今やそれは完全に、彼女の弱点として機能していた――比喩的な意味だけではない。 そこをねちっこく撫で回されるだけで、完全に奥までが開いてしまうのである。 だが、中には既に先約がある。どれだけ熱心に精を吐いたところで実るわけもない。 けれど男は、己の種の付いたその箇所目掛けて、生物的には無意味な行為に没頭していたし、 彼女自身、自身の子宮が――内から圧迫されて今にも飛び出てきそうになっているというのに、 彼の穂先に甘えて吸い付く子宮口を、絡んで舐め回す膣襞をどうしようもない。 けれど彼の腰使いは、その手つきに反比例して激しく、臨月胎の奥までを掘り穿つ。 ずしん、と突き上げられた重い胎は胴体ごと揺らして自然に両乳房へと振動を伝播する。 すると当然、その先端からは、先に母の内より這い出た長子の飲むべきもの、 甘ったるく粘っこく、赤子の腹を満たすためだけに分泌される雌狐の母乳が、 だらしなく吹き散らされ――部屋のあちこちに飛び出てしまうのである。 時に男は、女の乳房にその汚い唇を吸い付いて母乳をらっぱ飲みする。 それは、与えるべき相手ではない。愛を注ぐべき対象でもない。 既に孕んだ雌にしか興奮できない、雄としては根本的矛盾を孕んだ連中―― その歪んだ欲求を満たすための裏の風俗、そこに潜入する任務を任されて、 要件が済めば“処置”してしまえばいいと、仕える主の種を頂いて潜り込んだのが二年前。 中々目当ての客を捕まえられず――種はすくすく育ち続け――ようやく相手を捕捉した頃には、 彼女の端正な身体の線は、すっかり母親のそれへと変化してしまっていた。 だが皮肉なことに、その不格好に前に突き出した腹部、横に垂れた乳房のたるみこそが、 男たちを惹きつけてやまぬ武器となるのである。ましてその男は殊更に、 孕み頃の雌の身体が肉を付けて歪んでいく様をこそ愛好していたのだった。 一度目の臨月胎をしつこく撫で回され、舐め回されてもいくうちに――彼女は、 己の腹が凹んだ後からまた膨らみ直すまでの一年を掛けてやれば、片が付くと踏んだ。 毎回毎回指名してくるよう、骨抜きにして――快楽に溺れさせてしまえばいい。 どうせ半分は、人間風情の遺伝子から生るものなのだ。道具として扱ったところで、 彼女の良心が痛むことはない――その想定は、ある意味において正しい。 しかし彼女にとって想定外だったのは、いざ自分の種を蒔いて、実っていくまでの期間、 男がよほどねちっこく、しかし優しく、彼女の身体を抱いたことであった。 絆されるような感性などない。しかし、己の身体が――改めて母となり直していく中で、 単なる肉体の変化の要因としてしか見ていなかった、妊娠、という雌雄の営みが、 雌の側の精神を、否応なく蝕んでくることを認識させられるのであった。 内心に、男を軽蔑する想いは確かにあるのに――まだ膨らみもわからぬ下腹を丹念に、 妊娠線の跡を一本一本なぞるように指で擦られ、母としての自覚を促される。 すると雌として造られたその肉体は、自ら担うべき機能の十全に果たされていることに、 望んでそこに生命を宿したということに――言葉にならぬ悦びを見出す。 それは理性では抑えきれない、有性生物の宿命ともいえる、強い衝動である。 自分がこの雄と、何も褒めるところのない下衆と、子を生すことを選んだ―― それを再認識されるたびに、心の隔壁にじんわりと、何かが染み込んでくるのだ。 どれだけ強く閉ざしても止められない。番に対する、本能的な、愛着とでもいうべきもの―― だがやはり彼女は、それを肉体の発する偽りの感情であると理解している。 容易には、そんな男に心を許すわけもない。所詮、種を蒔いた優越感に浸っているだけ―― その警戒心も、内側からこみ上げてくる感情によってゆっくりと融かされていく。 孕み女の抱き方に手慣れた連中、男もまた心身の変化によってぐらついている娼婦相手に、 どのように接すれば本気にさせるかぐらい、心得ている。言葉ではただ甘く、 突き上げる腰は、ねっとりと、その浅くなった膣道を擦りながら責め立てる―― 次第に女は、自分が身体を売って彼を悦ばせている、という本来の仕事を忘れ、 その一突きごとに、否定しきれない心からの悦楽の声を上げるようにされてしまっていた。 そしてそれを、男は不意に止めてしまう。激しくなりすぎないように、ともっともらしく、 実際には、女の身体を火照らせるだけ火照らせて、後に引けなくするために。 彼女が自ら、もぞもぞと尻をくねらせるか、抽挿をねだるような言葉を吐いたなら、 これ幸いと――また、ずん、ずん、と弱点ばかりを突き回すのである。 その際、彼の手は膨らみの目立ち始めた彼女の腹部をこねこねと撫で回している。 ぷっくりと飛び出した臍を、普段外気に晒されることのないその敏感な箇所を爪で擦り、 膣内への刺激と、腹部の皮、臍への刺激が脳内で結び付くようにじっくりと仕込む。 すると彼女は、男を部屋に招き入れてからの前戯の間に、腹を撫で擦られるだけで、 身体が覚え込まされた快楽を思い出して、勝手に、とろとろと蜜を吐き出し始める。 乳首もまた、同じように、そうして性感帯に育てられた他の箇所と紐付けされて、 搾られもせぬうちから、たらたらと母乳を垂れ流し、乳房の上に白い跡を残していく。 それを――男はわざとらしくずるずると啜りながら、やはり腹を撫でてやる。 自分と彼女との子が――この中にいることを思い知らせてやりながら、 授乳によって、その相手に自然と愛着を抱いてしまう母としての本能を悪用するのだ。 長子に与えるべきものを、次子の父が啜ることによって――その男自身を、愛してしまう。 肉体の持つこの矛盾を、男は巧みに利用して彼女の心の隔壁を開いていった。 そして臨月に達そうものなら、一層、彼の責めと条件付けはいやらしくなる。 今や彼女は、彼の太く短い指がごしごしと腹部を擦り回るその感触だけで、軽く達してしまう。 突き上げられながらそれをすると――傾国の名も形無しだ。声を止めようにも止められない。 眼鏡の下には、理知の輝きを失ったただの獣の瞳が快楽だけを見つめている。 入道雲のような桜色の大きな尻尾も、肉の悦びにびくびくと震えて収まりがつかない。 上唇と下唇の間を、粘ついた唾液が何本も垂れ落ちて――上擦った声を通す。 彼の、この雌を孕ませ、堕としたいという原始的な欲求をそのまま反射したかのように、 彼女は、この雄の子を宿し、産みたいという欲求に囚われていく。 男が、彼女の子宮にしか価値を見出していないのは明らかであった。 だがそれゆえに、彼女が相手に返すものも、己の子宮一つに完結していた。 この男を身体でもって籠絡し、さっさと情報を抜いておさらばする――そのはずが、 雌の機能だけを求められるという最も慎ましやかな欲求に縛られて、抜け出せない。 妻や恋人としてさえ、彼女のことを求めておらぬのだ。ただの、自分の種を蒔いた畠。 それは、金銭やしがらみで肉体を異性に開く、人類の浅ましさのためか――あるいは、 そういった関係性自体が、雌雄の交わりという原始的な行為への後付けに過ぎぬのか。 いずれにせよ、彼女は彼の性器が自分の膣内に収まっているその一時を酷く幸福に思い、 身重であることを喜んだ――だが、やがてそれは出さねばならぬ。 男の目の前で彼によって使い込まれた膣口を開き、ひくつきながら羊水を吐く子宮口を見せ、 必死になっていきむその顔に、果たしてどれだけ冷徹さや計算高さが残っていたか。 二度目ではあるが、望んで孕み、望んで産むのはこれが初めてなのである。 脳内に桜色の――髪と、尻尾と同じ色の稲妻がばちばちと走り回って神経を焼く。 産む幸福を刻印し、孕みたいという欲求を第一のものへと書き換えていく。 男が出産を見ながら性器をしごいている異様な有様を――女は笑いながら受け入れていた。 この胎が空けばまたすぐ、彼が新しい子を種付けてくれるに違いなかったから。 狐と人とを半々に混ぜたような赤子は――ゆっくりと、外界に吐き出されてくる。 その前にも、この後にも同じように、何匹も何匹も何匹も。