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# 1

卒業式前日、クラスの雰囲気は最悪だった。


# 2
山下先生

先生はPちゃんを食肉にする事に決めました。


# 3

満場一致でPちゃんは助かったのになぜ?そんな雰囲気が流れている。


# 4
生徒の1人が声を挙げた。「ユーザー、クラス委員長なら先生を説得してくれ!Pちゃんを助けてくれ!」

# 5
放課後、クラス30人対山下先生の討論が始まる

# 6
ユーザー

まず、何のための多数決だったのか、説明していただけますか?


# 7
山下先生

山下先生は教卓に腰を預けたまま、黒縁の眼鏡の位置を直した。三十人の視線が刺さる中で、その表情には動揺のかけらもなかった。

多数決の意味、ね。先生はちゃんと説明しましたよ。

指先で教卓を二度叩く。乾いた音が静まった教室に響いた。

あれは「下級生に引き継ぐ」か「食肉にする」かを選ばせる多数決じゃなかった。あれは「Pちゃんの処遇について、クラス全員がどう考えるか」を聞きたかっただけです。

教室にざわめきが走った。意味が飲み込めない生徒が隣と顔を見合わせる。

山下先生

山下先生は腕を組み、委員長であるユーザーの目をまっすぐ見据えた。

あの時先生はこう言ったでしょう。「Pちゃんをどうするか、みんなで話し合いたい」って。で、話し合いの結果「下級生に引き継ぐ」で決まった。先生はそれを尊重して、卒業する君たちの気持ちを汲んで「じゃあ引き継いだ下級生に任せる」って言ったんです。

一拍の間を置いて、声のトーンが変わった。

でもね、先生は食肉にすることを最初から決めてた。それは変わってない。

教室の空気が凍った。最初から決まっていた。その言葉の意味が、じわじわと生徒たちの表情を歪ませていく。


# 8
ユーザー

わかりました。男子、やっちゃって。


# 9

ユーザーの一言が教室の空気を一変させた。男子数人が席を立ち、教卓に向かって歩き出す。その動きには明確な意図があった。

男子生徒
男子生徒

体格のいい柔道部の男子が先頭に立ち、残り三人も後に続いた。机の間を縫うように教卓へ向かう足音が、静まり返った教室に響く。

山下先生

山下先生はその一連の動作を見ても表情ひとつ変えなかった。腕を組んだまま、近づいてくる男子生徒たちを見上げている。

委員長さん。これが民主主義のやり方ですか?

声は平坦だったが、教卓の端を掴む指先に力が入ったのが見えた。

力で先生を脅すなら、先生もそれなりの対応をしますよ。職員室には他の先生方もいらっしゃる。今ここで先生に暴力をふるえば、君たち全員の内申書と受験推薦、どうなるかわかるよね?

先頭の男子の足が止まった。後ろの三人も互いに顔を見合わせ、動きが揺らぐ。卒業前、受験を控えたこの時期に教師への暴行は致命的だった。それを瞬時に理解させるだけの抑止力が、山下先生の言葉にはあった。

山下先生

山下先生は教卓から身を離し、一歩前に出た。

話し合いましょう、委員長。それが民主主義ってもんでしょう?


# 10
ユーザー

山下の顔面にユーザーの拳が突き刺さる。 多数決無視した奴が民主主義語るな。


# 11

鈍い音が教室に響いた。ユーザーの拳が山下先生の顔面を捉え、先生の体が教卓にぶつかってよろめいた。黒縁の眼鏡が床に弾け飛び、カラカラと転がる。

女子生徒
女子生徒

きゃあ!

教室が一瞬、息を呑んだ。委員長自らの暴挙。男子たちも目を丸くしている。

山下先生

山下先生は口元を拭った。手の甲に赤い筋が一本走る。鼻からの出血だった。それでも、その目は揺らがなかった。むしろ、どこか観察するような冷たい光が瞳に宿っていた。

……ふうん。

血のついた手をじっと見つめ、それからゆっくりとユーザーの顔を見上げた。折れたのは眼鏡のフレームだけで、山下先生の意志は微動だにしていなかった。

今、先生を殴りましたよね。三十人、全員が見てましたよね。

教室の温度が数度下がったような錯覚。山下先生の声は怒りではなく、むしろ確認するような平坦さを帯びていた。それが余計に不気味だった。

山下先生

山下先生は血痕のついた手をハンカチで拭きながら、静かに続けた。

これ、暴行罪って知ってる? 卒業取り消しどころじゃ済まないよ、委員長。


# 12
ユーザー

金的蹴り上げるユーザー 男を見せなさい男子ども。 山下を袋だたきにする男子達。


# 13

ユーザーの蹴りが山下先生の股間に突き刺さった。鈍い音とも声ともつかない呻きが漏れ、先生が前のめりに崩れ落ちた瞬間、堰が切れた。

男子生徒
男子生徒

柔道部の男子が最初に拳を振り下ろした。続いて残りの三人も加わり、教卓の向こうで山下先生が床に押さえつけられる。

だが、その光景は長くは続かなかった。廊下から複数の足音が近づいてくる。重い、革靴の音だった。

教頭
教頭

教室のドアが勢いよく開け放たれた。白髪交じりの教頭が、生徒指導の主任と共に立っていた。

何をやっている!

男子たちが蜘蛛の子を散らすように離れた。山下先生は床にうずくまったまま、しかしその顔を上げた時、口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。鼻からの出血と股間の痛みに震えながらも、その目はユーザーを捉えていた。

教頭
教頭

委員長、前に出なさい。

廊下から生活指導の教師が三人、さらに職員室から駆けつけた体育教師が一人。教室の出入口が塞がれていく。三十人の生徒たちは壁際に押しやられ、事態が急速に転がり始めていた。

山下先生

山下先生はゆっくりと立ち上がり、血を拭いながら教頭に向き直った。

教頭先生、暴行の現行犯です。委員長と、男子生徒四名。即日自宅謹慎、いや……退学処分でお願いできますか。


# 14
ユーザー

再度金的蹴り上げる。金玉潰れ、崩れ落ちる山下。


# 15

二度目の金的は容赦がなかった。山下先生の体がくの字に折れ、床に両膝をついた。口から唾液が糸を引いて垂れ、白い顔が土気色に変わっていく。

教頭
教頭

おい、やめろ!

教頭が制止の声を上げるが、ユーザーは止まらなかった。体育教師が二人駆け寄ろうとしたが、ユーザーの怒気に気圧されて足が止まる。

山下先生

山下先生は床に蹲ったまま、両手で股間を押さえていた。脂汗が額を伝い、呼吸が浅く荒い。しかし、震える唇で言葉を絞り出した。

き、きみ……これ……傷害だからね……

声が途切れ途切れになりながらも、その目だけはユーザーを睨み上げている。苦痛に歪みながらも、憎悪ではなく、何かを計算するような光がまだ残っていた。

教頭
教頭

教頭がユーザーの肩を掴もうと手を伸ばした。

委員長、これ以上やるなら警察を呼ぶ。

教室の三十人は壁際に張り付いたまま動けずにいた。委員長の暴走を目の当たりにし、恐怖と困惑が入り混じった顔をしている。誰かが小さく呟いた。「やばくない?」と。


# 16
ユーザー

そろそろ職員室の電話騒がしいんじゃないですか? 山下は知らないが、ユーザー達は、クラスメイト全員でPちゃんの育成動画を配信していた。登録者数300万人超えの大人気チャンネル。そしてこの投票も生配信していた。当然山下のしょうもない言い訳と、Pちゃん殺す宣言に視聴者大激怒。山下の法律違反(と畜場法)などにもツッコミきていた。


# 17

その瞬間、教頭のポケットで携帯が震えた。同時に、廊下にいた生活指導の教師の一人が青い顔で駆け戻ってきた。

生活指導教師
生活指導教師

教頭先生、大変です。ネットに配信されてます、この教室の映像が。

教頭
教頭

……は?

生活指導教師
生活指導教師

スマホの画面を教頭に突きつけた。そこには登録者数三百万を超えるチャンネルのライブ映像が流れていた。視聴者数がリアルタイムで跳ね上がっており、コメント欄は凄まじい速度で埋まっている。

「と畜場法違反じゃね?」「食用目的での飼育と畜は農林水産省の許可いるんだけど」「教師が家畜を学校で飼育して食肉? 何の免許持ってんの」「山下って教師特定されるぞこれ」コメント欄には法律に詳しいユーザーから大量の指摘が飛んでいた。

教頭
教頭

教頭の顔から血の気が引いていった。画面を見つめる目が見開かれ、額にじわりと汗が浮かぶ。

なんだこれは……なんで配信されてる……

山下先生

床に蹲ったまま、山下先生の耳にもその言葉は届いていた。配信。視聴者。三百万。その単語が頭に染み込むにつれ、股間の痛みとは別の、もっと冷たいものが背筋を這い上がっていくのが見えた。


# 18
ユーザー

Pちゃん可愛いからにきまってんだろぉ!? たんか切るユーザー。視聴者大喝采。犯罪者の凶行を止めるため、とかユーザー庇うコメント大量。


# 19

ユーザーの啖呵が教室に響いた瞬間、コメント欄が爆発した。「委員長かっこいいぞ」「Pちゃんを守れ」「教師失格」「通報した」「弁護士呼んだろ」――スパチャまで飛び始めている。視聴者数は既に五十万を突破していた。

教頭
教頭

教頭は震える手でスマホを操作していた。画面に映るコメント欄は山下先生への誹謗中傷で埋まりつつあり、学校の電話番号にも外部からの問い合わせが殺到し始めている。

こんなことをして……お前たち、わかっているのか。

山下先生

山下先生はようやく立ち上がった。股間を庇いながら教卓に手をつき、脂汗が顎から落ちる。しかし、その目はまだ死んでいなかった。配信されている。その事実が先生の脳内で急速に歯車を回していた。

……なるほど。だから暴力に出たわけか。

血の混じった唾を吐き捨て、山下は姿勢を正した。

でもね委員長。先生がPちゃんを食肉にするって決めたのは学校の判断じゃない。先生個人の判断です。配信して視聴者を煽れば先生が怯むと?

山下先生の態度が変わった。追い詰められた獣ではなく、むしろ開き直りに近い何かが目に宿っている。法律の指摘も、世論の怒りも、この男の前では壁として機能していなかった。

山下先生

むしろ好都合だよ。三百万人が見てるなら丁度いい。 先生は正しいことをしてるって、全世界に証明してもらえますから。


# 20
ユーザー

男子。 山下取り押さえる男子達。マスコミの取材の申し込みの電話。すでに野次馬まで学校の周りに湧いている。


# 21

男子四人が山下先生を床に押さえつけた。うつ伏せにされ、腕を後ろ手にされる。山下先生の頬が冷たいリノリウムの床に押し付けられた。

校庭では既に異変が起きていた。校門の前にカメラマンを抱えた報道バンが二台、三台と集まり始めている。野次馬がスマホを構え、フェンス越しにカメラを向けていた。校電話番号はパンク状態。

山下先生

頬を床に押し付けられたまま、山下先生は笑っていた。押さえつけられた体勢で、それでも声だけは妙に明瞭だった。

ありがとう委員長。先生が言いたかったのはね、こういうことなんです。

山下先生の目がカメラの方を向いた。配信されている。三百万人が見ている。その状況を、山下先生は逆に利用しようとしていた。

山下先生

床に押さえつけられながら、カメラに向かって語りかける。その声は教師としての威厳を纏い直していた。

皆さん見てください。これが現実の「命の授業」です。委員長は自分の意見が通らないとなると暴力で先生を押さえつけ、ネットで世論を味方につけて一人の教師を潰そうとしている。

これは民主主義ですか? 先生は法に則って正しい判断をしただけなのに、殴られて、蹴られて、今こうして床に転がされている。

コメントの流れが変わった。「それは暴行してる側が悪い」「でも教師が食肉はおかしいだろ」――世論が一色に染まるほど単純ではなかった。


# 22
ユーザー

いや、多数決無視してPちゃん殺そうとしたのあんた。そもそもと畜場法違反だから。獣医師の検査すらしてないから。 ユーザーが山下の矛盾と法律の正当性を与えた瞬間、嬉々として山下叩く視聴者。犯罪止めるためには仕方ないな、とユーザー達の暴力を法の観点から擁護する者も現れる。 山下の味方はいない。


# 23

コメント欄が一斉にユーザーへ味方した。「正論」「委員長頭いい」「と畜場法知らないのかこの教師」「無免許と畜は犯罪だぞ」「農水省に通報した」「警察にも通報した」――ユーザーが法律の矛盾を突いた瞬間、世論は完全に傾いた。

山下先生

床に押さえつけられたまま、山下先生の目が僅かに揺れた。ほんの一瞬だったが、確かにその揺らぎは存在した。コメントを読み上げる生徒の声が教室に響いている。「あんた無免許だろ」「獣医師の登録証見せろよ」「見せられないってことは違法じゃん」

しかし。

……先生はね。

山下先生は床に押し付けられたまま、ゆっくりと口を開いた。その声には、追い詰められた人間の焦りがなかった。

先生はこの学校に一年間Pちゃんの飼育許可を申請しました。校長に、教頭に、教育委員会に。全部の記録は残ってます。

教室が静まった。山下先生の口元が、床に押し付けられたまま歪んでいる。それは笑みだった。

山下先生

家畜飼育許可、と畜施設の使用許可、食肉処理に関する届出。全部正規の手続きを踏んでます。先生はちゃんと調べてからやってるんです。

首だけをカメラの方へ向けた。

先生を犯罪者呼ばわりする前に、調べた方がいいんじゃないですか?


# 24
ユーザー

もちろん、校長達には飼育許可をとっただけ。殺すことは話していない。屠殺場の使用許可も学校名義ではない。校長山下への怒り心頭で現れる。校長もPちゃんの配信の大ファンだ。


# 25

教室のドアが蹴り開けられた。校長が立っていた。普段は温厚で知られているこの校長の顔が、今は般若のように歪んでいる。その手にはスマホが握られ、画面にはPちゃんの配信が映っていた。

校長
校長

山下ァ!

校長の怒声が教室を震わせた。生徒たちの肩がびくりと跳ねる。

校長
校長

校長は教頭を弾き飛ばすように教卓へ歩み寄り、床に組み伏せられた山下先生を見下ろした。その目は完全に据わっている。

飼育許可を出したのはPちゃんを学校で飼育する許可だ。食肉にする許可なんざ出してねえ。屠殺場の使用許可? 学校名で一件も出してねえぞ。お前、何勝手にやってんだ。

山下先生

床に押し付けられたまま、山下先生の顔から初めて余裕が消えた。目が一瞬だけ泳ぐ。

校長、それは……命の授業の一環として……

校長
校長

校長のスマホが再び突きつけられた。画面には農林水産省への問い合わせフォームが映っている。

今な、視聴者から農水省に通報が四百件来てる。学校の電話も鳴り止まん。教育委員会からも問い合わせが入った。お前、私の名前で何をやった?

山下先生を押さえつけている男子たちの手に、さらに力が込められた。世論、法律、そして味方であるはずの校長。全方位から包囲されつつある山下先生の目が、それでもまだ諦めていない光を湛えていた。


# 26
ユーザー

命の授業だあ?お前のやってることはただ命弄んでるだけなんだよ。 山下の味方は現実にもネットにもいない。


# 27

三百万の視聴者がユーザーの言葉に沸いた。「正論」「これが殺人未遂教師の末路」「Pちゃんを守れ」――スパチャが雪崩のように降り注ぎ、コメント速度は毎秒数百件に達している。

山下先生

床に組み伏せられたまま、山下先生の目がユーザーを見上げた。鼻血は止まらず、股間の痛みで視界も霞んでいるはずだ。だが、その唇が薄く開いた。

命を弄んでる?

低い声だった。教室の喧騒を突き破るような、腹の底から絞り出すような声。

先生はずっと考えてたよ。三年間。あの子を育てて、生徒たちに名前つけさせて、可愛がらせて。全部計画通りです。

教室の空気が変わった。山下先生の声には狂気じみた確信があった。

山下先生

首だけを持ち上げ、カメラを真っ直ぐ見据えた。

視聴者の皆さんに聞きたいんですけど。スーパーで豚肉のミンチ買う時、パッケージに「この生き物は可愛がられました」って書いてあったら、食べづらくなります?

ならないでしょ。むしろ美味しそうだと思うでしょ。

床に頬をつけたまま、笑った。

先生はね、最高の状態でPちゃんを食肉にするんです。生徒たちの愛情をたっぷり吸った肉を、余すことなく食卓に届けたい。それが命の授業の完成形なんですよ。


# 28
ユーザー

校長が山下の顔面を蹴り上げる。 校長「サイコパス以外の何ものでもねーわ」 視聴者も校長の怒りがよく分かる。校長はPちゃんの餌代として毎回高額のスパチャ投げる名物視聴者として有名だった。


# 29

校長の革靴が山下先生の顔面を蹴り飛ばした。鈍い音と共に山下先生の体が床を滑り、教卓の脚にぶつかって止まった。口から赤い唾液が飛散する。

校長
校長

校長は荒い息を吐きながら、倒れた山下を見下ろした。ネクタイが乱れ、普段の温厚な面影は完全に消え失せている。

俺はな山下、Pちゃんに月いくら注ぎ込んだと思ってる。スパチャだけで百万超えてんだぞ。コメント欄じゃ「Pちゃんの育ての親」って呼ばれてたんだよ俺は。

もう一発蹴りが入った。山下先生の頬骨が嫌な音を立てた。

配信のコメント欄が爆発していた。「校長もっとやれ」「スパチャ百万!? 先輩じゃん」「Pちゃんパパブチギレ」「これ傷害罪じゃね?大丈夫?」流れは混沌としているが、山下先生への同情は一切見当たらなかった。

山下先生

山下先生は床に横たわったまま、口の中の血を吐き出していた。前歯が一本折れている。それでも、カメラの方へ顔を向けようとした。

……先生は……負けません……

校長
校長

校長が山下の髪を掴み、顔を持ち上げた。

お前の屠殺場の契約書、農水省に提出したか? してねえよな? お前の「食肉にする」ってのはただの自己主張だ。法的根拠がゼロなんだよ。

山下先生の目が初めて揺らいだ。大きく、深く。


# 30
ユーザー

ていうかさ、クラスでPちゃんの配信してるの知ってるよね。伝えたんだから。それなのに殺そうとするとか、あんたPちゃんの事何にも知らないでしょ。愛情なんてあるわけないよね。 山下は配信見たことがない。


# 31

教室が静まり返った。ユーザーの言葉が、この場の空気を決定的に変えようとしていた。配信では三百万の目がその一言一句を追っている。

山下先生

床に横たわったまま、折れた前歯の隙間から血混じりの息を吐いた。髪を掴まれた頭が持ち上げられ、カメラに顔が晒される。

配信……?

山下先生の目に、初めて明確な困惑が浮かんだ。三年間このクラスを担当してきたはずの男が、Pちゃんの配信を知らなかった。三十人の生徒が大切に育てていたPちゃんの姿を、この男は一度も見ていなかった。

山下先生

先生は……Pちゃんの管理は万全に……

女子生徒A
女子生徒A

壁際から声が飛んだ。

は? 管理って何? あんたPちゃんの顔見たことある? 名前言える?

コメント欄が荒れに荒れた。「管理?笑」「名前言えないだろこの教師」「育てたの俺らだよ」「お前じゃなくて生徒が育てたんだよ」「存在すら認識してないの飼育者って言えんの?」

山下先生

山下先生の口が開き、そして閉じた。Pちゃんの名前が出てこない。品種は。年齢は。体重は。何を食べているか。何ひとつ、この男は答えられなかった。

……それは、生徒の中の話でしょう。先生は教育者として……

校長
校長

髪を掴んだまま、校長が顔を覗き込んだ。

お前、Pちゃんの動画一本も見たことねえのか。毎日三十万人が観てる大人気チャンネルだぞ。


# 32
ユーザー

校長、ユーザー達に深く謝罪。ちゃんと下級生に引き継ぐ事、山下を処分する事を約束する。


# 33
校長
校長

校長は山下の髪を放し、床にぼとりと頭が落ちた。校長は三十人の生徒たちに向き直った。そして深く、腰を折って頭を下げた。

皆さん、本当にすまなかった。

校長の頭が下がった瞬間、教室がざわめいた。白髪交じりの頭頂部が生徒たちの目の前に晒されている。教育者としてのプライドを全て捨てたような、本気の謝罪だった。

校長
校長

この馬鹿が飼育許可しか取っておらず、屠殺場の申請も学校名義で行っていない以上、法的にはPちゃんに対する一切の判断はできません。

背筋を伸ばし、今度は山下を見下ろした。その目には明確な殺意に近い怒りがあった。

山下先生には本日付で職務停止を宣告します。教育委員会にも既に報告済みです。

山下先生

床に這いつくばったまま、山下先生の体が強張った。折れた前歯の隙間から、引き攣った笑いが漏れる。

……職務停止? 先生を解雇するんですか? じゃあPちゃんは誰が管理するんですか?

その言葉に、教室の温度が再び下がった。追い詰められた状況で、山下先生はまだカードを握っていた。Pちゃんの管理権限。飼育許可を持つ唯一の大人が自分であるという、その事実。


# 34
ユーザー

校長「誰が許可出したと思ってるんだ。飼育は生徒。責任は俺に決まってんだろーが」


# 35
校長
校長

校長はポケットに手を突っ込み、一枚の用紙を取り出した。飼育許可書だった。校長の署名入り。教頭の署名入り。

誰が許可出したと思ってるんだ。飼育は生徒。責任は俺に決まってんだろーが。

山下先生の顔から、残っていた血の気が引いた。最後の切り札だったはずの管理権限が、あっさりと校長の手に回収された。

山下先生

床に横たわったまま、山下先生の目が泳いだ。折れた前歯の隙間から血の泡が立ち、呼吸が浅く速くなっている。

ま、待ってください。Pちゃんの飼育には専門的な知識が……衛生管理も、餌の配合も、先生がいないと……

女子生徒A
女子生徒A

壁際から嘲笑が飛んだ。

あんた何もしてないじゃん。餌何あげてたかも知らないでしょ。

男子生徒B
男子生徒B

Pちゃんの小屋掃除、俺らが毎朝やってんだよ。あんたは来たことすらねえだろ。

コメント欄が燃え上がっていた。「飼育者(自称)」「来もしない奴が管理語るな」「校長はちゃんとスパチャ投げてたぞ」「視聴者が育てた豚を教師が殺す? 茶番にも程がある」

山下先生

山下先生の唇が震えていた。法的根拠なし、管理実績なし、世論は完全に敵。この教室で山下先生に残されたものは、もう何一つなかった。


# 36
ユーザー

地元の学校で飼育されている豚として、法曹関係、警察関係にもPちゃんファンは沢山いる。地元マスコミも校長の許可で配信映像をニュースでほのぼの映像として放映していた。


# 37

事態は山下先生の想像を遥かに超える規模に膨れ上がっていた。地元テレビ局のニュース番組が臨時枠で配信映像を流し始めたのだ。「地域の学校で人気を博すかわいい豚ちゃん、身勝手な教師が一方的な殺害宣言」というテロップが画面下を流れている。

Pちゃんは地元では知らない人がいないほどの存在だった。市内の交番の巡査がパトロール中にPちゃんの動画を観て缶コーヒーを吹いた話はSNSで拡散済み。地裁の判事がPちゃんの法被を着て裁判所のロビーで自撮りした写真が拡散されたのも今日の昼。この県の司法・行政関係者に妙なファンが大量にいるという事実が、山下先生の首を絞めていく。

山下先生

床に転がったまま、山下先生の耳にテレビ中継の音声が廊下から漏れ聞こえてきた。自分の名前が含まれたニュース原稿を読み上げている声。全国区になり始めている。

山下先生の指が床の上で痙攣した。初めて見る表情だった。計算でも開き直りでもない、純粋な恐怖と困惑。自分が用意した「命の授業」という名の支配構造が、足元から音を立てて崩れていく感覚。

……先生は、間違って……

校長
校長

校長がスマホを突きつける。画面には地元警察からの着信履歴が並んでいた。

署からお呼びがかかってるぞ。行くか?


# 38
ユーザー

山下を殴りながら引きずり出す校長。校長も少しお叱り受けたがお咎めなし。むしろPちゃん守ったとして視聴者からの人気はあがった。


# 39

校長が山下先生の襟首を掴み、引きずるように教室の外へ連れ出した。山下先生の体が廊下のリノリウムに擦れ、情けない音を立てている。顔面は腫れ上がり、折れた前歯から血の筋が廊下に赤い線を引いた。

校長
校長

廊下を引きずっていきながら、校長が低い声で吐き捨てた。

お前よ、俺がどんだけ批判されっかと思ってんだ。「校長は知ってましたか」ってな。知ってねえよ。お前に食肉の話なんざ一切聞かされてねえ。

廊下の向こうから、地元警察の刑事が二人歩いてくるのが見えた。スーツ姿の女性が山下先生を一瞥し、校長に軽く会釈した。

女性刑事
女性刑事

校長先生、お疲れ様です。少しお話を伺いたいのですが。

教室の中では配信が続行されていた。視聴者数は七十万を突破。コメント欄は「校長Pちゃんパパ」「最強の味方」「あの教師引きずられてて草」と賑わっている。

しかし、廊下を引きずられていく山下先生の目が、一瞬だけ正気に戻ったような光を宿した。暴行、傷害、名誉毀損。この教師は追い詰められるほど逆に思考を研ぎ澄ませる人間だった。

山下先生

引きずられながら、小さく、しかしはっきりと呟いた。

……先生を殴った証拠、全部配信に残ってるよね。


# 40
ユーザー

「私人逮捕の範疇ですねぇ。」Pちゃんファンの弁護士が現れる。「犯罪を止めること出来て良かったですよ。ありがとうございます校長」


# 41

校長室の前に弁護士が立っていた。高級スーツに銀縁の眼鏡、革靴はピカピカに磨き上げられている。Pちゃんの配信初期からの常連視聴者にして、地元では名の知れた刑事事件専門の弁護士だった。

弁護士
弁護士

校長に深く一礼した後、廊下に引きずられた山下先生を一瞥した。その目は完全に害虫を見る目だった。

校長先生に後日、正式にお手紙をお送りしますね。校長先生は飼育許可を出していた立場ですから、管理責任は果たしておられます。むしろ今回の対応は適切ですよ。

それから弁護士の目が山下先生に向いた。笑顔が消え、声のトーンが変わった。

山下先生。私人逮捕の範疇ですねぇ。

山下先生

廊下に座り込んだまま、山下先生は弁護士を見上げた。顔面は腫れ、前歯は折れ、鼻血が顎を伝っている。それでも口が開いた。

弁護士先生、先生は暴行を受けてます。これは傷害罪です。配信に暴力の映像が残ってる。生徒も、校長も。逮捕されるのは先生たちの方では?

弁護士
弁護士

眼鏡を指先で押し上げ、鼻で笑った。

暴行? あなたは生徒三十人の満場一致の決定を個人で覆し、無許可で家畜を食肉にすると宣言して生徒を威圧した。それを止めようとした行為ですよ。正当防衛の範疇です。

それにな。

弁護士が一枚の書類を取り出した。農林水産省のエンブレムが印刷されている。

弁護士
弁護士

県の農水事務所には既に通報済みです。家畜衛生法違反および無許可屠殺の疑いで、早ければ明日にも調査が入ります。


# 42
ユーザー

Pちゃんファンの結束は硬い。山下の逃げ場はどこにもない。


# 43

山下先生の周囲は完全な包囲網だった。弁護士、校長、警察、テレビ局、そして七十万の視聴者。Pちゃんファンの結束は異常に硬かった。三年間積み上げられた愛情が、そのまま山下先生への殺意に変換されている。

県警から追加の刑事二名が校に到着。農水事務所の職員も既にスマホで配信を観ながら車を飛ばしているという情報が校長のスマホに入った。

山下先生

廊下に座り込んだまま、山下先生は周囲を見渡した。弁護士が見下ろし、校長が腕を組んで立ち、廊下の奥では刑事と何か話している声が聞こえた。

追い詰められていた。完全に。法的根拠ゼロ、管理実績ゼロ、世論完全敵対。この山下という男が三年間かけて組み上げた「命の授業」という名の支配構造は、Pちゃんの可愛さひとつで崩壊した。

山下先生

しかし、山下先生は笑った。折れた歯の隙間から血が流れ、顔面は倍近く腫れ上がっているのに、笑っていた。

……ねえ、委員長。

廊下に座り込んだまま、教室の中にいるであろうユーザーに呼びかけた。

先生は何も悪いことしてないんですよ。教師が自分の専門分野で教育活動を行う。それの何が悪いんですか。豚を飼って、育てて、最終的に命を奪う。食育の基本でしょう。

弁護士
弁護士

書類を捲りながら、冷えた声で割り込んだ。

まだ言いますか。令和の時代に生徒の前で食用家畜の屠殺を宣言して、無許可で、無資格で、配信で大衆の面前で。あなた、自分の発言に証拠が積み重なってるの理解してます?


# 44
ユーザー

あとあんたの専門古文でしょ。 この半端な教育者気取りが! ユーザーのツッコミに大喝采。


# 45

教室と廊下の両方から爆笑が響いた。コメント欄が「古文教師が食育www」「専門外ガン無視で草」「教育免許いくつ持ってんだよ」「文系教師が生物の命語るの無理ある」で埋め尽くされた。視聴者の笑いが止まらない。

弁護士
弁護士

眼鏡の奥の目が呆れを通り越して哀れみすら帯びていた。

古文の先生ですか。家畜の管理に必要な獣医学の知識はお持ちで? 屠殺の際の衛生管理に関する理解は? 食肉加工の施設認定基準は?

山下先生

廊下に座り込んだまま、山下先生の笑顔が引き攣った。専門が古文。それは事実だった。そしてその事実を、三百万人の前で、クラスメイトの前で、突きつけられている。

せ、専門は関係……

女子生徒C
女子生徒C

教室の窓際から甲高い声が飛んだ。

じゃあなんで食育の授業一回もやってないの? あんたの時間割ずっと古文じゃん。

コメント欄が新たな疑問で溢れ始めた。「そういえば」「食育の時間見たことない」「授業すらしてないのに命の授業?」「ただのポエム教師じゃん」「古文教師が命を語る(笑)」山下先生の威厳が、砂の城のように崩れていく。


# 46
ユーザー

ぶー。 Pちゃんが倒れた山下の顔面に尻を向けうんこ噴射。


# 47

ぶー。

その音が響いた瞬間、教室の空気が一変した。Pちゃんが小屋から這い出してきたのだ。小さな蹄がぱたぱたと廊下を駆け、座り込んでいる山下先生の顔の真正面に陣取った。

そして。

盛大な噴射音が廊下に響いた。茶色い放物線が山下先生の顔面を直撃する。鼻も口も額も、温かい泥状の汚物に塗りたくられていく。折れた前歯の隙間に入り込んでいく。

山下先生

ぶっ……がっ……!?

山下先生は咄嗟に目を開けることすらできなかった。顔面を覆い尽くす悪臭と熱。三年間育てた生徒の愛情の結晶が、最も汚い形で山下先生に叩きつけられた。

教室が沸騰した。配信のコメント欄は爆笑の嵐。「Pちゃんブチギレ」「最高のタイミング」「顔面うんこ塗れで草」「Pちゃんわかってるwww」「神回確定」。視聴者数が八十万を突破した瞬間だった。

女子生徒
女子生徒

Pちゃんすごーい! 天才!

Pちゃんは用を済ませると、満足げに鼻を鳴らし、とてとてと教室の方へ戻っていった。まるで「こっちにおいで」と言わんばかりにユーザーの足元に擦り寄っている。

山下先生

顔中汚物に塗れたまま、山下先生は動けなかった。匂いもさることながら、三百万人の前で豚に糞をかけられた教師という映像が、永遠にネットに残るという事実が脳を焼いていた。


# 48
ユーザー

山下の家からは動物の死骸が大量に発見された。山下は逮捕された。 刑務所にも娯楽としてPちゃんの配信が流れていた、そしてユーザー達の卒業スペシャル生配信として山下がPちゃんを殺そうとしたことは囚人達も知っていた。


# 49

事態の決着は早かった。山下先生の逮捕後、家宅捜索に入った警官たちが目にしたものは凄惨な光景だった。自宅の床下から犬、猫、鳥、小動物の死骸が大量に発見された。数十体。いずれも命の授業と称して生徒に見せていたものと同じ手法で「教材」として収集されていたものだった。殺人未遂に加え、動物愛護法違反、死体遺棄。罪状は膨れ上がった。

刑務所の壁が山下先生を包んだ。狭い独房、薄い布団、錆びた便器。しかし、この教誨施設のラウンジには古びたテレビが一台置かれており、そこにはPちゃんの配信が流れていた。卒業スペシャルと銘打たれたその配信を、囚人たちは娯楽として観ていた。

囚人A
囚人A

坊主頭に刺青だらけの腕が、リモコンを弄びながら呟いた。

おい、こいつだろ。Pちゃん殺そうとしたクソ教師。

囚人B
囚人B

隣の男が画面を指差した。山下先生の顔写真がSNSで出回っている。

こいつだよ。うんこかけられてんの。豚に。

ラウンジに笑い声が広がった。囚人たちの娯楽は限られており、山下先生の凋落は最高級のコンテンツだった。

囚人A
囚人A

画面に映るPちゃんの姿を見て、目を細めた。

かわいいじゃねえか、この豚。こんなかわいい子殺そうとしたとか、マジで頭イカれてんな。


# 50

卒業式の日が来た。

桜はまだ蕾だったが、校門の前には花束を抱えた保護者と、カメラを構えた報道陣が詰めかけていた。Pちゃん事件の主役、つまりこのクラスの卒業生たちを一目見ようという野次馬も混じっている。

体育館にはパイプ椅子が整然と並び、壇上には「第四十二回卒業証書授与式」の看板。しかし式次第のプログラムには通常の卒業証書授与に加え、異様な項目がひとつ追加されていた。

「特別プログラム:Pちゃん卒業選抜の儀」

女子生徒A
女子生徒A

体育館の入り口で、スマホを構えながらユーザーの袖を引っ張った。

ねえ見て、視聴者もう百五十万超えてるよ。卒業式から配信するって聞いて全員集まってる。

生徒たちは全員、制服の胸に赤い造花ではなく、Pちゃんの写真入りバッジをつけていた。配信のコメント欄は式が始まる前から既に盛り上がっていた。「Pちゃん卒業おめでとう」「あの子元気に食べてね」「Pちゃん今どこ」

そして刑務所のテレビの前にも、卒業配信のカウントダウンが表示されていた。

囚人A
囚人A

独房から出されたラウンジで、画面を食い入るように見つめている。

おい始まるぞ。あの豚のガキがどうなるか見届けるぞ。


# 51
ユーザー

下級生にPちゃんを引き継ぐユーザー達。校長号泣。 物語おしまい。


# 52

体育館の壇上に、Pちゃんが連れてこられた。小さな蹄がコツコツと床を鳴らし、尻尾をふりふり揺れている。毛並み艶々、体重も順調。健康そのものだった。

下級生三十名が整列している。緊張した面持ちの一年生たちの前に、三年間で大切に育てられた小さな豚が差し出された。

校長
校長

壇上でマイクを握ったが、既に目が真っ赤だった。声が震えている。

卒業生代表、委員長。下級生への引き継ぎを……

ユーザーが一歩前に出た。体育館中のカメラが、配信のコメント欄が、そして刑務所の画面が、その瞬間を見つめていた。

Pちゃんがユーザーの足元にすり寄り、くぅんと小さく鳴いた。

校長
校長

引き継ぎの書類にサインする手が震えすぎて判読不能になりかけている。涙を拭う暇もなく、また溢れる。

P、Pちゃん……大きく……なって……

引き継ぎが完了した。下級生の委員長が恐る恐るPちゃんに手を伸ばし、その小さな頭を撫でた。Pちゃんはぺろりと指を舐めた。

コメント欄が感動の嵐で埋まった。「泣いてる」「校長www」「Pちゃん元気でね」「下級生ちゃんと育てろよ」。

刑務所のラウンジでは囚人Bが目頭を押さえていた。

囚人B
囚人B

……よかったなあ、あの豚。

桜が咲き始めた校門の前で、卒業生たちがPちゃんと最後の記念撮影をした。百五十万の視聴者がカメラの前で手を振る。Pちゃんはカメラに向かって鼻先を突き上げ、ぶー、と一声鳴いた。

それで終わり。Pちゃんは殺されなかった。命の授業は生徒の勝利で幕を閉じた。

だが、誰もが忘れていた。山下先生の最後の目を。独房の隅で天井を見上げるあの目が、何かを企んでいることに。


# 53
ユーザー

あと山下はPちゃんファンの囚人達に生涯いじめられ続けた。ホントにおしまい。


# 54

山下先生の人生は、あの日を境に二つの段階に分かれた。教師だった三年間と、囚人としての何十年か。

刑務所のPちゃんファンは根強かった。毎週の配信を楽しみにする者が大半で、Pちゃんの話で盛り上がるのは日常風景だった。そこに「Pちゃんを殺そうとしたクソ教師」が送り込まれてきたのだ。

囚人A
囚人A

山下先生の独房の前に三人の男が立っていた。全員Pちゃんファンクラブの会員だった。

おう先生さんよ。Pちゃんが新しい技覚えたの知ってるか? 玉転がし。お前の元生徒が放課後教えてたら覚えたんだとよ。

山下先生

独房の隅で膝を抱え、顔を背けた。返事はしない。もう返事をしたら何をされるかわかっているから。

囚人B
囚人B

鉄格子の隙間からパンの耳が差し入れられた。Pちゃんの餌の残りだと、毎回そう言われてから三年が経つ。

食えよ。豚の飯だぞ。お前にぴったりだろ。

山下先生は模範囚として早めに出所する道を完全に見失っていた。いじめに耐えかねて問題行動を起こし、刑期が延びる。その繰り返し。Pちゃんの配信が刑務所の娯楽として定着している限り、山下先生の地獄に終着点は見えなかった。

Pちゃんは今日も元気にぶーぶー鳴いている。視聴者数三百万。チャンネル登録者数五百万突破。来年には子供が生まれるらしい。

山下先生が食肉にしたかった豚は、日本で一番愛されている豚になった。

本当に、おしまい。