ミレーンと人造勇者漆號レーベン=フィール軍曹との一騎打ちは一進一退の攻防が繰り広げられていた。 いや正確に言えばミレーンが出す攻撃で幾度となく漆號が傷つくもすぐに回復し、時折漆號の攻撃が当たるもミレーンが纏うメックスーツの固さのせいで有効打とならない文字通りの泥仕合である。 瓦礫を隔てた向こうからは人造勇者陸號ザット上等兵の怒号や嗚咽のような叫び声が聞こえており、恐らく彼は敗北したのだと推測される。 このまま続けて行けば状況は数的不利となり、仮に倒されないとしても現在星皇となる儀式を行っている人造勇者壱號アインス=ドナー大尉への足止めにならなくなるかもしれない。 「やりたかねぇけど、奥の手を使うしかねぇか…」 漆號は自身の持つ大剣に付いている柄頭の飾りを捻る。 すると何らかのエネルギーがチャージされ、刀身からはオーラのような圧が感じられる。 漆號は大剣を上段に構えると捨て身の勢いでミレーンへと斬りつける。 凄まじい気迫に避け切れないと悟ったミレーンは両手に持つ双剣をクロスさせて受け止めた。 ガキィン! 乾いた破壊音がミレーンの耳に入るや否や衝撃で体が吹き飛ばされる。 それはミレーンの持っていた双剣が砕かれた音であった。 元々サイズ自体はさほど長くない双剣と肉厚の大剣である。 質量差で耐久性には不利ではあったが、それでも先程まで何合も斬り合えるほどの強度を見せてはいた。 だがあの強烈な一撃でいとも簡単に壊されてしまうとは…。 武器を失ったミレーンは戦闘のプランをまた最初から練り直さなければならなくなった。 武器を失ったミレーンを見て今が攻め時と判断した漆號は、再度大剣の柄頭を捻ると刀身にエネルギーをチャージする。 漆號の斬撃をミレーンは左腕でガードする。左腕のアーマーは弾け飛び、ミレーンは真横へと叩きつけられる。 左腕の骨が折れた実感がしたので、すかさずホーリヒールで治癒をする。 その時ミレーンの目に映ったのは、数秒間ほど意識を失ったかのようにぐらつく漆號の姿であった。 何だあれは…? ミレーンが記憶を反芻する間も与えず漆號は例の高圧のエネルギーを蓄えた剣で斬りかかる。 ミレーンは必死で避けるも剣に纏ったエネルギーは刀身が辿り着くよりも先にアーマーの胸元を破壊する。 ダメージに苦悶しながら漆號を見据える彼の目に映ったのは、先程と同じように数秒ほど意識を失ったような漆號であった…。 「(相変わらずきっついぜ、この技はよぉ…)」 漆號は荒い呼吸をしながら心の中で思う。 敵に対して圧倒的な破壊力を示したこの技は彼のスキル由来ではなく、専用武器である大剣由来の物である。 正式名称は『魂心爆』。 人の命を代価として文字通り爆発的な攻撃力を生むという代物である。 だがメ●ンテのような自爆呪文と比べると威力は弱く、人一人の命をコストとするには割が合わないとさすがのヒジンドー機関の技術陣ですら採用を見送ったほどのアイテムであった。 だが命を湯水のように使える漆號の存在が確認されると、この大剣は彼の専用アイテムとして周囲から認知されることとなる。 この大剣のスキルには大きな弱点が二つある。 一つめは攻撃を炸裂させ命を使い切った後に、次の命が復活するまでに数秒間の空白の時間を生じさせること。 二つめは爆発的な破壊力を生むがその反動で刀身にダメージがそのまま帰ってくることである。 特に後者は漆號の命の格納先をこの剣が兼ねているだけに致命的な問題であった。 現にこの三連発を決めただけでも刀身からはビキビキという音が聞こえている。 故に普段から使うことはできない、まさに秘奥義とも言える技なのである。 「(仕方がない俺も切り札を出すか…)」 ミレーンは覚悟を決めるとストライカースタイルで敵を迎える。 漆號は再びエネルギーをチャージした大剣を振りかざし斬撃を加える。 ミレーンは必死に躱す。その躱した隙を狙い漆號は構え直すと敵へと突きを入れた。 漆號の放つ突き技を避け切れないと判断したミレーンは両の掌で大剣の刀身を挟みこむ、所謂真剣白刃取りのような形となる。 ミレーンの両掌のアーマーが弾け飛ぶも反動で大剣の刀身も跳ね返る。 ミレーンは体を整えながら漆號の様子を見る。やはり動きが止まっている。 今が仕掛け時とばかりに漆號に向けて右足で中段のトラースキックを放つ。 意識を取り戻した漆號は大剣を盾代わりにしながら柄頭を回してエネルギーをチャージする。 キックが刀身に当たると衝撃がミレーンへと押し寄せる、だがその瞬間であった。 ミレーンの右足脛のアーマーの側部から一本の棒のような物が射出されると漆號の大剣にヒットする。 すると漆號の大剣は音を立てながら直角に折れ曲がる。 そうミレーンが右足に仕込んでいたのは、人造勇者仇號ファルテ准尉の持っていた“折る”という概念兵装の試作聖剣であった。 起死回生の一撃を加えたが代価もまた大きかった。 大剣の放つエネルギーのせいで仇號の試作聖剣は砕け散ってしまったのだ。 漆號は直角に折れ曲がってしまった大剣を呆然と見る、だが次の瞬間口元をにやりとする。 試作聖剣は曲がってしまったが破壊もされず無事だ、そして敵は全ての切り札を失った。 今が一気呵成のチャンス!魂心爆を使わなくても勝てる! 漆號はそう確信すると曲がった聖剣をふりかざしながらミレーンへ斬りかかる。 「どうやら聖剣は全て失ったようだな!俺の勝ちだ!」 漆號の言葉を聞き、ミレーンもまた不敵な笑みを見せる。 「残念だったな…、聖剣はまだここにある!」 ミレーンは右手の手刀で漆號の聖剣をカウンターで迎え撃つ。 「“カンラークの赤い雨”!」 漆號の聖剣とミレーンの手刀が交錯する。次の瞬間二人の目に映ったのは刀身が砕けた漆號の大剣だった…。 ミレーンは漆號に右の手の甲を見せつける。そこにはアーマーの隙間から刃の欠片のような物が垣間見えた。 それは以前ミレーンが仇號の戦いの際に戦利品として拾った聖剣チップの欠片であった…。 足に取り付けた仇號の試作聖剣用簡易パイルバンカーと聖剣チップのアーマーへの仕込み。 これらはいずれもミレーンがメトリに頼んだメックスーツの改造ポイントだった。 無限の命の源である聖剣を破壊され膝を落す漆號、彼の前にミレーンが立ちはだかる。 「お前とは色々あったが、これで白黒をつけてやる。安心しろ、殺さないでおいてやるから俺たちの邪魔をするんじゃないぞ!」 ミレーンは漆號の体を上空へ高く振り上げる。そして空中に飛ばされた彼を追ってミレーンも高く飛び上がる。 「行くぞ!死にたくなければコイツで当分寝てるかさっさと逃げろ!“レンハートスパーク”!!!!!」 「ゲェーーーーー!!!!!」 漆號は完全に失神した。多分死んでないとは思うが、死んでたらまぁその時はその時だと割り切る。 ミレーンたちの決着が着いた頃合いでライトがこちらへ合流する。あちらも上手く敵を撃退できたようだ。 早速星骸炉へと向おうとした時、上空から爆炎が降り注ぐ。 攻撃を放ったのは人造勇者拾弐號ツヴォルフ=ドラシーナである。 彼女は陸號漆號のリクエストに応えて勝負の邪魔を避けていたのだが、両者が敗北した今侵入者を排除するために遠慮をする必要はなくなった。 俺とライトは必死に爆炎を躱す。作戦開始当初と違いアーマーの残り面積も大分少なくなってきている。直撃を食らえば致命傷にもなりかねない。 完全に足止めを食った状況の中、ライトが俺に提案をする。 「ミレーンさんは認識阻害を使って星骸炉へと先に向って下さい。僕はあのドラゴンを倒します」 「それは構わないがお前一人で大丈夫なのか?」 俺の心配を他所にライトは目の色と声色を変えながらこう宣う。 「何を言っているんですか。ドラゴン相手ならこっちには本物がいるんですよ」 『あの造り物に真の竜の戦いというものを教えてやらんとな…』 ライトはメックスーツを完全にパージし、がーすけに主導権を入れ替えると竜の本体へと変身する。 上空へ飛び上がる彼の姿を見届けると、俺は認識阻害を使い星骸炉へと急ぐのであった。 (続く)