たぬきは不満があった
ご飯は美味しくともまずくもない一般たぬきフード
ごわごわした毛布は洗濯されず少し臭う
トイレはしっかりこなして留守番もするが特に褒められない

人間に飼われて良くも悪くもないたぬ生が不満があった
本音を言えるなら言いたい
ご主人と一緒のものを食べてみたい。できるなら温かいうどんが良い
ご主人と一緒に寝たい。ふわふわのお布団で一緒に寝たら心も温かくなる
ご主人に褒められたい。ちょっとしたことでも自分を肯定してほしい

ただ飼われ、生かされ、人間の飼い主の部屋の色を少し彩るだけの存在
それがたぬきであった

もちろんこの不満を言えるだけの勇気はない
20%引きとはいえ若く、人間の言う事をちゃんと聞くようなたぬきはペットショップにいくらでもいる
人間に都合良く、媚びるようにしなければ簡単に捨てられてしまう
それもここ最近では飼われる前にペットショップでも聞いた一つの風潮があった

我儘を言う飼いたぬきにはもどきが来る

正確には我儘を言うたぬきに愛想を尽かした主人がもどきを飼い始めるという話だ
そうして元から飼われたたぬきは悲惨の一言だ
もどきの餌に、玩具にされて食い殺されるならまだマシと言えるかもしれない
なぜならそれには終わりがあって次のポップ先にすぐに行けるからだ
捨てられて家から追い出されるなら野良で生きる術を知らない飼いたぬきはそれ以上の地獄が待っている
他の野良たぬきから服を奪い取られ、集団リンチされ、野良もどきやカラスに追い回され、ただの肉塊になりながら誰からも無視される

飼いたぬきはそれを知っていた
飼われる前の野良のドキュメンタリービデオをしっかり見ていたから過剰に怖がる部分だってある
だけどその話に嘘はないとたぬきは思った
たまに飼い主との散歩に付き添えば1回に3回はたぬきの死骸を見るからだ

たぬきには不満があった
たぬきはちょっとした我儘を伝えたかった
しかしそれを飼い主に送る勇気はない
己の命と尊厳をチップに賭けて、結果がもどきが家に来るようなことが起きる
それだけは不満を超えて避けたかった
たぬきのションボリ顔は自分の気づかぬうちに少しずつ深まっていった