セーブナ・ビスカチャン・ハンティング  国はセーブナ・ストリップ。峡谷によくそれっぽい割れ目が付いているから、と名付けられた外れの場所――プッシーバレーにて。  やってきた保安官のパティがしていた行為と言えば――ピクニックだった。  本来あったはずの緊急要件――近隣住民を襲う謎の存在の捜索と打倒が急遽キャンセルされ、暇になってしまったのだ。  しょうがないから用意したピタサンドをぱくぱくと食べていると言うわけである。デザートはオレンジに、コーヒーもあった。  ヒイイイオッシャレー、と言った奇怪な悲鳴が聞こえてきそうな――ご機嫌な昼食である。 (あれ、なんか――)  無心に食べていると何やらひょこひょこと動いている影が見え隠れする。何らかの小動物のようだった。  少し目を凝らすと――それは、もこもことした丸いもの。  ビスカちゃんである。  そして――その、ビスカちゃんを狙う「誰か」が遠間に見えた。 「……あっ」  見慣れた銀髪。  同じ保安官。ライアット・アームズが遠距離からビスカちゃんに銃口を向けていた――  慌ててむぐむぐと食べ終えると、パティは小走りにライアットの方へ駆けて行く。  直ぐに到着してみればライアットのみならず、なんとマイル・スターサンまでもが傍に待機していた。  三名の保安官が揃い踏みであった。 「おっ、パティじゃん。そっちも仕事?」 「う、うん。でもなんかゴタついてるみたいでドタキャンされちゃ――そっちも?」 「おう」 「ええ」  ライアットが構えている銃は、義肢から出せる手札の一つ。狙撃用のロングライフルだ。  とはいえ―― 「わざわざビスカちゃんを?」  パティは思わず疑問を口にした。  ビスカちゃんは確かに毛皮や肉が使えないこともない。だが、各々の体格は巨体なわけでもなく。  しかも立ったまま寝ているようなそのスタンバイ状態は実に堅牢である。  狩って狩れない事も無いが、態々やるのは割に合わない。特別得もない。光球と言った特性を利用した方がまだ遥かに有用と言える。  しかし、銃口を向ける同じ保安官の表情――そこに悪ふざけや嗜虐の色はない。ただ、狩るべきモノを狩ると言う静かな決意がある。 (これは……安易にかわいそう、って言うべきじゃないのかな……?)  見ると、マイルもまた黙って目を閉じて腕を組んでいる。堂々としたものだ。  愛らしい小動物を好む彼女は、もちろん常日頃からビスカちゃんもよく撫でたり抱きしめたり餌をやったりしていた。  そんな彼女が黙って見過ごしていると言う事は――何やら事情があるのだろう、と言う事は伺えた。 「御静かに――ええ、有難うございます」  ライアットは先ほどから一切動じていない。義肢の金属すら、音一つ立てない。  ただひたすら機を待っているようだった。   とりあえず、パティも付き合う事にした。成り行きである。  ビスカちゃん最大の隙は、スタンバイの光球を止め本格的に動き出す一瞬。  ちょっとした動き程度では切り替わらない。  ずっと、ずっと待ち続け。日が傾いて――  くっついていた子供らしき個体が僅かに離れる。ビスカちゃんが日向ぼっこをやめ、本格的に動く。  同時に――ライアットの腕から弾丸が放たれていた。  貫いた――ただし、それはビスカちゃんの肉ではない。 「砂――」  舞い上がる砂を――  固まった砂を――爪を立てんとする砂の塊を。猛禽を、弾丸が爆裂させ貫いていた。 「……よっし!!」  マイルがやったぜとばかりに腕を振り上げた。 「……あれが、獲物だったってこと?」 「ええ、随分待たされましたわ――」  心なしか。やり遂げたライアットの笑みもいつもより深い。   🔶  つまり――ライアットたちもまた、近隣住民を襲う謎の存在を別の筋から頼まれていたそうで。  ツテを頼んで調査してみればその正体は、デザート・イーグルと呼ばれる――自分を砂に分解して隠れる猛禽類の一種だったそうだ。 「あ、あたしへの依頼はそこらへん重複してたのか」  そこらへんは砂にまぎれて死体となる現地の人々の混乱から来るものだったのだろう。 「伝達ミスってやつか。めんどーな事に巻き込まれたなぁ」 「ほんとだよ! おかげで態々ここにはお昼ご飯食べに来ただけだったんだから」  しかし、保安官のような格別に強いニンゲンがやってきたと察した途端、このデザート・イーグルは身を潜めだすそうである。  そこで目をつけられたのがビスカちゃんであった。  見ると、このプッシーバレー周辺だけはビスカちゃんが減っている。ニンゲンを襲わず飢えてきたデザート・イーグルはビスカちゃんを食って生き延びていたのだろう。  なぜビスカちゃんを執拗に襲っていたのか。それは攻撃能力が乏しく、おとなしいビスカちゃんは根気よく待ち構えればリスクなく狩れる存在だったからだ。  リターンがあまり無くまどろっこしい反面、デメリットも無い。つまり警戒心が強くしつこいモンスターが獲物として選びやすい動物のなのである。  そこでマイルがビスカちゃんの残った群れを探し出し――こっそりと頼んで、囮になってもらったというわけだ。  後はライアットが気配を消して狙うだけだ――最適な、狩る者を狩る瞬間を。  殺気を紛れさせ、根気と根気。偽装と偽装の勝負だった。 「よくもまあビスカちゃんも引き受けてくれたねえ」 「そこはまあ、あたしの小っちゃい子たちと分かり合うスキルの賜物ってとこだな!」  と言って抱えたビスカちゃんだけでなく。パティも一緒に抱きよせようとするのを、ひょいひょいとかわしつつ。  能天気にまた座り込んで、たまに眠たげな顔で頭をひょこっと下げるビスカちゃんたちにパティは手を振って笑った。 「今回は――あの毛むくじゃらさん達の適応力の勝利、ってとこかな」 「かも、しれませんわね」  いつの間にか足元で丸まっていた、囮となっていたビスカちゃんがぶぅ、と返事をするように鳴いた――