて、正解だった。ギデオンは心の中でつぶやきます。そっとチョコをひとかじり。とろける甘さに、思わず笑みがこぼれました。
このごちそうは、全部教主の手作り。料理の修行を重ねてきた成果なのだそうです。
まわりでは、みんなが思い思いに好きな料理を手に取っていました。
皿を手に、笑いあう声があちこちから聞こえてきます。
騒がしい場所が苦手なギデオンは、少しだけ緊張していましたが
教主が楽しそうに笑っているのを見て、ギデオンもなんだか嬉しくなりました。



食とは、人生そのものだ。口にしてきた物が、その者を形作る。ならば この料理は、ギデオンの「一日」になり得るのだろうか。
教主は調理器具を拭い、ボウルに満ちた料理に鼻を近づけた。
クエン酸やパイナップルジュース、卵白、塩、諸々を混ぜたスープに
潰した果実と生ぬるいミルク、そして砕いたチョコやキャンディ…他にも多数の食品を混ぜて作った、観察と推定の産物。
「……本物には、まだ遠い」呟きには、自嘲と苛立ちが滲む。彼女の内部で蓄えられた料理、それを再構成した一品。
しかし、胃液のpHも、体温も、歯形も、咀嚼の癖も、そのどれもが観察だけでは手に入らないものだった。
乱雑に食材や調理器具を片付けながら、どうにか本物を手に入れる手段は無いかと思案する。 だが、どれも現実的ではなく、教主はため息を吐いた。
ボウルに口を付けて、呷る姿はまるで雛鳥であり、敬虔な信徒の祈りにも似ていた。飢えた獣のような、冷えきったその瞳以外は。
