27文字 15行 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ ① 「ここは…。」  鬼塚 圭吾が目を覚ましたのはは見知った自宅リビングであった。  なぜ今のような言葉が出たのか、それは、圭吾が目を覚ます前の最後の記憶。  道路を外れ、娘の鬼塚 光に突っ込んで来る車から庇ったところで記憶が途絶えていたからであった。  圭吾はあの事故で自分は死んだと確信していた。 「夢だったのか…。」 「圭吾…?」 「秋子さん?」  声を掛けてきたのは妻の秋子であった。  秋子は信じらないものを見て戸惑っていたが、徐々に顔を崩しながら近づいて来た。  しかし、あと一歩のところで戸惑っていた。 「あっ…」 「?どうしたんですか…?」  圭吾は状況が呑み込めずにいると秋子の後ろから更に声が聞こえてきた。 「パパ…ママ」 「ひか…どうして、あなた…だって今、小学校6年生じゃ…」  秋子が戸惑いと怯えるような表情で光を見ていた。  圭吾には分からなかった、どうして娘を見て怯えているのか、娘は見慣れた5歳の姿でそこにいた。 「パパ!ママ!」 「あっ」  飛びついてくる光を秋子は反射的に屈んで受け止めていた。  そのまま光は圭吾と秋子を一緒に抱きしめた。 「おふ…どうしたんだい?いつもより甘えん坊…で」  瞬間、情報が流れ込み、圭吾と秋子は今の状況を一部を除き理解した。  圭吾はあの日、自分が死んだ事、秋子と光の顛末、光が自分を蘇えらせ、秋子を現実世界から呼んだ事を、この世界は光が用意したものであると。  しかし、光が変わりに犠牲にしたものやデジモンについては知りえなかった。  それは、光が3人だけの世界、幸せの世界に引き籠るために敢えて伝えなかった。  圭吾の記憶の処理が終わり改めて光を見るとそこには小学校6年生の成長した光がいた。  鼓動が鳴り響く、オグドモンの中心のコアになる部分でガルフモン光達がいる幸せの世界を抱きしめるように静かに座っていた。 ② 「チッ相変わらず化物がよ!」  ベルスターモンの銃から撃たれた弾丸を悉くデーモンは弾き飛ばしていく。 「フン!以前よりタイミングを磨き、弾丸の速度を速めて、破壊力を上げようとも急所を狙う特性のせいで躱すのなぞ、容易だたわけ!」  デーモンへのベルスターモンの弾丸での攻撃が利かず、すぐにも距離を詰めてこられる。  そのため、ビルを駆けあがり可能な限り動き距離のアドバンテージを取ろうとしていた。 「どのくらい喰って強くなったと思ったがこの程度か…」 「うるせえ!テメエが寿命だと知ってればもっとちゃんと準備してきたわ!この詐欺師ジジイ!魔王だがなんだか知らねえがせこいんだよバアカ!バァアアカ!!!!」 「はぁ…鬼ごっこにも飽きたそろそろ黙らされるぞ」  デーモンは炎弾を放ち、ベルスターモンの回避先に併せてビルを破壊する。 「うおっ!?」  煙とビルの破片に塗れ、一瞬だがデーモンへの注意が逸れた。  その瞬間に、デーモンは一瞬で距離を詰め、炎をベルスターモンの顔面へ拳ごと叩き込もうとする。 「なんてな!そうするだろうとは分かってたぜ!」  ベルスターモンがデーモンの腕を絡め取り旋風脚と踵からの弾丸を放つ。 「ふん!」  デーモンはそれを首を捻り、ギリギリで躱す。  (躱すか普通!?)  完全に不意を突かれ、今度こそ本当にベルスターモンの注意が一瞬デーモンから離れた。 「しまっ!?」  デーモンの拳がベルスターモンの顔面を殴り抜けそのまま地上に落下する。 ③ 「ぐえ!!!」  ベルスターモンが地面に頭から突き刺さったのを追ってデーモンも地上に降りてきた。  ベルスターモンに隠れるようにしギリギリまで距離を詰めた位置からサンドリモンがデーモンへ向かって行く。 「ひとりでお突っ走るからですわ!このお馬鹿!!」 「ふん!裏切者がわらわらと懐かしいではないか!」 ④ 「あら、お嫁にお行く部下を職場のお上司ならおめでとうのお一言も言うべきでしてよ!マリッジストライク!!」  サンドリモンは身体に回転を加えながら飛翔し、そのまま蹴りを放った。  デーモンはそれを腕で塞ぎ、ダメージは入らなかったものの後ろへ大きく吹き飛ばされた。 「ふん!退職届も出さん、不義理者に送る祝儀も言葉はないわ!!!」 「あら、ではあなたのお命を私の勇太様へのご祝儀として徴収いたしますわ!!三上 竜馬!今ですわ!!!」 ⑤  一瞬の地鳴りの後、デーモンの足元からチンロンモンが地下を通じて現れ、そのまま噛み付き天に昇っていく。 「竜馬!これで仕留められる相手じゃない!一気にいくぞ!」 「っ!」  チンロンモンの内部から雷が溢れ出しながら喉まで登ってくる。 ⑥ 「やるではないか…!人間でこれ程までに練り上げるとは。  だが所詮この程度よ!」 (こいつ!チンロンモンの咬合力を片手で止めるのか!?) 「だが、顔面のの破壊で脱出など雑魚の術、撃ち込んで来い人間!」 「っ!…蒼雷!!!!!」  デーモンが右手に炎を集中させ球を作り出す。  目の前に光速で登って来る、雷に対して炎球を撃ち込む。 ⑦ 「勇太君!ヴォ―ボモン!」  街の外れに脱出用のトレイルモンが停められていた。  天使達の街から逃がした人やデジモンも乗っているが、疲労からか殆ど動けていない。  アンティラモンが勇太達を抱えて現れ、そこへすみれ達が寄って来る。 「君が烏藤 すみれか?勇太達から話を聞いている。  この子達を頼む。私は時間を稼いでくれているサンドリモン達に加勢を「危ない!」  すみれがアンティラモン達を突き飛ばすと上空から巨大な影が現れる。  アンティラモンが振り返ると、遥か上空からチンロンモンを振り下ろし、トレイルモンの乗客車両へ振り下ろす。  絶叫と血しぶきが舞い上がった。 「はっははは!!!!!!!!!!!!」  デーモンが高笑いをしながら、融合が解けた竜馬の頭を掴む。 「今から車両をひとつづつ灰になるまで焼くが、動くなよ。動けばこの男の頭蓋は後ではなく、今潰れる。」 「デーモン!!!貴様!!!!」  意識が揺らいでる勇太の耳元で誰かが話しかけてくる。 『勇太、すみれさん。奴が炎を放ったらそれを打ち消してくれ、後は俺達でなんとかする。』  勇太は、揺れる意識の中で応えるようにデジヴァイスを握りしめた。  デーモンが高笑いしながら、炎弾を乗客車両へ放つ。 「ヴォ―ボモン!進化!ラヴォ―ボモン!」「シンドゥーラモン!!!」  勇太とすみれの叫びと共にラヴォ―ボモンとシンドゥーラモンがデーモンの炎を掻き消す。 「そうか!この男が余ほど死んで欲しいみたいだな!」  デーモンが手に力を籠めていく。 ⑧ 「何もなしにこんな事をすると思ったか?」  デーモンの横の空気が揺らめく、そこから三下 慎平とカメレモン、ジャンクモンとデジクロスしたターゲットモンが現れた。  ターゲットモンが変形したバズ―カから放たれた爆撃で竜馬を掴んでいた手が放れる。 「チッ余りにも低級で存在に気付かなかったか。」 「へっダセエ負け惜しみだな魔王さんよ。クロウ!雪奈!」  空気が揺らめきそこからライジルモンとクロウが現れ竜馬を掴み離脱する。  空気が再び揺らめきクロウ、慎平達がカメレモンの能力で隠れる。 「後は任せたぜ!雪奈!!」 「友達を傷つけて許さない…氷結結界!」  氷の波がデーモンを襲い氷結させる。 「今のうちに出してくれ!すみれさん!後は良子達に任せるんだ!」 「っ!」  すみれは、トレイルモンを出発させるが、同時に氷結させたデーモンは動こうと巨大な氷塊にヒビを入れていく。 「あれだけの規模の氷結をこの短時間で…良子ちゃん!」 ⑨ 「おうよ!!!!」  デーモンが氷塊を破壊したのと同時にトレイルモンから良子とアグモンがデーモンへ飛びかかる。 「アグモン!ワープ進化!!ゼクス・グレイモン!!!!」  ゼクス・グレイモンが身体中から光を上げデーモンへ突っ込む。 「ゼクス・プライマル!!!!!!」  デーモンを市街地へ吹き飛ばしていく。 「はっはははは!!!!!!!!あの男と同じく、人間もやるではないか!!!!」 「クソッ余裕かよ!!」 「私も行く。」  トレイルモンが出発し、車両の中でアンティラモンが良子達の方を向いて呟く。  それを聞いて、竜馬がよろめきながらデジヴァイスをアンティラモンに向ける。  デジヴァイスが光り、アンティラモンを包む。 「チンロンモンの光だ…進化の負担を少しは…減らせる。」  そう言うと竜馬は気を失い倒れる。 「おい!竜馬!」  クロウが倒れる竜馬を抱え支える。 「すまない…三上 竜馬。」  そう言い残すと、アンティラモンが進化しながらトレイルモンを飛び出し良子の元へ向かう。   ⑩ 「あ~もうどんだけ強いのよぉ!ちょっとアグモン!もっと根性出しなさいよ!」 「も~無理。ていうかこのままじゃ落ちて死ぬだろ。」 「その前に肉を裂いてやるがな。」  デーモンが良子達へ向かって行く。 (やば、颯乃達が回収に来る前に!) 「!良子、もう一度進化する!」 「無茶言わないでよ!すっからかんよ!…っ!」  デーモンの爪が、良子達に当たる瞬間にケルビモンが割り込み防ぐ。 「その姿…久しいな!」 「ムゲンマウンテンで会っているだろ…!」 「分身で会ってるとは言わんな!!」 「今の内だ!良子!逃げるぞ!」 「颯乃ちゃん!」  カラテンモンと颯乃が後方から現れ、良子とアグモンを回収し、トレイルモンへ向かう。 「先に離脱する!後は頼んだぞ!」 「ああ!」 ⑪ 「ふんっ。相変わらず小賢しいなケルビモン。  人間にやらせ、お前は後から掻っ攫うつもりか?」 「君がそんな簡単に倒せるなら苦労はしないだろうさ。」  ケルビモンが右手を翳すとそこに雷が集まって槍状に形成されていく。 「ふん!来い!」  デーモンが両手を翳し、そこに炎が集まっていく。 「「いくぞ!!」」 ⑫  ケルビモンの放った雷の槍とデーモンの炎弾がぶつかり合う。  ぶつかり合った部分を中心としてドーム状に爆発が広範囲に広がっていく。 「とんでもない爆発ね…これが三大天使と魔王の力…。」  遠方に嘶く炎と雷を見て慎平は呟いた。  それとほぼ同時であった。  勢いよく、良子達を抱え込んだアンティラモンが車両へ入ってきた。 「うお!?」 「流石だな、私達の方が早く離脱したのに。」 「はぁはぁ…鍛えれば君らでもいずれこの速さになる。」 「デーモンは…?」 「幾つか攻撃をぶつけ合ってお互いを見失った。  今頃オグドモンの処にでも戻っているだろ…。」 「ふぃーなんとか勇太君達を連れ出してあそこから離脱出来たって事ね…肝冷やしたぁ。」 「ふふ…お疲れ良子ちゃん。」 「後は、一回どっかの街まで戻って態勢を立て直せばなんとかなるか。」 「そうとも、言ってらねないわね…」  運転手室からすみれが重々しい空気を出しながら出てくる。 ⑬ 「それって…」 「他の街…このトレイルモンの路線が続いてる先に別のオグドモンがいる。  こっちに向かってるみたいで、恐らく5日位で合流するわ。」 「オグドモンってあそこに…そもそもそんなポンポン居ていい奴じゃないんじゃないの?」 「見たところ、オグドモンを模した何かと言っていいだろ。」 「何かってなんだよ?」 「者(デジモン)、物と限定する必要がないという事だ。  …何と言うべきか、元々のオグドモン自体も存在が大きすぎる?生命体と言うべき個ではなくもっと世界にあるシステムに近い。」 「…神様とかですか?」 「今のキャラクター化されたのではなくアニミズムに近い考えならそれに近いかもしれん。  とにかく、アレで重要なのはその権能だ。」 「権能…」 「欲望をばら撒く。  見ていたがデザイアリングとダークエリアの拡大が正にそうだな。  戦闘能力を排除し、その部分の特性だけを発現させたのだろう。  それなら、足し引きはまぁ…なんとかなるな。」 「おいおい、よく分かんねえけどよぉ。  あんなんがそんな簡単に2…?2?」 「連絡を取り合ってる職員となら全体で10体以上ね。  ほぼ、DW全域ね、でも、そうね…可能なんです?」 「シオン自体が管理者のデウスエクスマキナが世界中の住民の潜在意識で望む方向に多数決を基本として幾つかの条件を付けて機械的にバランスを取っている。」 「…つまり?」 「平和…いや抽象的だな、争いを好まない者が多いと世界全体に干渉して、争いが起き辛くする。」 「はぇ~できんのそんな事。」 「出来るから大層な名前が付いている。  話が逸れたが、ソドムとゴモラにあった願いを叶えるシステム。  アレは恐らくあそこまでの規模でなくても、オグドモンの出現場所にあったのだろう。  それで、願いを…欲望を叶えてくれる存在を潜在的に欲した。」 「つまり、デウスエクスマキナ…この世界自体がデーモン達の後押しをしたと?」 「律する天使達もいないくなった…暗躍されればあり得ない話じゃないだろうな。」 「あの…じゃあ光ちゃんをガルフモンを中心にオグドモンが現れたのは…。」 「…現実世界への侵攻。」 「…すみれも、そちらの治安組織も分かっているようだな。  いかにデウスエクスマキナの後押しがあっても、最初のエネルギーの発生が微弱では空振りだったろう。  選ばれし子供の力が必要だったのだろうな。  更に、人間である君達は我々デジモンと違い、元の世界、つまり現実世界と潜在的に繋がっているんだ。  それを辿り、現実世界にも侵攻を掛ける気だろう。  あいつらが、人間を仲間内に引き込んでいたのも本来だったらその中で道を作るつもりだったんだろうな。」 「他のオグドモンの中にも鬼塚みてえなのがいるのか?」 「いや、ありゃ最初に起動したオグドモンをリンクして動いてるだけだから中身…コアがあるのはあの街のオグドモンだけだ。  アレを潰されなきゃ、幾ら他を潰しても替えが利くだろうな。」 「ベルスターモン。」 「それに、そのイラつき方、どうせ援軍と連絡取れねえとかだろ?」 「そうなのか?すみれさん?」 「…えぇ、少し前から現実世界との連絡は取れなくなってるわね。」 「分かってんだろ。デーモンのジジイはともかく、手っ取り早くこの状況を終わらせてえなら。」 ⑭ 「それって…「コアを光とガルフモン…デビドラモンを殺すって事ですか?」  奥の車両から勇太とヴォ―ボモン、サンドリモンが現れた。 「お駄目ですわ、勇太様。傷はともかく、体力がまだ…!」 「よお、お目覚めかい?いいタイミングだな。  その通りだ、それが一番手っ取り早い。  コアを中心にあのオグドモンは形成されてんだ。  そうだろ?頭お花畑女?」  勇太がサンドリモンを見る 「…そうなの?」 「…そう、お聞いていますわ。」 「…勇太。」  アンティラモンが勇太になんとか声を掛けようとしたが言葉が出なかった。 「俺も行きます…。  俺が…俺達が光達を連れ戻します!」 「うん!」 「それにあそこには叶もいる…俺達が行かなきゃ駄目なんです。」 「でも…。」 「いいじゃないッすか。すみれさん。」 「おう!その通りだ!ここで逃げてちゃ男じゃねえぜ。」 「…同じ。」 「あなた達ね。勇太君とヴォ―ボモンじゃ…。」 「いや、勇太達は必須ッスよ。」 「慎平君…。」 「今、ここで戦えるのは俺らと天使達から逃げてきた一部のデジモン達だけでざっと数百、なのに向こうは見た感じだと完全体、究極体で数千は軽いだろ。 デーモンとデビモン、それに勇太の従兄も究極体がパートナーなんだろ?」 「あいつは、腹正しいが厄介だぜ。  デーモンのジジイがいなきゃ、オレが潰してえのによ。」 「なんか、勇太に粘着してるって話だし、引き剥がしにも使える。  それに、デーモン倒して、更にあのガルフモンと戦闘するより、勇太が説得する方が勝率は高いと思うぜ?すみれさんも見たろあのデーモンの強さ。  勝っても、こっちもただじゃすまねえのは分かるしょ?」 「…分かったわ。  時間が掛かればダークエリアから向こうの援軍が増えてく。  戦うなら速攻!すぐ行くわよ!」 「「おう!」」  協議の結果、すみれは他の人間達の保護や、他とのやり取りの関係で残り、残りの面子で挑む事となった。  決戦までの準備のため少しだけ時間を取る事となった。 「勇太、ヴォ―ボモン…すまない。」 「?どうしたのアンティラモン?」 「いや…私が不甲斐ないばかりに、光とデビドラモンが…。」 「何言ってるのさ!僕も勇太も全然気にしてないよ!皆で協力すればなんとかるさ!」 「そうそう!俺達選ばれし子供なんだろ!大丈夫だって!そんなひとりで抱え込まなくたって。」 「勇太…その件だが。」 「竜馬さん?」  後ろから竜馬が話しかけてくる。 「実は…むご!?」  それを慎平が後ろから抑え込む。 「?」 (バッカ!お前今言って勇太混乱させてどうすんだよ!?) (…まぁ…そのなんか今、言っておいた方がいいような気がして。) (なわけ、あるか!おめえ勇太が自分で選ばれし子供って言ったの聞いたか?) (いや…) (強がってるだけでそんなもんに縋りつくくらい、追い詰められてんだよ!少しは察しろ!いいじゃねえか別にデジヴァイス使えねえわけじゃねえし!) (…そうだな) 「どうしたんです?」  勇太が主に慎平に対し怪訝そうな視線を向ける。 「いや、なんでもねえよ。」 「それよか、大丈夫なのか?」  後ろから、今度は健太郎が話しかけてきた。 ⑮ 「健太郎さん。」  健太郎が、慎平達に視線を送りそれを察して慎平達は去って行った。 「健太郎さんは行かないんです?」 「ああ…悪いな、迷惑掛けといてなんだがそこまでは…な。」 「そうですか…。」 「お前だってそうだろ?その光ちゃんだって自分の意志で向こうに行ったんだ。  お前はガキなんだ、後は大人に任せれば…。」 「…そうですね。」 「ああ…。」 「でも、俺がそうしたいんです。  なんか、それじゃあ駄目な気がして、光の事もそうですし、デーモンの事も出来る事があるならやりたいんです。」 「なんで…。」 「…昔、日花…妹とデパートでヒーローショーやってるの見たくて…そしたら母さんとはぐれたんです。  泣いてる俺達見てアクターさんがショー放って、一緒に母さん探してくれて…あの人だってきっとあの後いっぱい怒られたと思うんです。  他の誰かが、やってくれるって、助ける必要だってきっとなかった。  でも、助けてくれたんです、見ず知らずの俺達を。」 「お前…覚えて。」 「…色んな事があるけど、きっと誰の中にもヒーローがいるんです。  でも、どこかで信じられなくて…諦めて…馬鹿にする。  世の中は、ズルくて、自分本位に生きるのがいいって、自分の中のヒーローを殺しちゃうと思うんです。  だけど…俺にはあの人みたいに誰かの為に自分に嫌な事があっても人を助ける誇り高いひとが…ヒーローがいるって知ってるから…俺の中のヒーローを信じれる。  俺もあのひとが見せてくれたものを守りたいんです。  だから、行くんです。」 「っ…。」  健太郎は背を向ける。 「そんな…大したもんじゃねえよ…。」 「…。」 「…死ぬなよ。」 「…はい。」 ⑯ 「これが、コアか。」  オグドモンの内部で鎮座するガルフモンをデーモンとデビモンが見上げていた。 「ふん。契約とは言え、腑抜けに助力するのは気に喰わんが、安定はしているようだな…継続して調整してくれ。  それと、ダークエリアから来た同胞とお前が用意したおもちゃを集めておけ、奴らもすぐに来るだろう。」 「…後の事は、私がやって、残りの時間は鬼塚 光のように…。」 「たわけが、選ばれし子供達をあまり舐めるな。  油断すると土壇場で痛い目を見るぞ。  私と叶で相手をする。お前は部隊を指揮して有象無象を相手しろ。」 「しかし…」 「忘れるな。我々は別に死に戦をする気など毛頭ない。  全て終わったら私の後継はお前だ、無駄死にされても我々に着いてきた連中の事も考えろ。」 「…分かりました。」 「それに、鬼塚 光と違い、あの子のデータは一片とない。  この歳でお人形遊びの趣味はないぞ。」 「フッそれもそうですね。」 「お前…不敬ぞ。  全くベルスターモンもサンドリモンも貴様も…。  行くぞ、そろそろ奴らも来るだろう。」 ⑰  廃墟となったソドムとゴモラの街で両者が打ち合わせたように向かい合う事となった。 「おぉ~向こうもいるいる!言った通り数千ってとこだな!」 「能天気ねぇそんなんじゃマジに死んじゃうわよ?」 「…させないさ。」 「雪奈…危なくなったなら。」 「大丈夫。私も竜馬君と同じ…皆んな死なせないから。」 「それじゃあ、手筈通りに、デーモンを集中して叩く。  良子、竜馬、サンドリモン、ベルスターモン、ケルビモンは前線。  颯乃、クロウは皆のフォローしてくれ。  俺はの雑魚がお前らの邪魔にならないように、他のデジモン達を指示する。」 ⑱ 「おめえは勇太の側にいなくていいのかよ?」 「あら、私ただのお頭お花畑女と違いましてよ?  勇太様の守りたいものをお優先する。  それができるお妻スタイルですわ。」 「へっ」 「それに、私がデーモンと戦うのは何も勇太様にお惚れになったのだけが理由じゃないですわ。」 「?」 「私が守りたいのですわ。この世の色々なお強さを持ったお方々をね。  かつてのあなたのように。」 「ケッ…足は引っ張るんじゃねえぞ?」 「あら、あなたこそ、もう独断専行は黙認されますが、我々の連携の邪魔はしないように上手く立ち回るのですよ?」 ⑲ 「やはり奴らも来たか。」 「数はこちらが勝っています。  有象無象はこれで片付けられるでしょう。」 「それにしても、しんもんざえモン…あのおもちゃはひとつじゃなかったのか?」 「思考力が必要な任務には不向きでしたが、被害を考えなくていい、こういった決戦では役に立つと思い引っ張りだしてきました。  世界を憎悪するヌメモンなどは、今の時代どこからでも集められますしね。」 「ふん、気に喰わんがまあいい。  お前は、オグドモンの防衛にあたれ。」 「…ご武運を」  そう言い残すと、デビモンは音もなく消えていった。 「…」 「これが、最後の機会だ叶。  日野 勇太を殺し、お前の自由を掴んでみせろ。」 「言われなくても、ここで勇太に勝ってみせるさ。」 ⑳ 「すみません、それじゃあ俺はこれで離れてオグドモンへ向かいます。」 「勇太、おめえ分かってねえな。」  慎平が勇太の肩を組んで来る。 「謝るどころか、下手したらお前が一番大変なんだぜ?  多分、お前の従兄はお前を狙ってくる。  究極体を完全体で相手にして、それに鬼塚までなんとかしないとなんだぜ。  だからまぁ、死ぬな…よっと!」  慎平が勇太の背中を思いっきり叩く。  それを見てクロウ達も続けて勇太の背中を叩いていく。 「しっかり!かましてこい!勇太!」 「…やれるさ。」 「お姫様しっかり抱きしめて帰ってきな!」 「頑張って!勇太君!」 「お前ならやれる!気負けするな!気合いだ!」  勇太とヴォ―ボモンはケルビモンを見る。 「また後で…光とデビドラモンと一緒に会おう勇太!ヴォ―ボモン!」 「ああ!絶対!」 「余裕だったら助けに行くからね!」  そう言い残すと、ヴォ―ボモンは進化し、勇太を乗せ離れて行く。 「行ったな…。」 「いいなぁ…王子様って感じ。」 「良子ちゃんにもそのうち恋人出来るよ…!」 「恋人持ちふたりに言われもなぁ…」 「ガールズトークしてんじゃねえよ!集中してくれよ!」 「まあいいじゃねえかこういう時こそリラックスしねえとな!それにそんな口だとモテねえのがよりモテないぜ!慎平!」 「そーよ!そーよ!」 「…行くか。」 ((こいつ本当にブレないな…))  全員が溜息を着いた後、一瞬で眼光が鋭くなり、デーモン達へと竜馬達は向かって行った。 ㉑ (爆発音…戦闘が始まったみたいだ、俺も早く…!)  そう思った刹那上空から巨大なエネルギー球が降り注いできた。 「!…ラヴォガリータモン!ワイルドブラスト!!!」  粉塵が拡散し、上空のエネルギー球を誘爆していく。  爆発の隙間から巨大な影が涼しげに現れる。 「叶…。」 「勇太ぁ…!!!」  それはインペリアルドラモンと叶であった。 「遂にだ…この時が来た。  勇太…ずっと…ずっと待った…君を僕のものにする。」