人造勇者伍號トラウアーゲサング少尉が目を覚ますと、そこは液体に満たされたカプセルの中にいた。 思いもよらぬ光景に周囲を何度も振り返る。すると彼女の視界にガスマスクを付けた老人と思わしき男がカプセルへと近づいてくる。 「お~目覚めたんか、姐ちゃん。悪いがその物騒な両手は実験の邪魔だから外させてもらったよ。今は合成獣人から作った治療用の人工細胞の実験台をアンタにやってもらってる」 「そのまんまで使ったら獣だの虫けらだの変なもんが生えてきかねないんでデチューンしてるから、もう一週間ぐらいかかるかもしれないがちゃんとした手や目が生えてくるはずだ…」 ここはどこだ?お前はなぜ私を治療している? そんなトラウアーの問いにガスマスクの男フリッツ博士が答える。 「俺だって自分の命を狙おうとした連中など助けてやる義理なんかねぇよ。だがなメトリって奴のツレのモジャ毛野郎が土下座してまで頼むからやってやったんだ。礼を言うならまずアイツにするんだな…」 フリッツ博士はぼやくように話を続ける。 「本当迷惑な話だぜ。ブリッツの奴、知ってんだろアンタの仲間だよ。あいつがケガ人どもをどんどん持ち込んで来やがったせいでこの有様だ」 他のみんなはどうなったんだ?というトラウアーの質問に博士は答える。 「ガキみたいなチビっこい姐ちゃんは、メトリのツレの仏頂面した兄ちゃんが治癒魔法で治してやった。でアンタらの大将だっけか、そいつはこの治療を受ける気はないと言ってどっか行っちまったぜ。治ったチビの姐ちゃんも一緒にな」 「そいつが言うには『この腕は父の形見、そして私が背負うべき罰』だとさ…」 そうか…大尉は…。トラウアーが大尉の行く末を案じるように噛み締めているともう一人の仲間を思い出す。 「そうだ!もう一人ここに来なかったか?手足を人工物に変えられた少女なんだが?」 フリッツ博士は思い出したかのように答える。 「あぁ…確かに来たな。だが肉体の欠損が激し過ぎて、ここじゃ無理だと言って知り合いのところに行ってもらったよ」 「そこならなんとかしてもらえるはずだ。ただ残った細胞の量が少なすぎるから、赤ん坊からやり直しになるだろうな。まぁイカレポンチになった頭をリセットする、いい機会にはなるわな」 「俺の知り合いのDr.スワンプって奴のとこに行っているはずだ。その子は無痛症って話らしいから、そいつの治療もついでにやってもらってる。次の人生は感度3000倍だ、嘘だよせいぜい3倍ぐらいだ」 仲間たちが無事な様子を聞いてトラウアーは安堵する。 「にょわ~☆ お爺ちゃんバラしたパーツを持って来たにぃ☆」 トレーに乗った大量の肉片を持って来たのはスヮリゲーターであった。 「おぉすまねぇ。そいつはそこの分解装置にぶち込んどいてくれ。後、お爺ちゃんはやめてくれよ。身内でもねぇんだからさぁ」 「にょわ?☆でもスヮリにとっては命の恩人だし、本当のお爺ちゃんみたいなもんだにぃ☆」 スヮリゲーターは嬉々としてそう言う。 「ったくしょうがねぇな…。おいカイモス、何笑ってやがる。さっさとその合成獣人のパーツをバラせ。腐っちまったらオメェの分の治療用細胞が残らなくなっちまうぞ!」 カプセルの中にいるトラウアーに向って博士が思い出したかのように言う。 「思い出したがあのモジャ毛野郎からの伝言だ。アンタの言う完璧な演奏ってやつをいつか見せてくれだとさ…」 カプセル内のトラウアーはうなだれながら呟く。 「そうだな…。ありがとう漆拾漆號…」   *   *   *   *   * バルロス盆地を囲む山々を越えた道中、メトリ・スナイプ・ハナコ・ギルの四人がレンハート方面に向って歩いている。 「あぁ~あ。せっかくのいい人材確保できたと思ったのに…」 ハナコがうなだれながら愚痴をこぼす。 「博士へのお礼ができたら遊びに来るとは言ってくれたんだろ。スカウトはまたその時にしろ」 ギルがハナコへ慰めの声をかける。 「でもこの四人で旅するのも本当久しぶりだよねぇ…」 あっけらかんとしたスナイプの言にハナコがツッコむ。 「そういえばさぁ、スナイプはあの人放っといて良かったの? アンタの関係者にしては珍しくちゃんとした女の人だったじゃん?」 「勘弁してくれ。あれは辞めた職場の元上司という、世の中で会いたくない人間のトップ3に入るような間柄だよ。それにあの人は、こんな殺伐とした世界には戻って来ない方がいい…」 スナイプの遠くを見るような目を見てハナコはこれ以上話を続けるのを止めた。そして思い出したかのようにメトリへと問いかける。 「そういえばさぁ!何でライトたちがいるって教えてくれなかったの? 王子を見つけたら首に縄括ってでも連れて帰って来いって王様やメロ様から言われてるのよ!」 「それはお前が遅れたせいだろアズライール」 若干キレ気味な口調でメトリが応える。 「それは確かにメトリちゃんの言う通りだよ。俺だって短い間だったけど何度もあの旦那たちには会っていたぜ」 スナイプはメトリの言に乗っかる。 「仲間がピンチでいち早く助けを求めているというのに、お前は好きな男と一緒に旅する方を選んだんだよな。この色ボケが!」 機械仕掛けの表情からも殺気が漂うメトリの威圧感に、ハナコはハイすいませんと…と言うしかなかった。 「でもライトたちどこに行っちゃったんだろ…」 ハナコは青く澄む広い空を見つめていた。    *   *   *   *   * 「なぁライト、俺たちどうやら勇者になったらしいぞ」 当の事案から一か月後、休憩時道中で買った新聞を読みながらミレーンが呟く。 「ちょっと何言ってるかよく分からないんですけど」 「何でもなこの記事によると、自国民が2度も世界を救ったのに何もしないアホな国に、だったらウチでもらってもいいよねと某大国を含む複数の国からオファーが来たそうだ。で、そのアホな国ではすったもんだの末に、そいつらを勇者として認定するから帰って来いだとさ」 寝耳に水の話ではあるがライトはそのソースである新聞を見てミレーンに言う。 「よく見て下さいよこれイースポですよ。普段競馬とプロレスと日付以外は信用するなって言ってるやつじゃないですか」 「ほなガセか…」 ミレーンの持つ新聞の一面には『百獣の森・真夏の祭典 獣1クライマックス開幕 リクガン流血KO』と書かれている。 「大体あの頭レンハートな国が僕らを勇者って認めると思いますか?」 ライトは鉄製のコンテナを担ぐと俺にさっさと行こうと即す。 「それにしてもあんだけ忌器をぶっ壊したのに、まだそれ壊れないんですね」 ライトが俺の胸の輝石を見ながら言う。 星骸炉を破壊した後、俺たちは敵のラボと呼ばれる建物を強襲し保管していた忌器を全て破壊した。 台帳と照らし合わせてひとつでも漏れがあったら全員皆殺しだと脅したら、研究員たちは皆協力的になってくれたのでスムーズに済んだ。 おかげで今俺の胸にある輝石はまるで高いところから落したス魔ホの画面並にバキバキになっている。 「もう2~3個ぐらい壊せば行けそうな気がするんだがなぁ…」 俺の言に対して脳内からツッコミが入る。 「(本当よ。さっさと壊してくれないと余は君の中から出られないんだからね。まぁ仕事をサボるいい口実になってくれるし、話相手にも事欠かないのは助かるけど…)」 魂魄縛りの禍石の力によって俺の脳内に住人が増えた。火山王ラーヴァである。 「(ホンマやねぇ。ウチらいつも同じメンバーやから、話のネタも尽きかけとったんで助かったわ)」 「(ラーヴァちゃんおもろいから、おばちゃん達も大歓迎やで。それはそれとしてパンドラちゃんあれは何なん? せっかくこの兄ちゃんと再会できたのに何で好きって言わへんの。おばちゃんらもうイーッってなったわ)」 「(ほんまやで。女だからって告白は相手待ちって時代やないんやから。もっと自分からガーっと行かんと)」 「(…アッス(うっっっっっぜぇぇぇぇーーー))」 脳内でパンドラが居たたまれない様子を見せている。魂魄縛りの禍石でラーヴァを取り込んだ際に、周囲を漂っていた彼女の魂もついでに取り込んだみたいだった。 「いいかパンドラ、この状況から早く脱したければ忌器の破壊を手伝うんだぞ」 俺の言に対して脳内の聖女たちがパンドラを囃したてる。 「(こんなんパッパと終わらせてヨミ国行ったらええやん。夢虚渦いうの使ったらまた現世に戻れるらしいで)」 「(あらちょうどええやん。ほんでこの兄ちゃんにちゃんと告白しような、パンドラちゃん)」 「(ウチらはもう現世はどうでもええんやけど、こればっかりはほんま心残りやで。大体生きとった時もウチら、アンタらええ雰囲気にさすためにわざと席外しとったんやからな)」 「それにしてもお前ら大分キャラ作ってたんだな…」 俺のぼやきに聖女たちが応える。 「(あったりまえやん。ウチら商売で聖女やっとるんやで。でもこんだけ人数増えたら、もうええか…ってなるわ)」 俺の脳内も今回の件で大分騒がしくなってきた。俺の精神がおかしくなる前に解放してもらえるのだろうか…。 「それにしてもまたマスグラに逆戻りですか…」 ライトが重たい荷物を担ぎながらぼやく。 「借りたメックスーツを返しに行かないといけないからな。こんだけぶっ壊れてると向こうもいらねぇって言うかもしれんけど…」 メックスーツを借りて協力してもらった関係上、レス兄には今回の事件についての経緯報告もしてある。 ただメッセのやり取りだけでは詳細な事情を説明するのは難しいので、直接会って説明するということになった。 とりあえずレス兄からは「アレお前らのせいだったの…」と非常に困惑した様子が伺えたのであった。 (終)