『星皇殿、あなたにはこれから宙へと行ってもらいます。そしてそこにいるバルロスと一体化するのです…』 黒仮面の男シュッツガイストの発言に星皇アインス=ドナーは我が目いや耳を疑った。 「お前は何を言っているんだ…?」 冗談とも妄言とも愚弄とも取れる不可解な発言の真意をアインスは頭の中で推察した。そして出た答えはこのようなものであった。 「なるほど…。バルロスを倒して機体を奪い取り、この滅び去った街の仇を取れということか…」 アインスの答えを聞いたシュッツガイストは右手を顎に当てながら小首を傾げる。 『う~ん惜しいですね。では少しアナタ方が機工竜バルロスと呼んでいる物の話をしましょう』 『機工竜バルロスは数百年とも数千年以上前とも言われている、先の人魔大戦の際に作られた竜型のゴーレムと伝えられています。ですがそれは間違いです。正確には機神竜バルロスという名を持ち、はるか宙の彼方から降りて来ました』 『その目的はこの星を初期化すること。無軌道に増えた多種多様な生物を選別することです。もちろん人間もその排除される側に含まれていましたが、当時魔王と呼ばれる存在が率いていた勢力は圧倒的に強く。もはや滅亡の危機にまで人間は追いつめられていました』 『そこでバルロスは状況を判断します。弾き出された結論はより高い脅威判定としてまず魔王や魔族たちを滅ぼし、人間や他の生命は後回しにするというものでした』 『人間には一瞥もくれず魔族たちを倒して行くバルロスの姿を見て人はこう思います、あれは神が遣わした人類の味方だと。そしてバルロスの行動に合わせて人間たちも反撃を開始します。その結果長きに渡る先の人魔大戦は人類側の勝利に終わりました』 『次のフェイズでは人類の敵に回るはずのバルロスでしたが、当時の魔王の力はとても凄まじく機体だけでなくエネルギーの損耗も限界に来ていました。永久魔力炉と呼ばれているジェネレーターが損傷のため機能停止をしたからです。そこでバルロスは眠りにつきナノマシンによる修復を目論みます。それがアナタ方がよく知る機工竜バルロス伝説の真実です』 『ではここで話の時系列をほんの数年前まで戻しましょう、例のバルロス事変です。バルロスは圧倒的な戦力でこの街を蹂躙するエビルソードの存在を感知した時、元々インプットされていた緊急回避プログラムが発動。非常用の予備動力を使いこの街より離脱しますが、その動力もすでに使い尽くし現在は所謂宇宙空間という場所にて待機しております…』 何とも荒唐無稽な長話を聞かされたアインスに呆れ顔の表情が映る。 得体の知れない恐ろしい存在ではあるが現状は無害な物ではないか、そんな物を捕らえて一体何をするのだと…。 『そしてここからが本題です。星皇アナタにはバルロスの内部にある永久魔力炉と一体化してもらい、この星のマナを使ってその動力源となってもらいます』 シュッツガイストの発言にアインスはカチンと来る。 「お前は私を虚仮にしているのか…。この私にあのデカいだけの機械竜のための薪や種火代わりになれとだと?! 大体その本体を動かすのは誰だと言うのだ?」 『バルロスを動かすのはバルロスの心ですよ。そしてその源は大いなるホロビタルリングの意思によるもの。この星を初期化するためにしっかりと働いてもらいますよ星皇…』 「お前は一体何者だ?何のために動いている? 答えろ!シュッツガイスト!」 アインスの問いにシュッツガイストは右手を心臓の上に置く丁寧な挨拶の姿勢を取りながら答える。 『私はバルロスにより生み出された端末の一つ。私の目的はバルロスと同一。その原理はホロビタルリングの意思。全てはバルロス復活のための種火を生み出すためですよ星皇…』 『この件に関してはアナタの意向は一切反映されません。このまま私と一緒に宙の上まで行きます。もちろん拒絶をすれば力ずくで拉致するだけです』 「ふざけるな!この姿は全てお前に踊らされた結果だというのか! 私は私の意思で今まで道を切り開いてきた!自らの力でな!」 アインスはシュッツガイストを目がけて自然の落雷クラスほどある高圧電流を放つ。シュッツガイストの姿が消えた思うと、アインスの背後へとすでに回り込んでいた。 『恐ろしい威力ですが、当たらなければどうってことないという言葉もあります』 シュッツガイストはアインスの後頭部を手刀で叩きつける。アインスは一瞬意識が飛んだかのように苦悶の声を出す。 大量のマナによって強化されたアインスの肉体にも関わらずダメージを与えられるのは、シュッツガイストはスピードのみならずパワー自体も非常に強力なのであろう…。 アインスが電撃を放つ、シュッツガイストがそれを避けて死角から打撃を食らわす。 こんな一方的な攻防が続くとさすがのアインスにも疲労の色が見え始める。 すると何かを思いついたのか彼女は目を瞑り全身の力を抜いた自然体に体を構える…。 『何かの策があるのか、それとも諦めてしまったのか。いずれにしても私はアナタをバルロスの元へと連れて行くだけです。安心して下さい、殺しはしません。少しばかり眠っていただきます!』 目を閉じたアインスの全身にシュッツガイストの移動音と気配を感じられる。 手に届く範囲まで敵が近づいた気配を感じると、アインスは全周囲360度の球体状の範囲に電撃を放つ。 『グワッ!』 獲物が網に捕らえられた音が聞こえる。アインスは目を開けその方角に手を伸ばす。 「近づいて来るのが分かっているのなら、その瞬間全方位に攻撃を広げてやればいい。以前の私なら思い付かなかった豪華な電撃の使い方だよ。気づかせてくれてありがとう、そしてさよならだ…」 アインスはシュッツガイストの首を掴んだ左腕から渾身の電撃を放つ。 黒焦げになった彼は完全に息絶えたかのように見えたのだが…。    *   *   *   *   * 「ほらほら!少しづつ殻が取れて来てるよ! そろそろ食べに行く時間だね!」 人造勇者陸號ザット上等兵の高速の刃がライトの纏うメックスーツの外装を弾け飛ばす。 だがそんな状況でもライトは冷静に陸號の動きを分析する。 陸號はアーマーを失ったライトの左肩を狙って突きを入れる。 するとライトは身を反時計回りに捻らせながらそれを避け、そのまま回転し陸號の横っ面にバックブローを叩き込む。 顔面を強打された陸號であるが怯むことなくさらに攻撃を仕掛ける。 フェイントとして素早い斬撃を数発入れる、スウェイしながらそれを避けるライトの胸元のガードが下がる。 陸號はそれを待ってましたとばかりに、斜め上に振り上げた右手の刃をそのまま軌道を折り返して斬りつける。 だがライトはそれも予測していたかのように体を捻りながら倒れ込むと左足を軸にして右足を振り切る、所謂水面蹴りという技だ。 なかなか思う様に行かず苛立ちを見せる陸號へライトは煽るように話しかける。 「君の動きはとても早いよ、おそらく肆號よりも上なんじゃないのかな。でもね動きが単純すぎるんだよ。はっきり言おうか、君は肆號よりも弱い」 それは両者と戦った経験から導き出したライトの率直な感想である。 単純なスピードだけなら陸號の方が早いが、彼の攻撃は主に両腕の試作聖剣のみである。 柔軟性を活かした多彩な蹴り技を持つ肆號と違い、攻撃の来る方向は上半身だけを注視すれば良い。 試作聖剣自体も血を吸われることで自身の能力がコピーされるのは危険ではあるが、戦闘に影響する多彩なギミックを持つ肆號と比べればとにかく当たらなければ良い。 それに加えて彼はライトの血を狙いアーマーの剥がれた箇所だけを目標としている。守る側はその場所だけ警戒していれば良いのだから、脅威度は大いに下がるのだった。 「わかったよ…。正直この手はあまり使いたくはなかったんだけどね。どんどん人間離れしちゃうから…」 再度陸號は両腕の試作聖剣を振るいながらライトへ近接する。 何らかの次手を持っているのか…、ライトは警戒しながら攻撃を避け冷静に捌く。するとライトの本能に何かが来る予感がする。 それは陸號の方から感じられる。両腕の刃は今躱して捌いた、両足は蹴り出す気配がない、一体どこから来るんだ…。 事実その予感は当たった、思いもよらない方向からである。 陸號の両足の間から何か太く長く柔軟性のある物が振り上がり、ライトの纏うアーマーの前面部へと強烈に叩きつけられる。 ライトは衝撃で1mほど吹き飛ばされる。その破壊力はメックスーツにも亀裂が入るほどであった。 その攻撃の原因は陸號から生えてきた尻尾であった。 「そうか…スヮリさんの力を吸収してるから、その手も使えるよね…」 陸號は斬撃に加えて尻尾による鞭打も織り交ぜる。 試作聖剣による斬りつけはライトの血を狙おうと的確に体が露出する箇所を狙い、反対に尻尾はそれ以外の箇所へと叩きつけられる。 ライトは必死に避けるがいかんせん手数の多さに加えて、尻尾のリーチ差は逃げ回るライトへ確実にヒットする。 尻尾の衝撃でヘルムに付いたダメージのせいで一瞬視界が閉じられる。ライトは大急ぎでヘルムを脱ぐとそこには陸號の姿は消えていた。 次の瞬間ライトの全身が拘束される。背後に回った陸號が尻尾でライトの全身を巻き付けたのであった。 「これは言うならザットデスロールって感じだね。この尻尾でがっちり締め付けてるから逃げられないよ。じゃあこれから君の血と生命力そして能力をいただくとするよ。今見えてる箇所だと首がいいかな、喉元を切り裂いて頸動脈から吸い取ってあげる…」 陸號は両腕を広げると二つの試作聖剣をライトの首へと向かわせる。だが次の瞬間であった。 グァアアアアア!!!! 咆哮と共にライトの口から強烈なブレスが試作聖剣の刃を目がけて放たれる。至近距離から放つブレスは二つの刃を欠けさせると陸號の腕も弾き飛ばす。 衝撃に加え聖剣の損傷は陸號を非常に動揺させる。それはライトを拘束していた尻尾が思わず緩むほどであった。 ライトはそれを見逃さない、フルパワーで全身を広げさらに翼も展開し勢いを付ける。そのまま前方に飛び出すと見事にザットデスロールを外すことに成功したのだった。 「ふざけんなぁ!何で聖剣でもない物が僕の聖剣を壊せるんだよぉ!」 自身のアイデンティティでもある試作聖剣が破損したとあって、いつも笑みを絶やさず飄々とした物腰の陸號が感情的になる。 人造勇者たちの言う「聖剣は聖剣でしか壊せない」。これはあくまで生半可な武器では壊せないという強度を示す言葉であって絶対的な原理ではない。 現にライトは肆號戦で得意の高周波振動ブレードを使って、肆號の持つ『従順』の聖剣を破壊した実績がある。 陸號は両の剣を揃えてライトの頭部を狙って降り下ろす。 ライトは両腕の刃を震わせ、陸號の剣を十字受けのような形でガードする。両者の鍔迫り合いは拮抗をする。 だが陸號は尻尾による一撃を虎視眈々と狙っているのはライトにも容易に思いつく。仕方ない…アレを使う時が来たか…。 ライトは手首を使って右手の甲を上に向けて曲げ、アーマーの手首の箇所に付けられているスイッチのような物へと触れる。 すると右前腕部アーマーの下面から鎌のような大きな刃が回転しながら生えてくる。振動して赤熱化した刃は陸號の両腕の手首を捉え切り裂いたのであった。 この刃は元はライトの着ているメックスーツ02の専用武器として用いられていた、高周波振動ブレード付きの折り畳み式大鎌である。 ライト自身が長物武器の取り扱いが不慣れなため、もしもの場合の隠しギミックとして刃の部分だけを外してスーツに取りけるようメトリに改造を依頼した物であった。 武器を失くして動揺する陸號に向ってライトは一気にラッシュをかける。 両腕、両足、そして尻尾。各パーツを細切れにすると、陸號は手足のない所謂ダルマ状態となったのだった。 ライトは仰向けになる陸號に向って彼の落した聖剣付きの両手首を見せつける。すると先端に付いている聖剣同士を激しくかち合わせ粉々に砕いたのだった。 「スヮリさんと同じ能力なら、その内手足も生えてくるんでしょ。でも君の聖剣は完全に破壊したからもう何も怖くはないよ。殺さないでおいてあげるから、少しは頭を冷やすんだね」 ライトは捨て台詞を吐くとミレーンたちの交戦場所へと向って歩み出す。 背後からは陸號の怒号とも嗚咽ともつかない叫びが聞こえるのであった。 (続く) ミレーンと人造勇者漆號レーベン=フィール軍曹との一騎打ちは一進一退の攻防が繰り広げられていた。 いや正確に言えばミレーンが出す攻撃で幾度となく漆號が傷つくもすぐに回復し、時折漆號の攻撃が当たるもミレーンが纏うメックスーツの固さのせいで有効打とならない文字通りの泥仕合である。 瓦礫を隔てた向こうからは人造勇者陸號ザット上等兵の怒号や嗚咽のような叫び声が聞こえており、恐らく彼は敗北したのだと推測される。 このまま続けて行けば状況は数的不利となり、仮に倒されないとしても現在星皇となる儀式を行っている人造勇者壱號アインス=ドナー大尉への足止めにならなくなるかもしれない。 「やりたかねぇけど、奥の手を使うしかねぇか…」 漆號は自身の持つ大剣に付いている柄頭の飾りを捻る。 すると何らかのエネルギーがチャージされ、刀身からはオーラのような圧が感じられる。 漆號は大剣を上段に構えると捨て身の勢いでミレーンへと斬りつける。 凄まじい気迫に避け切れないと悟ったミレーンは両手に持つ双剣をクロスさせて受け止めた。 ガキィン! 乾いた破壊音がミレーンの耳に入るや否や衝撃で体が吹き飛ばされる。 それはミレーンの持っていた双剣が砕かれた音であった。 元々サイズ自体はさほど長くない双剣と肉厚の大剣である。 質量差で耐久性には不利ではあったが、それでも先程まで何合も斬り合えるほどの強度を見せてはいた。 だがあの強烈な一撃でいとも簡単に壊されてしまうとは…。 武器を失ったミレーンは戦闘のプランをまた最初から練り直さなければならなくなった。 武器を失ったミレーンを見て今が攻め時と判断した漆號は、再度大剣の柄頭を捻ると刀身にエネルギーをチャージする。 漆號の斬撃をミレーンは左腕でガードする。左腕のアーマーは弾け飛び、ミレーンは真横へと叩きつけられる。 左腕の骨が折れた実感がしたので、すかさずホーリヒールで治癒をする。 その時ミレーンの目に映ったのは、数秒間ほど意識を失ったかのようにぐらつく漆號の姿であった。 何だあれは…? ミレーンが記憶を反芻する間も与えず漆號は例の高圧のエネルギーを蓄えた剣で斬りかかる。 ミレーンは必死で避けるも剣に纏ったエネルギーは刀身が辿り着くよりも先にアーマーの胸元を破壊する。 ダメージに苦悶しながら漆號を見据える彼の目に映ったのは、先程と同じように数秒ほど意識を失ったような漆號であった…。 「(相変わらずきっついぜ、この技はよぉ…)」 漆號は荒い呼吸をしながら心の中で思う。 敵に対して圧倒的な破壊力を示したこの技は彼のスキル由来ではなく、専用武器である大剣由来の物である。 正式名称は『魂心爆』。 人の命を代価として文字通り爆発的な攻撃力を生むという代物である。 だがメ●ンテのような自爆呪文と比べると威力は弱く、人一人の命をコストとするには割が合わないとさすがのヒジンドー機関の技術陣ですら採用を見送ったほどのアイテムであった。 だが命を湯水のように使える漆號の存在が確認されると、この大剣は彼の専用アイテムとして周囲から認知されることとなる。 この大剣のスキルには大きな弱点が二つある。 一つめは攻撃を炸裂させ命を使い切った後に、次の命が復活するまでに数秒間の空白の時間を生じさせること。 二つめは爆発的な破壊力を生むがその反動で刀身にダメージがそのまま帰ってくることである。 特に後者は漆號の命の格納先をこの剣が兼ねているだけに致命的な問題であった。 現にこの三連発を決めただけでも刀身からはビキビキという音が聞こえている。 故に普段から使うことはできない、まさに秘奥義とも言える技なのである。 「(仕方がない俺も切り札を出すか…)」 ミレーンは覚悟を決めるとストライカースタイルで敵を迎える。 漆號は再びエネルギーをチャージした大剣を振りかざし斬撃を加える。 ミレーンは必死に躱す。その躱した隙を狙い漆號は構え直すと敵へと突きを入れた。 漆號の放つ突き技を避け切れないと判断したミレーンは両の掌で大剣の刀身を挟みこむ、所謂真剣白刃取りのような形となる。 ミレーンの両掌のアーマーが弾け飛ぶも反動で大剣の刀身も跳ね返る。 ミレーンは体を整えながら漆號の様子を見る。やはり動きが止まっている。 今が仕掛け時とばかりに漆號に向けて右足で中段のトラースキックを放つ。 意識を取り戻した漆號は大剣を盾代わりにしながら柄頭を回してエネルギーをチャージする。 キックが刀身に当たると衝撃がミレーンへと押し寄せる、だがその瞬間であった。 ミレーンの右足脛のアーマーの側部から一本の棒のような物が射出されると漆號の大剣にヒットする。 すると漆號の大剣は音を立てながら直角に折れ曲がる。 そうミレーンが右足に仕込んでいたのは、人造勇者仇號ファルテ准尉の持っていた“折る”という概念兵装の試作聖剣であった。 起死回生の一撃を加えたが代価もまた大きかった。 大剣の放つエネルギーのせいで仇號の試作聖剣は砕け散ってしまったのだ。 漆號は直角に折れ曲がってしまった大剣を呆然と見る、だが次の瞬間口元をにやりとする。 試作聖剣は曲がってしまったが破壊もされず無事だ、そして敵は全ての切り札を失った。 今が一気呵成のチャンス!魂心爆を使わなくても勝てる! 漆號はそう確信すると曲がった聖剣をふりかざしながらミレーンへ斬りかかる。 「どうやら聖剣は全て失ったようだな!俺の勝ちだ!」 漆號の言葉を聞き、ミレーンもまた不敵な笑みを見せる。 「残念だったな…、聖剣はまだここにある!」 ミレーンは右手の手刀で漆號の聖剣をカウンターで迎え撃つ。 「“カンラークの赤い雨”!」 漆號の聖剣とミレーンの手刀が交錯する。次の瞬間二人の目に映ったのは刀身が砕けた漆號の大剣だった…。 ミレーンは漆號に右の手の甲を見せつける。そこにはアーマーの隙間から刃の欠片のような物が垣間見えた。 それは以前ミレーンが仇號の戦いの際に戦利品として拾った聖剣チップの欠片であった…。 足に取り付けた仇號の試作聖剣用簡易パイルバンカーと聖剣チップのアーマーへの仕込み。 これらはいずれもミレーンがメトリに頼んだメックスーツの改造ポイントだった。 無限の命の源である聖剣を破壊され膝を落す漆號、彼の前にミレーンが立ちはだかる。 「お前とは色々あったが、これで白黒をつけてやる。安心しろ、殺さないでおいてやるから俺たちの邪魔をするんじゃないぞ!」 ミレーンは漆號の体を上空へ高く振り上げる。そして空中に飛ばされた彼を追ってミレーンも高く飛び上がる。 「行くぞ!死にたくなければコイツで当分寝てるかさっさと逃げろ!“レンハートスパーク”!!!!!」 「ゲェーーーーー!!!!!」 漆號は完全に失神した。多分死んでないとは思うが、死んでたらまぁその時はその時だと割り切る。 ミレーンたちの決着が着いた頃合いでライトがこちらへ合流する。あちらも上手く敵を撃退できたようだ。 早速星骸炉へと向おうとした時、上空から爆炎が降り注ぐ。 攻撃を放ったのは人造勇者拾弐號ツヴォルフ=ドラシーナである。 彼女は陸號漆號のリクエストに応えて勝負の邪魔を避けていたのだが、両者が敗北した今侵入者を排除するために遠慮をする必要はなくなった。 俺とライトは必死に爆炎を躱す。作戦開始当初と違いアーマーの残り面積も大分少なくなってきている。直撃を食らえば致命傷にもなりかねない。 完全に足止めを食った状況の中、ライトが俺に提案をする。 「ミレーンさんは認識阻害を使って星骸炉へと先に向って下さい。僕はあのドラゴンを倒します」 「それは構わないがお前一人で大丈夫なのか?」 俺の心配を他所にライトは目の色と声色を変えながらこう宣う。 「何を言っているんですか。ドラゴン相手ならこっちには本物がいるんですよ」 『あの造り物に真の竜の戦いというものを教えてやらんとな…』 ライトはメックスーツを完全にパージし、がーすけに主導権を入れ替えると竜の本体へと変身する。 上空へ飛び上がる彼の姿を見届けると、俺は認識阻害を使い星骸炉へと急ぐのであった。 (続く) 『いやはや…どうやら私はアナタの力を見くびっていたようでしたな…』 黒焦げになったシュッツガイストが立ち上がり星皇アインス=ドナーへと向かって行く。 なぜこいつは死なない…? そんな陳腐な疑問も奴はこの星の者でなく超常の世界の住人だと思えば納得も行く。 だとしたらこの私にできることはあるのか…、心の深淵から染み出るそんな思いをアインスは頭を振ってかき消す。 そんな彼女の心情を知ってか知らずか、シュッツガイストはこう宣った。 『そうです。アナタが危惧するように私はこの世界から生じた物ではありません』 『ですからお見せしましょう。この星の理とは違える真の姿を!』 シュッツガイストの体より可視化出来るほどの強力な電流が流れ出ると、彼の体が膨れ上がるのが確認できる。 その身の丈は徐々に膨れ上がり、まさにエジンナイルの勇者ロボかというほどの巨体へとなった。 アインスはシュッツガイストが変身したこの姿に見覚えがある。 そうそれは自身の心の一番奥底に眠った恐怖の記憶。 生まれ故郷を襲った脅威それは魔王、その名も「霹靂魔王ゲヴィッターヴォルケ」であった…。 『どうです?思い出しましたか星皇? これはあなたの生まれ故郷を襲った魔王ですよ』 『普段の姿はスピードタイプといったところですが、こいつは言うなればパワータイプです。どのような攻撃にも耐えて磨り潰します…』 ゲヴィッターヴォルケは何やら沈思に耽るようにアインスを見つめる。 『懐かしいですねこの姿も…。全てはここからが始まりでした。』 『聖剣・星骸炉・魔王・星姫そして適合者。その散らばった全てを一か所に集め、バルロスの種火を生み出すのが今回のミッション。長期に渡る計画でしたので途中の頓挫が心配でしたがアナタ方親子はよくやってくれました』 『何?お気づきでない?アナタ方が諦めそうな時に私めが散々サポートをしてあげたではないですか。例えば聖剣チップの情報開示とか…』 『そして星皇、アナタを適合者にする道筋を立たせるのにも色々苦労がありましたよ』 『聖剣チップ方式はバックアップ要員を増やすのには役立ちましたが後始末には苦労する。その意味であのコージン=ミレーンには助かりました。恐らく計画の邪魔になるであろうアナタの仲間たち、そう人造勇者の始末をやってくれてるんですからね…』 こいつは一体何を言っているんだ…。私たち親子の苦悩と奮闘の日々が全てこいつの掌の上の話だったとは…。 理不尽な展開に頭はぐちゃぐちゃになるが即座に方向性をまとめる。 理由はどうでも良い。こいつは敵だ今すぐ叩き潰す! 『さぁ始めようじゃないですかお互いのプライドを賭けた殴り合いというものを…』    *   *   *   *   * グラウンド666の上空に二匹のドラゴンが相対している。 一方の赤い巨竜は人造勇者拾弐號ツヴォルフ=ドラシーナ。それと向かい合う白い巨竜はライトいやがーすけの真の姿である。 『そこの見知らぬ赤き竜よ、正々堂々と一騎討ちで我と決着を付けようぞ! 異論が無ければ返答をせよ!』 がーすけの申し出に拾弐號はグルルルッ!と唸りを上げて返答する。それを聞いてがーすけが呟く。 『人語を解するくせに人語を話すことはできない。所詮造り物か。竜としての格の積み上げ方が歪になっている…。ならば教えてやろう!真の竜の戦いと言う物をな!』 自身に向って来るがーすけを狙い拾弐號は口から火炎弾を放つ。 がーすけがそれを避けると火炎弾は地面に着弾し、まるでミサイルのような爆発をする。 『なるほど火力はかなりの物だな…。ならば撃ち合いに付き合ってやろう…』 がーすけが空中に留まると拾弐號は火炎弾を乱射する。それに合わせるようにがーすけはブレスを連射する。まるで細い針のような小さなものであったが、射貫かれた火炎弾は炸裂しがーすけに近寄せることすらできない。 「(凄いや…。軽々と出したブレスなのにあんなデカい炎を壊している…)」 固唾を飲んで見守るライトにがーすけは説明する。 『我の放ったブレスは貫通力に重きを置いた収束率の高い物だ。撃ち落せさえすれば良いのならあの程度で十分よ。何せ当たれば勝手に爆発するのだからな』 『恐らくあの造り物は人や魔族の大軍相手の経験はあるのだろうが、一騎討ちの経験は無さそうだ。力の使いどころに無駄が多い…』 火炎弾が通じないと判断した拾弐號は大きく息を吸うと、今度は広範囲に火炎を放射する。 その火力は5万度、炎に巻かれてしまえばいくらドラゴンであっても無事ではいられない。 がーすけは翼を羽ばたかせ逆風を送り込む、そして深呼吸をすると再びブレスを放つ。 今度のは衝撃波が拡散されるタイプであり、風と合わせることで5万度の火炎を完全に防いでいる。 火炎攻撃は通用しないと理解した拾弐號は爪を振るって斬撃を飛ばす。 斬撃は風と衝撃波の壁を破ってがーすけへと向かうも軽々と避けられてしまう。 『不意打ちとはなかなか良い手だったぞ。だが風の壁を展開している最中だったから、弾道が丸見えなのが残念だったな』 がーすけも爪を振るって斬撃を飛ばす。 斬撃を避ける、ぶつけ合わせて相殺させる。今度は互角の撃ち合いとなった。 必死に斬撃を繰り出す拾弐號であったが、体や羽の各所に貫かれるような痛みを感じる。 がーすけは先ほど出した貫通力重視のブレスを斬撃に紛らせて放っていたのだった。 針のようなブレスは大きな斬撃に混じることで捕捉がしづらくなる。これは殺し合いである、何も同じ技にこだわる必要はない。 そうか自分も技を組み合わせればいいのか…。そう気づいた拾弐號は大きく息を吸って火炎放射の準備をする。 だががーすけはその隙を見逃さない。高速で一瞬の内に拾弐號の元へ近づくと尻尾を全力で叩きつける。今度は殴り合いの勝負だ。 尻尾が叩きつけられ、拾弐號のせっかく溜めた息が吐き出される。 拾弐號も尻尾を振るおうとするが、それを読んでいたがーすけは自身のを尾を巻き付けて相手の武器を防ぐ。 もはや拾弐號に残された手段は文字通りの殴り合いしかない。 拾弐號は必死に手足を振るって斬りつける。だががーすけは腕や足をを振るってそれを払いのける。 その姿はまるで格闘技における払いやパーリングのようであった。 『我が友がやっている格闘技というものを参考にさせてもらったよ。こいつは無駄がなくて良い物だ。長く生きていてもこうして新たに教わることもあるのだな…』 焦る拾弐號の顔面にがーすけは頭突きを入れる。 怯んだ瞬間を見計らいがーすけは拾弐號の首に噛みつき、尻尾をほどいてフリーにさせると力任せに振り回して放り投げる。 『これで止めだ』 がーすけは大きく息を飲むと強烈なブレスを放つ。今回のは衝撃波拡散式で拾弐號の全身にダメージが突き抜ける。 拾弐號は力尽き地面へと落ちて行くのであった…。 拾弐號が目を覚ますと眼前の上空には白い巨竜が自分を見下ろして語りかけている。 『力は悪くなかったが、竜同士の戦いをあまりにも知らなさすぎる。さぁ来るが良い。まだ命はあるのだろ。貴様に真の竜の戦いと言う物を教えてやる…』 人造勇者としての誇りを持ってはいるし、敵を倒すという使命も理解はしている。 だが拾弐號の体は動けなかった。恐らくこれは生物としての生存本能がそうさせてしまったのだろう…。 怯える拾弐號の元に近づいてくる人影が見える。 「どうしたの?ドラシーナ…。まだ戦いは終わってないよ…。僕はあいつの血を吸わなきゃいけないんだから戦ってよ…」 それは人造勇者陸號ザット上等兵であった。 ライトによって手足を切り落されたが、すでに新たな四肢が生えてきている。 合成獣人由来の強力な再生能力とはいえ、ここまで早いのは明らかに異常である。 これは彼の執念が為せる業なのだろうか…。 「何で戦ってくれないの…。じゅあその力もういらないよね…」 陸號は両腕から刃を生やす。試作聖剣はライトが壊したはずなのに…。 陸號は聖剣をがーすけいやライトへと見せつける。 「どう凄いでしょこれ。悔しいんで聖剣の欠片を腕の中に埋め込んでいたら何か再生しちゃった! これでまた君と戦えるね」 陸號は両腕の聖剣を拾弐號の胴体に突き刺す。 「ごめんねドラシーナ。でもこれは戦わない君が悪いんだよ。仲間だから死なない程度に血は残してあげるから安心して…」 拾弐號の血を吸い出した陸號の体に変化が起こる。 体は巨大化し羽が生え首が伸びて行く。 そして全身に鱗が生え始めると顔面の骨格も変わってくる。 そう陸號は新たな姿を得たのだった、赤い巨竜の姿へと…。 (続く) 星皇アインス=ドナーの左腕から稲光が奔流のように流れ出、霹靂魔王ゲヴィッターヴォルケに向って進む。 ゲヴィッターヴォルケはそれを受け止めると背中のコイル状のパーツからアーク放電してそれを大気へと流す。 対してゲヴィッターヴォルケは人差し指を立てた右手を天に掲げると、アインスに向けて降り下ろす。すると頭上に渦巻く暗雲から稲妻が落ちてくる。 アインスは電撃で生み出した磁場を用いてバリヤーを作りそれを受け流す…。 その光景はまさに雷神と雷神の争い。ドクトル・パンドラは星骸炉の陰で聖魔法由来の防御障壁の中で怯えながら見ている。 自分のちゃちな障壁などこの雷撃が流れ弾となれば一たまりもないだろう。 神よ救いあれ…、捨てたはずの信仰にすがることしか今の自分にはできないのだ。 膠着状態にしびれを切らしたのかアインスの脳内にラーヴァが話しかけてくる。 「(あなたさぁ、自分が得意だからってのは解るけど、同じ属性のやつに電撃仕掛けても大して効かないって思いつかない?)」 「そうか…そういえば全ての属性を使えるんだったな。つい自分の手癖で電撃をやってしまう…」 アインスが左腕を構えると炎の渦がゲヴィッターヴォルケに向って吐き出される。 さらにつむじ風が熱を逃がさぬよう彼の周囲を囲って巻き込み、高炉のように効率的にその金属製と思わしきボディを溶かしに行く。 ドロドロに溶け落ちたゲヴィッターヴォルケが膝を落して崩れ落ちる。殺ったか…、アインスが安堵の息をついた瞬間の事であった。 上空の暗雲から一条の雷光がゲヴィッターヴォルケに流れ落ちる。 すると溶け落ちた金属製の体がまるで液体のような流体へと変わり、それらは元通りに体を再構築したのだった。 『なかなか良い攻撃でしたよ。さぁどんどんお見舞いしなさい。星皇よ、あなたの全力を私が測ってあげましょう。バルロスの種火に足るかどうかのね…』 「ならば次はこいつだ!」 アインスは左腕を掲げるとその掌に光が収束する。凝縮されたまばゆい光は矢となって敵の胴体を撃ち抜く。 ゲヴィッターヴォルケは穴だらけになり仰向けに倒れ込む、すると暗雲から再び雷光が落ちると体が再構築されていく。 一体こいつには何が効くんだ…? 突破口の見えない堂々巡りにアインスは焦りを感じ始めるのだった…。    *   *   *   *   * 「にょっわ~☆ スヮリ~んラリアット!」 スヮリゲーターの左腕が牛型獣人の喉元を捉えて吹き飛ばす。 首の骨がへし折れたようだが、合成獣人特有の高い回復力で復元される。 1対10というハンデ戦の状況のため、レスラーの真骨頂であるはずの投げ技や極め技が出しにくく。 病み上がりのためなのか、打撃技も的確にヒットはしているが致命傷まで与えるにはまだ足りない。 すると3体の合成獣人が示し合わせたかのようにスヮリゲーターへとのしかかる。 一体がタックルをしたのを皮切りにもう2体は両腕を捕らえ拘束しようとする。 その状況を見て指揮役の立場にあるカイモス=カルディウス准尉が、傍らにいた豹型獣人にメトリとフリッツ博士の始末を命じる。 メトリは右腕をマシンガンに変形させ迎撃するもストッピングパワーは足りず、豹型獣人は手の届く距離へと近づいてくる。 右腕を振るい上げその爪でメトリを引き裂こうとした瞬間であった、飛んできた包帯のような細長い布が獣人の腕に絡みつく。 その布切れを引き剝がそうとする左腕そして顔面にも同様に別の細長い布が絡みつくと、完全に獣人の動きを封じた。 動きの封じられた豹型獣人がもがこうとした時、獣人の胴体が左肩から右腰にかけて袈裟切りで両断される。 直立したまま残る獣人の下半身の向こうに二人の人間の姿が見える。一人は包帯のような布で獣人を拘束させた棺桶を担ぐ仏頂面の男。 もう一人はこの場に似合わないメイドの制服を身に纏った目つきの悪い少女である。外見に似合わぬ無骨な大鎌を振るい獣人を両断したのは彼女であった。 突然の乱入者に戸惑いで敵味方問わず一瞬フリーズされる。 戦い慣れているスヮリゲーターはその隙を見計らい3体の拘束を振り切ると、自身の腰にしがみつく一体を抱えてパワーボムを決める。 そのまま両腕を伸ばし体を回転させダブルラリアットで両サイドの二体を弾き飛ばすと、その内の一体をフロントネックロックに捕らえ垂直落下式のDDTで脳天をかち割る。 さらに逃げ出そうとした最後の一体はごん太の尻尾を振り回す得意技“ドラゴンテールボンバー”で後頭部を砕いたのだった。 スヮリゲーターは一気に3体を仕留めると体が温まったのか、合成獣人たちの群れに突入しちぎっては投げちぎっては投げの大立ち回りを見せる。 するとメイド姿の少女も負けじと大鎌を振るい獣人の首を刈る。 その10分程後、敵合成獣人は全て沈黙。こそこそと逃げ出そうとしたカイモスは仏頂面の男の破魔布によって絡め取られ、そのまま捕虜となった。 「遅かったなお前ら」 いつものように沈着冷静な態度のメトリではあったが、口調の端々に若干のイラつきが見える。 「何よ、ピンチの場面に間に合ったからいいじゃない」 メイド姿の少女ハナコが悪びれず返す。 「すまない遅れたのは俺のせいだ。ボーリャックの奴を見かけたという情報が入って来てな、探すのについ深入りしちまった…」 仏頂面の男サーヴァイン=ヴァーズギルトが面目無さそうに頭を下げる。 「ほらね、ギルのやつがさぁ…」 ハナコがそう話を切り上げようとした時、メトリが会話を遮って口を挟む。 「私はお前に言ってるんだよアズライール…」 「私は言ったよな…、火急のピンチだからとにかく早く来いと。ギルには私の方から連絡をつけておくと。なのにお前は何故ギルと一緒に来る? せめてお前だけでも前日までに来ていれば、こんな風に襲われずに済んだんだよ…」 クールなメトリから発せられる思わぬ圧にハナコは目を反らす。 すると彼女の視界にさきほどまで一緒に戦っていた巨体の獣人の姿が入る。この場をとにかく逃れようとハナコはスヮリゲーターに声をかけた。 「あっ、あ~アナタ凄く強いのね~。メトリと一緒に戦ってくれたんだってぇ~、ありがとぉ~」 「にょわ☆そんなことないにぃ☆ メトリちゃんもお爺ちゃんもスヮリのだ~いじな仲間だから無事でいてはっぴはっぴだにぃ☆」 見た目からは予想できない朗らかな人柄にハナコの表情もつい緩む。 「アナタ普段はどこで何をやっているの?よかったらうちの国に来ない。レンハート王家メイド隊は獣人も魔族もモンスターも大歓迎よ!」 「にょわ☆?」 メトリは轟音と雷音が鳴り響くグラウンド666方向を見ている。彼女に向ってハナコが問いかける。 「あそこで一体何が起ってるの? それにスナイプの奴はどこ行ったの?」 メトリはグラウンド666方向に指を差しながら言う。 「スナイプの奴はあそこにいる。そこでは今世界が終わるかもしれない戦いが行われている。もちろん奴一人ではない、命知らずの大バカどもが体を張って阻止しようとしている」 「アズライールにギル、お前ら二人英雄になり損ねたかもしれんぞ…」    *   *   *   *   * 「これで条件は互角だね!さぁ沢山殺し合おうじゃないか! 君の血を!力を!全て吸い取って僕はもっと強くなるよ!」 人造勇者拾弐號ツヴォルフ=ドラシーナの血と能力を吸収して、自らを巨竜の姿へと変貌させた人造勇者陸號ザット上等兵。 翼を羽ばたかせ上空にいる白い巨竜のがーすけと距離を取って対峙する。 『身の程知らずがもう一匹現れたか…良かろう…』 相手になってやるとがーすけが啖呵を切ろうとした時に、脳内でライトが待ったをかける。 「(奴とは真っ正面から相手してはダメだ、どんなに傷つこうとも真っ先に君へと突っ込んでくるつもりだ。あの親指に生えている形の違う爪は恐らく試作聖剣だと思う。奴の狙いは君の血だ、とにかく一滴でもいいから剣に吸わせれば君の力をモノにできる…)」 『距離を取ってブレスと斬撃を飛ばすという手もあるが、我が友には何か策はあるのか?』 「(まずは人間サイズに小さくなる。後はスピードで攪乱する。もちろん倒す方法もちゃんと考えてはある…)」 『なるほど、飛び回る小さな羽虫を捕らえるのは難しいというやつか。良かろう任せたぞ我が友よ』 がーすけはそう言い残すと姿が人間に戻る。その様子を見て陸號は拍子抜けした言葉遣いとなる。 「はぁ?!せっかくの大怪獣バトル楽しみにしてたのにさぁ。弱っちい人間に戻っちゃうの?やっぱ君、空気読めないって言われるでしょ。つまらないから秒で終わらせてあげるよ…」 陸號の挑発もライトは気にも留めず流すように答える。 「君みたいな他人の力頼りの三下が、僕の友達の力を奪おうだなんて100万光年早いんだよ。宣言するよ!君はこの小さくて弱っちい人間にこれから敗北する」 「(もっとも他人の力頼りってのは、僕も人の事言えないけどね…)」 (続く) グラウンド666の上空に一体のドラゴンと一人の人間が対峙している。 一方は赤い巨竜の姿へと身を変えた人造勇者陸號ザット上等兵、もう一方はライトが翼と刃を生やして待ち構えている。 「君みたいな他人の力頼りの三下が、僕の友達の力を奪おうだなんて100万光年早いんだよ。宣言するよ!君はこの小さくて弱っちい人間にこれから敗北する」 ライトの挑発の言葉も言い切らぬ内に陸號はライトに向って大口を開けて突っ込んでくる。 「秒で終わるのは君の方だよ! ちょこまか逃げられないようにしっかり噛み砕いてから血を吸い取ってやる!」 ライトは慌てず目くらましの真空波を陸號の顔面に数発放つ。ダメージは大したことは無かったが反射的に目を瞑ってしまい、その隙にライトは陸號の視界から逃れる。 「“ライトニングボルトスクリュー”!」 慌てて周囲を見回す陸號の頭上からライトの声が聞こえる。 すると落下速度プラス翼の加速で威力を付けた飛び蹴りが陸號の顔面にヒットする。 再び陸號の視界からライトの姿が失われると、今度は背後から叫び声と共に背中に射貫かれるような衝撃が刺さる。 これはがーすけが人造勇者拾弐號ツヴォルフ=ドラシーナ相手に見せた、収束を高めた貫通力重視のブレスをライトが真似てみたものであった。 陸號は手足や尻尾を振るい豪火を吐いてライトを捕らえようとするも、一行に捕らえることはできない。 力や破壊力は圧倒的になるはずのサイズ差も、スピードが同レベルやそれ以上ならば非常に厄介になる。 人間が素早く動き回る蜂やハエを手で捕まえることが難しいのと同様だ。 「(やっぱりだ…。彼はまだこの姿に慣れていない…)」 この無謀とも言える作戦ではあるがライトには確信があった。 ライトは一度がーすけに頼んでドラゴンの体を操作させてもらったことがある。 その時感じたのは人間の体との各種感覚が想像以上に違うということであった。 首は胴体よりもかなり離れ、手足は短く、可動域は狭く背後に手足を回すこともできない。尻尾を空中で振ればバランスは崩れ、格闘戦など以ての外である。 一言で言うなら操作性最悪のクソゲーといったとこだろう。 恐らくがーすけと戦った拾弐號は慣れるまでに相当の訓練を要したであろうし、今さっきなったばかりの陸號が上手く扱えるとは思えないという判断であった。 とはいえこの人間ボディのままでは火力不足は否めず、陸號を倒すことは難しい。 じきにドラゴンの体の操作にも慣れてくるかもしれないゆえ、早めに始末をしたいところだ。 「(アイツを倒すだけの火力を持たせなければならない…。がーすけ、体の一部分だけを竜化させることはできるかい?)」 『(むろん可能だ。我が友が今生やしている羽や刃も一部分の竜化にすぎない。してどこを変化させる?)』 「(右腕を頼む。渾身の一撃を叩き込むから、腕力も耐久力も最大限が欲しい…)」 ライトの右腕が全身のサイズからは不釣り合いなほどパンプアップされると、その表面に純白の鱗が生えてくる。指からは固く凶器のような鋭さを持った爪が生える。 その姿はかつて邪竜教団によって改造手術された時のような、歪な半竜人の姿のようにも見える。 「この姿には慣れたもんだよ!」 ライトは陸號から逃げ回りながら右手の拳に魔力を溜める。まだだ…もっと力を蓄えろ…。 拳は赤熱化し余剰の魔力がアークのようにスパークする。 ライトは陸號の背後に回ると翼と翼の間の背骨の辺りに強烈な一撃を叩き込む。 「“魔浸拳”!」 これは濃密に溜めた魔力を敵の体内に浸透させ、時間差で体内の中心にてスパークさせるというライトの必殺技である。 スパークさせた魔力は衝撃波を生み体内をズタズタに破壊する。 だが相手は巨竜の肉体を持ち、恐らく合成獣人由来の回復力再生力を持ち合わせているはず。 ライト自身の全力を以って叩き込まねば復活されるのがオチであろう。 故にライトは覚悟を決めていた。仮に陸號が死ぬことになっても構わない、その罪も恨みも全部被ろうじゃないかと…。 敵ではあるが幾度となく戦った相手だからこそ抱いた奇妙な思いであった。 陸號の全身が痙攣したかのように震えると、全身の穴という穴から血を吹き出して墜落する。 ライトは陸號の生死を確認するために近寄る。するとまだ息はあるようでライトの姿を見ると恨み節のように呟いた。 「血…血だ…血を寄こせ…。こんなとこで…僕は…終わりたく…ない…」 陸號がまだ生きていることにライトは驚きと不安そして多少の安堵が生ずる。 ライトは刃を震わせた高周波振動ブレードで陸號の両手の親指に生えている試作聖剣を切断すると、その聖剣の刃をドラゴンの手足の可動域では届かない背中へと突き刺した。 「そんなに血が欲しかったら自分の血でも吸いなよ」 奇妙なことに刃は陸號の血を吸い上げるとその根元から血を吹き出す。その血の中にはキラキラと光る粒子のような物が混じっている。 これは一体何なのか?魔力なのかそれとも他者から吸い取った生命力なのか? しかし今この場では知る由もない。 ライトはミレーンを追って星骸炉へと急ぐのであった。    *   *   *   *   * 星皇アインス=ドナーと霹靂魔王ゲヴィッターヴォルケの戦いは一向に進展を見せなかった。 アインスが様々な属性を使って攻撃を放ち、ゲヴィッターヴォルケはその度に破壊されるも天空から降り注がれる雷光を浴びることで復活する。その繰り返しであった。 その様子を観察していたラーヴァはアインスの脳内に語り掛ける。 「(どうやら奴の本体は目の前のアイツじゃないわね。あれだけ修復を繰り返してるんだから中身があるならリソースの変化が少しはあってもいいでしょうし…)」 「ならば奴の本体はどこにあるんだ?」 アインスの質問にラーヴァは答える。 「(恐らくアイツの頭上に渦巻いている暗雲よ。嫌な気配がずーっとすると思ったら、上の方から来るのを感じる…)」 「上か…」 アインスは上空を見上げると風のエレメントを使って強力な竜巻を起こす。それをゲヴィッターヴォルケの頭上にある暗雲へと叩き込む。 暗雲は竜巻に巻き込まれるように吸い込まれるが、竜巻が空を突き抜けると再び上空へと広がる。 『私の本体に気づくとはさすがです。ですがアナタの力では私を倒すことは不可能です。せっかくですからアナタの悪足掻きを見届けてあげましょう。私は一切手を出しません』 アインスはありとあらゆるエレメントを組み合わせて試してみる。炎、氷、雷、光、闇、毒、マグマ…etc。 アインスの攻撃が万策尽きかけたところ変化が起きる。ゲヴィッターヴォルケでもその本体である暗雲でもなく周囲の状況がである。 大地が激しく揺れ地割れが起こる。 それが収まると地の裂け目からマグマが噴き上がったと思ったら、空からは滝のような豪雨が降り注ぐ。 そして雨は雪に変わりグラウンド666をクールダウンさせる。 まさに天地がひっくり返ったような現象に困惑したアインスの脳内でラーヴァは伝える。 「(あちゃ~やっちゃったわね…。反動が起こったわ。バランスの管理もせずにバンバンとエレメント使いまくったからしょうがないわね。今頃世界中こんな感じよ…)」 その瞬間世界中で天変地異とも言える気候の変化や自然現象が起こる。 それは人界魔界問わずの光景であった。 大地は揺れ火山は噴火を起こし、巨大なハリケーンが風雨で都市も山も洗い流す。 ウエスやセーブナの沿岸部では大津波が押し寄せ、コメトレルデの平地では大竜巻が村も田畑も吹き飛ばす。 エジンナイルやサラバ砂漠には猛吹雪が吹き荒れ、強烈な日差しはサムーイテツクの氷河を溶かし洪水となる。 真昼の空に暗雲が立ち込め、太陽を遮り闇へと包み込む。これは世界の終わりだ…、誰もがそう思ったという。 「バランスの管理だと!そんなことぐらいサポートするのならやっておけ!」 アインスはしでかしたことの大きさから逃避するかのようにラーヴァへ逆ギレする。 「(管理してたわよ!それが追いつかないぐらいエレメントをバカバカ使う方が悪いんでしょ!)」 「くっ!」 ラーヴァの言も正論ではあるが、星の管理など後でいくらでもフォローは効く。今は目の前の敵を倒さねば管理もクソもない。 その混乱する世界を見てゲヴィッターヴォルケは笑い出す。 『見事ですよ星皇。アナタの力で世界は破滅へと突き進んでおります! さしずめこの星の初期化への前奏曲といったところでしょうな。私もアナタに好きなだけ撃たせた甲斐がありました』 進むも地獄引くも地獄、八方塞がりとなったアインスに、起死回生となるかもしれないアイデアをラーヴァは囁く。 「(ひょっとしてアレなら効くかも…)」 (続く) 霹靂魔王ゲヴィッターヴォルケの本体である暗雲に、あらゆる属性の攻撃を加えるも一向に効果はなく。 反対にエレメントの浪費によるバランス異常で、世界中に天変地異をもたらすことになってしまった星皇アインス=ドナー。 対処策の見つからぬ状況の中、アインスの中にいるラーヴァが起死回生になるやもしれぬプランを思いついた。 「(ひょっとしてアレなら効くかも…)」 ラーヴァの呟きにアインスは藁をも縋る様な気持ちで尋ねる。 「それは一体何なんだ?! 今すぐ答えろ!」 「(それはね聖魔法よ…)」 「聖魔法だと…?!」 ラーヴァの言にアインスは拍子抜けする。魔力持ち全てが使えるという訳ではないが、ヒーラーや神職などレベルに差はあれど冒険者PTには必需品的な存在であり希少性は低い。 アインスが今までゲヴィッターヴォルケに放ってきたような戦術級の攻撃でも効かない相手に、治癒や浄化など加えても何の意味があるのだろうか。 「(特に根拠はないわよ。ただ聖属性というのは管理者が扱える自然のエレメントとは違った場所から来ている力なの。要は試してない最後の手段はこれぐらいって意味よ)」 星の管理者=星姫が扱えるのは火×水・天×地・光×闇の相克を持った6つの基礎エレメントであり、氷や雷といった他の属性はそれらを組み合わせただけに過ぎない。 しかし聖属性は星姫たちが認知している自然エレメントとは違う場所が由来であり、それがどこから来るのかは彼女たちでも解らない。 神と呼ばれる者が本当に存在してその力を借りているのか? 人間の信仰というものが別次元の力を呼び出しているのか? この星の外部よりもたらされた力なのか?  理屈は知らないが、効くか効かぬかは試してみなければ判らないのである。 「そうか…、ならばやってみよう。聖属性の力はどのように出せばいいんだ?」 ラーヴァは呆れたように答える。 「(だから言ったでしょ私たちが扱える力じゃないって。試してみたいのなら、どこかから使える人でも探して来なさいよ)」 くそっ!ぬか喜びさせやがって…。アインスがそう吐き捨てようとした時、視界の隅にドクトル・パンドラの姿が映る。 最後の最後で切り札が見つかったじゃないか…。アインスは深刻な表情を見せながらパンドラの元へと近づいて行く。 「ドクトルあなたの力を借りたい。聖魔法の力が欲しい。奴を倒すために祈れ。いいな!」 アインスの無茶ぶりにパンドラは激しく動揺する。 「あばっばっばっ…、むっむっむっ無理ですぅ! 私みたいな落ちこぼれ聖女のしょぼい魔力じゃあんなバケモノを倒すのは無理ぃ…」 アインスはパンドラの腕を掴んで強引に引きづり出させる。 「あのデカブツを倒すには聖属性の力しかない。今この場でそれができるのはお前だけだ。魔力が足りないというのなら私がマナを供給する。やらなければお前も私も世界中の人間も奴に滅ばされることになるんだぞ!いい加減に腹を括れ!」 アインスの説得にパンドラは不安ながらも祝詞を読み上げる。それはゴーストや邪鬼を祓う聖魔法の物である。 効果は微弱ながらもゲヴィッターヴォルケに動揺を与えている。これは行ける!だが出力はやはり足りない、ならばもう一押しだ! そう確信したアインスはパンドラの両肩に手を置き、魔力の波長を同化させる。波長のシンクロを確認すると一気に大量のマナを彼女に流し込む…。 すると変化が起こる、ゲヴィッターヴォルケにではなくパンドラの方にだ。 彼女は高圧の電流にでも触れたかのように激しく小刻みに震えだすと、目鼻口耳の穴から血を流し倒れそしてそのまま息を引き取った。 予測不能の展開にアインスは動転する。 「(あんたアホなの? その体は管理者権限で強化されてるから、バカみたいな量のマナを体内に蓄えても放出しても大丈夫だけど。普通の人間に流したら耐えられるわけないって気がつかない?)」 「そっ、そんな話は聞いてないぞ! お前が事前にちゃんと言わないのがっ…」 知らなかったとはいえ、協力者でありこの場においての唯一の切り札であったパンドラを始末してしまったことにアインスは混乱している。 もっとも責任をラーヴァに転換しようとしたところで状況は何一つ変わらないのだが…。    *   *   *   *   * 『どうやら万策尽きたようですね。確かに今の聖魔法には驚きましたが少々ピリピリした程度で、それよりも勝手に自滅したのには少し笑ってしまいましたよ』 『悪足掻きはもうこの程度でよろしいでしょうか。では星皇アナタに諦めがつくまで、思う存分殺り合いましょう』 ゲヴィッターヴォルケの背中に設置されているコイル状のパーツに励磁音が響くと、周囲から電流がバチバチ音を立て始める。 そして彼が両腕を構えると濁流のように電撃がアインスへと向って流れ出る。 それに対抗するようにアインスも左腕を掲げると、そこから光のうねる大蛇のような雷光を放ちゲヴィッターヴォルケの電撃に打ち当てる。 何の属性を用いても奴には効かない、ならば自分の得意なやり方でぶつけるしかない。 今まで自らの力だけでのし上がってきたアインスである、考え方も大分脳筋なのは否めない。 激しい電撃のせめぎ合いは10分以上も続く。アインスの様子を見てゲヴィッターヴォルケは彼女にこう告げた。 『さすがは星皇、電撃勝負で私とここまで渡り合えるとは驚きです。ですがもう限界ではないのですか?』 「はったりカマして私を動揺させるつもりだろうが、このように私はまだ疲労すら感じてないぞ!」 アインスの返答にゲヴィッターヴォルケは鼻で笑いながら宣う。 『確かにアナタはそうかもしれませんね。ですが私が言ってるのはアナタの左腕の話ですよ。その造り物のね』 何っ?アインスが視線を左腕に送ると、彼女の左腕はビキッビキッと音を立てそしてパーツの継ぎ目の辺りから外装が吹き飛んだ。 アインス自身は星骸炉から湧き出るマナを使って肉体は強化されているが、機械式の腕にはマナの影響は及ばない。 彼女の左腕はもはや工業品としての限界を超えてしまったのだ。 「あっ!あぁぁぁぁぁー!!!!!」 アインスは起こった事態の衝撃と動揺の余り、壊れた左腕を押さえながら喚き散らす。 その隙を突いてゲヴィッターヴォルケの電撃はアインスに直撃し衝撃のダメージで吹き飛ばされた。 今の彼女の能力は星の管理権がもたらしている物なので、右腕だろうが目からだろうが攻撃を放つことはできる。 だが長年の戦闘経験から攻撃は左腕から放つものという固定観念ができており、臨機応変な対応ができなくなっているのだ。 『これでもう終わりです。ゆっくり眠って下さい星皇。次会う時はバルロスの中です』 ゲヴィッターヴォルケの背中のコイル状のパーツが先程よりも大きな励磁音を放つ。 吐き出された特大の電撃にアインスは終わった…と直感した。だがその時だった。 「反転…っ…」 アインスの前に男が立ちはだかる。男は両手を前に掲げるとゲヴィッターヴォルケの放った電撃を返した。 ゲヴィッターヴォルケは自身の最大出力をもろに食らってしまい少しの間フリーズをする。 だが代償は大きく男は焼け焦げた臭いを放ちながら地に倒れる。 アインスは男の元へと膝を這って近づく。男の正体はアインスとの戦いで破れ、虫の息であった元人造勇者終號ことシュウであった。 なぜ彼は敵であるはずの自分を守ったのか?動けるぐらいに回復したのであれば戦線離脱するなりあったではないか? 自身の父と同じ顔をしている男の不可解な行動に、アインスはどうしても確認しなければならない気持ちが生じた。 「貴様なぜ私を庇った? 何をしようとした? お前は一体何者なんだ?」 ただでさえあの状態から動けたのも奇跡的ではあるが、もはや限界なのであろう。 高圧電流で黒焦げとなったシュウは虚ろな目をしながら息を荒くして何かを言おうとしている。 「すま…な…か…った……ア…イ…ンス…」 この言葉を言い切るとようやく言えたという達成感と安堵感からか、彼は満足そうな顔をして息を引き取った。 敵であるはずのこの男がなぜ私の名を知りなぜ謝るのか、そしてなぜ死を恐れず私を守ったのか。 この男の不可解な行動に、アインスの心の中にひょっとしたらあれは本物の父なのではという疑念が生まれる。 アインスは慟哭した。理由はない、とにかく溢れ出る涙と叫びを止めることができなかったのだ…。    *   *   *   *   * 悲しみに暮れるアインスの前にゲヴィッターヴォルケが立ちはだかる。 『これで気は済みましたか?もうアナタを縛り付ける物はありません、そして助けも現れません。しばらくお眠りなさい』 再びゲヴィッターヴォルケのコイル状のパーツが唸りを上げる。その時であった。 「“レンハートボンバー”!!!」 何者かがゲヴィッターヴォルケの背後より強烈な飛び蹴りを入れる。 姿の見えぬその敵に彼は周囲に探りを入れるが、今度は「“ブラストキック”!!!」と正面より飛び蹴りを食らう。 その見えない刺客は奇襲を仕掛けた後、星骸炉の上に乗って姿を現す。 「遺伝子によって紡がれた絆。時に独善的な悲劇を生むこともあるが、それ以上に何事にも代えがたい沢山の無償の愛を生む…。人…それを…“親子”と言う!」 『何者ですか?! 名を名乗りなさい!』 「貴様に名乗る名などないッ!」 その刺客は認識阻害を使って姿を消していたコージン=ミレーンであった。 (続く) 時間は少し前に巻き戻る。 認識阻害を使ってグラウンド666の中心にある星骸炉へと急ぐコージン=ミレーンであったが、突如起こった地震や地の裂け目から吹き出す溶岩などに先を阻まれていた。 やっとの思いで星皇アインス=ドナーと霹靂魔王ゲヴィッターヴォルケとの戦闘の場へと近づくと、彼は現状を把握すべく物陰に隠れて様子を伺う。 するとアインスが彼女の協力者であるドクトル・パンドラを連れてくると、彼女に何かをするように命じている。 「あのデカブツを倒すには聖属性の力しかない。今この場でそれができるのはお前だけだ。魔力が足りないというのなら私がマナを供給する。やらなければお前も私も世界中の人間も奴に滅ばされることになるんだぞ!いい加減腹を括れ!」 アインスたちと対峙する巨大な敵ゲヴィッターヴォルケの弱点は聖属性なのか…。 パンドラと同じく聖属性の魔力を持つ俺の脳裏に、この戦いの勝算が朧気ながらに見え始めたのだった。 パンドラが祈りを唱えるとゲヴィッターヴォルケが動揺する動きが見える。どうやら効いてはいるようだ…。 そう思った次の瞬間、パンドラは顔面の穴という穴から血を流して絶命した。 一体彼女に何が起こったのか?聖魔法は効かなかったのか?遠くから眺めているだけでは何も解らない。 俺は計画していたいくつかのプラン通り、星骸炉の破壊場合によっては星の管理権の奪取をすべく雷撃の乱れ飛ぶ戦場へと足を踏み入れるのであった。 『(炉の上部中心にある飾りに空洞があります。星姫の亡骸は恐らくそこです…)』 俺の脳内にいる聖女から情報が提供される。 彼女らも元はパンドラと同じく「忌器封殺機関」の一員であったので、星骸炉に関しての知識は持ち合わせていたようである。 認識阻害のおかげで邪魔はされずスムーズに取りつくことができた。 炉の上部にあるケースを開けると物凄い熱と圧力が吹き出る。これがこの星から湧き出るむき出しのマナというやつなのだろう。 その中に鎮座されている生首に俺は語りかける。 「お前が星姫か? 奴等を止めるために俺に協力して欲しい。星の管理権とやらを俺に渡してくれ」 だが俺の提案への星姫の返答はあっさりしたものだった。 「君はいきなり現れて一体何様のつもりなんだ? 余がそう簡単に管理権をホイホイ渡すような尻軽女だとでも思っているのか? 不愉快だこの泥棒猫が」 星姫はケースの扉をぴしゃりと閉める。そうこうしている内に戦況に変化が訪れる。 「反転」という耳慣れた声が聞こえると膨大な量の雷光がゲヴィッターヴォルケへと返って行く。 そしてその声の聞こえた方向に目をやると、アインスが黒焦げになった男の亡骸を抱えて涙を流している。 「シュウ…」 俺は仲間を死なせることになった自身の不甲斐なさを嚙み締めた。 しかし奴はなぜ敵であるアインスを庇ったのか? ひょっとしたら彼の遺伝子の元であるアインスの父イナッテン=ドナー中佐の記憶がもたらしたのかもしれない。 そう思うと俺はシュウは自分のやらねばならぬ事を成し遂げたのだと割り切る他なかったのだった。 俺も決意を固めると背後にいる星姫に向けて語りかける。 「俺も行ってくる。しっかりその目で見ていろ、お前を手に入れるのに相応しいかどうかな!」    *   *   *   *   * 「遺伝子によって紡がれた絆。時に独善的な悲劇を生むこともあるが、それ以上に何者にも代えがたい沢山の無償の愛を生む…。人…それを…“親子”と言う!」 『何者ですか?! 名を名乗りなさい!』 「貴様に名乗る名などないッ!」 俺はそう言い放つと認識阻害を使ってゲヴィッターヴォルケへと攻撃を仕掛ける。 「“サンダーハリケーン”!!!」 「“マジンボンバー”!!!」 「“トルネードキック”!!!」 強力な一撃一撃にゲヴィッターヴォルケは体が揺らぐほどのダメージを受ける。 姿が見えないため保証はないのだが、多分全部飛び蹴りなのだと思われる。 『大したことはないとはいえ、こうチクチクやられると鬱陶しいですね。ならばこれでどうですか』 ゲヴィッターヴォルケは全身に高圧の電流を纏わせる。下手に打撃を加えようものなら即感電死ということになる。 飛び道具的な技やアイテムを持たない俺にはどうすることも出来ない、何か手立てはないのかと思った瞬間であった…。 強力なブレスがゲヴィッターヴォルケに叩きつけられる。 それを放ったのは空中より遅ればせながら参戦したライトであった。 「すみませんミレーンさん!待たせました!」 「お前、あのドラゴンは倒せたのか?」 「はい!ついでに陸號の奴もきっちり倒してきました。最後の敵はこいつですか?!」 「ライト!しばらくお前に任せておく! 奴を足止めしといてくれ!」 俺の指示にライトは頷くとゲヴィッターヴォルケへと向って行った。 俺は星骸炉の上で認識阻害を解くと再び星姫へと語り掛ける。 「おい、状況はそこからでも見えるだろ。俺が奴を仕留めるから俺に力を貸してくれ…」 俺の問いかけに星姫はケースの扉を開けると高温高圧のマナを俺へと叩きつける。 「全く…。余の力が欲しいというのなら態度で示せと言ったであろう。その身に纏う無粋な鎧は何だ? 余を本当に求めているのなら、それ相応の姿と言う物があるだろ。彼らの使者は裸一貫で火の山の試練をくぐり抜けて来たぞ…」 なるほど態度で示せとはそういうことか…。俺は纏っていたメックスーツを全てパージする。 「この状況だ、火の山の試練をやっている暇はない…。だがキツさはこれも似たようなもんだろ…」 俺は両腕を高温高圧のマナで煮えたぎる星骸炉の中へと入れる。そして星姫の頭部を掴むとこう言った。 「捕らえたぞ星姫…。そして絶対に逃がさん! お前は今から俺と一緒に奴を倒すんだ!」 煮えたぎるマナで両の前腕部は焼け爛れるどころか燃え尽きかけようとしている。急がねば…。 「発動せよ!捕らえろ『魂魄縛りの禍石』よ!」 俺は星骸炉上で振り返り、ゲヴィッターヴォルケを見据え、そして軽く呟いた。 「聖魔法『ホーリーリジェネ』」 焼け落ちたはずの両の前腕部がキレイに再生される。 通常ならば魔力切れで倒れてもおかしくはないはずだが、むしろ力は溢れかえっているほどであった。 「(全く君って奴は本当に強引なんだね…。だがそういう情熱的なアプローチ余は嫌いではない。こうして取り込まれてしまったのなら仕方がない。この星の管理権を君に移行しよう。あの鬱陶しいデカブツを倒そうではないか…)」    *   *   *   *   * ミレーンが星姫ラーヴァと交渉をしている間、ライトは足止めをすべくゲヴィッターヴォルケと交戦をしていた。 だが人間の姿では奴に大したダメージを与えるような攻撃はできない。 どうする?再びがーすけに竜の姿へと変身してもらうか?しかしここまで何度も変身しているから人格の消滅の恐れが…。 迷走するライトの思考を察してかがーすけの方から提案が出された。 『(先程の部分竜化の姿を見て思いついたのだが、我が友の人格に支障を来さない程度まで部分竜化するというのはどうであろうか。もちろん完全変身するほどではないが、人間の姿のままでいるよりも遥かに大きなパワーを引き出せる)』 そんな手があるのならやってくれ! ライトの返答に応えるかのように彼の姿は変化をする。 両の手足はパンプアップし純白の鱗と鋭い爪が生える。浸食は胴体や顔の一部にも及ぶ。目は赤く血走り、額からは2本の角が生える…。 鏡がないため変化した姿を確認はできないが、全身から溢れ出るようなパワーは明らかに自分が段違いに強くなっているのを感じさせる。 『(これが我が友に影響を及ぼさぬギリギリの竜化だ。名付けるなら竜人モードとでも言ったところかの…)』 「凄いよ!これならアイツとでも戦える。一緒にやろう!がーすけ!」 ライトはゲヴィッターヴォルケの方へと向いながら、右腕の刃に魔力を溜め込む。 ゲヴィッターヴォルケの側でそれを横方向に振るうと、彼の体が上下に両断される。 暗雲よりゲヴィッターヴォルケに雷光が落ちると分割された体が復活する。 それを見たライトは今度はブレスを数発放つ。収束力を高めた貫通力の高いそれは敵の体を穴だらけにする。 「凄い、これならあのデカブツも破壊できる…」 だが破壊はできてもすぐに修復され復活する。 この泥仕合のような状況をどうすればいいのか、ライトは必死に考えるのであった…。 (続く) 「(全く君って奴は本当に強引なんだね…。だがそういう情熱的なアプローチ余は嫌いではないよ。こうして取り込まれてしまったのなら仕方ない。この星の管理権を君に移行しよう。あの鬱陶しいデカブツを倒そうではないか…)」 俺の脳内から星姫こと火山王ラーヴァの声が聞こえてくる。 彼女の語りかけが終わったと思った瞬間、俺の脳内に膨大な情報が流れ込む。脳が焼き付きそうなほどであったが、なるほど大体のことはこれで理解できた。 「アイツの本体は頭上の暗雲で、弱点は聖属性なんだな?」 俺の問いにラーヴァが答える。 「(あぁ。アインスの奴が手下を使って試した様子を見ると効いてはいるみたいだった。だがどのぐらいのパワーが必要なのかは不明だけどね…)」 「聖魔法なら必要なのは純粋な魔力=マナだけだ。エレメントの属性は関係ない。各属性の余った部分を全部まずそこに持ってきて、後は平坦にならしておけ。それで各エレメントのバランスは取れるはずだ」 俺の提案にラーヴァは感心したようなリアクションを見せる。 「(なるほど枠外の存在を使うというわけか。私たち星姫では思いも付かない大胆な発想だよ…)」 俺のプランにラーヴァは賛同すると、俺の懐にある物に気づいた。 「(それはひょっとして聖剣の一部かい?)」 彼女が指摘したのはメトリから渡された人造勇者を製造するための聖剣、通称「役立たずの聖剣」の一部である。 その問いに俺はそうだ、そしてアインスを始め人造勇者たちにはこの欠片が埋め込まれていると説明した。 ラーヴァはなるほど道理で…と呟くと、俺にその剣の正体について説明してくれた。 この聖剣の正体は剣ではなく、実は星骸炉の鍵兼コントローラーである。 本来は正当な適合者でなければ起動はできないはずなのに、縁もゆかりもないアインスがそれを行えたのはコントローラーの欠片が埋め込まれていたせいとのことであった。 「だが今となっては柄しか残っていない本当の役立たずだよ…」 俺のぼやきにラーヴァは反論する。 「(それが違うんだなぁ…。本体はむしろその柄やら鍔やらの外装の部分なんだよ。そこに術式のメインが刻まれており、刀身は使い手がマナと念を注入して作り上げた副次的な物なんだ)」 「(確かに剣が完全でなければ、使い手が出せる力も完全ではなくなる。もし君があのデカブツをこの星のマナを使って倒そうとするのなら、その剣を復活させる必要があるよね…)」 この剣を復活させるにはどうすれば良いという俺の問いにラーヴァは嬉々として答える。 「(なぁに。君を通してこの剣にマナを注入し続けるだけでいいのさ。ただちょっと時間はかかるがね、チャージ時間は666秒。やるかい?)」 少し不安を抱いた俺は現在ゲヴィッターヴォルケと対峙しているライトに確認してみた。 「ライト!後11分だ! 後11分持たせることはできるか?!」 俺の叫びにライトは残業を命ぜられたブラック企業の社員のような沈んだ顔つきで「何とか頑張ります…」答えたのだった。    *   *   *   *   * 「(手順は簡単。この柄にピッタリくる刀身をイメージしながマナを注入して行くだけ。色々調整しなきゃいけない細かい作業はこれ一括でこなせるように設定している。凄いでしょ)」 周囲から色々な状況報告が流れ込むが、俺はこの剣にマナを送り込むことだけに精神を集中させる。 鍔の辺りから徐々に刀身が構築されてくる。 「(魔王を倒せる力を持つ聖剣の所有者…。ひょっとしたら君が伝説の勇者というやつかもしれないね…)」 ラーヴァの呟きに俺は冗談言うなと返す。 そういえばこの剣に纏わる謂れとして、天地乱れる時現れた勇者が使うとある。 ひょっとしたらエレメントの操作をミスった管理者本人が、シレっと手直ししてただけじゃないのか?  そう考えると勇者の伝説なんて大分当てにならない物だなと思うと、少し笑ってしまった。 そんなことを考えながらマナを注入し続けていると、刀身は1/3ほどまで伸びている。頼む早くしてくれ…。 最初は竜人モードのパワーに意気揚々としていたライトであったが、いくら攻撃を加えてもすぐさま再生をするゲヴィッターヴォルケには難儀をしていた。 敵は近接戦闘を諦めて遠隔からの電撃放射で撃ち落そうとする。 いくらドラゴンタイプがでんきタイプに耐性があったとしても、食らう電力量はそんなものでは済まない。その上ひこうタイプは基本的にでんきタイプに弱い。 逃げ切れない…。そう思った時に目についたのは星骸炉であった。 ライトは星骸炉を盾に身を隠す。やれるもんならやってみろ、お前の大事な忌器がぶっ壊れちまうぞと挑発するかのようであった。 だがゲヴィッターヴォルケは星骸炉に向けて電撃を照射しようとしている。 『すでに目的に必要な星皇は完成しております。もはやこの忌器には必要はありません。いっそ破壊してマナが溢れかえれば、星の初期化にも役立つかもしれませんね』 ゲヴィッターヴォルケが電撃を放とうとした瞬間、星骸炉の中にいた人物が内部で平手を伸ばした。 星骸炉に向って放たれた電撃は強力な障壁によって阻まれる。 そして星骸炉の中にいる人物が伸ばした掌の閉じ開きを繰り返すと、ゲヴィッターヴォルケの金属製のボディがグシャグシャと音を立てながら握りつぶされて行く。 それを何度か繰り返すとゲヴィッターヴォルケのボディはまるで潰されたアルミ缶のようになっていた。 「そこの小僧、さっさと奴を始末しろ」 炉の中から聞こえる地獄の底から響くような重低音がライトへと命令をする。 さきほどまで呆気に取られていたライトはその言葉に気が付くと、動けなくなったゲヴィッターヴォルケを魔力を込めた刃の斬撃“オーラブレード”で細切れにする。 やった!とライトが思うのも束の間、上空の暗雲から落ちる雷光によってゲヴィッターヴォルケは復活する…。 やれやれ、また一から出直しか…。死んだような目でそう思いながら敵へと向かうライトに背後から声がかかる。 「待たせたなライト! とりあえず奴を反撃できないようにさせてくれ!」 声の主は役立たずの聖剣いや星骸炉の起動キーを復活させたミレーンであった。 ライトは魔力を溜めた右拳をゲヴィッターヴォルケへと叩きつける。 「“魔浸拳”!」 ゲヴィッターヴォルケは腰砕けになりながら仰向けに崩れ落ちる。 ミレーンは呼吸を整えると上空の暗雲に向けて星骸炉の起動キーを振り抜く。 「聖魔法『ホーリーピュリファイ』!」 それは以前ミレーンが人造勇者拾惨號の魔剣に取り憑かれようとした時に使った、瘴気や呪いや悪霊に用いる浄化呪文である。 起動キーからは一筋の光線が暗雲を貫く。地上にいるゲヴィッターヴォルケは何故か一緒に苦しみだす。 『させはせん!私の使命をここで終わらせはっ…』 ゲヴィッターヴォルケは苦しみながらもミレーンの方へ阻止しようと向ってくる。 するとミレーンの脳内で何者かの声が聞こえてくる。 「(聖魔法『ホーリーウォッシュ』)」 「(聖魔法『ホーリークリーン』)」 「(聖魔法『ホーリーライト』)」 起動キーから放出される光がより濃く太くなる。 これは恐らく俺の脳内にいる聖女たちが力を貸してくれたのであろう…。 暗雲に放った光が効いているのか効かないのかは判らないが、少なくとも地上にいるゲヴィッターヴォルケには効果があるようだ。 言葉も途切れ途切れになり全身を痙攣するかのように苦しんだと思ったら地面に倒れ伏し、動かなくなったと思ったら最終的に風化して跡形もなく姿を消したのであった…。    *   *   *   *   * 戦いは終わった。空を覆っていた暗雲は晴れ、大地の揺れは収まった。世界は何事もなかったかのように平常運転へと戻って行った。 だが俺の仕事は終わっていない。この異変の原因となった忌器「星骸炉」を破壊するとことが俺の目的である。 星骸炉の起動キーこと役立たずの聖剣を上段に構えて降り下ろす。すると炉の本体は真っ二つになって崩れ落ちる。 そしてその中から身の丈6~7mほどはある巨漢が現れる。彼はストロングな奴を飲み干すとアルミ缶を握りつぶして放り投げた。 「なかなか良い蒸し加減であったぞ…」 その巨漢はとてつもない威圧感を周囲にまき散らすと、立ち上がって炉内から出てくる。 彼がどこかに行こうとするのでライトはその脇でお礼を言う。 「あの…先程はありがとうございます…。助かりました…」 「気にするでない。余は単に観戦の邪魔になったから払いのけただけだ…」 巨漢はそう告げて去ろうとしたが、ふと思い出したかのようにこちらへと振り向く。何やら俺たちを気にしているようだ。 「その方ら、名は何と申す?」 彼の問いに俺たちは答える。 「俺の名はコージン=ミレーン。一介の聖騎士だ」 「僕はホワイトライトです」 彼は俺たちの名前を何度か無言で反芻するとこう告げた。 「コージン=ミレーンにホワイトライトか…。記憶しておくぞ。今日は良い戦いを見せてもらい、十分暇を潰せたので感謝しよう。余はそなたらを勇者と認める。いずれ魔王モラレルを倒しに来い。それこそが余の長くつまらない人生の良い余興となるであろう…」 こうして何となく大団円的な空気になった時、俺たちの輪の中にふらふらと入り込もうとする人間が見える。人造勇者陸號ザット上等兵である。 ライトがぶっ刺した試作聖剣によって血の気(?)が減ったのか、彼は元の人間の姿に戻っていた。 その両の手からは試作聖剣が生えているのが確認される。サイズがドラゴンから人間に戻った時に、くっつけることに成功したのであろう。 「血…血が足りない…。ダメだ…こんなに弱くなっちゃったらだめだ…。もっと…強くならないと…父さんや母さんに…もう会えなくなっちゃう…」 陸號は力尽きて倒れ込むと、その目の前に魔王の姿を捕らえる。 生か死かの極限状態となっていた彼にはもはや恐れるものはなかったのであろう。魔王へと向ってこんな要求をしたのだった。 「あっ…これが魔王なんだ…。この人の血はどんな味がするんだろ…。ちょうだい…ちょうだい…」 そのボロ雑巾のような姿を見た魔王モラレルは、右手を強く握り込むと戯れに血を数滴陸號の聖剣へと垂らしたのであった。 陸號の聖剣は魔王の血をまるで蒸発するかのように急速に吸い取る。すると陸號の体に急激な変化が起こる。 「凄い…。ナニコレ…。力が漲る!獣人やドラゴンなんて目じゃないよ!これが魔王の力なんだ!」 陸號の全身がパンプアップすると、そこから全身に空気が吹きこまれるように膨張しだす。しかしその勢いは収まろうとはしない。 「えっ?!ちょっ待って! こんなに!こんなに力はいらないって?!」 陸號の全身は見る見るうちに膨れ上がり、まるで空気を限界まで張り詰めたような風船のようになると全身が弾け飛んだ。 陸號本人が求めた力の追及の果てとはいえむごたらしい最期に、彼と幾度となく戦ったライトは憐れみを感じざるを得ないのであった。 そして俺は力を吸収することに長けた陸號をたった数滴で肉体崩壊させる程の力をもたらす魔王の血、いや魔王の持つ力の底知れなさに恐怖するのだった。 「では帰らせてもらう…」 魔王モラレルは何もない場所に手刀で上下に降り下ろすと空間の切れ目が生じる。 その切れ目に頭から入って行くと彼は姿を消して行ったのだった…。    *   *   *   *   * とにかく全てこれで終わった。その安堵感が広がろうとしていた時、俺はふと思い出すと胸にある輝石を見てみる。 輝石にはひと際大きな亀裂が一本入っていた。星骸炉は確実に破壊したということであろう。 このまま地面に倒れて眠りにつきたい…そんなことを考えていたら、さらにふと思い出した。 「よし!ライト行くぞ!」 「えっ?! 何があったんですか?!」 「そういえばここにはまだ他に忌器があるんだよ! ラボと呼ばれる建物にはまだ仕舞われっぱなしの忌器が大量にあるらしい。ボヤっとしてたら研究員どもが持ち逃げしちまうかもしれないだろ!」 そう言い出すとミレーンは走り出そうとする。 すると視界の脇にシュウの遺体を抱えたまま座り込んでいた元星皇アインス=ドナーが見えたので、ミレーンは彼女に話しかける 「悪いがそいつの遺体を返してくれないかな。彼は俺たちの大事な仲間なんだ…」 俺の言葉にアインスは首を振って答える。 「いやだ…。やっと私の元に帰ってきてくれたんだ…」 アインスはシュウの遺体を抱き寄せながらいやいやをする。 「そうか…。だったら彼を丁重に弔ってやってくれ。よろしく頼む…」 俺はアインスに頭を下げるとラボへ向って猛ダッシュをする。 ライトは羽を生やしてそれを追いかけて行くのであった…。 (続く)