コージン=ミレーンの日記 D月Z日 事態は突然に動く。メックスーツの改造をメトリに頼むためフリッツ博士のラボへ押しかけ、そのまま眠りについた翌朝、その知らせは届いた。 監視についていたアロからグラウンド666へ動き出すトラックがあるという報告を受ける。 件のトラックはグラウンド666の爆心地近くへ止まると何やら作業をし始める。 そしてトラックから遠隔映像からでも不穏な空気を読み取れるほどの異質な存在の巨漢が降りてくる。 この威圧感、まさに魔王か…。そして俺は察した、奴らは始めるつもりだ廻天計画を…。    *   *   *   *   * フリッツ博士のラボは騒然と化す、とにかく情報の収集が最優先である。 データを分析していたメトリはこう言い放った。 「どうやら奴らは準備が整ったようだ」 まさかあんな荒唐無稽な条件が揃うはずは…と口を挟む周囲にメトリはこう言った。 「あれを見ろ。あんな禍々しいオーラをカメラ越しでも感じ取られる存在をお前は知っているのか」 事実半信半疑な俺もあの映像のインパクトは忘れられない。カメラの映像越しでも感じられる殺気を纏った異質な空気感。そう…あれは間違いなく魔王だと…。 「とにかく奴らは動き出した。俺たちはそれを阻止するために行動を開始する」 いずれ来る流れとは知っていたが、予想外よりも早い展開にライトもシュウも戸惑っていた。 「わかりました。とりあえず前々から話していた計画通りでいいんですよね?」 メックスーツを手に取りながらライトが答える。 「あぁ。俺たちはこれを着こんで陽動として動き回る。そしてその隙間を縫って、シュウが奴らの元へ忍び込んで始末するという算段だ」 このだだっ広くて何もないグラウンド666。そこに何故奴らは重要機密ともいう忌器を隠したのか? その答えは意外と簡単に解けた。仮にこっそり見つけ出すにしろ使用中を襲撃するにしろ、不審な動きをする者は容易に発見できる。見つけてしまえば近づく前にいくらでも始末可能なのだから。 「上空からドラゴン、遠方からスナイパー。こっそり近づくには困難過ぎるから奴らも考えたものだな…」 「だから僕らがこうやってこのクソ丈夫なスーツを着込んで、暴れてやる必要があるんでしょ」 メックスーツを着込みながらライトが俺にサムズアップを見せる。 全員が準備完了したところで再度ブリーフィングを開始する。 「予想よりも大分前倒しになったが。これより星骸炉破壊作戦を開始する」 「作戦内容は非常にシンプルだ。俺とライトが陽動として動き回り、その隙にシュウが炉心に近づき現場にいるであろうターゲットを始末するというものである」 「そしてそのために必要な物資として…」 そう俺が言うとフリッツ博士が一枚の布切れを放り投げてくる。 「ほらよ。こいつが必要なんだろ」 やや大き目な重めのブランケットを手渡されたシュウは博士に頭を下げてお礼を言う。 一見ただの毛布にしか見えないがこのブランケットは光学迷彩機能が付いた優れものである。 姿を見えなくさせる、このブランケットの機能はフィールドワークにおいて野生の魔獣を研究する博士にとって必需品とも言えるアイテムであった。 「いいか!こいつ結構高けぇんだからな!だからお前らにあげたわけじゃねぇんだぞ。絶対返しに来いよ!直接にだぞ!」 憎まれ口を叩いているように見えるが、この局面を通してみると俺たちの心配をしているのであるのが薄々感じ取られる。 俺自身が認識阻害を使って直接大尉たちの元へ赴くという案もあったのだが、大尉の電撃との相性を考えるとやはりシュウに任せる方が良いのではとなったのが今回の作戦であった。 もちろん何かトラブルがあった暁には自身が認識阻害を使って出向くというのがセカンドプランではあるのだが…。 「じゃあついでにこいつも渡しておくよ」 スナイプがシュウに小型の拳銃と弾倉を二つ手渡す。 「ニセ中佐さん、自分の攻撃力はないんだろ。少なくともこれ持っていれば何とかなるだろ。サブアームだから普段使うことはないけど手入れはちゃんとしてあるから安心してくれ」 シュウは彼の申し出をありがたく受け取った。    *   *   *   *   * 「残った戦力を考えると伍號、捌號、拾弐號がどこかしらに張り付いているってわけか…」 スナイプの言葉に俺は頷く。 「おそらく配置を見ると獣人たちや陸號漆號の近接戦闘の要員は人手不足の関係上、展開を見ながら適時投入という感じなんだろ」 俺の読みはこうである。伍號拾弐號で上空監視の目を維持しておきながら、敵に侵入に合わせて合成獣人や人造勇者たちを捌號の力を使ってピンポイントで投入するつもりなのであろう。 ならばどうするか?だったら裏をかくしかないだろ。 「要は旦那たちがごちゃごちゃやってる間にこのニセ中佐が近づいて大尉を始末するって寸法ね…」 スナイプがシンプルな解釈を述べる。俺はそれに頷く。 「まぁいいや。俺たちは旦那たちのゴタゴタに紛れて、ここをトンズラする。人員が割かれているから俺たちもすんなり逃げれるってわけだな。よし準備しようぜメトリ…」 スナイプの言に合わせるかのようにライトがこう述べる。 「スナイプさん、一緒に戦ってくれないんですか…」 「勘弁してくれよ。ただでさえここに足を踏み入れるのだって苦渋の決断だったんだぜ。それでなくてもあいつらと戦うなんて考えたくもねぇよ…」 意味深に目を閉じるスナイプの表情を見て俺はライトに耳打ちをした。 「スナイプさん…お願い。私たちを助けて下さい…」 女体化したライトが上目遣いでスナイプに迫る。 「いやぁ!いくらホワイトちゃんの姿になってもやらないからね!命あっての物種ってわかる?!」 TSしたライトの要求もスナイプはあっさり断った。 しかしここで意外な助け船を出す者が現れた。 「スナイプ。彼らに協力してやれ」 その声の主はメトリであった。 「ちょぉ!待ってよ。俺一人の力でどうとなるってもんでもないでしょ。大体逃げる方はどうすんのよ?!」 「お前の言う通りに合成獣人たちが警護に回されてるのなら私と博士だけでも逃げるのは問題ない。だがこの連中が奴らと対峙するなら後衛の能力が圧倒的に不足する」 「それができるのはお前だけだ。頼む協力してやってくれ。せめて自身が逃げ切れるだけの間でいい…」 メトリの言葉にスナイプは頭を掻きむしりながら愚痴をこぼすように呟く。 「わかったよ…協力してやる。だがな…俺は極力手は出さない」 スナイプは荷物袋の中からブリーフケースのような物を取り出すとその中身を俺たちに見せる。 「こいつは俺の試作聖剣だ。残弾数は残り三発。よってギリギリまで撃つことはできない。それでいいなら協力してやる…」 「これは一体どういう能力があるんだ?」 俺の疑問にスナイプが答える。 「この試作聖剣は異世界にある何たらバレルってやつの伝聞を元にしたもので。大気中にあるマナを精製して弾丸にするって代物だ」 「理論上は飛距離も威力も弾数も無限って話だったんだが、いかんせんこの世界に漂うマナ濃度だと弾丸を生むまで何か月もかかるってんで失敗作に終わっちまった」 「だが人造勇者を相手にすらならこいつを使わざるを得ない。よってギリギリのギリまであんたらを囮にするし手も出さない。これでいいなら俺はあんたらのバックアップに付く。俺も死にたくはないからな…」 「わかった。協力をしてくれて感謝する」 俺はスナイプに右手を差し出すと彼は躊躇しながらもその手を握り返した。    *   *   *   *   * 「よし。全員準備は整ったな。これより作戦を開始する」 グラウンド666付近の荒野から俺が指示をする。 何もないまさに無毛の荒野の端から黒い弾丸が二条撃ち放たれる。 走り出すと身に纏うメックスーツに礫のような敵意が叩きつけられる。 恐らくこれは敵がロックオンした証であろう。 俺とライトの外装に何度も着弾の衝撃が伝う。だがスーツ自体には変化はない。 おそらくこれは伍號の聖剣の威力よりもこのスーツの強度の方が勝ってたという証なのであろう。 数発直撃した感触があるにせよ全く外装にはダメージの見えない姿に伍號はいらつく。 やはり連射モードでなく単発モードにしておくべきか…。 試作聖剣のモードを連射から単射に切り替える。分かりやすく言えばSTGにおける連射と溜め撃ちを使い分けるようなものである。 実銃で言うところのボルトアクションを行わねばならないのだが、遠くからちまちま狙うのであれば問題はない。 慎重に狙いを定めて撃った一撃がミレーンの肩アーマーを弾く。 そうそう…これだよこれ…。 伍號の脳内がスナイパーモードになった矢先に周囲から追加攻撃の報告が伝えられる。 「よせ!やめろ!あれは私のだ!」 拾弐號が上空から落とす爆炎にミレーンとライトは足取りを阻まれる。だがそれは同じ標的を狙う伍號にとっては邪魔以外の何者でもない。 「やめろ!お前の炎で敵が見えなくなる!邪魔をするな!」 爆炎で周囲の状況が見えなくなった伍號に捌號から連絡が来る。 「これから合成獣人たちを転移させる。奴等を仕留めるなら落ち着いて狙って…」 ミレーンとライトの前に50体ほどの合成獣人たちが転移される。 これが連中の最後の戦力なのであろう。終わりが見えたと思うとこの物量差も可愛く思えてくる。 ミレーンはメックスーツに備え付けの双剣をライトは自身の両腕の刃を生やすと、嬉々としてその群に突っ込むのであった。 合成獣人を切り捨てるとアーマーに着弾を食らう。 こういった状況を何度も繰り返すと敵スナイパーの位置が朧気ながらも推測される。 恐らく敵のスナイパーは進行方向から見て左、西側にいる。 スナイプ、早く敵の狙撃手を始末してくれ…。 スナイプは困惑をしていた。 狙撃手の放つ弾丸の方角から自身から見て左側の西方に敵本人はいるのは確実だと。 だが狙撃手の位置は把握できない。彼の持つ鷹の目の力をもってしてもだ。 大体の位置は把握はできる。だが敵も狙撃する度に場所を移動しているのであろう。 鷹の目は遠近だけでなく赤外線やサーモグラフィといった機能も持ち合わせている。 しかしそれを以てしても敵の姿が把握できない。 それもそのはずである相対する人造勇者勇者伍號が纏うマントには非常に高度なステルス機能が搭載しており、赤外線やサーモで捉えられるような熱源反応も隠してしまうのである。 もちろんこれはヒジンドー機関解体後の時期で生まれた後付けの機能であり、それ以前に抜けたスナイプが知らなくても不思議ではない。 だがこれが狙撃手として決定的な戦力差を生むことになるのであった。 「くっそ…!どうしたらいいんだよ…」    *   *   *   *   * 「始まったな…」 地上にから聞こえる爆裂音を聞きながらメトリがこぼす。 「よっしゃ嬢ちゃん。荷物まとまったからケツまくって逃げるぞ」 デカい風呂敷包みを背負ったフリッツ博士がメトリに声をかける。 彼らが秘密のラボの入口を出ようとしたその目前に、一人の男と多数の合成獣人の姿が目に映った。 「申し訳ありません。アナタ方には死んでもらいます。これも上官の命令なので理解してください…」 そこには苦い表情をしたカイモス=カルディウス准将がいたのであった。 (続く)