けたたましい轟音が鳴り出すと周囲の大気がほのかな輝きを見せる。 空気は湿度を増し、どことなくぬめり付くような皮膚感覚すらある。 それは仮に魔力を持たない者であっても何らかの特別な存在を感じ取ることができるであろう。 そうこれは高濃度のマナだ。星骸炉によって湧き出した星のマナが大気に溢れ出しているのだ。 不意打ちの奇襲があったものの儀式を終えた人造勇者壱號アインス=ドナー大尉、いや星皇アインスであったが彼女自身の中では特別な変化が起きた実感はなかった。 ただ体は軽く力に満ち溢れているのは感じている。 何よりも驚きであったのは奇襲によって受けた銃撃のダメージがいとも容易く修復されているのである。 アインスは金属製の左腕を天に向って掲げる。呼吸を整えるとおもむろに上空へと電撃を放つ。 放たれたそれはもはや電撃と言うレベルではない。 太く激しく輝くその一条の光はまるで空を切り裂きながら登る竜のようでもあり、落雷ならぬ昇雷という自然現象のようにも思えた。 「(どう?この星の力を手にした感想は?)」 アインスの頭の中に見知らぬ声が聞こえる。それは少女のような悪戯っぽい響きの口調であった。 アインスは一瞬自分の精神がおかしくなったのかと不安がよぎるが、星皇という誰も辿り着いたことのないステージにいるのだから特別な現象が起っても不思議ではない。 彼女は頭の中の声に対話を試みた。 「お前はいったい何者だ?」 「(余はラーヴァ。一応情報は全て君の頭にインストールさせたけど、使いこなせるようになるには時間がかかるだろうからね。それまでのナビゲーター役ってやつさ…)」 「(星の管理者の仕事は文字通りこの星の管理さ。それをきっちりやってもらわないとみんなが迷惑するからね…)」 ラーヴァの話によると星の管理とはこのようなものである。 ・火←→水 ・天←→地 ・光←→闇 この世界を構成する6つの基礎エレメントの内、相克するこの3組のバランスを調整することだという。 「(例えば水のエレメントが増え過ぎたらどこかに雨を降らせたり、地のエレメントが増え過ぎたらどこかに地震を起こす。簡単でしょ)」 さらにそれはエレメント単体だけでなく組み合わせることで多彩な自然現象をも生む。 「(さっき君が使った雷は天と光の複合。水と天を合わせれば雪や氷になるし、火と地の組み合わせでマグマが吹き出す…)」 つまり電撃だけでなくあらゆる属性の能力を使いこなせるということか。 そして溢れかえらんばかりのマナによる身体の強化、もはやこれは勇者や超人を通り越して神の領域にまで達したのかもしれない…。 アインスの心の高ぶりを知ってか知らずかラーヴァは忠告する。 「(いいかい。君が力を使えばその反動はどこかに現れる。だから力の行使は慎重にするんだよ。俗に言う大いなる力には大いなる責任が伴うというやつさ…)」 そんなラーヴァの忠告もアインスは心ここにあらずで聞き流すのであった…。    *   *   *   *   * 「待たせたなぁ!コージン=ミレーン! お前たちのせいで仲間は大分減っちまったが、もうすぐ大尉は星皇になる。だがお前を始末するのは大尉じゃない、クソみてぇな因縁も俺がここで終わりにしてやる!」 人造勇者漆號レーベン=フィール軍曹は背中に下げていた大剣を構えると、上空を飛んでいた人造勇者拾弐號ツヴォルフ=ドラシーナに向って叫ぶ。 「いいか!ドラシーナ!手を出すんじゃねぇぞ! お前の炎はデカすぎるから戦闘の邪魔なんだよ!解ったらさっさとここを離れて周りを哨戒してろ!」 漆號の言葉を聞いて人造勇者陸號ことザット上等兵も拾弐號に向って言う。 「おーい!ドラシーナ! 僕も援護はいらないよー!」 二人の援護無用の申し出を受け、拾弐號はこの一帯を離脱する。拾弐號が離れて行く姿を見ながら陸號は小声でこぼす。 「ようやく彼と殺り合えるんだから、爆炎で焼き殺すなんてそんなつまらないオチにはさせないよ。最後の一滴までその血を吸わせてもらうからね…」 メックスーツ02を着込んだライトは両腕の刃を生やす。 刃が装甲の中から容易に外部へ露出できるよう隙間を作らせたのがメトリへ頼んでいた改造であった。 一方やや離れた場所で漆號と対峙しているミレーンはメックスーツ01に備え付けてある双剣を抜いて構える。 元々剣士であり腕に覚えはあるものの双剣を使った戦闘の経験は少ない。 だが剣術ではなく従来の徒手格闘における手の延長だと考えれば、効果的な使い方も何とか見えてくる。 周囲を囲む瓦礫によって狙撃手の目からは逃れ、上空を飛び回るドラゴンは去らせた。 今はこの漆號との1対1の真っ向勝負である、目の前の敵にだけ集中すれば良いのだ!    *   *   *   *   * 「(なんてことだ…)」 目の前で起る光景をシュウは口惜しそうに睨む。 星骸炉起動の儀式の直前、光学迷彩ブランケットを纏い密かに侵入し拳銃にてアインスを奇襲するとこまでは上手く行った。 しかしシュッツガイストの介入によってアインスへの止めを刺すことは阻まれた。 今から考えるとアインスを射殺することに若干の躊躇があったのも否定はできない。 ヒットした箇所はいずれも腹部でありヘッドショットは避けていた。 それは単純に確実に着弾させるためなのか、それとも自身の遺伝子の大元であるイナッテン中佐の意思なのか…。 しかしそのせいで最悪の展開を呼びこんでしまった。残るは反転の能力を使って少しでもアインスにダメージを加え続けることである…。 拳銃の弾倉を交換するとシュウはアインスへと銃を乱射しながら向かって行く。 弾丸は着弾するも彼女には何のダメージも与えられない。 だがこれでいい…。あくまでもこれは自分自身に注意を向けさせるためだ。 最大威力で電撃を放て、俺はそれを返してやる! アインスは左腕をシュウの方向へとかざす。呼吸を整えるや否や激しい閃光がその手より放たれる。 シュウはタイミングを合わせて反転のスキルを仕掛ける。電撃は見事に反転しアインスに直撃する。 だがその反動は凄まじく、シュウの全身へと強烈な電気ショックが通り抜けて行く。 シュウの持つ反転のスキルの弱点として反動でダメージを食らうというものがある。 相手の放った攻撃を返す代わりにそのコンマ以下~数%ほどのダメージが自らの身に戻ってくるのである。 ちなみに大自然の起こす落雷の威力は電圧は1億ボルト、電流は千~20万アンペア。 これが仮に数%どころかコンマ以下のパーセンテージであっても人間の肉体には耐えられるような電撃ではないのだ。 電撃が貫通したことによりシュウの全身は大火傷と黒い焦げに包まれる。 だが荒い呼吸音を立て瀕死の状態ながらも未だに生きているのは、人造勇者として強化された影響なのであろうか。 反転のスキルにより電撃を食らう羽目となったが、当のアインスの方は着衣が多少焦げただけでその身は全くの無事であった。 アインスはシュウの元へ近づいて見下ろす。 父と同じ顔をした男が自分を殺そうと仕掛け、そしてそれを返り討ちにする。 何ともひどい因縁ではないか…、この父子には結局殺し合う運命しかなかったのだと。 そう思うとアインスの口からは乾いた笑いだけがこぼれるのであった…。   *   *   *   *   * 「くっそ!場所選びを間違えたぜ…」 スナイプは約20層はある高い廃ビルの中を必死に逃げ回る。 戦場となるグラウンド666及びその周囲を俯瞰で捉えるために、自身の配置を高い場所から見下ろせるこの場所にした。 狙いとしては正攻法なのであるが人造勇者捌號キューケン=ピープ少尉を狙撃した際に、敵狙撃手の人造勇者伍號トラウアーゲサング少尉に自身の位置を把握されてしまった。 そういった場合即座に撤収し違う場所へと向わねばならないのだが、山の中や森林といった場所では縦だけでなく横の移動も可能なのだがここは高層ビルの内部である。 周囲には同等の高さの建築物がないため移動は上下のみ、つまり敵からしてみれば狭いエリア内を上か下に行くだけの実に狙いやすい状況となっているのだ。 「ハァハァ…ちょっと休憩するか…」 スナイプが腰を落して壁にもたれかかると、体を預けていた外壁が突如破壊される。 その位置はスナイプの頭上10cmほど上、完全にヘッドショットを狙っていた。 伍號の試作聖剣は現在威力を高める単射モードかつ対物仕様へと最大級に強化している。 これはコンクリートのビルの中に籠る敵を外壁ごと撃ち抜くためであるが、そのため命中精度はかなり落ちている。 「しかしどうやって壁越しの位置を把握しているんだよ。旧式のくせに俺の鷹の目よりも優れているってのか…?!」 そんなスナイプのぼやきがまるで聞こえているかのように伍號はつぶやく。 「機械というのはアップデートが簡単にできるんだよ…。私の目も装備もお前の知っていた頃とは全然比べ物にならないのさ漆拾漆號!」 (続く)