塔と落下物の街 ヴァセーゴの地元紙

ヴァセーゴ日報

発行: 新暦30X年(ヴァセーゴ支社発) 印刷: 通常単色版 カルディア出版ヴァセーゴ支社

―― ギルド”エコロジスト”密着取材 ――

「使用中止」の張り紙の前で膝をついた留学生。
一杯の“夢の泉”を叶えたのは、備品倉庫の巨像に挑んだ四人の冒険者だった

本紙記者はこのところ、塔の中階層に前線拠点を構える冒険者ギルド”エコロジスト”に密着取材を続けている。最前線と聞いて身構える読者も多かろうが、拠点の実態は近代的なカフェテリアを改装した詰め所であり、籠盛りのお菓子が来客に振る舞われる、拍子抜けするほど穏やかな場所である。その日、拠点に物資と共にやってきた冒険者は四人。だが彼らの仕事は、到着した瞬間に終わらなかった。むしろそこからが本番だったのである。

やってきた四人

一行のリーダーを任されていたのは、魔動武器使いの戦士リック・ウェスター氏。物資輸送用魔動機の制御スイッチと塔のシーズンパスを預かる役目に、受付が「最後にリック君を見て」決めたという逸話が残るほど、確かに一行で最も落ち着いた人物であった。記者に語った言葉は短い。「受けた以上は、キッチリこなすさ」。妖精使いのパスィ・レキリエムニュービー氏は、妖精魔法と斥候の技を兼ね備える一行の切り札。空を駆けるティエンス、クラウディ氏は、相棒のイクシードボードと共に登場した。「空を飛ぶのが大好き」と語る彼女の戦いぶりは、まるで高高度の空気そのものを味方につけたかのようであったという。そして、バードのミクシー氏。歌と演奏で一行を鼓舞し続けた彼女は、取材の最後にこう言って笑った。「いずれこのストリングで世界を席巻してやるさ!」

夢の泉と、使用中止の張り紙

一行が護衛してきたのは、魔動機術を学ぶためハーヴェスから留学中のリーゼロッテ・セガール嬢である。その目的はただ一つ。拠点に設置された魔動機文明時代の至高の飲料供給機、通称「ドリンクサーバー」の一杯を飲むこと。「レポート漬けでわずかの仮眠の渦中に見た、夢の泉ですわ」。ところが、である。一行が案内された先で目にしたドリンクサーバーには、無情にも「使用中止」の張り紙が掛かっていた。原液の在庫が切れていたのである。サーバーの前で膝をつく依頼人を前に、記者も言葉を失った。

空から降ってきた六千ガメル

なお、一行は道中ですでに奇跡を起こしていた。塔からの落下物はヴァセーゴの日常だが、その日パスィ氏が回収した装備品は完全な状態で、鑑定の結果、何と六千ガメル相当の「熊の爪」であった。依頼の間はリック氏が借りて装備し、帰還後に売って山分けにする取り決めだという。落下物で経済が回る街・ヴァセーゴを象徴するような出来事であった。

人手不足の最前線

ギルドマスター、ランラン・ベーシック氏は一行をこう迎えた。「最前線へようこそ!」。原液については、作業員用品や工事用備品を保管する備品倉庫を襲撃して調達する計画自体はあったものの、常駐の冒険者たちが遠征に出ており、人手不足で棚上げになっていたという。そこで白羽の矢が立ったのが、到着したばかりの四人であった。本来の依頼は護衛と物資輸送であったはずだが、リック氏はこう判断したという。「言ったろ。報酬分は仕事するってな」――いや、本人の弁によれば「まだ報酬分は働いていない」というのが正確らしい。律儀である。

備品倉庫襲撃 ― 帰還した一行の証言より

記者は備品倉庫内部へ同行することを許されなかったため、戦闘経過は帰還した一行への取材と拠点に届いた報告に基づく。備品倉庫を守っていたのは、巨大な魔動機「コラプター」。複数の部位を持つ巨体から、グレネードの二連射と弾丸の集中射撃が浴びせられたという。集中攻撃を受けたのはリック氏であったが、彼は前線を一歩も譲らず、依頼人の魔動機術による支援を受けて巨大な剣で部位を砕き続けた。空からはクラウディ氏がフレイルを振るい、パスィ氏の妖精魔法は巨体の全部位を冷たい雨で削り、ミクシー氏の呪歌が一行の抵抗と回復を支え続けた。最期に頭部へ叩きつけられた一撃で、コラプターは沈黙した。備品倉庫からはお菓子の山や事務用品、工事用と思わしき魔動機といった作業員用品の山に紛れて、求める原液パックが発見され、輸送用魔動機に積めるだけ積んで、一行は拠点へ凱旋した。

そして、一杯

ランラン氏が原液をサーバーにセットし、最初の一杯が注がれた。炭酸飲料を一息に飲み干したリーゼロッテ嬢の第一声を、本紙はそのまま記録する。「シュワシュワですわよ!!!!」「最高ですわよ!!!」。続いて一行にも一杯ずつ。三ツ矢サイダー、ネクター ピーチ、ブラック無糖(パスィ氏のみ苦さに眉をひそめた)、C.C.レモン。銘柄は魔動機文明時代のものだという。グラスを合わせたリック氏の言葉は、至って簡潔であった。「無事、依頼完了、ってことで。乾杯」。締めくくりには、ミクシー氏が負傷したリック氏のために回復の終律を演奏した。全力を込めたその演奏は、彼女の平準の指輪が砕け散るほどの迫力であり、詰め所は拍手に包まれた。最前線のカフェテリアでグラスと音楽が響く光景こそ、”エコロジスト”というギルドの現在を最もよく表している。本紙の密着取材は、もうしばらく続く。(本紙記者/エコロジスト密着取材班)

「やりましたわ皆さん!!!」

――依頼人・リーゼロッテ・セガール嬢

記者寸評: 取材というより歓声であった。だが、夢を叶えた人間の言葉に、それ以上の飾りは要らない。

「堂々凱旋!お求めの品はこれだー!」

――バード・ミクシー氏

記者寸評: 原液パックを掲げての凱旋宣言。この自信と明るさが、一行の士気を最後まで支えていたのだろう。

「やった!頼りになるじゃない!」

――妖精使い・パスィ・レキリエムニュービー氏

記者寸評: トドメを刺したリック氏への一言。道中で六千ガメルの装備品を拾った目利きの言葉だけに、重みがある。

「……やっぱり高高度の空気は気持ちいいですね」

――ティエンス・クラウディ氏

記者寸評: 激闘の直後とは思えぬ穏やかさである。彼女にとって塔の戦いは、空の散歩の延長なのかもしれない。

「これが略奪の味!!」

――ギルドマスター・ランラン・ベーシック氏

記者寸評: 一杯を飲み干してのこの発言。原液の供給が強奪頼みである事実を、彼女は隠す気がないらしい。スカベンジャーばんざい、であるそうだ。