人間も動物以外の可愛いと思う心があれば、どうにかして愛でたいという欲求を満たしたい時がある
ペットを飼う、飼える立場であればそれで済むだろう
しかし全員が全員、ペットを飼える環境にあるわけではなく、そうした場合は休日を利用して動物園に行く人だっている
中には触れ合いも兼ねて愛でたい人向けにはカフェという形式で動物と接する場所もある

ここはたぬきカフェ
人に慣れ、人と接することができるたぬきと時間を過ごせる少しメルヘンちっくなお店
ションボリではなくニッコリ顔のたぬきの看板が目印で都心の一角に場所を構えている

本日も二名の女性が来店し、ふわふわのマットの上で今か今かと待っている
そんなお客様の元へとポテポテとやってくる
いつもの緑色の勝負服は可愛らしいフリルが付いている特別仕様であり、小さいたぬきの絵柄が付いたエプロンを身につけている
注文された飲み物を丁寧にテーブルに起きながら何とたぬきのラテアートを作り始める
いつものションボリ顔たぬきでカプチーノを作り終えればペコリをおじき
そんな可愛らしいたぬきはキャーキャーとお客様も興奮の様子だ

「か、可愛い！撫でていいのかな…」
「ヴッフ…どうぞ優しく撫でてくださいし…モチモチもいいですし…」

女性二人に撫でられたりモチモチとされているたぬきであるが、本来のたぬきではここまで好きに触れられない
人懐っこい部類であるたぬきであるが、同族以外に過度なお触りやモチモチは嫌う傾向にある
なので良く知らない相手にモチモチされそうになると「さわるな…」と拒否する事も多いのだがたぬきカフェではそれがなかった
そうした教育、訓練を受けているのもあるだろうが、こうして素直に触れさせてくれるたぬきは可愛いものでたぬきカフェの需要はそこにある

別の視点を見てみよう
ここではたぬきの幼体であるチビと呼ばれる子たぬきとの触れ合いができるコーナーだ
もちろん力加減には十分注意してくださいという注意書きもあり、傍にはすぐに駆け付けられるようにたぬきと人の店員もいる

「ｷｭｰｷｭー♪」
「ﾀﾇｰ」
「ｷｭｩﾝ…」

女の子が手より小さい子たぬきたちを掌に乗せてその顔はわかりやすいぐらいに笑顔になってしまう
なにせモチモチと手触りの良い子たぬきが人懐っこく甘えてくるのだ
多少握ってモチモチするぐらいは問題はなく、子たぬきの触れ合いコーナーはとても人気の場所だ

そしてここでは子たぬきが大きなクッキーを抱えてお客様の元へとポテポテ走る
お客様である男性の元に辿り着くとそれに気づいた男性は手を床に伸ばす
ごつごつとした男性の手に乗りながら目線が同じ位置になると子たぬきはクッキーを男性に差し出した

「おまたせしましたし…とうてんじまんのくっきーですし…」

ある程度喋れる子たぬきを使ったお菓子のデリバリー
これもまた人気のサービスで小さいたぬきが大きなお菓子を運んでもらって無事に辿り着いた子たぬきを愛でれるというものだ
頑張った子たぬきに男性は優しく頭を撫でてやり、注文したクッキーを半分にして子たぬきと一緒に食べるのだ

こうして人々は可愛らしいたぬきを愛でて満足する
夕方に差し掛かってお店も閉じていくとたぬきたちも従業員室に戻っていく
エプロンを片づけたり、お店の掃除の準備を始めたりと様々だ

「ふぅ…今日も疲れたし…お前たちも大丈夫し？今日は結構にぎにぎされてたし…」
「問題ないし…結構気遣ってくれたし…」

エプロンを付けたたぬきが話しかけていたのは子たぬき触れ合いコーナーの子たぬきではあるのだが、その言葉は大人のように流暢だった
それもそのはずである
たぬきカフェは幼体である子たぬきを働かせてはいない
当然と言えば当然だがいくら言葉を喋れるぐらい賢くても幼児と変わらない子たぬきがカフェで求められる「愛らしいたぬき」など提供できるはずがないのだ
なのでたぬきカフェの子たぬきは子たぬきの振りをした豆たぬきと呼ばれる小さいたぬきなのだ

「ｷｭｰ…いやもっと声を高くするし…？」
「あまり媚びすぎるとダメだし…むしろ愛らしさを意識したほうがいいし…」
「愛らしさ…愛らしさってなんだし…？」

仕事意識はあるのか子たぬきの振りとはいえ豆たぬきも真剣そのものだ
ただでさえ人間社会にしても野生の世界にしても小さいだけで生きるのに不利でしかない豆たぬきにとって、こうして無理のない仕事ができるのはありがたいものだった

「新人…今日はもうゆっくりしていいし…」
「…そうさせてもらいますし…ふぅ…」

一方で仕事を終えてから気だるけにしているたぬきもいる
たぬきカフェでは人に触れられることが大前提のお店だ
なのでたぬきも人にモチモチされても最低でも不快感を出さない訓練も必要になる
新人たぬきと呼ばれたたぬきもそうした訓練を積んでいるのだが思った以上に精神的負担も多いようだった

「お客さんも分かっているからそこまで無茶なモチモチもしないし…すぐ慣れるし…」
「一日おつかれさんだし…今日は奢ってやるし…」
「先輩…ありがとし…」

たぬき同士でモチモチし合って新人も少し元気を取り戻したようだった
こうした新人のアフターケアも忘れないのがたぬきカフェである

そして来店した女性二人のお客様は帰り道に携帯で撮った写真を見せ合いっこしている
中身はカフェで撮ったたぬきたちである
野良で見るようなやさぐれたションボリ顔ではなく、身なりもちゃんとしているため同じションボリ顔でも違って見える

「まだ手にもちもち感が残ってるー」
「わかる！ちっちゃい子がいっぱい手に乗ってきてさー」

初めてのたぬきカフェだったらしいのか感想は止まらない
しかしふと気づいたように一人の女性が呟いた

「そういえばカフェのちっちゃい赤ちゃんってあれ赤ちゃんじゃなくて豆たぬきらしいね」
「まじ？見分け付かんわ…」

たぬきカフェのサイトを携帯から検索してみると触れ合いコーナーにはちゃんと注意事項としての文面が存在していた
当店では幼体のたぬきを扱っておらず、豆たぬきの成体で子たぬきの振りをさせております
こうした文面を事前に入れておくことで仮に豆たぬきだとバレても大丈夫なようにしたのだろう

「まっ、可愛かったら良いけどねー。実際まじの赤ちゃん使ったらピーピー泣いてうるさそうだし」
「何を提供してるかって話だしね。私もそう思う」

しかしお客様はそれを知ったところでどうでもよかったのだ
たぬきカフェに来店する人はただ可愛いだけのたぬきを可愛く愛でるだけでそれ以上でもそれ以下でもない
たぬきは自身の需要を理解して提供し、お客様はそれを理解した上で受け取って頂く
たぬきカフェは意外なほどにwin-winなお店として受け入れられたのだった