地方の市役所の職員は楽に稼げるというイメージを抱いている奴はそれなりに居ると思う。しかし、オレ――犬飼 零二(いぬかい れいじ)が所属する福祉政策課はかなり忙しいし残業する日も多い。  今日もオレは、最低限の照明だけ点けた夜の仕事場で、ぼんやりと輝くディスプレイと睨めっこをしていた。 「ふあぁ……」  キーボードを叩きながら欠伸をすると、オレのすぐ隣の席でデスクワークをしている白獅子獣人が鋭い視線を向けてきた。思わず、心の中でやべっと呟いてしまう。 「犬飼。仕事中は気を引き締めろ」 「はい、すみません……」  夏場であるというのに黒いスーツをきっちりと着込んだこの白獅子獣人の名は獅子ヶ谷 千侍(しじがや せんじ)。福祉政策課の課長でありオレの上司だ。今日、オレはこの獅子ヶ谷課長と二人きりで残業をしていた。  獅子ヶ谷課長はとにかく、真面目だ。仕事で手を抜く事は一切許さないし、さっきのオレみたいに緩んだ姿を見せたら即注意してくる。堅物で厳しい、四十五歳のおじさんだ。  いまだに学生に間違えられる事が多い童顔のハスキー犬獣人であるオレも、課長と同い年になる二十年後にはこんな威厳がある見た目になれるのかなあ。 「……どうした。俺の顔をぼんやりと見つめて」 「うわわ、すみません!」  年中変わらない課長の仏頂面をついまじまじと見つめてしまった。 「疲れているようだな。少し休憩するぞ」 「は、はい!」  課長は立ち上がってどこかに行ったかと思うと、紙パックに入ったジュースを手に持って戻ってきた。 「飲め。疲れた時は甘いものが効く」 「ありがとうございます!」  課長が俺の前に置いたジュース。そのパッケージにはファンシーなフォントでいちごミルクと書かれていた。  ――この堅物で強面の課長は、意外にも甘党である。休憩時間にはいつもいちごミルクを啜っているため、ギャップがすごい。なのに、体型は緩んでおらず筋骨隆々だ。課長曰く、学生時代に野球をしていた時の癖が抜けずに自宅で毎日筋トレをしているとのこと。本当に、真面目だよなあ。 「ふぅ……」  目を閉じ、甘さを噛み締めるようにしていちごミルクをストローで啜る課長を見るとつい口元が緩んでしまう。それを悟られないように、オレもストローを咥えて貰ったいちごミルクを啜る。  ……ああ。確かに疲れた時は効くな。僅かな酸味と強い甘味が脳にガツンとくる。 「美味しいです」 「それは良かった。……おかわりも要るか?」 「い、いえ。気持ちだけで大丈夫です。ありがとうございます」 「そうか。もしまた飲みたくなったら遠慮なく言え」  福祉政策課の冷蔵庫には、課長が買い溜めした大量のいちごミルクが入っている。もしおかわりが欲しいと言えば、課長はそこから本当におかわりのいちごミルクを持ってくるだろう。別に甘いものが嫌いな訳ではないが、オレは一本飲めば充分である。 「……あの、もう結構遅い時間ですがお家の方は大丈夫ですか?」  いちごミルクを飲み終えた後、オレは課長にそう尋ねた。時刻は夜の九時を過ぎている。 「大丈夫だ。明日は休みだし、外出して家族サービスをする。それであいつらのご機嫌取りをするさ」 「……そうなんですね」  独身であるオレと違い、課長は妻帯者だ。  課長のデスクには写真立てが置かれているのだが、その中には温和そうな獅子獣人の女性とやんちゃそうな獅子獣人の男の子の姿が写し出された写真が入っている。課長の奥さんと息子さんだ。奥さんは課長と同い年で、息子さんは十一歳になったらしい。  オレは知っている。普段仏頂面の課長が、休憩時間にこの写真を眺めている時だけは穏やかな笑みを浮かべている事を。そしてそれを見る度に、オレの胸はズキリと痛むのだ。  オレは、昔から歳上の男に惹かれる傾向があった。ざっくり言うと、歳上が好きなゲイである。けれど、オレはそれを公言していない。田舎は噂が広がるのも早いし、それが面倒で嫌だから隠しているのだ。しかし、隠していても心は勝手に恋をする。  ――我ながら、最悪だと思う。妻子持ちの上司に恋をしているだなんて。 「犬飼は、休みの日はどうしているんだ」 「えっ? あー、えっと……」  あれこれ考えている最中に、課長から急に話題を振られて動揺してしまった。気持ちを切り替えて返答せねば。 「……動画を観ながら家でゴロゴロしていることが多いですね」  あっ、正直に答えすぎた。これは真面目な課長の好感度が下がりそうな返答だ。オレのバカ! 「ふむ。今時の若者はみんなそうなのか。万葉(かずは)も暇があれば寝転がって菓子を摘みながらタブレットで動画を観ていてな……。注意はしているのだが」  万葉とは、彼の息子の名だ。どうやら、万葉くんは真面目な課長と違ってごく普通のやんちゃな子のようである。 「うーん。注意したくなる気持ちは分かりますが、注意しすぎると反発して仲が拗れるかもしれないから気をつけた方が良いかもしれませんよ」 「そういうものなのか?」 「はい」  何故ならば、オレがそうだったからである! 大人になった今は自分に非があって注意されるのが当たり前だったのだと分かる。でも、ガキだった頃のオレは何で注意するんだよって親に逆ギレしちゃったんだよなあ。万葉くんはそうならないといいんだけれど。 「どう接すればいいのだろうか。万葉に嫌われてしまったら、俺は……」  恐らく、課長は結構な親バカだ。万葉くんを溺愛していて、嫌われるのが怖くてたまらないようである。いいなあ。オレも愛されたい。 「とりあえず、一緒に何か動画を観て楽しんでみたらどうですか? 仲が深まるかもしれませんよ」  好かれたい相手に対しては、趣味に共感するのが効果的。そう聞いたことがある。 「動画か。犬飼は、どんな動画をよく観るんだ?」 「うーん。オレは最近、マジック系の動画にハマっていますね。この前なんか、有名な配信者がマジシャンに催眠術をかけられてどんな命令にも従ってしまうみたいな動画を見ました。やらせだろーと思いつつ、オレも催眠術の練習をしたりして」 「さ、催眠術? 胡散臭いな……」 「ハハッ、オレもそう思います。でも意外と、課長みたいな獣人(ヒト)は催眠術にかかりやすかったりして。試してみますか?」  オレがそう言うと、課長は鬣を指で軽く掻きながら考え込むような素振りを見せた。くだらないと一蹴されるのを予想していたから意外な反応だ。 「……話のネタにはなるかもしれん。やってみせてくれ」  課長の表情は真剣そのもの。万葉くんが食いつきそうな話のネタを求めているのがよーく伝わってきた。間違いない。やはり彼は子煩悩であり親バカである。 「分かりました。とりあえずやってみます」  オレはデスクの上に置いていたスマホを取り、あるアプリを起動した。  今、オレが起動したアプリの名は『神之音(カミノネ)』。一定の間隔で鈴の音を鳴らすアプリであり、オレが数日前に観た動画に登場したマジシャンが催眠術をかける時に使用していたやつだ。  アプリが起動すると、薄暗い職場内にしゃんしゃんと鈴の音が響き始めた。その状態でオレは人差し指を課長の顔の前に突き出し、ゆらゆらと左右に揺らしながらこう呟く。 「神之音を聞き、我に従え。神之音を聞き、我に従え。神之音を聞き……」  短い呪文をひたすらに繰り返す。  うーん、課長が言ったようにこれは胡散臭いと自分でも思う。なんか恥ずかしくなってきた。 「……ってなワケで、これで催眠完了です」   鈴の音に合わせて短い呪文を二十回唱える。それだけで催眠は完了して相手を意のままに操れると、オレが観た動画では説明されていた。 「ふむ。特に変わった感じはしないが」 「でしょうね!」  そりゃそうだ。こんな簡単に相手を意のままに操れる訳がない。 「まあダメもとで課長に命令してみますよ。そうだなあ……」  今、オレは課長の顔の前に人差し指を突き出している状態だ。それでオレが思いついた命令は、 「オレの指を舐めてください!」  というものだった。まあ、何言ってんだお前と一蹴されて終わるだろうけどね! 「ああ。分かった」 「えっ?」  課長は大きな口を開け、オレの指をぱくりと咥えた。そしてそのまま、ざらりとした舌でオレの指を舐め始める。 「か、課長!?」  一瞬、冗談でやっているのだと思った。だが、課長はこんなことを冗談でするタイプではない。まさか本当に催眠術にかかったのか? 「課長! もういいです!」  オレがそう言うと、課長は口を離した。透明な唾液が、指先からつう、と垂れる。  心臓がバクバクと鳴って張り裂けそうだ。  本当に課長が催眠術にかかっているのだとしたら、何でもしてくれるのか? 課長が何でもしてくれるとしたら、オレは……。 「……課長。オレにキスしてくれませんか?」  もしも、さっきの課長が冗談で柄にも無い行動を取ったのだとしたら、この命令には絶対従わないだろう。ノンケかつ愛妻家である彼がオレに口付けするなど、絶対にありえない。そう思ったのに、 「んんっ……!?」  課長は、躊躇せずにオレと口付けをした。  口内に、甘いいちごミルクの味が広がる。ああ、甘くて、熱くて、蕩けそうだ。心臓が、さらに早鐘を打つ。  間違いない。課長は、催眠術にかかっている。命じれば、何でもしてくれる。オレの望みを、何でも叶えてくれるんだ。 「んっ……」  分かっている。奥さんや子供を愛する課長を操ってキスするなんて、最低な行為だ。罪悪感が胸を締め付ける。  ……でも、それでも、オレは今、幸せなんだ。ずっと好きだった課長とキスできて、幸せなんだよ。 「……っ、はあっ……」  長い長い口付けの後、オレは深く息を吸った。その最中、こう思ってしまう。キス以上の行為を、したいと。 「大丈夫か、犬飼」  色んな感情がない混ぜになった今のオレは涙目になっているだろう。そんなオレを見て、課長は心配そうな表情を浮かべている。  ああ、そんな反応をしないでくれ。もっと好きになってしまうから。 「……大丈夫です」  きっと、ここで止めるのが正解だ。これ以上はいけない。踏み止まらないと。  課長に、奥さんと子供を裏切るような真似はさせちゃいけない。  ……そう思うのに、オレの中の悪魔は囁く。これはチャンスだ。今までやりたくてもできなかったことをしてしまえと。  ――いつも仏頂面で、何かある度に細かく注意をしてくる課長。オレがミスした時は、一緒にその過ちを正そうとしてくる課長。疲れた時や落ち込んでいる時はいちごミルクを差し出して労ってくれる課長。そんな課長が、オレは好きだ。好きで好きで、たまらないんだ。 「……課長。もう一度、オレにキスしてください」  結局、オレは悪魔に勝てなかった。  オレの命令に、課長は頷く。それから数瞬の後、再びオレたちの口は触れ合った。  もう戻れない。獣人(ヒト)の道に反する選択を、オレはしてしまったのだ。 「んあっ、んんっ……」  今度は、口付けをしたまま舌を絡ませる。  こうなったら、とことんまで課長を貪ってやろう。やりたかったことを、全てやる。もう躊躇はしない。 「……オレのちんこ、しゃぶってください」  ディープキスを堪能した後、オレはズボンと下着を脱いで椅子に座った。課長との濃厚な口付けで興奮したオレのちんこは限界まで硬くなって我慢汁を流している。 「……大きいな。犬飼のがこんなに立派だったとは……」  課長はしゃがみ込み、オレのちんこをまじまじと眺めた後にそんな感想を漏らした。  自慢じゃないが、オレのちんこはでかい方だと思う。この前、銭湯に行った時に周りの獣人のちんこを見る機会があったが、その中でオレが一番でかかった。 「んむっ……」 「うあっ、凄い……!」  オレのちんこが、温かいものに包まれる。  夢みたいだ。あの課長が、今、オレのちんこを咥えている。 「んっ、んんっ……」  亀頭部を咥えた課長は、猫科の獣人特有のざらざらした舌を動かして刺激を与えてきた。ざりざりと刺激される度に、オレの理性も削れていく。  すっかり情欲の炎が燃え上がったオレは、両手で課長の後頭部を抑えてゆっくりと腰を前後に揺り動かした。 「むぐっ、んっ、んん……!」  少し苦しそうな課長の声が、さらに興奮を煽る。気持ち良過ぎて、早くも射精してしまいそうだ。もう我慢できない。このままの勢いのままに快楽を貪ろう。そう思ったオレは椅子をギシギシと鳴らしながら無我夢中で腰を動かした。  そして、ついにその時が来る。 「ああっ、課長っ……! イきますっ! 口の中に出しますよっ!」  課長の熱に包まれながら、オレは全身をガクガクと震わせた。課長の口の中でオレのちんこが激しく暴れ回り、精液を撒き散らしているのが感覚的に分かる。 「んぐっ……」  課長が上目遣いでオレを見ながら、何度も喉を鳴らす。  今、課長はオレの精液を飲んでいるんだ。その事実に、オレは身震いする。歓喜と快感による震えだ。 「げほっ……。精液を飲んだのは初めてだ。こんな味なんだな」  オレが放った精液を飲み込んだ後、課長はちんこから口を離してそんな感想を述べた。 「美味しくないですか?」 「ああ。美味くはないな」  いつもと変わらぬ仏頂面のまま、課長は口の端から垂れる精液を手で拭う。その仕草にオレは酷く興奮してしまう。  射精しても、全然熱が冷めない。もっと課長と繋がりたい。気持ちよくなりたい。気持ちよくさせたい。 「……課長。ズボンとパンツを脱いでください」  催眠術にかかっている今の課長は、その命令に抗えずに立ち上がる。そして、流石に恥ずかしいのか少し頬を赤く染めながらも、彼はカチャカチャと音を鳴らしてベルトを外し、下着ごと一気にズボンを下ろした。  少し皮を被った、だらりと垂れた太い肉棒。それを見たオレは思わず息を呑む。僅かに見える亀頭部の色は僅かに色素が沈着しており、子作り経験がある父親のものだと示しているようだった。理性の箍が外れた今のオレにとってそれは興奮材料にしかならない。 「そのまま動かないでください」  そう命令し、オレは課長のちんこに顔を近づける。息を吸うと、蒸れた汗の匂いが鼻腔を満たした。冷房はついているが省エネモードのためこの部屋は少し暑く、課長が汗をかくのも無理はない。 「臭くないか?」  課長も汗をかいているのを気にしているようで、オレにそう尋ねてきた。その問いに、オレは首を左右に振る。オレにとっては、どんな香水よりも好きな匂いだ。 「あむっ……」  だらりと垂れた肉棒を右手で持ち上げ、そのまま先端を咥える。 「ぐっ……犬飼……っ!」  肉棒の先端を咥えたまま舌を動かして包皮を剥くと、課長の身体が小さく震えた。そのまま鈴口やカリ首を舌でなぞり、剥き出しになった亀頭部に満遍なく刺激を与える。すると、課長のちんこはオレの口の中で徐々に大きくなっていった。  オレにちんこをしゃぶられて課長が感じている。その事実に、オレの胸は高鳴った。 「あっ、部下に、くうぅっ……こんなことをさせて、興奮してしまうなんて……っ!」  いくらでも興奮すればいい。そう思いながら、オレは根元まで課長のちんこを咥えた。そのまま喉に力を込め、先端部を強く締め付ける。 「がああっ!」  課長の身体が大きく震えた。構わず、オレは課長のちんこに刺激を与える。 「離れろ、犬飼! このままでは……!」  離れるものか。オレの中に出すまで、絶対に離れない。 「ぐっ……おおおおぉっ!!」  獅子の咆哮が辺りに響いた。同時に、オレの口の中で課長のちんこが何度も跳ね、熱い液体が口内を満たしていく。汗と雄の匂いが鼻を突き抜けて、くらくらする。課長が放った熱くて粘りがある液体を飲み込んでいくと、よりその匂いが強くなって酷く興奮した。 「うあっ、ああぁっ……」  長い射精の最中、課長はいやらしい声を漏らしながらびくびくと身体を震わせ続けていた。 「……へへっ、溜まっていたみたいですね。課長」  ジョッキに入ったビールくらいの量を飲んだ気がする。腹の中が課長の精液でたぷたぷだ。 「すまない。我慢できず、口の中に出してしまった……」 「謝らないでくださいよ。オレは課長のを飲めてめちゃくちゃ嬉しいですよ」 「しかし……」  催眠術にかかっても生真面目な性格はそのままだ。欲に負けて部下の口に精液を放ったことに負い目を感じているようである。 「……そんなに申し訳ないと思うなら、またオレのを飲んでくださいよ。今度は下の口で」 「それはどういう……」 「床に寝転がって、股を大きく開いてください」  頬を赤く染めた課長は小さく「分かった」と呟き、硬い床の上に寝転がって股を開いた。  萎えたちんこの鈴口から垂れる精液の残滓。白い毛に覆われた丸々とした睾丸。そして、使用済みちんこの亀頭部と違って色素が薄い肛門も丸見えだ。  秘部をまじまじと見られて恥ずかしかったのか、課長はオレから目を逸らした。その反応も、オレをより興奮させる。 「うおっ!?」  オレは課長の尻肉を左右の手で押し広げた後、固く閉じた薄いピンク色の肛門に顔を近づけて舌を這わせた。 「犬飼……そんな汚い所を舐めるな……っ!」  すみませんが、その命令には従えません。心の中でそう呟きながらひたすらに課長の肛門を舐める。ほんのりと汗の味がして、しょっぱい。興奮する味だ。 「……くっ、俺はどうして、こんな……っ! 犬飼、ダメだ……! 俺には家族が……」  催眠が解けかけているのだろうか。課長がオレの頭を押さえて、止めようとしてきた。  ――今更、ここで止められるかよ。 「うああぁっ……!!」  固く閉じた肛門に舌の先端を挿入すると、課長の全身から力が抜けた。その隙を逃さず、オレは激しくピストン運動を行って肉穴を解す。ぐちゅぐちゅと湿った音が響く度、課長の肉穴が緩んでいく。 「頼む、やめてくれ……!」  その言葉を無視し、舌でひたすらに肉穴を穿る。抵抗のつもりなのか時々きゅうっと収縮したが、舌を動かすとすぐにまた緩む。そうしている内に、課長の肉穴はトロトロに解れた。  さて、念のためにもう一度催眠術をかけよう。  神之音を起動したオレは、鈴の音に合わせて指を左右に振り呪文を唱えた。その後、こう命令する。 「課長。自分の手でお尻の穴を広げてオレによく見せてくださいよ」 「……こうか?」  先程のように抵抗する素振りは一切無く、課長は自らの手で尻肉を左右に開いて小さく口を開いた肛門をオレに見せつけてくれた。目論見通り、再び催眠術にかかってくれたようだ。 「ひくひく動いてて、やらしいですよ」 「そんなことを言うな……!」  やはり羞恥心はあるらしく課長の顔がみるみる赤くなっていく。  ああ、もう我慢できない。早く課長と繋がりたい。そう思ったオレは床の上に仰向けで寝転がった。そして、こう命令する。 「課長。オレに跨ってください。そして、オレのちんこをケツで受け入れてください」 「……犬飼が、それを望むのならば……」  どこか虚な目をした課長がオレの身体に跨る。そして、天を仰ぐオレのちんこの先端に肛門を宛てがい、ゆっくりと腰を落とした。 「ぐうっ……!」 「すげえっ、入ってく……!」  課長の肉穴の中に、オレのちんこがずぶずぶと飲み込まれていく。  課長の穴はとてもキツくて、熱い。きっと、ノンケである課長がケツで誰かを受け入れた経験は無いだろう。つまり、オレは今、課長の初めてを貰ったんだ。 「ふ、太いっ……!」  オレのちんこを半分ほど挿入したところで課長の動きが止まった。痛みと圧迫感があるのかもしれない。 「ゆっくりで良いですよ。深呼吸しながら、体重をかけて腰を落としてください」 「分かった、言う通りにする……っ!」  課長はオレの命令に従い、何度も深呼吸をしながら腰を落としていった。 「がっ、はあっ……全部、入ったぞ」  少し時間はかかったが、オレのちんこは根元まで課長の中に沈み込んだ。課長の呼吸に合わせて肉穴がきゅうきゅうと蠢いて、オレの射精欲が高まっていく。しかし、本番はここからだからまだイくわけにはいかない。 「手を斜め後ろに突いた後、オレのちんこが抜けないように気をつけながら腰を上下に動かしてください」  課長は頷いた後、斜め後ろに手を突いて腰を振り始めた。 「んっ、ううっ、くっ……!!」  課長が腰を上下に動かす度に太いちんこが上下に揺れるのが見えて、めちゃくちゃ興奮する。 上半身は普段見慣れているスーツ姿なのも良い。いつも一緒に仕事をしている課長を犯しているのだと実感するから。 「千侍さん……っ!」  下の名前で呼んだのは、これが初めてだった。独占欲が胸の内で膨れ上がる。  家族の事なんか忘れてオレだけ見て欲しい。オレを好きになってほしい。オレだけのものになってほしい。  様々な感情を込めながら、下から腰を突き上げる。 「んおっ、おおっ……!」  千侍さんの口から漏れる声が、徐々に艶やかなものに変じていく。いつの間にか、彼の肉棒は芯を持ち天を仰いでいた。  オレのちんこで、感じてくれているんだ。嬉しい。嬉しくてたまらない。 「あっ、犬飼……犬飼っ……!!」  千侍さんが腰を振る速度がどんどん上がり、彼の腸液とオレの我慢汁が混ざり合って奏でる淫らな音が次第に大きくなっていく。そして、それに連動して徐々に高まっていく射精感。  ――もう、限界だ。 「イきますっ、千侍さん!!」  全ての力を込め、腰を突き上げる。その瞬間に千侍さんの肉穴の締め付けが強くなり、電流のような快感が全身を駆け巡った。  オレのちんこが千侍さんの中で激しく跳ね、どろどろの欲望を吐き出す。 「ぐうっ、俺ももう……! がああああぁっ!!」  咆哮と共に、千侍さんも二度目の射精を迎えた。びくびくと震える太い肉棒の先端から、大量のザーメンが迸る。オレの上着が千侍さんの欲望で白く染め上げられていく。 「はあっ、はぁっ……」  千侍さんがオレの身体の上で荒い呼吸を繰り返す中、オレはゆっくりと上半身を起こした。そして、繋がったまま彼の身体をしっかりと抱き締める。 「好きです、千侍さん」  これは空虚な告白だ。言い換えればただの自己満足。これが受け入れられないのはオレがよく知っている。 「犬飼……俺は……」 「何も言わないでください」  しばらく千侍さんの温もりを堪能した後、オレは再び千侍さんに催眠術をかけた。今の行為を全て忘れるように、と。  §    休み明けの月曜日。オレと課長はまた薄暗い職場の中で残業をしていた。 「休憩するぞ、犬飼」  オレは頷き、デスクに置いていたブラックの缶コーヒーを啜る。  ……ぬるくてまずい。そして、苦い。 「お前がコーヒーを飲むのは珍しいな」 「苦いものが欲しい気分だったので」 「そうか」  課長はオレの隣でいつものようにいちごミルクを啜りながら、デスクの上に置かれている小型のラジオの電源を入れた。  課長は、休憩中にラジオを聴く事がたまにある。大抵はラジオニュースを聴いているが、今ラジオから流れているのはニュースでは無さそうだった。  ……ネットロアがどうのって聴こえたが、よく分からない。興味もないので、オレはラジオから流れる音声を聞き流して課長と話をすることにした。 「……そういえば、お休み中はどこに行ったんですか? ご家族と外出するって言っていましたよね」 「ん? 海に行ったが……」 「楽しかったですか?」 「まあな。だが、大変でもあった。万葉が沖の方に泳いで行きたがるから目を離せなかったな」  そう語りながら、課長は穏やかな笑みを浮かべた。 「……楽しかったようで、何よりです」  結局、オレは今でも課長が好きだ。家族想いである部分も含めて。 「……どうしたんだ、犬飼。今日のお前は、元気が無いように見えるが」 「そうですか?」 「ああ。悩みがあるのなら相談に乗るぞ」  課長が、心配そうにオレの目を見つめる。  ――頭の中に、鈴の音が鳴り響いた。それと同時に、自分の声も鳴り響く。 『また千侍さんの身体を貪れ。どうせ無かったことにできる。だから何度も愛し合える。遠慮するな。貪れ。貪れ。貪れ』  ……五月蝿いな。頭が割れそうだ。どうすればこれは鳴り止む。  ――ああ、分かったぞ。また、千侍さんを操って犯せばいいんだ。そうすればきっとこの音は鳴り止む。きっとそうだ。そうに違いない。 「犬飼?」  ポケットの中に入れていたスマホが震える。  ……分かっているよ。あれを起動すればいいんだろう。 「一体、何をしている……?」  スマホを取り出して神之音を起動した瞬間、あの鈴の音が鳴り響いた。  不思議だ。さっきと違って全然五月蝿いと感じない。むしろ心地良い。 「――神之音を聞き、我に従え」  オレがこの力を操っているのか。それとも、オレがこの力で何かに操られているのか。分からない。でも、どうでもいい。  この力を使えば、オレは望みを叶えられる。この力を使っている時だけは千侍さんがオレだけを見てくれる。オレだけを愛してくれる。それは確かなんだ。だから、これからもオレはこの力を使い続ける。そして、千侍さんと愛し合うんだ。ずっと。ずっとずっと。  ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと。 【了】