小さな一軒家に住まうのはまた背がピンとしたお婆ちゃん
せっせと炊いて煮込んで作っているのは丁度お昼の時間に食べる昼飯だ
見た目は茶色で地味な献立でもそこには長年生きただけの手間暇かけられたバランスのある食事である

「たぬちゃーん。お昼の時間よぉ」
「……運ぶの…手伝うし…」

お婆ちゃんが声を出せばぴょっこり顔を出すのはションボリ顔のたぬきである
少し声がぼそぼそとしながらも小さいもちもちな体でご飯を隣の部屋に運んでいく
用意が終われば一人と一匹が揃ってイタダキマスの声と共に食事は始まる
味はやや薄め、それでもほかほかの食事は身も心も温かくなる

「たぬちゃん、隣のキクコさんがねぇ」
「…うん……うん……」

食事をしながら適度に挟まれるお婆ちゃんのお話
話題としてはお婆ちゃん繋がりの井戸端会議からスーパーのお野菜が安かったことまで
時々自分の心情も交えて話すそれは飽きが来ない
そんなお話をたぬきは適度に相槌を打ちながらも聞いている
それはお婆ちゃんとたぬきの織り成す、ごく普通の風景だった


たぬきは元々ペットショップの売り物だった
産まれは知らない。気づいたらペットショップで他の子たぬきと一緒に売られていた
ペットショップで売られるたぬきの大半は子たぬきの頃から買われる
たぬき玉と呼ばれる一種の密集形態の可愛さにヒトは購入意欲を刺激されるからだ
しかし成長するに従って不愛想でションボリとした成体になればどんどん売れ残ってしまう
もちろんペットショップ側もそうならないように愛想を良くする教育や売られる努力をたぬきに課している

しかしたぬきはさほど愛想は良くなかった
というより、ちょっぴりボッチ気質なのか一匹で静かにいることを好んだ
教育されたら覚えることはキチンと覚えるのだがそうした売れ残る要因を抱えたままあれよあれよと大きくなり、気づけば80%引きのデカたぬきである
ペットケースではやや狭く感じて猫背気味になるぐらいになっても売れ残り、それでもペットショップが処分したり野良に帰さなかったのも前述の愛想以外は悪くないからである

お前にも必要としているヒトも現れるよと店員さんに言われて、そろそろ90%引きも見えてきたたぬきに光明を射したのはそれからだった
旦那が亡くなって独り身になっている祖母のために話し相手が欲しい
そうしたお客さんが表れて見事たぬきは買われてお婆ちゃんの元へとやってきた


基本的に大人しく聞く側専門という形であるがお婆ちゃんの話し相手を務めているたぬきは割と充実していた
ペットショップのいた記憶で言えばお世辞に言って良い記憶がなかった
飼われるために覚えることはすぐに覚えられたが逆にそうした事で店員さんとの触れ合いや会話もほとんどなかった
売れ残れば売れ残るほど他たぬきから煽られ、お客さんのヒトからも見下されたような視線も感じたからだ
こうして暖かい食事もお婆ちゃんと暮らしてから食べれるようになってからようやく自分もたぬ生が始まったのだなと実感できた

「あ、そうだ！今日は息子夫婦と孫が来るのよね！」
「ヴッフ…」

しかし飼われたたぬきには一つだけ苦手なものがあった
お婆ちゃんの息子さんと奥さんのほうは問題はない
自分みたいな愛想のないたぬきを一目見てから祖母の相手が出来ると買ってくれたヒトだ。とても優しくたまに来てくれてはよく撫でてくれたりするのは記憶にない親のような温かさを感じる
しかし天敵は孫のほうだった
別に酷いことをしてくるわけではない
ただ子供特有の加減が効かないパワフルさが問題だった


「たぬちゃーーん！遊びましょー！！」
「むぎゅ！お、落ち着くし…」

そうして息子夫婦と孫がお婆ちゃんの家に遊びに来た
まっすぐとたぬきに走って抱き着いたのはたぬきより大きい女の子
まだまだ育ちざかり遊び盛りの幼稚園児のお子様は抱き着いたたぬきを好きなようにもちもちしだす
特にたぬきの顔はとても柔らかい部位の一つだ
子供とはいえヒトの力でぐにんぐにんとされてそのままぐにーと伸ばされてはさすがのたぬきも耐えられない

「いひゃひゃひゃ…！」
「ほぁら、双葉ちゃん！たぬちゃんいじめちゃアカンでぇ！」
「はぁい……たぬちゃんごめんね」

ようやく手を離されてもちもちほっぺは元に戻る
これだからたぬきは孫娘のことが苦手だった
遠慮も容赦のないスキンシップを超えた扱いには大人しくボッチ気質のたぬきには参るものがある
それでいて遊びに来ている間は孫娘の相手をされるのだからお婆ちゃんの家で一番疲れる日となるのだ

そうして孫娘が遊び疲れたら今度はたぬきを抱き枕にされてしまう
こうなってしまってはせっかく寝て大人しくなったのを起こすわけにもいかずに大人しく抱き枕になるしかない
せっかくお婆ちゃんが整えてくれる髪も尻尾もぼさぼさでもちもちほっぺも勝負服も孫娘の涎でべちゃべちゃだ
ジタバタしたくなる気持ちもあるが同時に何処か心が温かくなるものもある
飼われた身であっても一匹の家族として接してくれるのは孤独のたぬきにとって勲章を超える代えがたいものとなっていた

「今日もご苦労様…明日もよろしくな、たぬちゃん」

たぬきもうとうととしてくると誰かが毛布をかけられそのまま夢の世界に旅立っていく
お婆ちゃんのしわしわで…温かみのある手で撫でられたたぬきと孫娘はニッコリ顔だ
明日もいつも通りで何でもない日を過ごせるといいし…
たぬきはそう思いながらも今日はションボリとしていない幸せな夢を見たそうな



たぬき余談話

80%引きの売れ残りたぬきなので寿命はさすがに短い部類
双葉ちゃんが小学生を卒業するころにはお迎えが来るがお婆ちゃんは元気に存命中