たぬきは産まれによってその体質が変わる時がある
岩からションボリ産まれれば、ガタイが良く肌も硬い大柄たぬきどんに
珈琲からションボリ産まれれば、ほろ苦い香りのするたぬきに
ションボリが産まれば千差万別の誕生があり、その分体質をほんの少しだが変えていく
10のたぬきが集まれば10の違う産まれのたぬきは珍しいことではなかった

「はぁぁあ………落ち着く…落ち着く…」

一日の疲れはこれで癒すと言わんばかりにまだ子たぬきと成体たぬきの中間と言った具合の大きさのたぬきに顔鎮めて呼吸をしている女性
そのたぬきはションボリ顔ながらも別に困った顔もせずに受け入れている

「落ち着く…眠くなってきた…お休みたぬきちゃん…」
「待つし…まだ帰ってお風呂も済ませてないし…今寝ちゃうとお腹減ったままで起きちゃうし…」

そのまますやすやと寝息を立てそうになる女性にたぬきは慌てて起こしにかかる
しかしモチモチとしたたぬきの手では逆効果
最大のリラックス効果を得てから女性はそのまま夢の世界に旅立とうとしていた

たぬきの産まれは栗から産まれた栗たぬきであった
現在の飼い主である女性が散歩中に通りかかった栗が実った木々のある道を歩いてた時に偶然見つけたのだ
秋の季節となって茶色に染まったトゲトゲの栗が地面に落ち、ああもう秋なんだなぁと季節に浸っていた時にパカンと割れた栗の中に奇妙なものを見つける
人の小指ほどの大きさの子たぬきであった
恐らく栗の中にションボリが集まってその中で生まれたのだろう
自分の尻尾を抱き枕のように抱えて静かに眠る子たぬきは、生まれながらに勝負服も身に着けた珍しい個体だった

そして女性もそれに目が奪われる
なにせ野良たぬきや子たぬきそのものは見たことがあってもほとんどが薄汚れていたり全裸だったりする
精々勝負服を着ているのもペットショップのたぬき玉ぐらいなものでこうして自然の中での生まれたての赤ん坊を見るのは初めてだったのだ

しかし季節は冬に近づく秋
風が吹けば少し厚着をしている女性も寒く感じ、それは産まれて間もない子たぬきも同様だ
今はまだ尻尾で暖を取れているようだがこのまま夜になって更に冷え込めば耐えられないだろう
しかも産まれた場所はトゲトゲの栗の中だ。這い出ようとしても寝床である栗のトゲに刺さって産まれた場所が死に場所になりかねない
そう考えて棘に触れないように優しく栗たぬきを手に乗せ、回収した
ふわふわもちもちで少し温かみのあるそれは確かな命を宿しているのだと女性は思わず感心した

そうして意図せずにたぬきを飼い始めた女性なのだが、成長するに従って栗たぬきは甘い栗のような香りがすることに気づいた
甘い香りはリラックス効果もあって栗たぬきがいると女性は不思議と落ち着いた気分になれる
そして栗たぬきも初めて視覚に映した女性に刷り込みが発生したのか親のように慕って甘えた
両者の関係はとんとん拍子で上手くいき、今ではたぬきも立派な成体間近になるぐらいに成長を遂げた

「はい、今日はモンブランケーキね。あなたもそろそろ大人になったみたいだし」
「わーい！うれしいですし…！」

そしてその記念に女性は栗たぬきに相応しいモンブランケーキを買ってきてくれた
産まれてから確かな愛情を一身に受け続けたたぬきはいつからかションボリ顔ではなくニッコリ顔がいつもの顔となっていた
たぬきがいつものションボリ顔ではないのは大変珍しいことであり、それだけの奇跡を一人と一匹は重ねている事の証明だった

「はぁぁぁああ！やっぱ落ち着くなぁ！」
「ママ…そろそろ寝る時間だし…」

成体になっても変わらない甘い甘い香り
それはたぬきが大きくなっても女性は変わらず癒しであり続けた