ギデオンは、ひんやりとした洞窟の中に座り、静かに外から射し込む光を見つめていました。
「やあ、ギデオン。きょうも暑いね」教主が、にこやかな笑顔で声をかけます。
ギデオンはゆっくりと頷いて、教主の持ってきた小さな包みに目をとめました。
その中には、花を摘むためなのか、ハサミが入っていました。
けれど、それを見たギデオンは、ふと思いつきます。
じっとりと額にくっついた髪を指で払い
「教主……ぼくの髪を切ってくれない？」そう訊ねました。
教主は、優しく頷いて、包みを地面に敷き、ギデオンを招きます。
しゃきん、しゃきん。澄んだ音が洞窟に響いて、はらはらと落ちる髪の毛が、やわらかな影をつくります。
やがて風がすうっと流れる頃にはギデオンの髪も、そして心も、少しだけ軽くなっていました。



教主は闇夜のように黒い髪を手に取り、薄く笑んだ。
その指先に宿る異様な緊張は、まるで獲物を前にした捕食者のそれと同じだ。
一部の髪を慎重に封印し、小さく息を吐く。今から行う作業は、単なる調理や実験ではない。
これは、神聖なる液体を生み出すための儀式なのだ。
高温・高圧に耐える特製の瓶へ、髪を静かに詰め込む。酸性の液体を注いで閉じる。熱した油の中に沈める。言葉にすればシンプルな手順だ。それ故にか、無限の長さを感じる程の焦燥であった。
タイマーが鋭く鳴り、教主は瓶の中の黒い液体をビーカーへ移して、中和の作業に入る。
撹拌棒が液体をかき混ぜる音は、静かな室内に不気味なリズムを刻む。
一滴、pH紙に落とし、色を確認してみれば、完璧だった。
銀河の彼方、久遠の闇のような、見る者に畏敬の念を抱かせる、深く、昏い色をした、究極の万能調味料。
「ギデオンの毛髪醤」がこの世に産まれたことに、教主は哄笑した。
