道徳と命の尊さを学んでいない子供は何処までも残酷だ
小さく動く何かを玩具と定義して動いていたモノにすることは珍しいことではない
なにせそうしたモノの手足を千切ればピクピクと動き続けて面白いからだ
トンボのシーチキン、カエルに爆竹、アリやダンゴムシを踏み潰す
程度の差はあれども子供はそうした行為に憧れやカッコよさを感じてしまう
そしてそうした経験を得てから子供は命の尊さを学んでいくのだが、その間に失われて傷つく命は溜まってモノじゃないだろう

公園に集まっている複数の小学生ぐらいの子供たち
彼らはある遊びのために集まっていた

「すげー！かっちゃんこんなに集めたのかよ！」
「へへ、いつもの草むらにいっぱいいたぜ。かんしゃく玉使えば動かなくなるから捕まえるのも楽だったしよ」

虫籠をそれぞれ見せ合いっこしている子供たち
傍から見れば捕まえた虫か何かだと思うかもしれないが籠の中に入ってるのは虫ではない
たぬきだった。それもまだ言葉も喋れない小さい子たぬきである
籠の中に数匹しか捕まえていない子供もいれば、かっちゃんと呼ばれた子の籠には子たぬきも苦しそうなぐらいにぎゅうぎゅうに詰まっている

「ｷｭｰ…」
「ﾀﾞﾇｩ…ﾀﾞﾇｩｩ……」

そのほとんどが親元から強制的に離された子たぬきである
子たぬきたちは不安そうに籠超しに子供たちを見つめている
果たして自分たちはどうなってしまうのか、そんな不安そうな声を静かに鳴いていた

「よーし、さっそく始めようぜ！」
「頑張って走れよなー！一位になったら逃がしてやっからよ！」

捕まえている子たぬきたちには色は別々の紐が付けられている
しかしよく見ると同じ色の紐もあり、これは一つの場所で捕まえた複数の子たぬきとの区別を付けるためだった
これから行われる子たぬきを命を思わぬ惨劇のためである

五人の子供がそれぞれ一匹の子たぬきを取り出して地面に立たせるように置いていく
力加減も存在しない雑な握りに子たぬきもギューギューと苦しそうな声もするがそんなものは無視される
むしろこの後の行為を考えればこの程度は痛みすら入らないだろう

「よーい！」

子供たちは一斉に子たぬきの首を掴み、

「どん！」

力一杯その首をもぎ取った
たぬきの体は柔らかく衝撃に強いが瞬間的に引っ張られると驚くほどに脆い
ましてや子たぬきは更に弱く、人間の子供の力であっても頭の掴みやすさもあって引き千切りやすかった

首を失い、抑えも無くなった子たぬきの体
しかし首を失ってもたぬきの習性が体に残っているのかジタバタするように体を動かして走り出す
これが子供たちの遊びだった

首を潰されても体だけは無様にジタバタ繰り返すたぬきの習性を利用し、子供でも引き千切れる子たぬきを使ったレースである
一見すれば不気味であるが首を失ってもジタバタしてもがく小さなそれは笑いの対象であった
事実、首無し子たぬきはまともに真っ直ぐと走れるわけもなく次々とあらぬ方向に走り出したり、つまづいてそのまま地面に潜るようにジタバタ繰り返している
そんな滑稽極まりない光景は子供にとって最高の娯楽だった

ちなみにもぎ取られた子たぬきの頭はそのままポイ捨てされ、中にはわざわざ踏み潰している者もいる
一瞬とはいえ首を引き千切られたその顔はもはや愛らしいたぬきとは思えない醜い形相となり、踏み潰された地面には子たぬきのデスマスクがいくつも存在していた

そしてその光景を目の当たりにした籠の子たぬきは自分たちの兄弟が無惨に殺され、笑われていることに心底恐怖した
ぎゅうぎゅうで狭いながらも自分の尻尾を掴んでせめて悪夢であってほしいと願いながら震えている

「よっしゃ！俺の勝ちぃ！」

一方で最後まで走り続けた首無し子たぬきの持ち主が嬉しそうに声を上げた
勝ち残った同じ色の紐を付けた子たぬきを籠から二匹取り出すと子供はそのまま何処かへと放り投げた

「お前の兄弟が勝ったから逃がしてやるよ！そら！」

「ｷﾞｭｰ…！？」
「ｷｭｰｩｩｩｩ…！！！」

子たぬきレースで勝った同じ色の紐を付けた子たぬきは逃がす
それが子供たちのルールであった
しかしただ逃がすのは面白くないため、こうして全力で投げ捨てることにしているようだ
一応アスファルトや砂場の方面ではなく、運が良ければ生き残れるだろう草むらのほうに投げるあたりに子供なりの配慮はあるようだった

そして次々と子たぬきの命は遊びに使われて気づけば最後の一匹となった
その間に使い潰された子たぬきの数は五十匹近くであり、公園にはジタバタ繰り返す首無したぬきで散乱している
最後の一匹はもはや失禁すら止まらずに掴まれた際には鳴き声すら上げずにイヤイヤと顔を横に振るう
そんな嗜虐心を煽るような行為は子供に通用しない。子供にとって子たぬきは玩具でしかないのだから最後まで玩具として全うさせるだけだ

「ｷﾞｭｪ…ｱ…ｱｧｧｱ…ﾏ､ﾏﾏｧ---！！！」

首を掴まれ、思いっきり引き抜かれる
恐怖が最大値に達したのか、今まで獣の鳴き声しか喋れなかった子たぬきが人の言葉を発した
最後の言葉は親たぬきへの助け。しかしその助けは入る余地がない
言葉を発したと同時に首は引き抜かれ、最後の首無し子たぬきと化したからだ
そして頭を失い、よろよろと佇みながらジタバタをし始める

「…ん？あ、はははは！なんだこれ！」
「ぶっは！まじかよかっちゃん！こいつ踊ってる！頭もないのに！！」

本来であればジタバタを繰り返して走り出すはずが、なんと首無し子たぬきはそのままゆっくりと踊り出したのだ
たぬきの習性の一つでもある踊りを首を失いながらも繰り返す
これには今日一番の笑いが公園を包み込んだ。その笑いに賛同するように散らばってる首無し子たぬきもジタバタが止まらない
子供もたぬきが踊りをするのを知っているが、同時に子たぬきの踊りはぎこちない幼稚なものだと知っている
しかし目の前の首無し子たぬきはなんだ
頭を失っても淀みのない、ちゃんとした踊りを披露しているではないか
それがまた面白く、頭がないほうが綺麗な踊りを踊れるという新事実に誰もが耐えきれなかった

「はー！笑った笑った！」
「最高だったなこいつ！…もう夕方だし帰ろうぜー！」
「おー！…あーでもこいつだけ残していかね？」

散乱としている首無し子たぬきを回収して公園内のゴミ回収箱に入れながらも一人の子供が提案する
たぬきは例え頭を失ってもジタバタが中々止まらない
それこそ一晩中やり続ける個体もいるほどであり、こうして頭を失っても踊り続ける珍しい子たぬきを惜しんだ子供はそれに賛同した

空は夕日に染めて子供たちはそれぞれ自分の家に帰っていく
しかし公園にぽつんと残され、止める者が誰もいない壊れた玩具は延々と踊り続ける他になかった
後日、朝を迎えても踊り続ける首無し子たぬきは子供たちの間に話が広まり、全国の子供たちがそれを再現しようとするのはまた別の話である