『いやはや…どうやら私はアナタの力を見くびっていたようでしたな…』 黒焦げになったシュッツガイストが立ち上がり星皇アインス=ドナーへと向かって行く。 なぜこいつは死なない…? そんな陳腐な疑問も奴はこの星の者でなく超常の世界の住人だと思えば納得も行く。 だとしたらこの私にできることはあるのか…、心の深淵から染み出るそんな思いをアインスは頭を振ってかき消す。 そんな彼女の心情を知ってか知らずか、シュッツガイストはこう宣った。 『そうです。アナタが危惧するように私はこの世界から生じた物ではありません』 『ですからお見せしましょう。この星の理とは違える真の姿を!』 シュッツガイストの体より可視化出来るほどの強力な電流が流れ出ると、彼の体が膨れ上がるのが確認できる。 その身の丈は徐々に膨れ上がり、まさにエジンナイルの勇者ロボかというほどの巨体へとなった。 アインスはシュッツガイストが変身したこの姿に見覚えがある。 そうそれは自身の心の一番奥底に眠った恐怖の記憶。 生まれ故郷を襲った脅威それは魔王、その名も「霹靂魔王ゲヴィッターヴォルケ」であった…。 『どうです?思い出しましたか星皇? これはあなたの生まれ故郷を襲った魔王ですよ』 『普段の姿はスピードタイプといったところですが、こいつは言うなればパワータイプです。どのような攻撃にも耐えて磨り潰します…』 ゲヴィッターヴォルケは何やら沈思に耽るようにアインスを見つめる。 『懐かしいですねこの姿も…。全てはここからが始まりでした。』 『聖剣・星骸炉・魔王・星姫そして適合者。その散らばった全てを一か所に集め、バルロスの種火を生み出すのが今回のミッション。長期に渡る計画でしたので途中の頓挫が心配でしたがアナタ方親子はよくやってくれました』 『何?お気づきでない?アナタ方が諦めそうな時に私めが散々サポートをしてあげたではないですか。例えば聖剣チップの情報開示とか…』 『そして星皇、アナタを適合者にする道筋を立たせるのにも色々苦労がありましたよ』 『聖剣チップ方式はバックアップ要員を増やすのには役立ちましたが後始末には苦労する。その意味であのコージン=ミレーンには助かりました。恐らく計画の邪魔になるであろうアナタの仲間たち、そう人造勇者の始末をやってくれてるんですからね…』 こいつは一体何を言っているんだ…。私たち親子の苦悩と奮闘の日々が全てこいつの掌の上の話だったとは…。 理不尽な展開に頭はぐちゃぐちゃになるが即座に方向性をまとめる。 理由はどうでも良い。こいつは敵だ今すぐ叩き潰す! 『さぁ始めようじゃないですかお互いのプライドを賭けた殴り合いというものを…』    *   *   *   *   * グラウンド666の上空に二匹のドラゴンが相対している。 一方の赤い巨竜は人造勇者拾弐號ツヴォルフ=ドラシーナ。それと向かい合う白い巨竜はライトいやがーすけの真の姿である。 『そこの見知らぬ赤き竜よ、正々堂々と一騎討ちで我と決着を付けようぞ! 異論が無ければ返答をせよ!』 がーすけの申し出に拾弐號はグルルルッ!と唸りを上げて返答する。それを聞いてがーすけが呟く。 『人語を解するくせに人語を話すことはできない。所詮造り物か。竜としての格の積み上げ方が歪になっている…。ならば教えてやろう!真の竜の戦いと言う物をな!』 自身に向って来るがーすけを狙い拾弐號は口から火炎弾を放つ。 がーすけがそれを避けると火炎弾は地面に着弾し、まるでミサイルのような爆発をする。 『なるほど火力はかなりの物だな…。ならば撃ち合いに付き合ってやろう…』 がーすけが空中に留まると拾弐號は火炎弾を乱射する。それに合わせるようにがーすけはブレスを連射する。まるで細い針のような小さなものであったが、射貫かれた火炎弾は炸裂しがーすけに近寄せることすらできない。 「(凄いや…。軽々と出したブレスなのにあんなデカい炎を壊している…)」 固唾を飲んで見守るライトにがーすけは説明する。 『我の放ったブレスは貫通力に重きを置いた収束率の高い物だ。撃ち落せさえすれば良いのならあの程度で十分よ。何せ当たれば勝手に爆発するのだからな』 『恐らくあの造り物は人や魔族の大軍相手の経験はあるのだろうが、一騎討ちの経験は無さそうだ。力の使いどころに無駄が多い…』 火炎弾が通じないと判断した拾弐號は大きく息を吸うと、今度は広範囲に火炎を放射する。 その火力は5万度、炎に巻かれてしまえばいくらドラゴンであっても無事ではいられない。 がーすけは翼を羽ばたかせ逆風を送り込む、そして深呼吸をすると再びブレスを放つ。 今度のは衝撃波が拡散されるタイプであり、風と合わせることで5万度の火炎を完全に防いでいる。 火炎攻撃は通用しないと理解した拾弐號は爪を振るって斬撃を飛ばす。 斬撃は風と衝撃波の壁を破ってがーすけへと向かうも軽々と避けられてしまう。 『不意打ちとはなかなか良い手だったぞ。だが風の壁を展開している最中だったから、弾道が丸見えなのが残念だったな』 がーすけも爪を振るって斬撃を飛ばす。 斬撃を避ける、ぶつけ合わせて相殺させる。今度は互角の撃ち合いとなった。 必死に斬撃を繰り出す拾弐號であったが、体や羽の各所に貫かれるような痛みを感じる。 がーすけは先ほど出した貫通力重視のブレスを斬撃に紛らせて放っていたのだった。 針のようなブレスは大きな斬撃に混じることで捕捉がしづらくなる。これは殺し合いである、何も同じ技にこだわる必要はない。 そうか自分も技を組み合わせればいいのか…。そう気づいた拾弐號は大きく息を吸って火炎放射の準備をする。 だががーすけはその隙を見逃さない。高速で一瞬の内に拾弐號の元へ近づくと尻尾を全力で叩きつける。今度は殴り合いの勝負だ。 尻尾が叩きつけられ、拾弐號のせっかく溜めた息が吐き出される。 拾弐號も尻尾を振るおうとするが、それを読んでいたがーすけは自身のを尾を巻き付けて相手の武器を防ぐ。 もはや拾弐號に残された手段は文字通りの殴り合いしかない。 拾弐號は必死に手足を振るって斬りつける。だががーすけは腕や足をを振るってそれを払いのける。 その姿はまるで格闘技における払いやパーリングのようであった。 『我が友がやっている格闘技というものを参考にさせてもらったよ。こいつは無駄がなくて良い物だ。長く生きていてもこうして新たに教わることもあるのだな…』 焦る拾弐號の顔面にがーすけは頭突きを入れる。 怯んだ瞬間を見計らいがーすけは拾弐號の首に噛みつき、尻尾をほどいてフリーにさせると力任せに振り回して放り投げる。 『これで止めだ』 がーすけは大きく息を飲むと強烈なブレスを放つ。今回のは衝撃波拡散式で拾弐號の全身にダメージが突き抜ける。 拾弐號は力尽き地面へと落ちて行くのであった…。 拾弐號が目を覚ますと眼前の上空には白い巨竜が自分を見下ろして語りかけている。 『力は悪くなかったが、竜同士の戦いをあまりにも知らなさすぎる。さぁ来るが良い。まだ命はあるのだろ。貴様に真の竜の戦いと言う物を教えてやる…』 人造勇者としての誇りを持ってはいるし、敵を倒すという使命も理解はしている。 だが拾弐號の体は動けなかった。恐らくこれは生物としての生存本能がそうさせてしまったのだろう…。 怯える拾弐號の元に近づいてくる人影が見える。 「どうしたの?ドラシーナ…。まだ戦いは終わってないよ…。僕はあいつの血を吸わなきゃいけないんだから戦ってよ…」 それは人造勇者陸號ザット上等兵であった。 ライトによって手足を切り落されたが、すでに新たな四肢が生えてきている。 合成獣人由来の強力な再生能力とはいえ、ここまで早いのは明らかに異常である。 これは彼の執念が為せる業なのだろうか…。 「何で戦ってくれないの…。じゅあその力もういらないよね…」 陸號は両腕から刃を生やす。試作聖剣はライトが壊したはずなのに…。 陸號は聖剣をがーすけいやライトへと見せつける。 「どう凄いでしょこれ。悔しいんで聖剣の欠片を腕の中に埋め込んでいたら何か再生しちゃった! これでまた君と戦えるね」 陸號は両腕の聖剣を拾弐號の胴体に突き刺す。 「ごめんねドラシーナ。でもこれは戦わない君が悪いんだよ。仲間だから死なない程度に血は残してあげるから安心して…」 拾弐號の血を吸い出した陸號の体に変化が起こる。 体は巨大化し羽が生え首が伸びて行く。 そして全身に鱗が生え始めると顔面の骨格も変わってくる。 そう陸號は新たな姿を得たのだった、赤い巨竜の姿へと…。 (続く)