たぬきのスラムは地域によって治安がまったく違う
力こそ全てと言わんばかりに荒れに荒れてしまうスラムもあれば住民全体で薄汚れた服を着ている程度には落ち着いたスラムも存在する
このスラムは後者のようで比較的ションボリがそうでもないたぬきたちで構成されていた
朝を迎えればおはようと声をかける余裕もあるし、子たぬきも服を着てるし元気にとぼとぼ走り回ってる

「ヴフゥ…じゃあ出稼ぎ行ってくるし…」
「気を付けてし…」

その中でも身なりが良い…と言っても服の汚れを落とした程度のたぬきたちがスラムを出ていく
多くの野良たぬきは自由気ままに生きてる事が多く、スラムに生きてるのも同様だ
しかしそうなると満足なご飯も得られないので出稼ぎと称して人間に混ざって仕事のお手伝いをしているたぬきもいる

たぬきのお仕事と言っても野良で生きてるようなたぬきが出来る事もたかが知れている
人間と混ざって仕事ができるのはそれこそ一握りのたぬきぐらいなもので出稼ぎたぬきが行うのはもっぱら庭の草むしりやゴミ拾い等である
季節によっては農業のお手伝いもやれるのだが今はオフシーズンなので募集はされてない

ゴミ拾いはモノによってはスラムへの持ち帰りも許されてるので特に人気のお手伝いだ
時期によっては川原で人間がバーベキューか何かをやった後に捨てずにいるゴミはスラムたぬきにとっては宝の山だ
木の箸は頑丈な住処の補強材になるし、使い捨てのコップや皿も水を貯めておくのに使える
人間の尻拭いに過ぎなくてもスラムたぬきが生きていくのには必要不可欠な物資でもあった

お仕事を終えたらある程度のお駄賃も頂いてたぬきたちは各々の住処に戻っていく
お駄賃の使い道は主に趣向品が全てだ
好みの飲み物や食べ物で出稼ぎの疲れを癒してションボリとした気持ちを吹き飛ばす
そうした生活をしているからこのスラムの治安は良くあり続けるのだろう

「シィシシ…この一杯がないと出稼ぎなんてやってられないし…」
「フフ…このお芋のお酒は悪くないし…」

たぬき達はお駄賃を元手に買った飲食で酒盛りを始めている
どんちゃん騒ぎではなく気の知れたたぬきとのこっそり晩酌こそが大人の楽しみ
そう言わんばかりにペットボトルの蓋にお酒を注いではちびちびと飲んでいる

「お酒…そんなに美味しいし…？たぬきも飲んでみたいし…」

そんな酒盛りたぬきに近づくのはスラムの若いたぬきだった
大きさも子たぬきを卒業してそろそろ出稼ぎにも行けるが酒盛りたぬきからすればまだまだチビと変わらない年ごろである

「ダメだし…お酒は大人の味だし…チビにはまだ早いし…」
「チビじゃないし…もう大人ですし…」
「ヴッフ…まぁせっかく興味を持ってくれた有望な若い子だし…」

ごそごそとビニール袋から取り出すのはノンアルコールのお酒だ
酒好きのたぬきと言えども毎日お酒を飲んでいればさすがに日常に支障をもたらすのでそうしたお休み期間に飲むものである
それをペットボトル蓋に注いで若いたぬきに飲ましてみれば、ションボリ顔の口はうめぼしのようにキュッとし始めた

「……苦いし…」
「ヴフ、ヴフフ…やっぱりまだ早かったし…それがお酒の味だし…」
「もう少し大きくなったらまた飲むし…シシ…」

とぼとぼと帰っていく若いたぬきを見送って酒盛りは再開する
目安としては明日に響かない程度…お酒は自分の健康を守って正しくエンジョイだ
野良で生きていく厳しさの中でもそうしたションボリだけではないエンジョイもある生活ができるのは幸せなのだろう
酒盛りをするたぬきもいればお菓子を振る舞うたぬきもいる
お裁縫道具を使って小さな新入りたぬきのために服を作るたぬきもいる

「また明日頑張るし…」

いつまで続くかもわからない平穏を噛み締めながら飲む一杯のお酒はたぬきの身と心をとことんまで沁みさせた