たぬきがチビと呼ばれる幼体が生きていくには大きく分けて二つ存在する

一つ目は一匹で孤独に生きていくか、チビ同士が小さく纏まって生活することである
実のところ天敵と言えるたぬきを食らう動物さえいなければこれはこれで成体まで行ける
特に後者はチビ同士が分散して逃げるので一匹二匹が襲われてる間に他が生き延びるケースもある
とはいえ大概が襲われてる時にジタバタしてしまって纏めて食われる事も多いのだが

二つ目は成体のたぬきに拾われて親代わりしてもらうことである
成体となったたぬきは小さいたぬきに対して守らねばならない、自分のような苦労をさせたくないという思いから育児をし始める
特にチビの内から苦労を重ねすぎて成体となったたぬきは顔を見るまでもなくションボリしたオーラに身を包まれているからだ

こうしてたぬきは野良であってもチビを拾っては立派な大人になってほしいと願って育成に取り掛かる
このT公園に住むたぬき一家もまたそうした何処にでもいる存在だった
親たぬきのモチモチの腕に、子たぬきは頬をすりすりと甘えている
産まれた時から親という血の繋がった存在がいないたぬきにとって素直に甘えられる存在は、野良であれば奇跡的な確率と言える

「ヴフ…チビはまだまだ甘えん坊だし…親離れできるか心配だし…」
「ｷｭｰｷｭｰ♪」

そんな甘えてくる子たぬきに親たぬきはションボリ顔ではなくニッコリ顔で接している
互いの暖かなモチモチ肌の触れ合いは厳しい野良の中で確かな支えとなりえるものだった

「ママはごはん探してくるし…あまり遠くに遊びに行かないようにするし…」
「ﾀﾇｰ…」
「ままーいってらっしゃいしー」
「ｷｭｰｷｭｰ」

親たぬきは住処に子たぬき達にお留守番として置いておくとそのまま餌探しに出かけていく
どうやら住んでいる公園はそこまで危険はないのか子たぬきを置いていても問題はないようである
残された子たぬき達は各々で遊び始めたりたぬき玉を作ってモチモチしている
親の教育がしっかり行き届いるのか住処を出て行こうとする子たぬきはいない
しかしながらチビの数だけ個性は有り。素直に親の言うことを聞かない子もたぬきには存在している

「ﾀﾇｰ…いつもおるすばんつまらんし…ちょっととおくにいってみるし…」

聞き分けの良い子たぬきの中でもその子はちょっとヤンチャな子だった
ヤンチャと言っても別に他の兄弟をいじめるわけでもなく、好奇心が旺盛と言える部類だ
親に何度か注意されても自分の知らない何かを見つけるために行ってはいけない場所に行きたい
それが勲章であればとても嬉しい
たぬきの中ではそこまで珍しくない貪欲に勲章を求めるタイプと言えた

「ｷﾞｭｰ…ﾀﾇｰﾀﾇｰ」
「とめるなとめるな。いいものみつけたらあげるからままにはないしょにしてほしいし…」

兄弟たちに止められながらもヤンチャたぬきは親の言いつけを守らずに住処を飛び出してしまう
ポテポテと音が出そうな子たぬき一匹が歩き出してついには公園の外まで出て行こうとする
小さなたぬきが住処から公園の外まで出ようとするならそれだけでも少しばかり長い冒険のような密度だ
この時ばかりはちょっぴり遠出しすぎかな？帰ろうかな？と思う部分はあるがそれでも公園の先を見たい子たぬきはずんずん先に進んでしまう

公園からすぐに出れば人間の住まう住宅地に切り替わる
遠目で見るしか無かった巨大な人間…その人間が住まう住処
それを目の当たりにして子たぬきも少し興奮気味だ

「ｷｭｰ！にんげんはこんなデカいすみかにいるし…すごいし！」

完全におのぼりさんという形に初めて見る風景にきょろきょろと見渡している
珍しいモノが落ちていればお土産代わり兼兄弟の口止めに使えるのだが、そんな都合の良いものがないのでちょっぴりションボリした
時間帯で言えばまだお昼を過ぎたあたりなのか人っ子一人いない
大きな空間の中に子たぬき一匹でいることに急な寂しさを覚えて急いで帰ろうとした矢先であった

「…？なんだし…あいつ…」

公園へと戻る途中に遮るように現れた四足歩行の獣
毛深い四足歩行と言えば親たぬきから特に注意しろと言われたたぬきもどきを思い出す
まさかあいつが！？
唐突に天敵が現れたことによる命の危機は急速に背筋を凍らせてしまう
じりじりと獣が近づくと子たぬきはその恐怖に負けてジタバタし始めてしまう
もはや獣と子たぬきの距離は存在せず、獣の口が子たぬきに迫る時だった

ﾍﾟﾛ…ﾍﾟﾛﾍﾟﾛ…

ジタバタする子たぬきの頬を舌で舐める獣
食べられる事もなく、痛い思いをするわけでもない子たぬきはジタバタを辞めて正気を取り戻した

「わっ…く、くすぐったいし…ヴフ…やめるし…」
「ワン！」

すっかりと緊張の糸も取れてしまった子たぬき
鳴き声から分かる通りにその獣はたぬきもどきではなく、何処にでもいるような犬であった
しかしガサガサした毛皮に首輪もないところからその犬もまた野良であることがわかる
親たぬきももどき以外に犬猫カラスと言った脅威を教えていたはずなのにもどきかもしれないという恐怖から子たぬきは失念してしまった
目の前の野良犬もまた立派なたぬきの天敵だと言うことを

「ｷﾞｭ…？」

ガブリと咥えられ、もちもちとした頬を食い千切られた
舌で舐めていたのは子たぬきを落ち着かせるための行動ではない
自分が食べても平気かの安全確認だった

「ｷﾞｭ"ｩｩ"ｳ"ｱ"！？だぬ！ｷﾞｭｱ"ｱ"！ぼっべぇぇ！？」

野良犬からすれば安全であるはずの住処から飛び出て無防備にいる子たぬきはご馳走と言えるほどの餌だった
それこそ時間帯が違えば猫やカラスとの取り合いになるほどである
そんな子たぬきを一匹で食べられることへの自然に感謝しつつ平らげていく
野良の生活に置いて次に満足行く食事なんてできる保証はないのだから

「ｷﾞｭｩｩ！ｷﾞｭｩｩ！ままーー！だずげぇでぇぇ！ま”ま”ー！も”うかっでにおでｷﾞｭｱ”！ゆる”しで…！ﾀﾞﾇｩ……！ﾀﾇｰ…」

哀れにも子たぬきは最後に浮かべたのは親たぬきの姿だった
苦痛にションボリ顔は歪みに歪んでもはや愛らしいたぬき顔とは思えぬほど変貌して食われていく
なぜ外に出てしまったのかという後悔と親たぬきへの謝罪をするだけ根は善良だったのだろう
お残しもされずに食われていく子たぬきであったが、それを隠れて見つめる複数の目があった…

「はぁ…ママも言ってたし…迂闊に外に出ると危ない目に合うって…チビもよくわかったし？死にたくないならママの言う事はちゃんと聞くし…」
「ｷﾞｭｰｷﾞｭｰ！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ
「ﾀﾞﾇｰ……」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ
「……！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

住処に戻った親たぬきは一匹だけ子たぬきがいないことに気づいていた
数匹の子たぬきを引き連れて案の定とも言うべきか野良で生きる厳しさを存分に受けていたチビを見つける
あとは見てるだけでもチビたちの教訓を得られるだろう
何の当ても無くただ外に出るだけだと自分たちは食われるだけのか弱い存在なのだと
親たぬきとしても食われる子たぬきに思う部分がないわけではないがこうした事も野良で生きる上は普通のことで感傷に至るほどではない
むしろ他のチビたちが生き残りやすくなる教材になるだけ感謝してるぐらいだった

「さぁ…帰ってご飯にするし…死んでいったチビの分までお前たちは生きて生きて…立派なたぬきになるし…」

親たぬきは子たぬきに苦労を背負ってほしくないという思いで育児に携わる
しかし大人になれる頃には例え親の保護下に合ってもションボリ顔が拭えないほどのションボリオーラを備えてしまう
それだけ野良は厳しく、大人になれるまで生き残れるのは悲しいことを経験することを意味していた