俺の家に家族が増える
偶然見かけて前々から飼いたいと思っていた柴犬だ
20cmにも満たない大きさで一目見てから可愛さに魅了されたもんだ
もちろん生き物を買う以上は下調べは万全にして犬の苦手なことや躾の方法も学んでいる
我が家に戻ればケージをいざ解放
ほーら、今日からここが新しいお家だ…ぞ…？

「……あっ……失礼しますし…」

ケージの中には小さな柴犬と、子犬以上に小さいが申し訳なさそうな顔をしたションボリ顔のたぬきがいたのだった

…⌚…

どうやら子犬と一緒にいたたぬきが犬の毛糸から産まれたばかりらしい
マジか。そんなの有りなのか
しかも最初から喋れるあたりにかなり賢そうである

「お邪魔はしませんし…たぬきはすぐに出ていきますし…」

飼うのは犬であってたぬきではないのも最初から理解しているのかたぬきはすぐに家から出ていく気のようだった
まぁ確かにそこら中にいるたぬきを飼う気はないとはいえ産まれたばかりのたぬきを即座に放り投げるほど薄情でもない
すぐ傍にいる子犬もたぬきに恐れず頬をぺろぺろとしている
たぬきもくすぐったそうにしているがそこまで嫌そうでもなかった

「行く当てがないだろうし遠慮すんなよ。お前もこの子から産まれたなら兄弟みたいなもんだろ？」
「キャン！」

子犬とたぬきをそっと抱えてみるがどっちもすげぇ柔らかいしふわふわしている
なんというか命を預かってるって気分にさせてくる
子犬もたぬきも人間の俺に安心してくれてるのか掌にすりすりと甘えてくるようだ
犬のほうはともかくたぬきも最初から喋れてもまだ子供なんだな
人懐っこい犬とたぬきの異色の兄弟を飼うことになったわけだがとりあえず名前を考えときゃな…

…⌚…

あれから結構な年数が経過した
子犬だった柴犬も立派な成犬になってデカくなり、たぬきも町でよく見かける程度の成体へとなった
始めは苦労も多かった
知識で知ってても躾を正しく行うことの難しさを痛感した
特に苦労したのが指定したトイレを行わせることだ。犬のトイレはマーキングの意味も込められてるため、これが中々覚えられない
しかしこの状況を打破したのが意外にもたぬきだった

「クゥン……ワン！ワン！」
「ふんしふんし…でもトイレはここでやらないとダメだし…ご主人に掃除の手間をかけさせると散歩の時間減っちゃうし…」

犬の毛から産まれたためか、たぬきには犬の言葉が分かっていた
もちろん伝える事もできるしこればっかりは他のたぬきにはできない芸当だった
お陰で俺の伝えたいこと、学ばせたいことはたぬき経由で分かるし、逆に犬側の伝えたい事や知ってほしいのはたぬき経由で分かるのだ

「散歩に行くぞー、サクラ、だいふくー！」

柴犬には春に買ったからサクラ
たぬきには掴んだ食感が大福っぽいからだいふく
割と安直な名前付けだが二匹とも不満を言い出さないあたりに気に入っているのだろう
なにせ本当に不満ならたぬきはそれが伝えることができるのだから

…⌚…

そして更に年数が飛んでいく
どんな生き物でも寿命はやってくる
人間であれば病気もないなら80歳は余裕で行けるだろうし、犬も15年ぐらいはある
しかしたぬきだけは8年も持たずにこの世から去ってしまう
あれだけモチモチとしてた肌は急速に乾燥したようにガサガサになって、サクラに頬を舐められているのに反応がない
少し前から寝たきりのようになってしまったが、たぬきがここまで急に動かなくなるのは初めて見た

「ごしゅじん…」
「ん…」

ショボショボとした声にも元気がない
何年も過ごしていてやはり情があるのだろうか
俺の胸から込み上げてくるのは別れから来る悲しさだ

「たぬき…しあわせだったし…こんなにしあわせなたぬきは…ほかにいないし…」
「そうか…俺もお前のいて楽しかったよ。サクラも一緒だ」
「でもだいふくってなまえは…どうかとおもうし…」
「今それ言うのかよ」

死ぬ直前だって言うのに調子を崩さないこいつには肩の力が抜けてしまう
いや、こういう奴だからこそ俺はこいつを家族として迎え入れたのかもしれない

「サクラ…あとはたのむし…ごしゅじん…またあえたら…あそぶし……」
「ああ、また会えたら一緒に遊ぼうな」
「ワン！ワン……キュゥゥン」

モチモチだった手を掴んだままだいふくはションボリ顔ではない顔でこの世を去った
兄弟を失った感覚が分かるのだろう
老犬に差し掛かって大きく吠えなくなったサクラは、家が響くぐらいに大きく鳴いた

…⌚…

だいふくの遺体は庭にある木の下で植えた
たぬきの出生には色々とあるが木に実を付けてそこから産まれるなんて話もあるらしい
もしかしたら我が家の木からたぬきが産まれ直すかもしれない…そんな淡い願い事を込めてのことだった

その後家の中に戻ってみれば机の上には見知らぬたぬきがいた
まだ小さく、大きさからしてみれば産まれてきたばかりのように思える
たぬきも気付いたのかもじもじとしながらこちらを見つめてくる

「あの……えっと…………」
「キャン！キャンキャン！」
「わああああ！サクラ！今のお前はデカいからやめるし！ブゥプ！！」

噂程度だが聞いたことがあった
たぬきは自らの死を終わりだと思わず、次の命にリポップするのだと
そしてその際には記憶を受け継ぐ個体だっているということを

サクラが嬉しそうに小さいたぬきを舐めているがそれがかつての兄弟と同じ舐め方だ
そしてたぬきのほうも唐突にデカい犬に舐められているのにジタバタもせずに嬉しそうに受け入れている

「帰ってくるのが早いよ。おかえり、だいふく」
「ヴッフ…ただいまし…！」

小さく生まれ変わっただいふくを自分の頭に乗せてサクラは元気に走り回る
どうやらまだまだこいつらの暮らしは終わりそうにはないようだった