前回までのあらすじ 豪華なクルージングの旅に一人招待されなかったキャス子ちゃんこと木末 聖煌ちゃんはそれがデジモンイレイザーの仕業だと即見抜いて(?)、イレイザーベースを襲撃。 そこで待ち受けていたイレイザー軍最強の戦士__日竜将軍デジタマモン超究極体を撃破してその骸を乗っ取ったキャス子ちゃんはネオデスジェネラルの一人として無事クルーズ船に乗り込む事に成功しました。 これで豪華客船の旅を皆と楽しむ事が出来る。 そう思ったのも束の間、船のある区画で発見されたというテイマーのバラバラ死体…。一人また一人と無惨に殺害されたテイマー達が見つかる中、乗客名簿にない『怪人』が現れるとの噂が船内に流れ始めたのでした。 『ファイナルアタックライド!ディディディディケイド!』 「ブラックアウトーー!!!」 ですが『怪人』は突如として現れた石田ヤマトくんによって退治され爆発四散。 船内には無事平和が戻った…………かに思われたのですが。 「この争いを終わりに出来る誰かは、天下無双の勝者!」 「メタルサタモンの口調も破壊されてしまった……これも全て石田ヤマトのせいだ!」 ───────── 8歳のキャス子ちゃんが慣れないデジタマモン超究極体の身体で船の中を駆け回っていた頃、時空を超え豪華客船に遊びに来た16歳のキャス子ちゃんは宵月 灯くんからデートのお誘いを受け、楽しい旅のひとときを過ごしていました。 あらかた船内での娯楽を堪能し、何だか船も沈みそうなのでそろそろお開きにしようかとなったその時、キャス子ちゃんは何かを思い出した様にはっとしました。 「大変!灯お兄ちゃん大変だよ!わたしまだししゃもを食べてない!」 急に慌てふためくから何事かと思った灯くんですが、話を聞いて何だそんな事かと一安心です。 「ししゃもならまた今度買ってあげるからさ…。今日はもう帰ろうよ。君みたいな可愛い子をいつまでもこんな危ないところに置いておくわけにも行かないし」 「やだ。ししゃもは帰ってからも食べたいし、今ここでも食べたいの」 灯くんはどうにかして説得を試みますが、一度言い出したら決して聞かないのがキャス子ちゃんなのです。 「困ったな……そもそもこの船、ししゃもなんて置いてあるのかな…?」 「心配は無いぜ、兄ちゃんよ。」 途方に暮れる灯くんにチョコモン(プリスティモン)が後ろから彼の背中をツンツンとつつきました。 「この本によれば、どうやらここら一帯は黄金のデジししゃもの生息域だそうだ。伝説とまで言われている珍魚みてぇだが、すんげぇ美味いらしいぞ!」 自身のファスナーの中から取り出した『太平風土記』なる分厚い古文書を片手にチョコモンは得意気に語ります。 「ほんまかいな…」 あまりに眉唾過ぎる情報に灯くんのパートナーであるピコデビモンは思わず口調が崩れてしまいました。 「時間が無い。今はそれに賭けよう」 「えっ!?」 いつにも増してIQの下がったかの様な発言をするパートナーにピコデビモンはびっくり。 ですがピコデビモン一人では灯くんにキャス子ちゃん、そのパートナーであるグミチョココンビを止める事など到底叶いません。 かくして、キャス子ちゃんと灯くん……更には沢山のお友達までも巻き込んだ伝説の黄金ししゃもを巡る冒険が今ここに幕を開けたのでした。 ───────── 「何だよ黄金のデジししゃもって…。そんな事よりまだ船に残ってる悪い奴らをぶっ倒そうぜ!なぁヒバリ」 「あぁうん。…そうだね」 幾多の襲撃者達の攻撃を受けて傾きかけた船の中を歩いているのは湯楽木 晴久くんと浅野ヒバリくんちゃん。 共にキャス子ちゃんから無茶振りをされた二人ですが、どちらもあまり乗り気でない事は言うに及びません。 しかしながら、邪悪なる敵は徹底的に跡形もなく消滅させてやると息巻いている晴久くんとは対照的にヒバリくんちゃんはずっと気掛かりな事がある様で晴久くんの言葉に対しても生返事…。 いけいけどんどんスタイルで細かい事は気にしない晴久くんもこれには流石に違和感を覚えたみたいです。 「なぁ、どうしたんだよヒバリ。腹でも痛いのか?」 「ん?いや、別に体調が悪いとかじゃないんだ…ただ………」 「ただ……?」 ヒバリくんちゃんは16歳に成長したキャス子ちゃんの事を当然ながら知りません。 ですので何故16歳のキャス子ちゃんが何故自分を知っているかの様に接して来て自分の事をお姉ちゃんと呼ぶのか…その事がずっと心のしこりになっているのです。 「……まぁ、我慢出来なくなったらすぐ言えよな。」 結局お腹が痛い扱いされてしまいますが、本当の事を話したところでどうこうなるわけでもない…ヒバリくんちゃんは今はもうそれで良いやとこの話を一旦おしまいにする事にしました。 そんな折、二人の前に突如として外国人の男が立ちはだかります。 咄嗟にヒバリくんちゃんの前へと出る晴久くん。彼からしてみればヒーローごっこの延長でしかありませんが、まるで自分を守ってくれるかの様なその姿にヒバリくんちゃんは少しキュンとしてしまいました。 「お前、さては悪い奴だな!この船に皆を招き入れた黒幕だろ!」 晴久くんはただ思い付いた事を適当に言っただけなのですが、男はまるで図星を突かれたかの様にギクリと反応し動揺を隠す事ができません。 それもその筈、この男こそクラウス・シュテルン。テイマー達を豪華客船という甘い罠で釣り、一網打尽にしてしまおうと目論んだ一連の事件の黒幕だったのです。 招待したテイマー達が尽く好き勝手したせいで計画は完全に破綻し、更には通りすがりのクソガキにまで正体を看破されたクラウスさんは半ばヤケクソなご様子。 「お前らテイマーどものせいで何もかも滅茶苦茶だ!こうなったらお前達だけでも誘拐してイレイザー様に献上してやる!!」 完全に我を忘れてヒバリくんちゃんと晴久くんの二人に襲いかかりました。 ───────── ここは町のはずれにある大衆食堂『助平飯店』。 厨房担当の田中さんことゴキモンはこのお店の看板娘__薄帯 瑠璃ちゃんに拾われて以来、ここで料理の腕前を存分に振るい今日もお客さん達に美味しいお食事を提供しています。 「最初は成り行きみたいな感じでこの仕事を始める事をなったんでゲスが、美味しいものを食べて笑顔になってるお客さん達を見てると何だかこっちまで嬉しくなっちゃって。今じゃこの仕事が誇りでゲスよ。 ……まぁ確かに不満は全く無いと言えば嘘になるでゲスが… たまーに居る態度の悪い客が…って言うかその人、メニューに無い料理ばかり頼むんでゲス。賄いで作ってる奴とか…… いや、美味しいって言ってくれるから悪い気はしないんでゲスが表メニューも自慢の料理だから一度は食べてみて欲しいんでゲスよ それにテーブルの上に万札だけ置いて居なくなるの、あれ本当に勘弁して欲しいでゲス。お釣り受け取ってくれないと会計の処理が面倒になるって瑠璃もお母さんもいつも嘆いてるでゲスよ ……………あぁ~、何か思い出しただけでも腹が立ってきたでゲス。 どこかにこの怒りを存分にぶつけても心が痛まない様な体のいい悪い奴、居ないでゲスかね?」 ───────── 「覚悟しろクソガキども!」 晴久くんヒバリくんちゃんをじわじわ追い詰める様に歩み寄るクラウスさん。 その時、何かが彼の前を横切りました。 田中さんです。 顔面白塗りに緑のウィッグ、派手なスーツに身を包んだその姿はさながらどこかのトチ狂ったピエロの様…。 生クリームたっぷりのパイを片手に軽やかなステップを踏みクラウスさん達の周囲を舞い踊っていますが、晴久くんもヒバリくんちゃんもクラウスさんも誰一人として田中さんの存在に気付く者は居ません。 三人のまわりをぐるりと周回していた田中さんでしたが突然クラウスさんの前で足を止めたかと思うと、持っていたパイをクラウスさんの顔面目掛け力任せに投げつけました。 当然ながらクラウスさんのご尊顔はたっぷりの生クリームにまみれて真っ白けっけ。 一瞬にして変わり果てたクラウスさんを見て田中さんはガッツポーズを決めます。 直後、そそくさとやって来た黒子の様な人が二つ目のパイを持って来ると、それを受け取った田中さんはクラウスさんの顔面にもう一撃浴びせました。 「アッハッハッハッハッ!」 田中さんの欲していた、思いっきりストレスをぶつけても心が痛まない体のいい悪役がまさに目の前に居る状況に彼の喜びもひとしお。 高笑いを上げて大はしゃぎです。 別の黒子さんが持って来たパイのおかわり二つを受け取った田中さんは両手でパイを持ってその場でくるりとターン、それを一つまた一つと続け様にクラウスさんのお顔にぶっ放してやりました。 「ハッハッハッハッ!!」 視界がクリームで覆われ、もはや何も見えていないにも関わらず、クラウスさんは何事も無かったかの様に「年貢の収め時だガキ共」と前進する事を止めません。 そんな中、新たな黒子さんが持って来たのは立派なバズーカ…。 受け取った田中さんは再度クラウスさん達の周囲を回りながら陽気に踊り始めます。 辺りを一周し、田中さんが向けた砲口の先に居たのはやはりクラウスさん。 引き金が引かれ、飛び出した生クリームがクラウスさんの全身を覆い尽くしてしまいました。 「アーーッハッハッハッハッハッ!」 「…気が変わった。ここは一時撤退だ。」 マシュマロマンみたいになったクラウスさんはそう一言だけ言い残し、踵を返して引き上げて行きました。 田中さんも満足して帰ったのか、その姿は既にどこにもありません。 そこに残るのは、ただただ唖然と立ち尽くすばかりの二つの小さなシルエットのみでした。 ───────── その同じ頃…ししゃもを捕るなら釣り上げるよりも手で直接掴みに行った方が早いのではないかという事でキャス子ちゃんは後醍院ありすちゃんと一緒に海へ潜る準備をしていました。 「ごめんね、急にこんな事頼んで」 「気にしんでええよ。アルマジモンもこの船見た途端えりゃあ張り切っとったがね。発散するちょうどええ機会だで」 ありすちゃんはサブマリモンに乗り込み、キャス子ちゃんはクティーラモンの翼と尻尾を生やして出発の準備は万端。 ……かと思いきや、キャス子ちゃんが何かに気付きました。 「ごめんありすちゃん、先行ってて!」 「了解だがや」 勢いよく海へ飛び込んだサブマリモンを背にキャス子ちゃんは急ぎ足で船首の方へと向かいました。 ───────── 「海の中に……ししゃもが…居るッ!……捕まえに、行こう」 年齢凡そ5歳くらい、むすっとした仏頂面が特徴の男の子が今まさに海の中に飛び込もうとしたその時…… 「ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」 間一髪のところでキャス子ちゃんが止めに入りました。 キャス子ちゃんに抱きかかえられ、あんた誰だ離してくれと言わんばかりの顔でじたばたと抵抗する男の子。 「お父様泳げないんだから、海になんて入っちゃダメだよ。」 お父様……そう、この男の子こそがキャス子ちゃんのお父さん__三上 竜馬くんだったのです。 何らかの要因でレッシェン・ジーク号に迷い込んでしまった5歳の竜馬くん。この男の子が自分の父親であるとキャス子ちゃんは即座に見抜く事が出来ましたが、対する竜馬くんの方はそうではありません。 自分が見知らぬお姉さんに何故抱っこされているのか理解出来ず、なんでオラがお前の父ちゃんなんだよ!?と言いたげな顔で尚も抵抗を続けています。 「ししゃもならわたしが探して来るから…。お父様は良い子にして待ってて、ね?」 竜馬くんを優しく抱きしめて宥めるキャス子ちゃん。 最初は暴れていた竜馬くんも後頭部に押し当てられたキャスぱいの感触が気に入ったのか次第に大人しくなり、すっかり落ち着きを取り戻しました。 むすっとした表情こそ変わりませんが、ほんのりと赤くなったそのお顔からは明らかな照れが見て取れます。 後に竜馬くんが胸の大きな女の人にばかり懐く様になったのも、この出来事がきっかけで何かに目覚めてしまったから………なのかもしれません。 ───────── 同時刻、ここカジノコーナーではまた別の激闘が繰り広げられていました。 ジャカジャカ鳴るパチンコの台と向き合っているのは桐梁譲子ちゃん。 なんやかんやあってここの景品コーナーに並んでしまった大切なカードを取り戻すため、そして同じく何故かここの景品になっている黄金のデジししゃもをゲットするために奮闘中の様です。 彼女が打っているのは『ぱちんこ古池 真宵』。初心者にも易しい甘めのスペックとシンプルなゲーム性が好評を博した人気機種………なのですが、譲子ちゃんの座った台はうんともすんとも言わず、特に何が起きるでもなく二人目の渋沢さんの命が今まさに尽きようとしていました。 体内のアルファモン曰く、かなり良い感じにプラスの調整がされているから打つなら絶対これを打つべき…との事なので譲子ちゃんはこの台から離れる事も憚られているご様子。 そろそろ三人目を投入しなきゃなぁ…… 次第に0へ近付く持玉カウンターをぼーっと眺めながらそう考え始めたその時、二回転後に控えていた保留玉が赤い色へと姿を変えました。 突如として訪れた今日一のチャンス。死んだ魚の様な目をしていた譲子ちゃんもこれには思わず前のめりになり、ハンドルを握る手にも力が入ります。 回転中の変動が終わり、次の変動も一瞬で消化。そしていよいよ待ちに待った赤保留の番です。 回転と同時に派手なエフェクトが発生し、五月蝿いほどの効果音が鳴り響き、役物がけたたましく揺れ動く…まだまだ油断はできないものの期待に胸踊らずにはいられません。 液晶内では擬似連続予告が発生し、ストップした図柄が再び回り始めました。 しばらくすると画面の右端からはめざめちゃんが、左端からは夕立ちゃんがそれぞれ現れ、両サイドの図柄を4で停止させます。 『リーチ!』 譲子ちゃんは一瞬「えっ?」となりました。擬似2止まりなんて流石にそんな馬鹿な事は無い……焦る心を何とか落ち着かせている譲子ちゃん。 すると画面奥から走って来たミニ真宵ちゃんが『継続』と書かれた紙をデカデカと見せてくれました。 まだ決して安心はできませんが、譲子ちゃんは心の中で真宵ちゃんに感謝せずにはいられません。 溢れ出るありがとうの気持ちを噛み締めながら画面とのにらめっこを続けます。 3段階目となる変動の中、再び両サイドの図柄が4で揃いました。 『チャンス!』 「…………」 またしても譲子ちゃんの頭の中は不安でいっぱいです。 擬似3連目も特にこれと言ったチャンスアップ演出は無く、本当に保留玉が赤かっただけ。 この様な惨状でリーチに発展されても期待など持てる筈もありません。 リーチ発展時に派手派手な演出でガッシャンガッシャン動くでっかい真宵ちゃん役物も今はただ虚しいばかりです。 一応は本機最強リーチとなる『VSダークマスターズリーチ』へと発展した様ですが、発展先は4種類の中で最も信頼度の低いVSメタルシードラモンリーチ。 譲子ちゃんはだんだんと腹が立ってきました。 画面では魔法少女みたいな格好をした真宵ちゃんがメタルシードラモンの攻撃を華麗に掻い潜りながら激闘を演じているも、譲子ちゃんはどうせこのあと撃ち落とされるんだろだったら早く終われよこんな茶番とイライラがMAXなご様子です。 『行くよ!サンドヤンマモン!!!』 『応!』 空高く飛び上がり、逆光に照らされた真宵ちゃんの背中から大きな2対の翼が展開。演出だけならば最高に格好良いのですが……… 『♪しーめーいだーからー』 『メタルシードラモンを撃破せよ!!!』 画面に表示されたタイトルの色は青。 どうやらこの台は念入りにとどめを刺そうとして来るみたいです。 『♪ゆーけーかぜのごとくーまよいーのーけーんーしーよ』 真宵ちゃんの動きに合わせて激しく揺れる液晶ももはや譲子ちゃんにとっては煽りでしかありません。 『♪たーまーしいをこめたー、いかりのやいばたたきつけて』 インペリアルドラモンパラディンモードVSアーマゲモンの戦いを彷彿とさせるクソエイムなアルティメットストリームの応酬の中、一直線にメタルシードラモンに向かって行く真宵ちゃん…を冷めた目で見つめる譲子ちゃん。 『♪じだいにかがやけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ………………!』 『ボタンを押すのだぁぁぁッ!!』 ところが次の瞬間、力強いボイスと共に液晶には画面全体を覆わんばかりのクソデカボタンが出現しました。 これまでの虚無感を全て帳消しにする千載一遇のチャンス来たぁっ!と譲子ちゃんの熱い手のひら返し。 ボタンを押す手にも思わず力が入ります。 しかし……… 『冗談ではないッ!!アルティメットストリーム!!!』 『きゃっ!?ぅわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?』 メタルシードラモンの放った最後の一撃が 真宵ちゃんに命中。撃墜された真宵ちゃんはそのまま海中に没してしまい、『4 5 4』の数字の並びが画面に虚しく表示されます。 今まで我慢して打ち続けてきた譲子ちゃんもついに堪忍袋の緒が切れました。 「二度と打つか、こんなクソ台!まよカスなんて大っ嫌いだ!!」 ブチ切れてボタンをバンバン叩く譲子ちゃんをアルファモンが宥めますが、取り付く島もありません。 「譲子、落ち着け」 「うるさい!大っ嫌いだ!!ちくしょーめぇぇっ!!!」 「譲子、よく見ろ」 ですがアルファモンは気付いていました。リーチが外れてからというもの、画面中央ではいつまでも図柄がゆらゆらと揺れ続け、次の変動がなかなか始まらない事に…。 そして次の瞬間……。 ガシャン!! 『オーオーオオオオオオー、オオオーオーオーオーオーーー!!』 激しい爆音が鳴り響くと同時に虹色の輝きを纏った真宵ちゃん役物が機動し、更には何事かとびっくりするほどのけたたましいサイレン音を轟かせながら筐体上部からはでっかいサンドヤンマモンのお面までもが迫り出してきてパチンコ台はこの上ないくらい大騒ぎ。 3列に並ぶ4の図柄を中心に放たれた液晶の光が譲子ちゃんにはとても眩しく見えました。 『右打ちしてね!右打ちしてね!』 「うおおおおおおお!!真宵ちゃん愛してるッ!!!」 さぁいよいよ待ちに待った大当たり。 真宵ちゃんによる様々なカバー楽曲をラウンド中や確変中に聴く事が出来るというのも本機の醍醐味の一つなのですが、はてさて譲子ちゃんはどんな曲を選択したのでしょうか? 『♪♪〜〜〜今日もおてんきだ私のためだけ地球はグルグルまわります』 選曲はともかくとして、アルファモンの睨んだ通り釘に関して言えばかなりの良調整。本来ならば1ラウンドにつき8個入賞となる本機ですが9個は当たり前、10発目も容易く狙えるというとてもご機嫌な台で出玉もモリモリと増えて行きます。 『♪海行きたい!だがしかし!ひぃ〜やけはぁおそろしぃやぁ〜〜』 ルンルンな気分で大当たりラウンドを消化する譲子ちゃんに明るくハイテンションな楽曲、そんな楽しげな雰囲気に釣られてかどこからともなくバナモンがやって来ました。 一匹、また一匹…続々とやって来ては曲調に合わせて大はしゃぎです。 『♪かっとば〜せ〜夏が来た〜期待のルーキー夏休みぃ〜!恋い焦が〜れたらぁ〜全力アピール〜』 筐体から出る音も大概ですが後ろが妙に騒がしいなと思い譲子ちゃんが振り返ってみると、なんとそこには辺り一面を覆い尽くさんほどのバナモンの群れが歌えや踊れやのどんちゃん騒ぎ。 負けを返済するどころかこのまま勢いに乗ってバカ勝ち出来るのではないか…。そんな自信を譲子ちゃんに与えてくれます。 『♪何様? おつかれサマ〜カッコつけ〜ない魅惑のラブストーリー、ダーリンアイラビュ〜〜〜〜ホアホア』 因みにこの後、譲子ちゃんは43連チャンという驚異の大当たり回数を叩き出し、船が沈没した事にも気付かず夢中で打ち続ける事になるのですがそれはまた別のお話。 『♪バ〜ナ〜ナ〜は〜や〜しょ〜く〜』 ───────── 彼の名はピーコックモン究極体。デジモンイレイザーに仕えるネオデスジェネラルの一人にしてイレイザー軍最強の戦士にのみ与えられるという日竜将軍の称号を持つ強豪中の強豪です。 しかしながら表向きこそデジモンイレイザーに忠誠を誓う様な素振りを見せる彼ですが、その実イレイザー軍はそう遠くない将来壊滅すると内心ではデジモンイレイザーを見限り、独自で何やらこそこそやっているご様子。 わざわざこのレッシェン・ジーク号にまで出向いて来たのも水面下で企てているというある計画を推し進めるためであり、クラウスさんに協力するためというのは建前でしかありません。 そんな日竜将軍ピーコックモン究極体の前に現れたのは色々あって参加予定だったコミケがおじゃんになってしまった橘樹 文華さん。 この出会いが日竜将軍終了のお知らせになってしまう事をこの時のピーコックモン究極体はまだ知る由もありませんでした。 「あんたのせいで私のコミケが台無しよ……あんただけは…あんただけは私の手で倒す!!!」 開口一番で処刑を宣告した橘樹さんはまるで瞬間移動でもしたかの様に一気に距離を詰め拳を振り上げます。 勢いに乗せてパンチを繰り出すと同時に橘樹さんは闇の闘士ライヒモンへと姿を変えました。 対するピーコックモン究極体も咄嗟に翼によるシールドを展開して防御を試みますが、ライヒモンの拳は彼が想像した以上に重く、シールドはいとも容易く砕けガードを崩されてしまいます。 そうして出来た隙をライヒモンが見逃す筈もありません。 続け様に放たれた左アッパーを食らったピーコックモン究極体は大きく仰け反ってしまい、更なる追い打ちとばかりにミドルキックを左脇腹に貰ってしまいます。 ──名門退魔師の娘と町の大工の棟梁の娘のぬるぐちゃいちゃラブドスケベなかよし本…。あなたとの思い出は数えるほどしかないけれど、あなたを思い出させるものは数え切れないくらいある…── くの字に身体を屈めて後退した孔雀型デジモンに追撃となる右ストレート浴びせたライヒモンは手元に槍を召喚。 怯んだ日竜将軍を薙ぎ払う様にぶった斬りました。 ──そして何より……何よりあなたを完成させた時のあの喜びが忘れられない……── 斬撃をまともに受けてふっとばされたピーコックモン究極体はごろんごろんと床ペロの憂き目に遭うもすぐさま起き上がって反撃の機会を伺います。 ──遅いかしら?今頃になって言うのも……── ですが立ち上がったところでもはや橘樹さんにとっては狙いやすくなっただけの恰好の的でしかありません。 突きからの切り払い、更にそこから後方回し蹴りへと繋げ、槍による追撃を与えます。 ──私は……。私は…… 私はあなたが可愛くて可愛くて仕方がなかった!── 防戦一方で後退するしかできないピーコックモン究極体を絶対に逃がすまいとその嘴を乱雑に掴んだライヒモンは槍の切っ先を日竜将軍の土手っ腹に何度も何度も何度も叩きつけました。 ──我が子の様に大切に想っていた!!── ですがピーコックモン究極体もネオデスジェネラルの一人…このまま何も出来ずに終わる事など断じてあってはなりません。 最後っ屁とばかりに翼から必殺のビーム『レインボーシャワー』をライヒモン目掛けて放ちました。 しかしながら戦いに関してはやはりライヒモンの方が一枚上手だった様です。 掴んでいたピーコックモン究極体の体を突き放した勢いを利用して飛び退いたライヒモンは同時に無数の黒い球体を生み出し日竜将軍のビームに応戦。 雨の様に放たれたビームを的確に狙い撃ち全弾相殺させたばかりか、余分に生成しておいた球体を本体にぶち当て追い打ちとなるダメージを与えます。 「ナラベガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」 虫の息となったピーコックモン究極体にとどめの一撃。 鬼気迫る勢いで吠えたライヒモンは大きく飛び上がったかと思うと、自身の物理法則を無視する能力を利用して二人に分身しながら華麗な前方二回宙返りを決め、オーバーヘッドキックを眼前の敵へと打ち下ろしました。 渾身の蹴りを食らったピーコックモン究極体はガクリと膝を付き爆発炎上。 「何故……?俺が……俺が、やられる……!?」 燃え盛る炎の中、イレイザー軍最強の戦士と謳われた孔雀さんは最後まで自身の敗北が信じられないまま絶え果て、その身はデータの粒子となって霧散して行きました。 戦いを終えたライヒモンは静かに変身を解除して元の橘樹さんの姿に戻ります。 勝利を収めて元凶かもしれない奴をやっつけこそしましたが、失ったものはもう決して戻っては来ないのだと改めて悟った橘樹さんはただただ哀しげな目で空を見上げるばかりでした。 ───────── トラブルに次ぐトラブルが立て続けに起こり、その余波で今にも沈んでしまいそうなレッシェン・ジーク号。 こんな時不運とは往々にして重なるもので、今まさに新たな驚異がこのクルーズ船に立ちはだかろうとしていました。 突如として海面が盛り上がったかと思うと、海中からざっばーんと超巨大なメタルグレイモン(青)が出現。 船を真っ二つにせんとトライデントアームが迫ります。 「うわぁ!船長、大変です!とてつもなく巨大なメタルグレイモンが!」 「このままじゃ船が引き裂かれるー!!」 ………ですがこれは玩具、キャス子ちゃんの叔母に当たる千夜桜 焔ちゃんがお風呂でダイナモーションのメタルグレイモン(青)とゼンマイ仕掛けのお船を使ってブンドド遊びをしていました。 ガチャッ、キィ… そこへ扉の開く音が…。 「お前…人ん家で何やってんだ…」 入って来たのはこのお家の住人である那由多ニコちゃん。当然ながら無断で人の家に侵入した挙句、勝手にお風呂を利用している焔ちゃんに困惑を隠せません。 「何って、見ての通りのお風呂タイムなんだが?」 「いやだからなんでアタシん家で風呂入ってんだ!?自分の家で入れよ!」 ニコちゃんの意見は至極真っ当なものですが、残念ながら焔ちゃんに悪びれるという概念は一切存在しないのです。 「わかってないなぁニコるんは…。こういうせせこましい風呂に慎ましやかに入るのが乙なんじゃん」 「喧嘩売ってんのか……」 アパート住まいのニコちゃんからしてみれば立派なお屋敷で暮らしている焔ちゃんのこの発言はバカにされている様にしか聞こえません。 「どったの?ニコるん。そんなに怖い顔すんなし〜。メタグレちゃんもそう言ってるぜ」 『怒っちゃやーよ』 「うるせえ!とっとと出てけ!!」 右手のメタルグレイモンソフビをふりふりさせながら発した焔ちゃんの裏声に心底イラッと来たニコちゃんはボディソープの容器を焔ちゃんに投げつけました。 「嫌だッ!今日は泊まってく!!」 それに対し瞬時に反応した焔ちゃんは飛んで来た入れ物をキャッチして投げ返し、ついでに湯船にぷかぷか浮かぶ船の玩具もぶん投げます。 「うわ危なっ!?」 「ニコ〜、あんまり騒ぐと近所迷惑だからほどほどにしn…あ痛っ!?」 ボディソープの容器、船の玩具共々なんとか躱すことの出来たニコちゃんでしたが、勢いに乗った投擲物は騒ぎを聞いてやって来たヤンキーアルケニモンのクウちゃんに見事命中。 もはや様式美とも言える食らいっぷりで仰け反りながらぶっ倒れてしまいました。 「クウたん!?」 「ぅおぉい!!大丈夫か!?クウ!」 ───────── こちらは再びレッシェン・ジーク号。 またまた何か災難に見舞われた様で船内は騒然としています。 「二人とも、無事か!?」 「…うん、大丈夫。」 「コッチも無事だヨ。何ダッたんだロウね?今ノ」 郡上 夏芽ちゃんと財前 日影ちゃんとチェ・セヨンちゃんの三人もまたキャス子ちゃんの我儘に付き合わされた子達です。 漠然とししゃもが欲しいと言われても海で泳いでいるのを釣り上げる以外に方法が思い付かず困っていたところへ先ほど船全体がひっくり返るほどの大きな衝撃が襲い、皆で安否確認を行なっているところでした。 「私にもわからない。何か船そのものが浮かび上がってとんでもなく大きなものにぶつかった……みたいな感覚だった。いや、そうとしか言えない…みたいな」 夏芽ちゃんは自分でも何を言っているのかよく理解できないでいますが、不思議と日影ちゃんもセヨンちゃんも確かにそんな感じだったと頷いています。 そこへまた大きな揺れが… 「きゃっ!?」 よろめいた日影ちゃんを夏芽ちゃんが優しく抱き留めました。 これ以上こんなところに居るわけにはいかない。ししゃもなんてほっといて一刻も早くここから脱出しよう…というのが夏芽ちゃんの考えでした。 どうやらセヨンちゃんも考える事は同じだった様で、夏芽ちゃんの目を見て静かに頷きます。 そうと決まれば善は急げです。夏芽ちゃん&ゴツモンとセヨンちゃん&ルクスモンの二組が日影ちゃんとキャンドモンのペアを守る様にして最寄りの非常口を目指しました。 しかしまたしても船は強い揺れと共に大きく傾き、一同は揉みくちゃになりながら転がされてしまいます。 「もウこうなったラ壁をぶっ壊して外へ出るヨ!」 セヨンちゃんがルクスモンを進化させようとしたその時、どこからともなく謎のポエムが聞こえてきました。 「ひとは死ぬよ、かならず死ぬ…」 コツン…コツン…と足音を立てながらやって来たのはメタルサタモン。 ネオデスジェネラルの一人にして土竜将軍(代理)を務める完全体デジモンです。 「いつか君も、俺も死ぬんだ…」 謎ポエムを呟きながら突然現れた不審者のおじさんに三人と三匹は困惑を隠せません。 「だからせめて、生きてる間ぐらいは一緒にいてくれよ」 夏芽ちゃん達のすぐ近くまで来たメタルサタモンは急に立ち止まったかと思うと、彼女らの方へ振り返り爽やかな笑みを見せながらグッと親指を立ててみせました。 「俺が守っからよ!」 ですがその時、真下のフロアで大きな爆発があった様で無情にもメタルサタモンが立っている場所のみをピンポイントで吹き飛ばしてしまいました。 放物線を描きながらお空へ飛んで行った土竜将軍を夏芽ちゃんもセヨンちゃんも日影ちゃんもそのパートナー達もただ唖然と見上げるばかりです。 「Deep Breath, we need it just focus!!」 謎の言葉を叫びながら海面へと衝突したメタルサタモン。 その姿はまるで溶けて行く様に深い青の中へと包まれ、やがて見えなくなりました。 それと同じ頃、見晴らしの良いアッパーデッキにて灯くんは何やら怪訝な面持ちで空を見上げていました。 「これは、ちょっとまずいかもね…」 「まずいって、何がだ?さっきの揺れと関係あるのか?」 職業、エクソシスト。即ち霊媒師な灯くんには確かに何かが見えている様ですが、ピコデビモンには見る事が出来ず勝手に一人で納得されても困るといったご様子です。 「あぁごめんね」 相棒が事情を知りたがっている事に気付いた灯くんはスマホを取り出し、お空に向けてパシャリ。 撮った景色をピコデビモンに見せてやりました。 「…………何だこれ」 画面に写し出された空には真っ赤なオーラが船体にその魔手を伸ばすが如く広がっており、中心部はどこか女の人の顔の様にも見えます。 一目見てやばいとわかる警戒色にピコデビモンも嫌悪感を抑えきれません。 「こいつが……元凶だとでも言うのか?」 「ここに来たいと切に願っていた女の子の強い念がこの船に良くない影響を与えてる…。下手をすると今から数十分後にはバラバラになってるかもね、この船。」 ピコデビモンの問いに灯くんは静かに頷き答えます。 もし灯くんの言う事が本当ならば今すぐにでもここから逃げるべき…。ピコデビモンはその様に考えましたが、灯くんはそうではありませんでした。 「でね。この写真に写った子なんだけど、顔の雰囲気が何だか冥梨栖店長に似ている様な気がしてちょっと可愛いなって思っちゃったからさ。何とかして対話を試みて、この子とお近付きになりたい」 ピコデビモンは開いた口が塞がりませんでした。 「は?お前こんな時に何言ってんの?アホなの?」 「仮に今ここから脱出して命が助かったとしても、あそこであの子を口説いていれば…って後悔は一生残るかもしれない…。やらない後悔よりもやって大成功!だよ。ピコデビモン」 まぁこいつの女癖の悪さはいつもの事か…と早々に説得を諦めたピコデビモンはせめて相棒と逸れる事が無い様、灯くんの後にしっかりとついて行くのでした。 「どうなっても我は知らんぞ」 ───────── 「なんやかんや言いつつニコるんもあーしと一緒に入りたかったんじゃん。この〜愛い奴め〜。」 「うるせえよ……こうでもしなきゃ出て行かないだろ、お前」 結局根負けして焔ちゃんと一緒にお風呂に入る事になったニコちゃん。 ただでさえ狭い浴槽に二人も入るとなるともうぎゅうぎゅう詰めです。 「ねぇニコるん」 「ん、何だ?」 「何かさ、すっげぇ狭くね?あーしん家で風呂入り直さない?」 「……だから言ったんだよ!!でけえ風呂あんだからお前ん家で入れって!!」 奔放過ぎる焔ちゃんにニコちゃんはついにブチ切れ、ぷかぷか浮かんでいた船の玩具を拳でバンバン叩いて沈めます。 「ちょっ!?ニコるん、そんな乱暴に扱っちゃダメだって!」 ───────── 上から叩きつけられた様な、とてつもなく強い衝撃に何度も見舞われたレッシェン・ジーク号はまたもや沈没寸前でした。 沢山居た乗客達も流石にやばいと感じたのか、その大多数が次々と大型の水棲型デジモンや救命ボートに乗って避難を始めています。 そんな中、近一ゲキくんとバンくんの二人は相も変わらず仲良く喧嘩していました。 「何か船が沈みかけてるみたいだし、アンタもさっさと避難した方が良いんじゃないっすか?!」 「おヌシこそ逃げたきゃ勝手にせい!この勝負はワシの勝ちじゃ」 二人ともキャス子ちゃんに頼まれ、黄金のデジししゃも探しのお手伝いをする事になったのですが、海が怖い二人は禄に探索しようともせず、ただただ先に黄金のデジししゃもを先に見つけるのは自分だと言い張るだけの小競り合いを続けています。 両者が互いに掴み掛かりガチの取っ組み合いに発展しかけたその時、ある人物の姿がゲキくんの目に留まりました。 「あの人は確か…夏祭りの時の」 「ん?何じゃ?」 バンくんも釣られてその人の方へ視線を向けます。 そこに居たのは日野 勇太くん。何か以前会った時よりも大人っぽいし、女の人みたいになってますがきっと日野 勇太くんに違いありません。根拠は特に無いですがゲキくんは強くそう思いました。 ある客室の前に立ち、ドンドンと力任せにドアを叩く勇太くん。 「おーい光〜、ドアを開けなさい」 中に居るであろう彼女の鬼塚 光ちゃんに呼びかけますが、返事は全くありません。 「どうしたの?おーい開けなさいよ〜」 再びドアを叩いて呼びかけるものの、やはり光ちゃんからの応答は無しです。 「日野勇太のお出ましよ〜。光〜、聞いてるの〜?」 ピンポーン!ピンポーン! 叩いても全くの無反応だったので今度はインターホンを鳴らしてみる勇太くん。 「何度も言わせないでよ〜、誰もいないの〜?」 ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン! ですがやはり扉が開く気配は一向にありません。 「ヴォーボモンはどうしたの?レディーデビモ〜ン?こうなったら委員長でもいいわ〜。お願いだから開けてよ〜」 痺れを切らした勇太くんはドアノブをガチャガチャと回し始めます。 「何か開けられない理由でもあるの〜?」 尚も反応の無い扉を勇太くんは執拗にドンドンガチャガチャ…。 「おーい!…おかしいなあ……おーい開けなさいよ〜」 ドアノブを何度も回す内、ようやく勇太くんは鍵が開いている事に気付きました。 「なんだ、あいてるじゃない……」 わざとらしくギイィとドアを軋ませながら、勇太くんはゆっくりと部屋の中に入って行きます。 おかしい、鍵が開いているのにドアノブを何度もカチャカチャ回すなんて絶対に変だ……。その異様な光景にゲキくんもバンくんもしばらくの間、部屋の扉から目を離す事ができませんでした。 『めぐり〜あう〜ときを〜こ〜え〜〜、ふたつ〜の手〜重〜な〜る〜、よみが〜える〜 想い〜出〜を〜このむ〜ねに〜いだ〜い〜て〜〜』 その頃、譲子ちゃんは絶賛大当たり継続中。スマパチなのでどんなに船が傾こうが玉の紛失を気にする事なくひたすら出玉を増やし続けていました。 画面内ではシスター衣装に身を包んだ真宵ちゃんが素敵な歌声を披露しています。 「この歌好き〜」 「この女の子の衣装も良いな。何のコスプレだ?」 派手やかな歌と映像に夢中になりながらも、心の中のアルファモンの問いかけに譲子ちゃんはきっちり答えます。 「ん?あぁ、ゆうこだよ。ゆうこ」 ───────── 「お、帰って来たぜ」 「おかえりキャス〜」 「ただいま〜」 海中での探索を終えて甲板へと上がって来たキャス子ちゃんをチョコモンとグミモンがぴょこぴょこ跳ねながら出迎えます。 「んで、どうだったよ?」 「残念だけどチョコモンが教えてくれた金のししゃもは結局見つからずじまいだったよ。でも見て!」 普通のししゃもならこんなに沢山捕れたよとキャス子ちゃんはダークネスローダーの画面の中で泳ぐししゃもの大群を得意気に見せます。 「「おーっ!」」 一杯のししゃもを見てチョコモンもグミモンも大興奮。竜馬くんも呼んでししゃもパーティだと意気込む三人ですが、どこからともなくベチャッベチャッ…という気色の悪い音が聞こえてきます。 「何だろ?あれ…」 全身粘膜まみれの何かが近付いて来る様な…そんな不快な音のした方を見やるキャス子ちゃん達の視界に飛び込んできたのは全身真っ白なもこもこに包まれた正体不明の怪人でした。 「何もかもおしまいだ……私の意図せぬ形で船は破壊され、誘き寄せた奴らの大半には逃げられ、イレイザー様の信用も失った………」 何やら一人でぶつくさ呟きながらこちらへとふらふらと歩いて来るもこもこ怪人。 そう、彼こそが山田さんに大量の生クリームをぶちまけられて全身真っ白になってしまったクラウス・シュテルンさんその人だったのです。 「だが私一人では死なんぞ。こいつを使って船に残っている奴ら全員皆殺しにしてくれる!!」 クラウスさんは生クリームにまみれた手で生クリームにまみれた何かを手に持ち、それを力一杯地べたへと投げつけました。 しかしながら生クリームでべっとりのそれはぺしゃりという何とも言えない音を立てて着地した後、ふにゃりと力無く崩れてしまいどうにも格好がつきません。 全身がクリームで覆われているため表情は読み取れず、これに対しクラウスさんがどうリアクションしたのか定かではありませんが、何やらふらふらとした足取りで船べりの方へと向かいます。 「我が魂はァァァァ……デジモンイレイザー様と共にありぃぃぃィィィーーーー!!!」 船べり付近で足を止めたかと思うと全身を大きく広げ声高らかに叫ぶクラウスさん。 そのまま身を乗り出す様に海の方へ向かって倒れ込み転落してしまい、彼は海中へと姿を消して行きました。 「なんだあれ、ダッせー!」 「生クリームの塊で船内の乗客皆殺しとか何のギャグだよ!」 チョコモンもグミモンもクラウスさんの一連の動きを見てゲラゲラと爆笑していますが、キャス子ちゃんだけは違いました。 クラウスさんの置き土産をただ静かに見つめています。 「ん?どうしたよ、キャス」 「…チョコモン、グミモン、危ないから離れてて」 キャス子ちゃんの忠告から察するに生クリーム怪人が投げ捨てたあれは確実に何かやばいものに違いない…そう感じ取ったチョコモンとグミモンが一歩下がった次の瞬間、生クリームの中から真っ黒な球体が物凄い勢いで飛び出してきました。 球体は甲板を抉りながらキャス子ちゃん達三人目掛けて一直線。 ですがキャス子ちゃんはその場から一歩足りとも動こうとしません。 このままではまともにあれを食らってしまう。そう思われたその時、キャス子ちゃんが勢いよく前方に突き出した拳により球体は破裂、跡形も無く消え去ってしまいました。 流石キャスだぜと言わんばかりにグミチョココンビのテンションも爆上がりですが、クリーム内に潜む何かの初撃を防いだだけ。まだまだ油断は出来ません。 生クリームの山がゴポゴポと泡立ち始めたのを皮切りに空は暗雲に覆われ、海は荒れ、辺りは異様な雰囲気に包まれます。 直後、生クリームが弾け飛び、中に潜んでいた者がついにそのベールを脱ぎました。 爆発で上がった炎は黒い雷を巻き上げながら次第に何かを形作って行きます。 そのあまりにも仰々しく勿体ぶった登場シーンをいちいち待ってやる義理も特に無いのでキャス子ちゃんは早速ぶん殴りに行きました。 一瞬で距離を詰め放たれたキャス子ちゃんの正拳突きが見事に炸裂…かと思いきや、まるで獣人を思わせる様なフォルムになりかけていたそれはキャス子ちゃんの拳をいとも容易く受け止めたのです。 8歳の頃からゲキくんのもとで稽古を重ね、厚さ1mのレッドデジゾイドをブチ抜くまでに鍛え上げたパンチが通用しなかった事に流石のキャス子ちゃんも驚きを隠せません。 ここへ来てようやく相手の姿をはっきりと捉えたキャス子ちゃん。 彼女はその禍々しい姿に心当たりがありました。 「なるほどね…。どうりでわたしの拳がこうもあっさり受け止められちゃうわけだ…」 その名は日竜将軍エクリプスドラモン。かつてキャス子ちゃんのお母さんも戦った事のあるイレイザー軍最強の戦士です。 「なら、これ…で…っっ!?」 拳を引っ込めたキャス子ちゃんが次の攻撃へ転じようとしたその刹那、強烈な蹴りがキャス子ちゃんを襲いました。 防御が間に合わず吹っ飛ばされ、船の外へと投げ出されるキャス子ちゃん。 「キャス!!おわっ!?」 慌ててキャス子ちゃんを追いかけようとするチョコモンとグミモンも日竜将軍の放つ蹴りにより巻き起こる余波で大海原へ放り出されてしまいました。 「(今の、けっこう痛かったなぁ……倍返しくらいじゃ全然足りない。5倍返しくらいしてやらなきゃ…)」 などと考えながらキャス子ちゃんは海面目掛けて真っ逆さま。 ですがその時、不意に誰かがその手を掴み、キャス子ちゃんの落下を阻止したのです。 「おとう……さま?」 予想だにしていなかった人の登場にキャス子ちゃんは思わずきょとんとしてしまいますが、すぐに言い知れぬ嬉しさで胸が一杯になりました。 5歳児の姿とは言え、娘のピンチに颯爽と助けに現れた父親の姿はキャス子ちゃんにとってこの上無く格好の良いものであった事は言うまでもありません。 「………まだご馳走して貰ってないから…」 一方の竜馬くんはぶっきらぼうな態度でししゃもが目当てだと一言告げますが、竜馬くんの人となりをよく知るキャス子ちゃんはほんとこの頃から変わらないんだなぁ、お父様は…としみじみしながら頷きます。 そうこうしている内にキャス子ちゃんは竜馬くんに無事引っ張り上げられるも、体重0のキャス子ちゃんは5歳児の竜馬くんの力でも簡単に引き上げる事ができたので竜馬くんはひたすら目を丸くしています。 「お父様…もう少しだけ待ってて。まだ残ってる用事をすぐに片付けて必ず戻って来るから…」 目線を竜馬くんに合わせて頭を撫で撫でしてあげたキャス子ちゃんは立ち上がり、今もエクリプスドラモンが暴れているであろう上階へと視線を向けました。 その頃、無事に避難を終えキングホエーモンの背中の上からレッシェン・ジーク号を見守る日影ちゃんはまだ船内に取り残された人が居ないか心配で仕方がない様です。 それだけではありません。自分と同じ様にここに避難して来た人達も楽しい船旅から一転してこの様な惨状になってしまったのですから受けたショックは決して小さくはない筈…。皆の為に何かしてあげられる事は無いかと日影ちゃんは必死に考えました。 「日影!」 スカートの裾を揺する様に引っ張るキャンドモンに視線を落とす日影ちゃん。言葉など交わさずとも相棒が伝えようとしている事を彼女はすぐさま理解しました。 そう、日影ちゃんが皆の為にしてあげられる事。それは… 『♪アーアーアーアーアーーアーアーアーアーアーアーーー』 「(私の歌で皆にエールを!!)」 一方、レッシェン・ジーク号では船の最上階にてエクリプスドラモンが真っ黒な球体を雨あられの様に降らせ、船体は瞬く間に大炎上。 「ヴワァァァァァァァァアア!!」 日食を司る魔竜はまるで勝ち誇ったかの様に獣の如き雄叫びを天高く轟かせます。 しかしその直後、彼が立っていた床板に突然亀裂が走り、真下から飛び出した何かによって日竜将軍の体は宙へと舞ったのです。 硝煙の中、その姿を見せたのはキャス子ちゃんでした。下層階からの奇襲が見事に成功し、一矢報いたキャス子ちゃんは今度こそ地獄に送り返してやると決意に満ちた目でエクリプスドラモンを見据えます。 「お、無事だったかキャス」 「無事だったよ、わたし」 飛ばされちゃったチョコモン、グミモンの二人もそれぞれベアビヲモン、マッドラクモンへと進化した状態でキャス子ちゃんと合流。空中で体勢を立て直しこちらへ向かって来るエクリプスドラモンに目を向けます。 「二人とも、終わるまで安全な場所でやられたフリしてても良かったんだよ?あれはお母様でさえ手こずったほどの相手…」 「これまで戦ってきた奴らとは強さの桁が違うってか?でもな!」 「俺達だって桁が違うんだよ!!」 パートナー二人の言葉に応えるが如くキャス子ちゃんはそっと口角を上げ、迫り来る日竜将軍目掛けて飛び立ちました。 グミチョココンビもそれに続き、重なる様にキャス子ちゃんと一つになります。 キャス子ちゃん+チョコモン+グミモン=キャス子ちゃん。 一見すると何も変わっていない様に思えますが、お母さん譲りの真っ赤な瞳は左右でグミモンを思わせる緑、チョコモンを思わせる檜皮色へと変化し、正しくキャス子ちゃん達は今一つになってここにいるのです。 戦いの火蓋は再び切って落とされ、レッシェン・ジーク号の上空にてぶつかり合う二つの拳。 それにより生じた余波は凄まじく、圧潰してしまいそうになるほどの衝撃が船を襲いました。 その影響は離れた場所に居るキングホエーモンにまで及び、小さな島ほどの大きさを誇る巨体でさえも揺さぶれられるほどに海は荒れ狂いますが、覚悟がガンギマリな日影ちゃんは歌うのを決して止めません。 『♪たったひと〜りで〜も〜君を守〜りた〜い〜いつもいつもいつもいつも〜側にいるから〜』 そんな日影ちゃんの想いが船上で戦うキャス子ちゃんにも届いたのか否か、さっきはいとも簡単に止められてしまったキャス子ちゃんの拳は日竜将軍との鍔迫り合いに競り勝ち、エクリプスドラモンをとんでもない勢いでお空の彼方へぶっとばしました。 コの字の姿勢で暗雲を突き破りそのまま大気圏辺りまで飛んで行ったエクリプスドラモンを絶対に逃がすまいと猛スピードで追いかけるキャス子ちゃん。 しかしながらイレイザー軍最強の戦士の肩書きは伊達ではありません。 遥か上空で体勢を立て直したエクリプスドラモンはすぐさま無数の暗黒球体を召喚して反撃を開始、降りしきる流星群が如き夥しい数の球体をキャス子ちゃん目掛けて放ちます。 逃げ場も無く被弾は必至かと思われましたが、突如としてキャス子ちゃんの姿が消え球体は不発に…。 どこへ行ったのかと辺りを見回すエクリプスドラモンに死角からいきなり現れたキャス子ちゃんによる強烈な蹴りの一撃が綺麗に決まりました。 ぐるんぐるんと回転しながら墜落するもエクリプスドラモンはフッと姿を消しその身を晦ませます。 先ほど自分がやったのと同じ様に相手も瞬間移動を用いたと瞬時に悟ったキャス子ちゃんは、いずこかへ消えたエクリプスドラモンを追う様にして再度姿を消しました。 『♪どんなにつらくて どんなに苦しくて〜も、きっと きっと きっと きっとゴールは近いから〜〜』 同じ頃、キングホエーモンの背中の上では日影ちゃんの歌声に魅せられた避難民達が一人、また一人と俯けていた視線を彼女の方へ向けていきます。 そんな最中、大きすぎるエクリプスドラモンの気配を追ってキャス子ちゃんが現れたのは溶岩ひしめく火山地帯…。 上空から気配の出どころを探り当てようとするキャス子ちゃんでしたがその刹那、火口の中から燃え盛るマグマを纏ったエクリプスドラモンが飛び出して来たかと思うと尋常ではない速度でキャス子ちゃん目掛けて突っ込んで来たのです。 これには回避が間に合わずまともに食らってしまい、火だるまになりながら後退してしまうキャス子ちゃん。 『♪ほ〜し〜ぞ〜ら〜に〜か〜が〜や〜け〜ギ〜ン〜ガ〜〜』 しかしマグマの熱程度ではキャス子ちゃんはビクともしません。 右腕を横一文字に払う事で全身の炎を一瞬にして鎮火させたら今度はキャス子ちゃんが仕掛ける番です。 エクリプスドラモンがやったのを真似て手元に黒い球体を作り出したキャス子ちゃんはグッと力を込め、それを身体の何十倍ものサイズにまで巨大化させます。 『♪もうい〜ち〜ど〜き〜み〜に会うた〜めに〜〜』 「何か凄い球!!」 エクリプスドラモンの技なんて簡単に模倣出来るアピールをしてかっこよく決めたかったキャス子ちゃんでしたが、エクリプスドラモンの技名を知らない彼女は適当に誤魔化しつつ力任せに暗黒球体をぶん投げました。 何か凄い球が直撃したエクリプスドラモンはその物凄いパワーに押されて数100mほど後退りながらも何とかこれを耐え切り、防御のためにクロスさせていた両腕を思いっ切り広げて球体を跳ね除けます。 見様見真似の付け焼き刃でやった猿真似でありながら何か凄い球の威力は凄まじく、近くの火山に着弾した球体は山を一瞬にして木っ端微塵に消し飛ばしてしまいました。 直撃したものだけに留まらず、周囲の山々を吹き飛ばしながら尚も拡がり続ける爆風…。巻き込まれぬ様、エクリプスドラモンとキャス子ちゃんは瞬時に転移をしてまた新たな場へと戦いを移すのでした。 『♪その胸に宿した〜夢のつばさひろ〜げ〜高く高く高く高く!空へ飛び立て〜』 次に二人が訪れたのは緑豊かな自然に囲まれた森林地帯。 エクリプスドラモンは出現するや否や自身の周りの空間を歪めて5本の極太レーザーを発射し、キャス子ちゃんを仕留めにかかります。 これに対しキャス子ちゃんは先程と同様に瞬間移動を行い回避を試みますが、空振ったレーザーは突如として軌道を変え、キャス子ちゃんが現れたポイント目掛けて一直線。 今度は高速かつ不規則に飛び回る事で振り切ろうとするもレーザーはキャス子ちゃんを逃がす事無くどこまでも追って来ます。 「キャス!」 「うん、わかってる」 それならばとキャス子ちゃんは一気に急上昇して高度を取ってからの急降下キック! 「やあぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!」 向かって来るレーザーを真正面から打ち消し、勢いそのままにエクリプスドラモンの胸部の発光体へと蹴りをブチ込みました。 『♪固くつな〜ぎあった 君のそ〜の手をずっと ずっと ずっと ずっと!ずっと離さ〜ない〜』 並の敵であれば必殺となるキックですが相手がイレイザー軍最強の戦士となれば話は別、決して油断は出来ません。 足先により一層の力を込めて黒き魔竜の体躯を地面に叩き付けても尚、キックの出力を上げ続けるキャス子ちゃん。 エクリプスドラモンも驚くべき耐久力でこれを耐え続けますが、彼よりも先に大地の方が音を上げた様です。 エクリプスドラモンが大の字で押さえつけられている地点を中心に大きな地割れを伴いながら地盤が沈下。二人は地中奥深くへと姿を消しました。 『♪と〜き〜を越〜え〜か〜が〜や〜け〜ギンガ〜〜ひ〜か〜り〜あ〜れ〜いつま〜で〜も空に〜〜〜』 エクリプスドラモンにキックをブチ当てた姿勢を保ったまま地盤をブチ抜きダークエリア、そしてその最深部たるコキュートスにまで辿り着いたキャス子ちゃん。 エクリプスドラモンもこれまで以上に凄い数の暗黒球体で抵抗を試みますが、瞬時にキャス子ちゃんが姿を消した事で日竜将軍の攻撃はまたしても不発に終わり、代わりにあちこち飛び火しまくったコキュートスは大惨事です。 『♪アーアーアーアーアーーアーアーアーアーアーアーーー』 「キャス、このまま戦いを続けてたらデジタルワールドが吹っ飛んじまうぜ」 「うん、わかってるよ…チョコモン」 「だったらここでやるしかあるめぇ!」 「勿論そのつもり。行くよみんな!」 「おう!」 「おうよ!」 「「「トリニティ………バァァァァァァァァァァスト!!!」」」 トロピカルゾーン海上へ再び舞い戻ったキャス子ちゃんはこれ以上の長期戦は良くないと一気に攻勢をかける事にしました。 紺、緑、檜皮…三色に輝くオーラを螺旋状に纏いながらエクリプスドラモン目掛けて一直線に急加速します。 エクリプスドラモンも負けじと赤黒いオーラで全身を包み込み、これに真っ向から迎え撃ちました。 『♪もう一度〜〜』 上空で激しくぶつかり合い、ぐるんぐるんと回りながら繰り広げられる凄まじい鍔迫り合い…。 『♪アーアーアーアーアーーアーアーアーアーアーアーーー』 次の瞬間、大きな爆発が巻き起こると共に発生した余波によって辺り一面を覆っていた暗雲が吹き飛び、空は雲一つない快晴へと変わりました。 『♪きみに会うために〜〜』 紺と黒紅…二つの球体が海面に向かって落下し、背中を向け合った状態で海上に立つキャス子ちゃんとエクリプスドラモン。 両者一歩も動かず、このまま時だけが過ぎ往くかと思われたその時…… 静寂を一気に破るかの様な破裂音を伴いながらエクリプスドラモンの胸部の発光体が砕け、均衡は終わりを告げました。 「ガァッ!?…グッ………ガハッ……グワァァァァァァァッ!!!」 損傷部から漏れ出すどす黒い靄をエクリプスドラモンは何とか抑え込もうとしますが結局叶わず、ついにその体は大爆発を起こし跡形も無く消え去ってしまったのです。 「うわああああああああ!!」 同時刻、トロピカルゾーンの海底に佇んでいたイレイザーベースもまたエクリプスドラモンの死に連動するかの様に大爆発。中に居たデジモンイレイザー共々、海の藻屑となってしまったのでした。 ───────── 「「「アンコール!!アンコール!!」」」 歌い終えた日影ちゃんを温かく迎える喝采の声…。それはまるで人知れず死闘を制したキャス子ちゃんをも讃えているかの様でした。 アンコールにお応えするため、次の曲を歌うべく軽く発声をしながら喉の調子整える日影ちゃん。 これで準備はバッチリです。大きく息を吸い、優しい音色と共に息を吐き出しました。 『♪どんな〜に時が過ぎて行〜っても変わらないものはこ〜こに〜〜僕ら〜の星はあの夜空で〜今も〜かが〜や〜い〜て〜る〜』 その頃、レッシェン・ジーク号船内では竜馬くんが窓の外の海を見ながらキャス子ちゃんの帰りをずーっと待ってました。 ししゃも食べたさに船の豪華な料理にも手を付けずにいた竜馬くんのお腹はもうペコペコです。 『♪沈んでく夕陽さえ 気付かずに〜走〜り抜けた』 「お待たせ!」 聞き覚えのある声のした方へ振り返る竜馬くん。 相も変わらずむすっとした表情をしていますが、念願の大好物にありつけると内心ウッキウキなのが隠しきれていないご様子。そんな父親の喜ぶ顔を見て、娘であるキャス子ちゃんもにっこりです。 もう待ちきれないとばかりにキャス子ちゃんの近くまで駆け寄った竜馬くんは彼女の手を掴み、急かす様に腕をぶんぶん振ります。 『♪どこ〜にだって行け〜るはず〜 信じてた僕〜らがいた〜』 「それじゃ、約束通りししゃもをご馳走するね。お父様の為に腕によりを掛けて作るから楽しみにしてて!」 「そういえばキャス」 自慢気に語るキャス子ちゃんの背後からチョコモン&グミモンがひょっこりと顔を覗かせました。 『♪あの頃〜の気持ち〜 忘れたくないよ〜願うだけじゃ足〜りなくても そうい〜っしょに踏み〜出せ〜るから〜』 「ん?どうしたの?チョコモン」 「黄金のデジししゃもはどうすんだ。」 「え?なんで?」 「なんでって…探してたんじゃなかったのかよ」 「わたし黄金のししゃもが欲しいなんて一言も言ってないよ?」 「「うぉぉい!?」」 キャス子ちゃんの口から明かされた衝撃の真実。 協力してくれた皆も黄金のデジししゃもなんてさっさと諦めて避難してくれている事をただただ願うばかりです。 『♪どんな〜に遠く〜離れていても〜 大切なものはこ〜こに〜』 わけのわからない眉唾ものなんていいから早く行くよとばかりにデジタルゲートを開くキャス子ちゃん。 竜馬くんもキャス子ちゃんが作ってくれるししゃも料理が楽しみ過ぎて黄金ししゃも云々にはあんまり興味を示さないみたいです。 父と娘……仲睦まじく手を繋ぎながらゲートの奥へと姿を消して行くのでした。 『♪一歩ずつでもその軌跡が〜夢のその先へ〜今も〜みち〜び〜い〜て〜る〜〜』 三上父娘が通って行ったゲートが閉じたのと同時に2曲目を歌い終えた日影ちゃん。 彼女の歌声に聞き惚れた人達の拍手喝采が再び湧き上がり、日影ちゃんもそれに応える様に満面の笑顔で手を振ってみせました。 「みんな〜〜!ありがと〜〜!!」 ───────── 「お前……マジで泊まってくつもりか…」 「だから最初からそう言ってるし〜」 焔ちゃんとニコちゃんの二人はお風呂から上がって絶賛くつろぎタイム中…。 何度帰れと言ってもちっとも聞く耳を持ってくれないのでニコちゃんはもう諦めムードです。 「そうカッカすんなし。寿司頼んでやるからニコるんも遠慮なく食え〜」 「いや、今は寿司って気分じゃないんだが……」 「何か無性に生魚食いたくなったの!あーしが!!」 「わかったわかった」 もう勝手にしてくれとでも言いたげに流すニコちゃん。 その片隅では中の水気を飛ばすため、バラバラに分解された船の玩具が乱雑に置かれているのでした。