なるべく自然の形で、それも同じ場所と群れの一年間のたぬき観察
たぬきの暮らしぶりを調べるためにテレビからの依頼に一人のたぬき研究家が頭を悩ます

観察、だけなら特に問題はない
それこそ隠しカメラを設置して後は録画を流せば出来上がりだ。子供でもやれることである
しかし今回の依頼は一年間の観察であり、そして同じ場所と同じ群れを維持しないといけない部分だ

たぬきはやたらとしぶとい生命力こそがあるがそれはあくまで小さい見た目の割には、でしかない
知能こそは高いがそれを生かしきれないプニプニモチモチとした体は自然で生きるにはあまりに脆弱だ
現に野良に置ける生態ピラミッドでは虫に次ぐ最底辺
野良犬、野良猫、カラスにたぬきもどき。町や山を歩けば至るところにたぬきは動物に食われている姿が見る事ができる

そして自然災害にも弱い
体が柔らかいように体重も軽く、子たぬきは元より成体のたぬきも台風や風の強い日にはよく空を飛ぶたぬきが見受けられる
そして水にも弱い。正確には尻尾が濡れると途端に動きが悪くなる
一応人間のように服を着ているし暖かそうな尻尾もあるから寒さには強いほうだがさすがに真冬の肌寒い日には耐えられない
日本の四季折々ある季節がはっきりとした地域に生息するには適してはないのではと言わざる得ない
たぬきが今も生息してるのも死んでもションボリを集めてリポップできる生物に真正面から喧嘩を売ってるとしか思えない特殊な生態系をしている他ならない

このようにたぬきが群れ単位でも気軽に全滅しては気軽に産まれ直してくる
一週間ぐらいの観察ならともかく一年間、同じ群れの観察は中々の難題だ

とはいえ例外もあるもので前述の通り知能も高いのもたぬきの特徴だ
群れとして行動しながらも人間の手伝いをすることでお金や物資を稼ぎ、それを元手にスラムを形成する群れもいる
そうしたたぬきたちは余程の災害でも合わない限りは安定している
T市のスラムでは何年も人間と協力することで名誉市民も与えられたたぬきもいるほどだ

しかし今回の依頼はそうした安定のある群れではない
なるべく自然の形で、とあるように放っておいたら一年どころか一月も持たないような群れの観察がご所望だ
そうなると観察中に滅びそうな要因があればこっそりと何とかする必要があるのだがさすがに人間がリアルタイムにこっそり何とかするのは不可能だ
かと言ってドローンで空中観察しながら問題排除してもそれはそれでたぬきもおかしいことに気づくだろう

観察と群れの維持
二つの問題を解決するべく秘密兵器を投入する
まだ開発段階ではあるが汚ったねぇ別荘を持ってると噂のたぬき研究家の一人である名物教授から技術協力を受けて完成する
監視対象の群れはいくつかリストアップしたが、群れは出来たばかりだが地域もそこまで危険はない場所を選んでいるのを決めた
これから一年、じっくりたぬきの暮らしを見つめる日々が始まろうとしている

…⌚…

川の土手はたぬきがよく住み着く場所の一つだ
正確には川にかかっている橋の下に住み着くのだが、雨から尻尾を守れて立地によっては風も防げる
F市の双葉橋もそうした好条件の一つであり、あまり車も通らないため騒音も問題はない
住み着いているのであろうまだ若いたぬきたちが橋の下でションボリ顔のままで踊っている

このたぬきたちは幼少期から意気投合したのか互いに協力して生き延びている野良だった
多くの兄弟や仲間の死を見てきたがその度に生き残っていた結束は強く、踊りの練習も一糸乱れぬまま進行している

「ふぅし…ちょっと休憩するし…」
「また上達してしまったし…」

野生で生きる上で踊りは必要ないように思えるが、たぬきにとって踊りはコミュニケーションの一貫だ
踊りを得意とする野生の動物もいるのだからたぬきもその一つというわけである
そんなたぬきたちに近づく影が一つ
ポテポテと音のしそうなそれもまたたぬきだ。ただ少しばかり動きがぎこちなく思える

「…ん？お前誰し…？」
「……タヌキ ハ タヌキ ダシ…ナカマ ニ イレテホシイ シ…」

見知らぬたぬきが発せられた声は少しばかり甲高い
不振がるたぬき達ではあるが、甲高い声のたぬきが近寄ってモチモチをし始める

「シンアイ ノ モチモチ ダシ…ヴッフ…コレデ ナカヨシ ダシ…」
「ヴッフ…急にやるのはやめろ……お前なんだか冷たいし…体大丈夫し？」

たぬきのコミュニケーションが踊りなら敵意がないことを示すのがモチモチだ
互いの体でモチモチし合うことでこいつは怪しいたぬきではないと理解し始める
こうして野良たぬきにまた一匹仲間が加わり、今度は新しい仲間を交えて踊りだす
ただし新しいたぬきの踊りもまたぎこちない動きを見せていた

…⌚…

そして野良たぬきに加わった新しいたぬきは当然ながら普通のたぬきではない
一人の研究家が考案、開発し、ハゲた教授の技術協力を受けて完成した潜入用たぬき型ロボット
それこそが甲高い声のたぬきの正体である
たぬきの見た目、モチモチ肌、声を再現し、たぬきの思考を模倣したAIを搭載したことで独自に動くことが可能となる
もちろん有事の際には遠隔操作で動かす事も可能であり、今回の潜入用として様々な機能を搭載している
しかしまだ試作機の域は出ないため、人間からすれば声も電子音だと気づくし、同族からしても動きが怪しい程度の完成度だ
これに関してはこの一年で十分なデータ取りも兼ねているため、研究家はそれも期待していた

「ご飯取ってきたし…」
「木の枝集めてきたし…これで住処を補強するし…」
「アツメテキタ シ…」

ロボたぬきはたぬきの集団に混ざって共同生活を送っている
観察なのだから普段どのように暮らし、何をしているのかを見るにはロボたぬきも同じように日常を送ったほうが効率が良いのだ
ロボたぬきのカメラはリアルタイムでの観察だからこそやれる芸当である

「ご飯にするし……お前はもっと飯食うし…」
「新入り水飲むし…？遠慮するなし…」
「ガガ……アリガトウ シ…イッパイ タベル シ…」

そして思いの外たぬき達はロボたぬきに優しかった
というのも元来たぬきは穏やかで人懐っこい部類だ
よく成体の親たぬきが幼体のたぬきを拾って育てるように、新入りたぬきに対して世話好きの面もあるのだろう
もちろん役に立たない、育てるのが難しい子たぬきを容赦なく切り捨てる事もある側面も持つが、これもまたたぬきの気軽にポップするからこそ特殊な生態系と死生観を持つゆえの切り替えの早さだ

ロボたぬきはたぬきの集団でも違和感なく溶け込めるように飲食機能も当然実装している
とはいえ食べたものがエネルギーになるわけではなく、中の簡易焼却炉で一旦炭や灰にして後でトイレと称して取り出すぐらいだが

「ご飯食べたし住処作るし…新入りも手伝ってほしいし…」
「ワカッタ シ…」

何処からか拾ってきた段ボールやプラスチックの板、木の枝から割り箸まで器用に使ってたぬきの住処を作っていく
研究家もスラムたぬきが住居をたぬきの手で作っているのは知っていたが、こうして野良のたぬきもそのような技術と知恵を持ってるのも感心する
やはりたぬきの知能は決して侮れるものではない…
そう研究家は結論付けつつも観察そのものは穏やかに進んでいった

ロボたぬきも餌取りから住処作り、日課の踊りの練習やモチモチなども励んでいる
しかしロボとしての性能は披露せずに基本的に普通のたぬきと同程度の成果に抑え込んでいる
これは観察なのだからロボたぬきの性能をフルに使えば依頼は果たせないのだから当然だ

しかしロボたぬきがたぬきの群れに加入して数か月が経って夏の兆しが見える頃
たぬきの集団も段々と群れと言えるぐらいの発展を遂げつつあり、若いたぬきも住人を増やすかのように子たぬきを拾い始めた
親たぬきとなった群れは日々忙しそうにしている
まだまだ住処を頑丈にしつつも餌を取りに行く必要もあり、そして今度は単体では生きてはいけぬ子たぬきの世話まであるのだ
全てが不慣れであるがゆえに段々と仕事量も追いつかなくなっていき、ついに事態は急変する

「ｷﾞｭ……ｷｭｩ……ｹﾞﾎ…ｺﾞﾎ……ﾀﾞﾇｰ……」
「チビ…しっかりするし…ご飯食べるし…」
「ｷﾞｭ……ｹﾞﾎﾞｩ…ｹﾞﾛｸﾞ……ﾀﾞﾇｰﾀﾞﾇｰ………」
「吐いちゃダメだし…しっかりするしぃ…！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

野良たぬきが数匹、対する子たぬきは数十匹
明らかなキャパオーバーによって引き起こされるのは子たぬきの体調不良による死だ
餌が思うように食べれない栄養不足、親からのモチモチが足りないストレス
服を持ち合わせてない全裸の子たぬきはこうなると外気にすら弱く、互いがたぬき玉になってもはみ出た形で外気に当たる子たぬきから先に体調を崩して命を落としていく

子たぬきも大概は頑丈なのだが親たぬきの経験不足が積もるとその被害は子たぬきのみに降りかかる
こうなれば全滅するのも時間の問題なのだが、全ての子たぬきを失って親たぬきが生きる気力を失ってしまうのもまずい
いくら成体まで成長したたぬきは多くの同族の死を見てるとはいえ、自分の育てた子があっさりと死んで切り替えられるほど成熟もしていないはずだ
ロボたぬきの操作をAIから研究家に切り替えて動き出す
全ての子たぬきを救う必要はない
現状生き延びている子たぬきは10匹ほどだが半分もいれば子育てもしやすく、生き残りやすいだろう

「ｷｭ…ﾏﾏ……」
「大丈夫し…大丈夫し…ママは傍にいるし…」

生き残る選別も済ませている
なるべく言葉を喋っている賢い子を優先に、しかし2匹ほどは少しアホっぽい子も生かしていく
これもまた群れを自然に観察するためだ
賢い子がいれば存続もしやすく、アホが混ざれば崩壊の危機が常にあれども自然の形にできる

「チビ ヲ ワタス シ…オマエ モ スコシ ハ ゴハン ヲ ハラ ニ イレル シ…」
「……すまんし…チビ…元気にするし…」

ションボリとした薄目にはしっかりとした隈ができてるあたりに苦労が伺える
どのような動物の世界でも子育てというのはやはり苦労するものか
研究家はそうしんみりしながらも受け取った子たぬきを観察する
多くの子たぬきは栄養不足とそこから起こる感染症によって命を落としているようだ
ならば必要なのは栄養の点滴と感染対策の薬である

「……注射針展開シマス……」
「ｷﾞｭﾋﾟｨ！？…ﾀﾇｰ…」

モチモチとしているはずのロボたぬきの手から一本の鋭い針が突き出てくる
これこそロボたぬきのビックリ機能その壱、生存用注射針である
さすがに危篤状態のたぬきを生かすほどの効果はないが、生存に必要な栄養を兼ね備えた薬を打ち込む事ができる機能だ
子たぬきの胴体に針を刺して中身を注入するが、たぬきは何処を刺して中身を送ろうと効果は発揮する適当な生き物だ
針を刺されて呻き声を出しているがすぐに元気を取り戻すだろう

こうして一波乱を超えて夏の始まりは子たぬきの半数以上が次のポップ先に旅立つ結果となった
結局ロボたぬきが薬を注入した子たぬきを除いて全滅したわけである

そして親たぬきは死んだ子たぬきを半分ずつ切り分けて片方は食料に、片方はお墓のようなものを作り埋めていた
過酷な野良の生活に置いて死んだたぬきを共食いという形になって食料代わりにするのは珍しいことではない
生き残っている子たぬきもいるからか、死ねばただのお肉という切り替えの早さはさすがである
それでも半分だけ食料にしつつももう半分は墓にして埋めるという行為をする辺りにまだ若さの残るたぬきの貴重な行動だ
これがあと半年も生きてるたぬきであれば無駄なく全てを食料にしているだろう

「うっうっ…チビ……安らかに眠ってほしいし…残っているチビを大きくなるまで育てるのがお前たちの報いだし…」

親たぬきも大いに悲しんだが悲しんでばかりはいられない
これから暑い夏になるのはたぬきが乗り越えていく大きな壁の一つだ
幸い常に日陰に隠れる橋の下の住処であればムシムシとする程度であり、水も川の近くだから不足するものもない
しかしこのムシムシとする程度の暑さが厄介だ。常に気力と体力を削られる上に餌探しが億劫となる
その状態で日差しのある外を出歩けばあっとういう間に焼きたぬきの完成である
事実としてこの時期の季節は、少し出歩けば干からびたミミズと子たぬきの死骸を道端で見る夏の風物詩と化してる

「ひぃし…ひぃし……今日もヤバい暑さし…お前も大丈夫かし…？」
「モンダイナイ シ…スイブンホキュウ ハ ダイジ ダシ…」
「ｺﾞｸｺﾞｸ……お前もしっかり取るし…先は長いし…」
「ガガ……オミズ オイシイ シ…」

何処かで拾ってきた麦わら帽子を被ったたぬきとロボたぬきがペットボトルに入った水で水分補給をしながら道を歩いていく
橋の下を出ているこの2匹は食料調達班だ
幸い夏の季節は多くの虫も湧き出るため食料に困ることもない
しかし今年は異常な熱気と言える暑さで想定以上の熱中症患者が毎日のニュースで流れている
野良たぬきも例に漏れずに住処に待機している子たぬきや親たぬきも踊る気力すらない状態だ
このままでは遅かれ早かれ熱中症から纏めて全滅になりかねない
賢いスラムであれば日陰を作り、風通しのある住処を作って凌ぐだろうが住めれば良い程度の居住区しかない群れにそれを求めるのも酷だ

なのでメカたぬきのビックリ機能その弐を披露することとなる
とはいえ、使いすぎればそれが前提の群れと化してしまうため、あくまで緊急時の対応だ
少なくとも今年の異常な気温は呻き声すら出せない子たぬきを見ていれば観察どころではないと分かる

「ｳｨｰﾝ…ｳｨｰﾝ…外部エアコンユニットトノ接続ヲ確認…扇風機機能開始……」

こっそりと隠れた位置にメカたぬきを配備し、同じく隠すように配備した小型のエアコンと背中からコードのようなもので接続させ、メカたぬきに命令を送ると胴体部分が開く
開いた胸には扇風機のフィンが存在し、回りだすと接続したエアコンを通して冷気をたぬきたちに送っていく
室内ならともかく外の世界でエアコンを動かしても精々冷気を申し訳程度に送るぐらいだ
しかししぶとい時にはとことんしぶといたぬきにはこれで十分
現に身動きが取れなかったたぬきたちも徐々に動き出している

「ｷﾞｭ…ｷﾞｭｰ…」
「あれ…ちょっと暑さ和らいだし…？今の内にご飯済ませるし…」

季節にもよるだろうがこうして手助けをし続けないとたぬきはあっさりと群れごと壊滅してしまう
しかし数十数百を超えるたぬきの群れは今この瞬間もあっさりと壊滅し続けてるだろう
果たしてこうした手助けは何処まで自然と言えたものなのか…研究家は苦い珈琲を喉に流しながらも頭を悩ませ続けていた

夏の季節に置いて暑さが一番目に危険ならば、二番目に危険と言えるのは台風だ
日本の7月から10月は特に多く発生し、せっかくの夏休みや貴重な休みを台風で潰れた経験をした人も多いだろう
台風そのものは意外とそうでもなかった
橋の下という好条件に恵まれた群れに雨も風もそこまで通らない
精々記録的豪雨による川の増水こそが橋の下の天敵ではあるが今年はそのような大雨も降ることは無かった

ならば観察たぬきたちも特に危険も無く台風をやり過ごせたのかと思いきや、そうでもなかった
何せほとんどが若いたぬきたちで構成されているのだから台風未経験ばかりなのである
つまり危険性を知らず、対処する方法も知らない
こうなればどうなるかと言うと…

「うわああああし！飛んじゃうしぃいぃぃいい！？」
「チビ！チビィィイ！ああぁ……」

御覧の有様である
増えては減り、減っては増える
それがたぬきの群れなのだがこの群れも例外ではなかったようだ
台風が近づいているにも関わらず、危険を知らずに外に出たたぬきと子たぬきの親子は風に攫われて空高く飛び立っていった

「お水を汲むし…あっ！」
「ｷｭｰ！？ままーー！！！」

そして川のほうではいつもより川の流れが速いにも関わらずに水を汲もうとし、強い風に足を滑らせた親たぬきは流されていく
ぽつんと残された子たぬきはただ見るだけしかできず、親たぬきが見えなくなる頃にはジタバタとするしか他なかった

無論、ロボたぬきの性能を生かせば半分以上は救出は出来ただろう
しかし子たぬきも育ち、他所から来た成体のたぬきも増えつつある群れに全滅でもしない限りはすでに手を貸す必要はない
精々親が流されて助けに行こうとする子たぬきを静止したり、必要以上の犠牲を出さない程度に動く程度だ

「まま…まま……」
「ワスレルナ シ…アノタヌキ ハ カゼ ガ ツヨイノ ハ アブナイト ノコシタ シ…」

さすがに同じことを繰り返して死ぬのも面倒な部分もあって親が死ぬ姿を利用して学ばせていく
すでにロボたぬきが最初に出会った野良たぬきも一匹を残すばかりなのだが、それでも夏の終わりを迎える頃には数が元通りなのだからやはりたぬきは雑な生き物である

うだるような暑い夏が終わり、次に来るのは実りの秋だ
ここまで来ると知識も共有されてきて安定してくる。夏の前に拾った子たぬきも成体近くまで育ち、新たな子たぬきを拾ってより賑やかになっていく
メカたぬきの支援も早々必要でも無くなり、仮にメカたぬきが突如いなくなってもこの群れなら半年ぐらいは存続はできるだろう

「いったいしぃ！刺さったしぃい！！」
「馬鹿だし…抜くからじっとしてるし…」
「ひぃし…ひぃし…」

実りの秋だけにたぬきがよく食べる木の実も少し歩けば沢山拾える
これからの冬に備えて食料はあればあるだけでいい
その中でも管理されてない栗は拾い放題の食料だ。トゲトゲの外側と硬い殻で覆われた栗を手を付ける動物はそう多くない
しかしたぬきならば石を使って殻を割って中身を取り出すことも可能だ
これも相応の知能と道具が使えるという利点が存分に生かせる要素と言えるだろう

しかし栗から実を取り出すのによくトゲに刺さって負傷するたぬきも少なくない
いくらモチモチ肌とはいえ尖ったものには弱いのだから栗拾いは結構命がけなのだ

「ヒロッタ シ…カゴイッパイ ダシ…」
「おっし…ご苦労さんし…そろそろ帰るし…たぬ？」

ロボたぬきも栗拾いを手伝いながらも、そろそろ籠いっぱいの栗を持ち帰ろうとしたら一匹のたぬきが何かに気づいたようだ
パカリと割れた栗に近づくと中にはポップしたばかりの子たぬきが入っている
その子たぬきを大事そうに抱き抱えながらたぬきは喜びながら戻ってきた

「ヴッフ…いいもの拾ったし…栗から産まれたチビは良い匂いがするし…」

子たぬきはポップする場所やモノによってその性質を少し変える特性がある
例えば先ほどのように栗から産まれたら栗の香りをすると言った感じにだ
たぬきが子たぬきを拾って育てるのは所説があるが、その中でも珍しい子たぬきを好むという研究結果もある
まぁ子たぬきは拾おうと思えば何処でも拾えるのでその中でも珍しかったり賢かったりするのを優先するのは珍しい事でもないだろう

「チビが眠ってる間にやるし…幸い服無しで生まれて来たから楽なもんだし…」
「ｷｭｰ…ｷｭｰ……ｷﾞｭ！？ｷﾞｭﾎﾞｷﾞｭｧ！！」

住処に戻って栗子たぬきを大きなペットボトルの蓋に入れると何と石で磨り潰し始めたのだ
大きなたぬきに抱かれて安らかな寝息を立てていたはずの栗子たぬきも最後の呻き声すら上げれずにただの肉の塊になるまで潰されていく
そうして元子たぬきの肉を食べ始めたたぬきはニンマリと普段の表情とは違う顔をする

「栗の味がして食べやすいし…拾えて運が良かったし…お前もどうだし…？私たちだけの秘密し…」
「ヴッフ…ガガ…ゴハンリョ ニ アズカル シ…」

このたぬきは最初に出会った、そして最後に生き残ったたぬきだ
春先に出会ってそろそろ半年の付き合いになるのだが、そうなるとロボたぬきとの付き合いも長いのか時折気を許したように貴重品を分け与えてくれる
たぬきはドライに生きていくものだがそれは明日どころか数秒後に永遠の別れなど珍しくないからだ
しかし半年も続けて共にすればそれなりに友情や愛情を芽生えてくるのか互いを大事にする関係にもなる
こうして栗子たぬきを食料にして分け与えてる辺りに良好な関係を築けているようだ
…今晩は栗ご飯にしようかなと研究家はふと思った

一方で最初に拾った子たぬきが死んだ時には半分の肉体を墓に埋めていたのに今はその面影すらない
死んでいった同胞の亡骸は無駄なく食べていき、そして育てきれない余った子たぬきは最初から食料として食べていく
出会ってからわずか半年
若い野良たぬきは一人前の野良たぬきになったわけである

秋が進めばすぐに冬が来る
肌が刺さるような寒さは人間は元よりたぬきだって耐えれるものではない
なので野良のたぬきは冬の時期は基本的にたぬき玉になってじっとしていることがほとんどだ
必要最低限の食事を済ませて後は温まって寝る。それだけである
もちろんそんな退屈極まりない生活を送れば自然と飽きてくるので比較的暖かい日差しのある日は尻尾を乾かすのもあって外に出る時もある

天候によるがそんな日は三日から一週間に一回程度
しかしその少なさだからこそ子たぬきたちは元気に走り回ってるし、親たぬきや成体たぬきも各々のんびりとしている
春夏秋を巡り続けて観察を続けて最後の季節となる冬
こうして何も無く観察も終えるのかと思ったが、どうやらたぬきの神様はたぬきに優しくないらしい

「ヴッフ……キュウゥゥン……グゥゥン」
「…ん？なんだし…あいつ…」

のっそのっそと群れに近づいてくる毛むくじゃらの獣がたぬきに近づいていく
研究家も「あっ」と声を出して気づくがその時にはもう遅い
ブチリと嫌な音が鳴り響き、メカたぬきのカメラにはしっかりと毛むくじゃらの獣がたぬきの頬を食い千切ったのを捉えていた

「ギュアュ！？グゥゥ！？」
「グゥゥン♪ヴッフフ…♪」

「もどきだし！！たぬきもどきが来たしぃぃぃい！！」

他所から来た成体たぬきが喉から張り裂けんとばかりに声を出す
たぬきの天敵にして優れたスラムですら一夜に崩壊させる災害でもあるたぬきもどきだ
そろそろ一年近くする観察でも一回も見ていなかったため、研究家も完全に油断していたのだ
慌ててメカたぬきの操作をAIから切り替えようとするが、その間にたぬきもどきが元たぬきが変異したとは思えぬ素早さで持って次々とたぬきに襲い掛かっていく

「イギィィ！やめてし…！やめてし！たぬきは美味しくなギュゥゥ！！」
「ままー！ままをはなせし！！はなせしぃぃ！」
「チビ！はやくこっちに逃げるし！ジタバタしてるなし！」
「ｷｭｰﾝｷｭｩｩﾝ……ﾏﾏ……ﾀﾇｷﾉｱｼ…ﾄﾞｺﾀﾞｼ…？」
「チビの…チビの腕がああ！ひぃぃぃし……！！」

先ほどまで平和だったというのに一瞬で阿鼻叫喚だ
たぬきもどきは純粋な食欲のみで行動する分かりやすいまでの生態をしている
そのために目の前の餌であるたぬきを絶対に逃がさないようにまずはたぬきを行動できなくさせる
手足を噛み千切る、爪で引き裂くなどは当たり前
子たぬきのフリをしてたぬきを誘き寄せるなど知恵に優れたもどきもいるため、人間からも一種の害獣のような扱いを受けている

観察という観点で見ればもどきははっきり言って邪魔だ
自然の形で言えばここでもどきが群れを全滅してもそれもまた自然なのだろうが、依頼が単純に果たせなくなる
使う事がなかったメカたぬきのビックリ機能その参をここで披露することになる

「ｳｨｰﾝ…唐辛子キャノン展開……発射準備完了」

モチモチの右腕がスライド展開することでキャノン砲に変形する
銃弾となるのはたぬきを襲う動物を追い払うことを想定した唐辛子を使った塊である
たぬきを食らって無防備となるもどきの頭にロックオンし、研究家がトリガーを引けば見事に命中する

「ギュオン！？……ギュゥゥン！アアオン！アオオン！！グゥゥウン………」

最初は呆けたような顔をしながらも顔全体に広がる唐辛子に耐えきれないのか聞くに堪えない声を出しながらもどきは去っていく
もどきが去った後はもどき除けの薬剤を住処の周辺に撒いて操作完了である

「お前…凄いし…！もどきを追い払ったし！お前は英雄たぬきだし！！」
「だし…助かったし…！」

目の前のたぬきが機械なのも知らない野良たぬきはもどきを追い払った英雄として見るようになった
傷ついていないたぬきも少ないぐらいだが被害と言えば最初に襲われたたぬきと数匹の子たぬきが失ったぐらいだ
あまりメカたぬきが目立つのも観察上よろしくないのだが、幸いと言っていいのか今は冬でたぬきの活動期ではない
もどきを追い払い、あとはたまに来る強い寒気をたぬき玉で乗り越えれば観察依頼は完了となる

そうして春の兆しとしてうっすらと花々が芽吹いてくる
観察対象のたぬきの群れは見事に冬を乗り越えた
無論、その間にたぬき側の不注意で死んだのも少なくないが、一般の野良がほとんど全滅する終わりを考えれば破格と言って良いほどに残っている
一年と長かったがようやく終わりかと研究家も感慨深いものを感じる
たぬき研究家としては既知な情報が多くとも、こうして自らの目で確認すると違った感動があったりするものだ
そして研究家は今まさに新しい感動を手に入れることになる

「ママさん…たぬきたちをここまで育ててくれてありがとし…子育て勲章作ったし…受け取ってほしいし…！」
「一生懸命作ったし…！ママたちはたぬきの恩人し…！」

たぬきが子育てをする理由の一つである勲章
それを育ててきた子たぬき…今では立派な成体になったたぬきから子育て勲章を貰ったのだ
作りとしては萎れた紙にドングリや木の実の殻をノリか何かで付けたような質素なものだ
しかしそれは子供から親への感謝と愛への印であり、事実として今日まで生き残った親たぬきたちはオイオイと泣いている
実のところ研究家も情報としては知っているだけで実際に子育て勲章を手渡し、そして受け取る光景は初めて見たのだ
映像としても貴重なそれに研究家も胸が熱くなる気持ちでいっぱいだった

「英雄たぬき…暖かい日に産まれたチビを抱いてやってほしいし…お前の強さをこの子にも分けてほしいし…」
「マカセロ シ…チビ…オマエモデッカクナル シ…」

たぬきたちが生き残り、そうして次の季節を歩んでいく
その中でまた新しく子たぬきを拾ってたぬき達は自分たちの生きた証として知識と勲章を継がしていく
成体たぬきが春一番に拾ってきた新しい家族である子たぬきをロボたぬきに抱かせ、子たぬきは喜ぶように声を出している
感動的な光景だ
しかし研究家は少しばかり渋い顔をして見つめていた

「依頼達成ヲ確認…コレヨリ機密保持ノタメ自爆シマス…」
「し…？お前いきなり何を言ってるし…」
「サヨウナラ……シ………」

最後の言葉はAIに刻んでいないはずの言葉だが、一年の間に自律意識でも芽生えたのか
大爆発と共にこの世から消え去るメカたぬきに研究家はぼんやりとそう思った

メカたぬき
それは研究家が考案、開発し、ハゲた教授の技術協力を受けて完成した潜入用たぬき型ロボット
その内部には数々のビックリ機能が搭載しているのだが、その機能の多くはハゲ教授の開発である
その中の一つである自爆というある意味ロマンな機能は完全なブラックボックスとなっており、気づいた頃には研究家にも手の負えない代物であった

文字通り機密保持という名で自爆したメカたぬきはどのような原理なのか痕跡一つ残さない爆発をした
こうなれば爆心地にいたたぬきたちと住処もただでは済まない…と思いきや、煙が晴れると五体満足のたぬきたちがいた
しかしその栗色の髪の毛は見事な漆黒アフロヘアーと化し、爆発の煤で薄汚れている
ポカンとしたたぬきたちはピクピクと体を震わせ、全力のジタバタを行った
産まれたばかりでメカたぬきに抱かれていた子たぬきもジタバタしていた

クソ汚い別荘に忍び込んだ不法侵入たぬきは容赦なく駆除はするがそれ以外の一般たぬきには傷つけない
どうやら噂通りの人物らしく、研究家は安心と呆れのため息を付いた

何はともわれ依頼は達成し、一年間ひたすらたぬきを観察しながらもメカたぬきの研究データも得られた
次はどのようなテーマでたぬきを観察しようか？
飽きることなく研究家は次の好奇心を満たすために動き出す
その歩みはたぬきという未知の存在を解き明かす日まで止まる事はないだろう





たぬき余談話

その後の橋の下のたぬきたち
突然のメカたぬきの自爆によって英雄を失い、いっぱいジタバタしていっぱい悲しんだ
しかし英雄ばかりに頼ってはいけないとすぐに立ち直ってスラム一歩手前まで成長中
メカたぬきの自爆によって傷こそ付いていないが世代が変わるまでアフロヘアーの集団になっていたため、少しばかり人間からも注目を集めた

メカたぬき
たぬきの見た目を模したロボット
用途としてはたぬきに混ざっての潜入観察用であり、ロボットだからこそ様々な状況に対応できる機能を搭載している
壱:たぬき生存用注射針
弐:扇風機
参:対動物用唐辛子キャノン
肆:尻尾型ヘリコプター(未使用)
伍:救出用ワイヤーアーム(未使用)
陸:動物除け薬剤
無:自爆