文明の利器というのは人間が作り出して人間以上の力を発揮するある意味で子が親を超える偉業に等しい事だろう
例えば電卓
どんな計算下手でも正確に数字を打ち込めば余程の人間コンピューターでもない限りは人間はその計算速度を超える事はできない
例えばミサイル
長距離から放たれたそれは正確な計算で持って正確に狙い撃ち、その威力は数十数百の命を容易く奪える
例えばどんな家庭にも設置されたキッチンと調理器具
ほんの数十年前は米を炊いてもすぐにパサパサになる上に外食店もそこまで美味しいものではなかった
今ではまずいと言えるお店も無ければ自炊でも最低限作れるようになっている

このように文明は進めば進むほど便利になっていく
それは良くも悪くも普段の生活を大きく変貌させていく

「あーっ！負けた！！」
「シシ…ご主人もっと練習したほうがいいし…」

少なくともテレビゲームで遊んでいるような人間とたぬきの若者はその文明の利器を存分に享受しているようだった
モチモチとした手でどうやってコントローラーのボタンを打ち込んでいるのかは分からないが、テレビに映るたぬきが操作するキャラクターは縦横無尽とばかりに動き続けている
反面、人の操作するキャラクターはその動きに惑わされてろくに攻撃も防御もできずに滅多打ちだ

「意味わからん…どういうコンボだそれ…」
「ご主人最初から理解投げすぎだし…少しはTanuTubeでも見て学ぶし…」

ゲームセンスの差か、それとも単純に力量の差なのか
ゲーム仲間で人に飼われているたぬきにボコボコにされて男はがっくりと俯いた

「はー！バイト行ってくるわ…留守番よろしくな」
「いってらし…」

飼い主のほうはバイトに行く準備をし、留守番するたぬきのためにエアコンのためにリモコンを操作する
ガチャガチャとやたらと乱暴な操作で適度な冷気になっていく
まだ外は熱中症になり得る気候なのでエアコン無しの室温になればたぬきも身が危ないためだ

そうして飼い主が出かけてぽつんと残されたたぬきは様々だ
許されてる範囲でパソコンで動画を見たり、ゲームをしたりと文明の利器をこれでもか享受している
動画で芸能たぬきのダンスを一緒に踊ったりとして時間を潰していくが、さすがに一匹だけだと飽きてくる
飼い主のご主人と一緒にゲームをするのが好きなたぬきはボッチでいるのはあまり好きではないほうだった

「はぁし…はやくご主人早く帰ってこないかし…ううぅ…」

ぶるりと震える
どうも肌寒く、もしやエアコンが効きすぎてるのではと感じる
リモコンを探して見ると冷房調整は27℃
28℃ぐらいは丁度良いだろうとたぬきもリモコン操作をし始めるが中々反応しない
もしや飼い主がやたらとガチャガチャしてたのはこのせいかと動かし続けると音が鳴った
確かにリモコンの操作はできた。エアコンの稼働を切る方向で

「あっ！？」

もちろんたぬきも再起動させようとスイッチを押し続けるが反応がしない
壊れたか、リモコンの電池が切れているのか

「どうしようし…」

替えの電池はないか探して見るが丁度電池も切れている
リモコンを押し続けてもやはり反応がしなくなっており、八方ふさがりだ
そしてエアコンが稼働しなくなって段々と室温も上昇してくる。真夏の外では野良たぬきとミミズが倒れ伏してるのは珍しくない光景である
そんな熱量は段々と途切れたエアコンの冷気を奪っていく
今はまだ平気でもいずれ汗も止まらない天然のサウナと化すだろう

「連絡…するし……届いてし…」

飼い主はバイトに出かけたばかりでバイト先でも自由に携帯を使えるわけではない
それでも気づいてくれることを祈ってパソコンから飼い主へのメールアドレスに助けのメールを送った
あとは帰ってくるまでたぬきが耐えるだけである

「あっついし…どうなってるんだしこの世界…」

しかしたぬきは早々とダウンしていた
まだ冷気の残るフローリングをちまちまと移動しながら耐えているが段々と空気すら熱くなってくる
如何に自分が文明の利器によって生かされていたのかというのを思い知りながら野良はどうやってこの暑さを乗り切ってるのかと考えると身も心も震えてしまう
少なくとも人間に飼われて一緒に暮らしているこの記憶があると野良で生きるのは不可能だと感じる
便利なものを覚えている状態で厳しい野良の生活を始めればどうしてもそれを求めてしまうものだろう
そうなればないものを求め続けてろくな生活を送れる気はしない

「でも今はそうじゃないし…あっついし…」

ずるずるとフローリングの冷気を求めて移動する
涼しさを求めるなら水道を利用するなり冷蔵庫を開いて冷やされたものを取り出すことも良いだろう
しかし問題はたぬきの背丈と力ではそういったものを利用できないのだ
ここに来て文明の利器はあくまで人間ありきなものに絶望してしまう。飼い主の住んでる家はたぬきフリーにされていなかったのだ
そしてそれすら気にしない程度に今まで快適に過ごせてたので盲点である

「やばいし…溶けるし…」

もはや勝負服が汗を吸収しつくして気持ち悪さが先に来る
気づいたら脱ぎ捨てて全裸たぬきとなるがもはやそれを気にしてられる状況ではない
意識が朦朧としてきて脳裏に浮かぶのは偶然ゲーム機の箱にポップしてから飼い主に飼われてからの一生だ
つまるところ走馬灯を見ているのだがそれに気づかないたぬきはもはや虫の息だった

「ただい…うわっあっつ！？どうなっての！？」

もし飼い主の帰りがあと少し遅れていたらたぬきはこのまま次のポップ先に旅立っていただろう
冷蔵庫から取り出された冷たい飲み物を飲み、塩飴で段々と体は回復してくる
まだエアコンこそ動かないが飼い主お手製氷枕でようやくたぬきは落ち着きを取り戻した

「でもそんなに冷えたなら布団か自分の尻尾で暖まれば良かったんじゃない？」
「あっ…」

文明の利器は確かに便利である
しかし便利すぎたゆえに単純なことを見逃すこともある
たぬきはそう学んだのだった