見上げている。見上げている
服もなく、ションボリした顔つきでスラムに寄り添うたぬきたちは見上げている

見上げた先にいるのは宙に吊り下げられた小さな檻
その檻の中にはこれまた服も着てないみすぼらしい小さなたぬきが閉じ込められている
きっとその小さなたぬきは何もわかっていないだろう
自分よりも大人よりも高い場所にいることに喜ぶように鳴き声を上げている

しかし下にいるたぬきは悲壮感とも言えるションボリ顔だ
降ろす方法もなく、そもそもなぜこうして吊り上げられてるのかもわからない
そして悲壮感に浸る理由も分かっている
助ける手段がないのだから小さなたぬきはずっとあのままだ

雨に濡れても雪が降ろうとも
ご飯が食べれなくても太陽の光に晒されても
リポップするその瞬間まで檻の中にいる…それこそが小さなたぬきに課せられた苦行の始まりだった


雨が降った。尻尾も濡れるし体も冷える
スラムのたぬきたちは急いで雨宿りのできる自分の住処へと帰っていく

「ｷｭﾋﾟｨ！ｷｭｩ！ｷｭｰｷｭｰｷｭｰ！！」

小さなたぬきだけは残されて雨が止むその日まで打たれ続けていた
例え晴れても尻尾が濡れたままでの不快感はジタバタする理由には十分すぎた


雪が降った。体は特に冷えるし尻尾も雪で白化粧されてしまう
スラムのたぬきたちは寄り添って温まる事にする
助け合い寄り添うスラムの住民はこういう時に協力は惜しまない

「ｷｭ………ﾀﾇ……ﾀ………」

小さなたぬきだけは残されて寄り添う仲間もいない孤独の極寒を体感していた
ジタバタするだけの気力も残っていない
尻尾もガチガチに凍ってくるその寒気はもはや拷問に等しかった


その日は季節外れと言える暑さであった
雲一つのない晴天から降り注ぐ太陽の光はどんな洗濯物だって一瞬で乾かすだろう
スラムのたぬきたちはこの日ばかりはのんびりとしていた
暑い日差しも尻尾をよく程よく乾かす事になるからだ
心なしかションボリと悲壮感に満ちているたぬきたちも少しニッコリしていた

「ｷﾞｭｳｱｱ！ｷﾞｭｳｳ！ｷﾞｭｷﾞｭｷﾞｭｳ！！ﾀﾞﾇﾞｰ！！」

小さなたぬきだけはその日差しを休むことなく浴び続けていた
眩しく熱く何より檻ごと熱せられたそれは天然の鉄板焼きである
しかし所詮は自然の鉄板焼き。もちもちの肌を焼いて赤くするだけで命を奪うほどでもない
ただ休めないだけの痛みと絶叫がスラムに響くだけだった


たぬきは飲食を必要とする者と必要としない者がいる
スラムのたぬきたちは綺麗に半々と分かれており、食べる必要のある者は餓死して次のポップへ行くのも珍しくない
しかし食べない者でも空腹は感じるし美味しいものであれば食べたいという欲求はある
そのようなたぬきはヒトと混ざって生きるのもまた珍しくない

「ｷｭ……ｷｭｳｰ……………ﾀﾇｰ………ﾀ…ﾇ…」

小さなたぬきは食べずに平気だし大きくなれるたぬきだった
だが未知と言える空腹感は体験したことのない苦しみとなっていく
何よりも下にいるたぬきたちが今食べているものが例えゴミ箱から拾ったものでも手を伸ばしたいほどに欲するものと化していた


最初のうちは小さなたぬきが孤独でいることに大人たちは何とか救い出そうとした
しかしそれが出来ないと分かれば孤独ではないと声をかけた
多いとは言えない食料だって投げる形で小さなたぬきに届けたこともあった

しかし小さなたぬきはどれだけ苦しんでも苦しむだけで死ねない
何せ食べなくても本来は生きていけるのだ
自然の猛威を振るってもそれはたぬき一匹を死まで追い込めるほどでもない

助けることもできずにだけど死ぬ危険もさほどない
そうなれば必然的にたぬきたちは小さなたぬきと檻のことは自然にあるようなものだと認識してしまった
むしろこういうたぬきがいることに自分はよりマシな環境にいるという精神的な安定に繋がってしまったのだ

スラムの秩序とたぬきの平穏
誰が施したかも分からぬ謎の檻
その生贄にされた小さなたぬきは、今日も自然の苦行を課せられている



たぬき余談話

この後死なずに成長をしたたぬきは小さい檻に肉がはみ出る苦行をし続けて圧迫死
死んだ後は別のチビが入れられることになる