ここは日本のとある田舎の村
田舎と言っても少し車を動かせばコンビニもスーパーもある少し近代化の進んだ結構過ごしやすい田舎である
そんな村に今、日本に神事を司るものたちが集結しようとしていた
仰々しいまでの列を作って神主と巫女たちがそろい踏みし、更には仏の教えを説くお坊さんまでいる
ヒトだけではない
いつもの緑色の勝負服ではなく、神主やお坊さんの恰好をした祈祷師たぬきまでいるのだ

「本日もお集り頂きありがたく…」
「いやはや今年も変わりようなく安心して…」

スーツ姿の年配のヒトはペコペコとお辞儀をしながら神主とお坊さんのトップと話し合っている
テレビを見るヒトなら一般人でも名と顔を知るような政治家だっているようだった
人が揃えば事前に準備をされていただろう祭壇が姿を現す
四方からそれぞれ神主たちが場を取り仕切り、まるで何かを鎮めるかのように祭事を始める

「さて……準備はいいかな」
「いつでもいいし…」

スーツのヒトにぞろぞろとついてくるたぬきが4匹
4匹とも断髪をした丸坊主に白装束はまるで死に装束の如き出で立ちである
たぬきたちが祭壇の中央に座り込めば全ての準備は整った

「これよりションボリ儀式によるションボリ祓いを始める！！」

神主と巫女は何かに捧げるが如き大幣を掲げる
お坊さんはひたすらお経を読み上げていく
祈祷師たぬきたちは動物たちの名前を呟きながら不思議な踊りを披露する
すると祭壇の上空から膨大な量のションボリが集まってくる
本来は目に見えないはずのそれが黒く不安を招くかのような大雲となる勢いだ


ションボリ祓い
それは日本のションボリを一か所に集めて祓い清める儀式である

ションボリの気は多すぎてはいけない
多ければ多いほどたぬきがぽんぽんとポップし続ける事になるからだ

一見すれば可愛らしい不思議生物がいっぱい出るぐらいなら良いと思えるが、無秩序に増え続けるたぬきは場合によっては容易に事故を起こしかねない
特に野生の獣が住まう山などでたぬきという餌が増えれば増えるほど獣もまた生き残りやすくなり、
そうなればたぬきが少なくなれば食料を求めて多くの獣が人里にやってくることもある
加えてションボリの気がそこまで多いということは人間も他の生き物も陰気な雰囲気も漂いやすくなる
ちょっとしたことで怒ったり落ち込んだりしやすくなる上にそれが積み重なれば取り返しのつかない失敗にも繋がるだろう

そうならないために日本は一定の期間ごとにションボリを集めて祓うことにしたのである
そしてそのためのションボリを一か所に集めて留めておくのが丸坊主たぬきたちである
いくらションボリから産まれて来たとはいえ実体化するほどのションボリをその身に宿すのは大変危険な行為である
そのため生贄に等しいたぬきたちはヒトと世界とたぬきの今後を祈れる高潔なたぬきが選ばれる


「来るし…備えるし…！」

日本中の膨大なションボリが生贄たぬきたちに降り注いだ
その凄まじいまでのションボリはただでさえ丸坊主でションボリした顔がよりションボリしてしまうほどの圧である
しかも小さいもちもちボディに収まりきらないションボリはたぬきの身を大きく変貌させてしまう

「ぐ…グウアアアアアアアアア！！！」

おお見よ！
愛らしいたぬきが日本の妖怪である鬼の如き変化をしていく！
丸坊主であったはずなのに活性化された肉体は頭髪を伸ばすことを促すのか元の栗色の毛が次々と生えていく
まるでハゲの怨念が理想となったかのような変化である！
そしてションボリした目付は少しだけキリっとなるとぼんやりと赤みの帯びた光を宿していく
にょっきりと二本の角と牙を生やせばまごうことなき鬼の誕生である！コワイ！

「塩水用意！！」

ヒトの号令と共に緊張感が走る
ションボリを集めきったたぬきはたぬ鬼となり、それを祓うのは塩水が最適であるとされている
むろんこの儀式でもションボリたぬ鬼を祓うために塩水を使われているが時代が進むにつれてヒトは技術を常に向上させてきた
もはや万が一の失敗すら起こさない完璧なる祓いを見せるときが来たのだ

「放水開始！！！」

いつの間にか四方から神主たちが散って代わりに飛び出て来たのは放水車が四台
警察にも利用される対暴動鎮圧用の放水が四方から逃げ場無しの勢いで放たれたのである

「ハ……？ギュウボボアアア！！！」

これにはたぬ鬼も放心してから即座に塩水放水に飲まれていく
あまりの勢いに安全な場所にいた祈祷師たぬきも尻尾が濡れてジタバタする勢いである

「ボボボボボボボボ！！！」

しかし効果はあった
容赦のない放水によって日本中からかき集められてたぬ鬼に集約されたションボリは祓われて綺麗な金色になりながら天に昇って行く
これでチェックメイトと言わんばかりにスーツのヒトは手を掲げる
合図と共に現れた三台のヘリは圧縮空気による水の塊を飛ばすインパルス砲を搭載し、塩水をしこたま祭壇へとぶち込み続けた
もはやあまりの放水に祭壇は地上に現れた滝となっており、何も見ることはできない
確かなのはションボリを祓われているだけなのだがヒトもたぬきたちも大丈夫かこれと見つめることしかできない

そして全てのションボリを祓われたのを確認されてようやく放水が止まる
もう辺り一面はビッチャビチャで濡れていない者など誰もいない
祭壇にはたぬ鬼から元のたぬきに戻っている生贄たぬきたちはかろうじて息をしていた

「ハァー…ハァー…ハァー…ハァー…ハァー…ハァー…」

一匹は犬神家の如く埋まり、一匹はヤムチャの如く倒れ伏し、一匹はうつぶせのままピクリとも動かない
最後の一匹だけは仰向けになりながら全力で呼吸をしているが限界が近いのか一言だけ呟いてそのままかくんと意識が失った

「じょうしき……かんがえろ、し………」


こうして日本のションボリは一旦祓われて無病息災を願った儀式も行い完了する
必要以上にたぬきも産まれず、精神的にも穏やかになったヒトもたぬきもこれで毎日をのほほんと暮らせるようになるのだ
生贄たぬき達は危険ではあるが実のところ命の危険らしいものもないので無事勲章も得られて満足している
特にたぬ鬼からたぬきに戻った際は体が生まれ変わったようにノビノビとするようだ
ちなみにお祓いで塩水の使い過ぎと過剰なまでの放水でやりすぎた政治家のヒトは次から別のヒトに代わるらしい
つまるところクビである