紡錘形のその上を、艶めきながら滴は垂れていく。それは個人の意志では止められない、 重力と生体、二つの科学的作用によるものである――ただ彼女が健気であったのは、 髪を伝う汗を、自分の真下から少しでも遠く落とそうと、顔を上げていることであった。 時代錯誤な行燈の灯が障子を抜け、襖に跳ね返り、てらてらと裸体を輝かす。 努めて声を出すまいと耐えてはいるが、机仕事の多い彼女には今の体勢は辛かろう。 白い肌には、赤縄が痛々しく食い込んでいた。そしてまた、汗を吸い込んで暗く光っていた。 男は葉巻をふかしながら、ふう、と紫煙を女の顔に吹きかける。 むせ返ってごほごほと呻く声、反射的に濡れる目端、息を詰まらせて詰まる胸。 それは彼女の意志に反して、酷く蠱惑的な、女としての艶を強調する。 三十路も見えたその身体には、まだ誰の手垢も付いていない。 否、彼がそれを付けようとしたからこそ、今のこの光景はあるのだった。 一周り二周り年上の、一度思い込めば独りでは考えを改めることのできないような連中。 そんな相手に気丈に振る舞い、司書としての矜持を見せる、眼鏡の麗人。 その美貌は――時に彼のような、外形しか見ていないような輩を惹きつける。 それを警察に突き出したまではよかった。図書館を出禁にしたまではよかった。 ただ己の肉体が――職場と自宅の狭間にあるとき、無防備だということへの自覚がなかった。 黒塗りの車体に引きずり込まれ、口を開く間もなく自由を奪われることへの想像力がなかった。 言葉にて人を諭す人間は、言葉の通じない相手には総じて無力なのである。 彼女が今、口を噤んで耐えているのも、この男との隔絶を早々に悟ったからに相違ない。 全裸で縄を巻き付けられ、天井から吊るされている女の直下には、 男が彼女と話すための口実として借りた、一冊の本が開いて置いてある。 紙面には既に、いくつもの汗の粒が染み込んだ跡が黒々と残っていた。 たとえそこらの書店に平積みされているような本とは言え、元は税金で買った本だ。 公共物を、己の分泌物で汚すわけにはいかない――それが彼女の意地である。 しかしその想いも、いつまで続くかわからぬこの時間の前に何の意味があろうか? 男はやはり無言のまま、首筋を掻くために大きく頭を傾けて襟を開いた。 鎖骨のすぐ下、紺色の四半楕円が覗く。女は顔を上げつつも、そちらには視線を向けない。 きゅっと結ばれた唇には、汗に濡れた髪の一房がぺたりと張り付いていて、 後頭部で軽く纏められた黒く長い髪が――この男の情婦にされかかっている現状と、 皮肉なまでに似合っていた。だが、彼女を吊るすだけ吊るしておいて、 彼はまだ、その肌のどこにも触れていない。その気なら、すぐに壊せてしまえるからこそ―― 何人も、そうして壊してきたからこそ、彼女の耐える姿をじっくり味わっているのである。 尻を胴より高く吊り上げられ、両腕は背中で二の字を描くように縛られている。 顔は己の汚した本の惨状が見えるように下向きにされているのだから、 必然的に、その大きな乳房――司書としての制服、真緑の前掛けで隠されてなお目立つ、 誰にも侵されていない雌としての部位が、床に向けて間抜けに垂れている。 そして、咳をするごとにたぷんたぷんと揺れ――引き剥がされた汗が、本の上に散る。 頭を揺らせば、顎を撫でた汗が、唾液が、あるいは涙が――同じく、ぽとぽとと落ちる。 眼鏡も少しくずれて、鼻の上に必死にしがみついているだけであった。 女の身体は次第に、もじもじと、小さな――けれど止まることのない揺れに支配されていく。 腕と同様に足首も縛られているのだから、膝頭は却って開くのが自然であろう。 しかしその腿を、彼女は恥じらいを浮かべながら時折擦り合わせるのである。 そこから生まれた振動は、これまでの彼女の献身的な努力を嘲笑うように、 ずっと多くの汗の粒を、食い縛る歯列より垂れる唾液を、だらだらと振り落とす。 より艶めかしく光る脂汗も、やがて肌の上にぽつぽつ浮いて落ちるようになった。 哀れな本は、多量の水分を吸ってへにゃへにゃと力なく波打つ始末である。 ようやく声が漏れた――だがそれは男に聞かせるためのものというより、 堪えきれぬ何かが、喉を通って声帯を震わせただけに過ぎなかった。 無論男は、それを聞き逃さない。じいっと、乳房に鼻息のかかるぐらいの距離から、 彼女の凛とした表情が、どうしようもなく壊れる瞬間を見つめようとしている。 すぐ近くにあるその頭を無視しながら――女の両脚は忙しなく擦り合わされていた。 揺れた乳房が男の鼻先に当たって脂の付こうがおかまいなしに、ただ悶える。 やがて腿だけでは済まず、腰が自然にくい、くい、と前後に――上下に、揺れだす。 声は段々と、焦りの感じ取れる上擦ったものへと変わっていく。 脂汗の量も、目に見えるほどに多くなっていく。にたにたする男とは裏腹に、 女の口からは、誰に向けてのものでもない、懇願するような言葉が出始める。 頭もぶんぶん振り回し、自由にならぬ腕に縄を食い込ませながらぎしぎし踊り、 眼鏡の下の、鶯色の瞳をきゅうっと縮めて前方の何もない空間を睨みつけ、 そして、ついに彼に赦しを乞うた時――男はただ、駄目だ、とだけ言った。 彼女の中で――何か、目に見えないものがぷつんと、切れてしまった。 あっあっあっ、と、小さな呟きと共に、耳慣れぬ水音が噴き出し始める。 灯に照らされた黄金色の細い筋が、重力に引かれて紙の上に勢いよく落ちていく。 縛り上げられて二時間は経つ。だが捕らえられる前――職場を出た時間を加味すれば、 最後に用を足してから、優にその三倍四倍には匹敵するだけの時が経っていた。 それは最早、彼女の意志がどうであるか、とは無縁のものである。 生理的に引き起こされる破滅、男はただそれだけを待っていさえすればよかった。 音が一段落して――無残なまでにびしょびしょに濡れたその紙の塊を、 男は女の鼻先に向ける。弁償、という言葉を用いてなじりながら。 粗相して本を汚すなど、彼女にとっては何よりも恥じるべきことであった。 同僚たちの、あるいは利用者たちの顔も、男と同じように彼女をなじる。 睨みつけ、どなりつけて失態を糊塗しようにも、他人の前で失禁し、 はしたなく床を汚した事実は、どうあっても覆らないのである。 緊張感の抜けてしまった彼女は、乳房を鷲掴みにされても、弱々しい声しか出せない。 男が勝ち誇るように服を脱ぎ始めても、それを制止する言葉を吐けない。 後ろに回った男が、自分の尻に指を埋めても――もうあの態度には戻れない。 縄が緩められ、己の垂れた尿の上に、濡れた本の上に身体を押し付けられた時、 再び彼女の内には、この不条理に抗おうという強い心が蘇った。 だが、それは彼の――深々と突き立てられた、雌を支配するためにある肉の槍、 純潔を食い破る邪悪な塊によって、易々と打ち砕かれてしまう。 罵倒の言葉となろうとしていた息の塊は――そのまま悲鳴へと置き換わり、 臓腑を穿られる痛みへの言葉、無力な雌としての自分を嘆く言葉へと変わる。 どれだけ叫んでも喚いても誰も助けに来てくれないことは、最初の半刻でわかっていた。 なのに、助けを求めざるを得ない。男がやめてくれるはずもないと頭では理解しながら、 それでも、今この瞬間に凌辱をやめてくれと――乞わざるを得ぬのである。 男はその言葉に悲痛な響きの増すたびに、一層腰の動きを速めていき、 生娘の心身を甚振ることに余念がなかった――元より勝負は決まっていたのだ。 苦痛。悲哀。羞恥。どの言葉を充てるのが、彼女の感情を表すのに最も適当であろうか? ただ確実に言えるのは、この時間が少しでも早く終わって欲しい、というのが第一であり、 その後に何が起きるか――自分がどうされるか、など考える余地のないことだった。 だから、出すぞ、とだけ男が呟いたとき――その言葉のもたらす恐ろしさよりも、 ようやく終わってくれる、との想い、感謝、に限りなく近い感情が胸中を埋めていた。 そしてそのまま、男の手による拘束が緩んだ帰結として――床に叩きつけられ、 自分の乳房の上に乗っかるような格好で頭をぶつけ――眼鏡がぴょんと弾かれて跳んでも、 それを直す余裕はおろか、気の飛びそうな倦怠感に抗うのが精一杯であった。 なのに男は、彼女が息を整えるより先にその身体をくるんと反転させ、 重力に引かれて左右にだらしなく垂れる乳房の片っぽうを踏みつけては、 これから毎日可愛がってやる、安心して孕め――そんなことを言うのである。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 天井から垂れる、あの見慣れた赤い縄。しかしそれは彼女の肌に食い込む敵ではなく、 むしろその体重を預けるための頼もしい仲間として機能していた。 自ら進んで、その縄の先の――拳を通し、握るのにちょうどいい輪に指を絡めて、 女は上半身を、実に重たそうに持ち上げている。下半身の重量だけで精一杯で、 その大きな乳房と――先端に取り付けられた卵大の錘とを支えるのは、困難だったからである。 両脚は、背後に立つ男の腰の高さにちょうど尻の来るように開かれている。 男は飽きもせず、満足げに彼女の腿から尻――やがて背中側から腰に向けて、 指をすうっと這わせ――自分の背中と同じ紋様を彫り込んでやった皮膚をなぞる。 女の口には指一本分の太さの革製の轡が噛まされていて、言葉を発することはできなかったが、 その表情から――彼を求めている、彼に屈服していることは明らかであった。 何より、尻を掴まれ、一方的に挿入されようというあの時と同じ体勢でありながら、 恐怖に怯えるどころか、期待に満ちた締まりのない顔で、彼を見つめ返しているのだ。 すんなりと、その中へと男の穂先が沈んでいく。少し身体を撫でられただけで、 彼に可愛がられる悦びに、ぐちょぐちょに濡らしてしまっていたのである。 だが全てを呑み込みきるのは、不可能というものであろう。 まだ根本までが収まりきらないうちに、男の腰は止まって、女の動きもつられて止まる。 ただ、乳房だけは――こうして重りによって引っ張られ続け、 また自然に肥大して、二、三周りは大きく重たくなった牛のような乳房だけは、 勢いを殺しきれずに、ゆさり、と音の聞こえるぐらいに重たく暴れる。 するとその先端からは――白い筋がぼたぼたと噴き、もはや本とも言えない紙屑の上に落ちる。 男の手は、そのだらしない乳房をちょうど牛の搾乳をするのと同じ手つきで、 根本からごしごしと、乱暴に、しごき出すようにして搾り上げる。 白い筋はたちまちに何本にも増えて、真っ黒に染まった乳首の、凹凸のほとんどから、 ぶぴり、ぶびゅうと勢い良く噴き出して、甘ったるい匂いを撒き散らすのだった。 背筋をびくびく震わせ、縄を握る両手の力も抜けかけて、それでも必死に耐えながら、 抑えきれぬ快楽の波は――彼に巻きついている膣襞を歓喜に打ち震わせる。 何度も何度も何度も――こうして孕むまで咥え込み、形を覚え込まされた彼のものに、 更なる刺激と奉仕のために、献身的に絡みつき、絞り上げるのであった。 その膣のうねりに応えるように、男は乳房を捻り上げていた手をぱっと離し、 腰を抱き込むようにしてぐっと尻を寄せ、最奥の――子宮口へと突き込んでやる。 ぱくぱくとひくついて彼を求めるその唇に――既に二人産まされたその孔に、 ずぶり、と鈴口がはまる。女の脳内に火花が弾け、獣めいた喘ぎ声が漏れる。 そのまま、抜きもせず腰の動きだけでぐりんぐりんと中をほじり、 すっかり逝き癖のついてしまった子宮口を、容赦なく男は責め立てる。 口からぼたぼたと垂れる唾液の泡は、もはや理性の欠片もを感じさせない。 ただ、与えられる刺激と快楽に溺れ、子を孕み産むだけの肉穴である。 それでも自ら、その肉厚になった尻を彼の腰に押しつけ、精をねだる。 雌としての最も原始的なあり方に――彼女は完全に呑み込まれてしまっていた。 夫婦としての交わりの狭間、赤子に乳を含ませるその間隙に、ふと乳児向けの本を見て、 彼女はほんの一瞬、自分が司書であったことを思い出す。しかしそれも長くは続かない。 真っ黒に成り果てた乳首に赤子の吸い付くたびに――脳が痺れ、身体が火照る。 それを止めてもらうには、彼にこうして、滅茶苦茶にしてもらうほかなかった。