たぬきの大きさは意外と適当だ
多くのたぬきは精々30cmほどで成体となるが、大きく成長する個体であれば一回りも二回りも大きくなる
逆に小さい個体もおり、そうしたたぬきは幼体の子たぬきとさほど変わらないかそれ以下の大きさとなる

豆たぬきと呼ばれる個体がそれだ
大きさは人間の親指以下、ポップしたばかりの子たぬきとさほど変わらない
そんな小さいだけながらも知能に差はなく、小さいからこそそれを生かして生き延びている

多くは人の家に隠れて住み着いている
さすがに外の世界や野良の世界はポップしても生き延びれるほど優しい世界ではなく、大半が虫の餌行きだ
なので豆たぬきが生き残れるのは人が住み着き、清潔であり、なおかつ餌となる何かが落ちている家が条件と厳しいものとなる

「ふぅし…今日のご飯はこんなもんし？」
「うーん…ちょっと少ないし…この家のご主人あまりモノを落とさないし…」

この豆たぬきたちもそうした家に運良くポップできた個体だった
とはいえ餌が豊富に落ちてるほどでもないらしく、ションボリした顔のまま住処に戻っていく
家の中でもクローゼットの隙間やテレビの裏側など子たぬきぐらいの大きさであれば隠れられる場所はいくらでもある
あとは家主さえいる時に無駄に声を出さなければ気づかれる心配もなかった

「ここのご主人…大きいたぬき飼ってたし…思い切ってたぬきのほうにお願いしてみるし…？」
「やめろ…そんなことしてご主人にバレたら駆除されるのは私たちのほうだし…」
「キュゥゥン…世知辛いし…」

餌の少なさは餓死にも繋がる
今餌を探し出すたぬきだけではなく、住処にはポップしたばかりの幼体豆たぬきまでいるのだ
このままでは揃って全滅しかねないが、かと言って勝手に住み着いている側が恥もなくご飯をくださいとお願いしても駆除されるだけだろう
現にこの家には豆たぬき用の罠である置き餌もある
粗悪品だからなのか効果もそこまでないのか成体豆たぬきであれば気を惹かれることもないが、試しにチビを連れてたら喜ぶように餌に近寄り、置き餌を食べてそのまま死んでしまった
つまりここの家主は豆たぬきに対して優しくない、というのが豆たぬきは結論である

「…お前たち…チビじゃなくて豆だし…？」
「！？…ひいぃし！」
「な、なんでここに…豆は良いたぬきですし…！」

あーでもないこーでもないと話すことに夢中になって注意力が散漫になってしまったのだろう
自分よりも遥かに大きな巨大たぬきが…家主に飼われている一般的な成体たぬきが豆たぬきたちを見下ろしている

「落ち着けし…私はお前たちをどうこうする気はないし…」
「ごめんし…私も自分より大きいたぬきは初めて見るし…」
「本当にデカいし…」
「ヴフ…ちょっと照れるし…」

こうして豆と飼いのたぬきの交流が始まった
何度か話して見ると確かに飼いたぬきは家主に報告をしていないのか豆たぬきの駆除は始まる様子はない
それどころか食糧事情について思い切って話せば飼いたぬきがいくらかの餌を持ってきてくれたではないか

「飼いたぬきがよく食べるフードだし…味はそれなりだけど豆なら良い量になるんじゃないかし？」
「じゅ、十分だし…！これだけあれば足りるし！」
「ありがたいし…大きいたぬきに勲章をあげたいし…」

飼いたぬきの量からすれば腹も満たせぬ食べ残し程度の量だが、何せ大きさが十倍どころじゃ効かない豆たぬきからすればしばらく餌探しをしなくても済む量だ
こうして豆は食料事情も改善し、そのことに大きなたぬきは感謝しつつ住処に戻っていく
いくらかの交流で豆たぬきの中では善良の部類なのだろうと分かっている飼いたぬきはトボトボと去っていく
住処に戻りつつ豆たぬきを見つめる獣が代わりに歩き出していた

「さぁチビ…今日はご馳走だし…」
「ｷｭ…ｷｭｩｷｭｳ…♪」
「飼いたぬきってこんな良いもの食べてるのかし…？羨まし…」

住処に戻った豆たぬき達はさっそく飼いたぬきから受け取ったたぬきフードで食事を始めていた
普段は人間が気づかぬうちに落としていた食物を細々と拾っては食べていただけに、しっかりとした味付けのフードには舌を巻いていた
数で言えば10匹程度
一纏めで暮らしている中で言えば多いほうなのだろう
しかしたぬきフードの一つ一つが成体向けの大きさなので豆たぬきが食べようとしても群れ単位で何日分にもなる
特に育ちざかりの子たぬきにはしっかりとした栄養も取れるので死ににくさも跳ね上がるだろう

「こんな良いものをくれたデカいたぬきには勲章をあげたいし…」
「同感だし…せっかくだから大きい勲章作るし…！」

たぬきの中でも善良寄りなのか飼いたぬきを羨むことがあっても妬むことはない
それどころか多くない資源を使って勲章を作ろうとする辺りに本来であれば人間であっても仲の良い隣人に成り得ただろう

「ギュー…ギュゥゥン♪キュキュー♪」
「…ん？なんだし…？」

しかしそうはならなかった
この先に豆たぬきが飼いたぬきへ勲章をあげることも叶わない
チビを育て上げてたぬきの生き方を繋ぐことも叶わない

「ギュベッ」
「し……？」

ぼとりと音と共に首のないたぬきが倒れ伏す
力のないジタバタを繰り返す残った体を静かに見つめるたぬきたち
そうした残った体を無駄のないように食い荒らしていく毛むくじゃらの獣がいる

「もどきだしぃぃぃいいい！」
「逃げるし！チビも逃げるしぃぃい！」

たぬきの天敵にしてたぬきの捕食者
もどきの襲来だ
しかしもどきはもっと大きく、少なくとも飼いたぬきと同じぐらいの体格がある
しかし襲来したもどきは豆たぬきと同じぐらいのサイズであり、しかしその大きさながらも俊敏性は勝るとも劣らない

「ひぃぃいし…やめてし…たぬきは美味しくな…ギュグウゥゥ！」
「いたいし…なんで……目が見えないし…」

逃げようとするたぬきをすぐさま追い付けばまず行ったのは足を奪うことだった
豆たぬきであってもモチモチとした小さい足はもどきの鋭利的な爪と牙の前では何も役に立たない
スッパリと切り裂かれて立ち上がることができず、あとは無意味にジタバタとすることしかできない
勢いあまって目を潰すたぬきや腕を失うたぬきもいるが些細な問題だろう
もどきの目的はあくまで逃げるたぬきを逃がさないことであって損傷は度外視している

そしてもどきの大好物と言っていい子たぬきは場の状況を理解できずとも大人たちの叫び声に対応しきれずにジタバタし続けている
もどきも知らず、箱入り同前に育てられた子たぬきに一匹二匹で場を切り抜けるような力はない

「チビ！逃げるし！ジタバタはやめて逃げてし！」
「やめてし…チビは…もう少しで喋れるし…やめてし…」

ボロボロにされながらもたぬきたちはチビを気遣い、そしてどうかもどきから逃げるように声を出す
しかしもどきはジタバタを続ける子たぬきに近づき、ションボリ顔ながらも嬉しそうな顔しながら一匹ずつ丸呑みしていく
口の中から食道に、そして胃の中で生きたまま丸呑みされ、子たぬきもジタバタしようとするが狭い空間で思うようにできない
そうしたちょっとした振動も醍醐味と言わんばかりに満足げなゲップをし、もどきの腹の中で子たぬきは段々と声も上げずに動きを停止していった

「ヴッフ…キュウゥゥン♪」
「あ、ああぁ……ひどいし…ひどすぎるしぃ……」
「たすけてし…大きいたぬき…たすけてし……たすけて…」

人間の家でポップし、少ない食糧をやりくりしながらも協力し合って生きてきた豆たぬき
そんな中でも小さい子たぬきは豆たぬきの生きる理由でもあり、もう少ししたら喋ってくれるかもしれないという希望があった
ポップとリポップを繰り返す生態の中で自分の生きた証を残す
それが勲章であり、そして子を育てる行為だったのだ
その一つがもどきに木っ端微塵に砕かれ、そして自分たちもまたもどきに一匹ずつ丁寧に食われていく

「どうして…ﾀﾇｰﾀﾇｰ……」

心を砕かれるように呻き声をしながら最後の豆たぬきは捕食される
こうして人間の住処にポップした豆たぬきは見事に全滅した
次のポップにションボリが溜め込むその日まで、静かな空間で居続けるだろう


「ギュウン！クゥゥン♪」
「よしよし…よくやったし…」

そしてもどきが戻れば真っ先に走った先はクッションでのんびりとしていた飼いたぬきであった
本来は捕食対象であるはずのたぬきに甘える声を出し、たぬきもモチモチとした手で天敵のもどきの頭を撫でている

「上手くいったようだな、豆もどきの豆たぬきの駆除」
「ヴフ…ご主人の狙い通りでしたし…」

子たぬきほどのサイズしかないたぬきもどき
もどきがたぬきから変質するように、豆たぬきのもどきもまた存在しておかしくない
駆除として使われた豆もどきはそうした存在だったのだ

「しかし驚きだし…もどきもこうして見ると可愛いもんだし…」
「ああ…でもあまり気を許しすぎるなよ。小さいと言ってももどきはもどきだからな。まぁ家の豆たぬきが湧く限りはその心配もいらないが」

近年の研究ではもどきはペット向きという見方も存在する
何せもどきはたぬき以上に人懐っこく、餌も何でも食べれるので深く考える必要もない
しかしたぬきを飼い野良問わずに食い荒らす上に基本的に食い意地も汚いのもあって害獣として処理される事も多かった
だが、もどきもたぬきを食い続けて満足していれば無理に襲うこともない事も分かり、定期的にたぬきを食べれる環境であれば飼いたぬきと併用して飼う事も可能となるのが分かったのだ
加えてもどきは仲の良いたぬきや人に飼われているたぬきの見分けが付く程度には知能も残っているため、逆にそれ以外のたぬきを駆除して食べてもらうペットもどきが産まれるようになった

「タヌー♪ギュウン♪」

この豆もどきはその一つであり、家の豆もどきを食い続けることで安定性を取っており、現に飼いたぬきに手を出した事は一度もない
そして豆たぬきは定期的にションボリを溜めてポップし続けるため、餌に困ることもないので豆もどきにとって人間の住処は最高の食場であった

「しかし…こいつに付けた音声聞くと随分と豆に好かれてたな。良かったのか？」
「私は人間に飼われてる飼いたぬきですし…その人間に黙って暮らしてる豆には特に興味はないし…」

豆もどきの首に付けられた首輪兼盗聴器
それによって豆たぬきの会話は少しばかり聞いていた家主であったが、飼いたぬきのほうは引きずるものは特になかった
そもそも飼いたぬきからすれば豆たぬきは自分たち飼いたぬきの生活を脅かせかねない存在だ
豆たぬきからたぬき全体を不快に思われて何も悪くない飼いたぬきが捨てられることは珍しいことではない
下手すれば悪知恵を働かせて自分と家主の人間に被害を出す可能性だってあるのだ

自分の生活の危険性を天秤に賭ければ豆の命など無いものと等しい
元からドライな気質も相まって、例え豆から勲章をもらったところでゴミ箱に捨てていただろう

「豆の匂いを覚えたから次からは私が後を追いかけさせるようにしなくても勝手にやると思うし…」
「そうか…最近の豆は罠も引っ掛かりにくいから助かるよ」

こうして世間では段々ともどきを飼う家庭も増えているようだった
もちろんもどきを飼う危険性も理解できなかった人間とたぬきが酷い目に合う話もあるのだが、思いの外たぬきともどきの奇妙な共存は出来つつあるようだった



たぬき余談話

豆たぬきの群れ
一見すると善良寄りだが普通に人間の住処に勝手に住み着いて出ようとしないあたりにちゃっかりしている
怪しい食べ物もまずチビに食べさせてから安全確認をするあたりに野良たぬき特有の警戒心の高さとドライさは変わらない

豆もどき
その名の通り、豆サイズのもどき
基本的な行動はもどきと変わらないが捕食するたぬきの少なさと豆たぬきを積極的に狩ることから家の豆たぬき駆除に使えると注目を集めている
大きさが大きさなので通常サイズの成体たぬき相手には真正面から挑むと敵わない