うろ覚え羅生門 ―― 何も調べずに、読んだことにして書いた版 ―― ※これは芥川龍之介『羅生門』の正確な再現ではありません。  細部は全部うろ覚えで、順番も言い回しも雰囲気で補っています。 一  羅生門という、ものすごく大きな門があった。  京の都の、たぶん一番立派だったはずの門である。  ただし、その頃の都は全然立派ではなかった。  地震があったり、火事があったり、飢饉があったりして、  とにかく世の中全体が「もうだめかもしれない」という空気だった。  羅生門も荒れ放題だった。  屋根は壊れかけ、柱は色あせ、  本来なら人の出入りで賑わっているはずの場所に、  カラスくらいしか寄ってこない。  そこへ雨が降ってきた。  しかも、ただの雨ではない。  やむ気配のない、夕方から夜にかけての、じめじめした雨である。  その門の下で、一人の男が雨宿りをしていた。  男は下人だったと思う。  「下人」というのが正確な身分なのか、単に偉い人の家で働いていた男なのか、  そこはもう曖昧である。  確かなのは、彼がその日、暇を出されたということだ。  要するにクビになった。  長年仕えていたはずなのに、世の中が不景気になると、  そういうのはあっさり切られる。  行く場所はない。  金もない。  食べるものもない。  雨は止まない。  男は門の階段のあたりに座って、  頬にできた大きなニキビだか、吹き出物だかを気にしながら、  これからどうするかを考えていた。  このニキビは妙に覚えている。  物語の大事な部分ではないはずなのに、  なぜか羅生門といえば、まずこの吹き出物が出てくる。  男の選択肢は、だいたい二つだった。  一つは、このまま正直に生きて、路上で餓死すること。  もう一つは、盗人になってでも生き延びること。  考えているうちは、まだ盗人になる勇気はない。  でも、餓死する覚悟もない。  「どうしよう」  を何十回も繰り返しているうちに、夜になった。 二  そのうち男は、門の上へ上がってみることにした。  なぜ上がったのかは、よく覚えていない。  雨を避けるためだったかもしれないし、  誰かいる気配がしたからかもしれない。  羅生門の楼の上は、もっとひどい場所だった。  そこには死体が転がっていた。  一人ではなく、何人も。  都で行き倒れたり、捨てられたりした人たちが、  雑に置かれたままになっている。  火が見えた。  こんな場所で火があるのはおかしい。  男がそっと覗くと、死体の中に、一人の老婆がいた。  老婆は、死んだ女の人の髪を、一本一本抜いていた。  いや、一本一本というより、わりと容赦なく、すっ、すっと抜いていた。  男は驚いた。  そして怒った。  死体から髪を抜くなんて、とんでもない悪事だと思ったのだ。  さっきまで「盗人になろうか」と迷っていた男が、  目の前の悪を見た途端、正義の側に立ったような気になる。  男は老婆に詰め寄った。  「おい、婆さん。こんな所で何をしている」  みたいなことを言ったと思う。  台詞は全然正確ではない。  刀に手をかけていた気もする。  老婆はびっくりして逃げようとしたが、捕まった。 三  老婆の言い分は、こうだった。  この女の髪を抜いて、かつらを作って売るのだ。  そうしなければ、自分は生きていけない。  だから仕方ない。  しかも、髪を抜かれているこの女も、  生きていた頃は、そんなに立派な人間ではなかった。  確か、蛇を切って、魚だと偽って売っていた。  ……だったと思う。  何か食べ物を誤魔化して売っていたのは確かだ。  だから、その女だって生きるために悪事をしていた。  その女の髪を抜く自分も、生きるためにしている。  だから、この女なら、自分が髪を抜かれることを、きっと許してくれるはずだ。  老婆はそう言った。  論理としてはかなり無茶だが、妙な説得力がある。  「生きるためなら、悪事も仕方ない」  老婆の言葉は、男の中で何かを外した。  さっきまで迷っていた境界線が、急になくなったのだ。 四  男は言った。  「では、俺がお前の着物を剥いでも、文句は言わないな。俺もそうしなければ餓死するのだから」  だいたい、そういう意味のことを言ったと思う。  ここが一番有名なはずの場面なので、  うろ覚えでも芯は合っている気がする。  男は老婆から着物を剥ぎ取った。  老婆は抵抗したが、男の方が強い。  着物を奪うと、男は夜の暗闇の中へ駆けていった。  老婆はしばらく、死体の中で呆然としていた。  それから起き上がって、呪いのような言葉を吐きながら、  門の梯子を下りていった……ような気がする。  その後の老婆がどうなったかは、知らない。  男がどこへ行ったかも、知らない。  雨はまだ降っていたはずだ。  羅生門だけが残った。  おわり ―― うろ覚えメモ ―― ・大きな門、雨、貧乏、死体、老婆、髪、かつら。 ・男はずっと「盗人になるか、餓死するか」で悩んでいる。 ・老婆の開き直りが、男の背中を押してしまう。 ・最後、男は本当に盗人になる。 ・蛇を魚として売る話だけ、妙に具体的で、多分合っている。 ・カラスもたぶんいた。 ・ニキビ(吹き出物)は絶対いた。なぜか自信がある。