たぬきは頭を失っても動き続ける
これはたぬきを接すると当たり前の常識…というか接しなくても知っている事だ
街中を少し歩けばたぬきの死骸を見ようと思えば見れるわけだがその中には天敵に食われて頭を失いジタバタとしている胴体を見ることもある
景観として台無しになるのですぐさま清掃がされるわけだが、たぬきは頭を失っても動く事のできる生物というわけだ

そして研究家はふと思った
実のところ今の医療技術をフルに生かせば脳死した人間ですら肉体的に生かし続ける事は可能だ
そして首無しマイクという実例も存在する
家畜のニワトリの首を切ったら頭がないにも関わらず一年以上を生きたという話だ
つまり首無したぬきも同様のことができるのではないのだろうか？

たぬきの命はポップというふざけた生態をしているために何処までも軽い
軽すぎるために真面目に生かそうとする研究はほとんどされない
だが一度好奇心を刺激されると何処までもやってみたくなるのが研究に携わる人間だ
テーマは「頭のないたぬきは何処まで生存可能かつ動き続けるのか」だ

前述の例である首無しマイクは一部の脳幹と耳が残っていたため、生前の動きをそのまま再現し、普通に生きていたという
食事こそ自ら取る手段がないので喉から直接通して餌を与える必要がある
あくまで動き続けるのを観察するために首無したぬきはジタバタするのは好ましくない
単純に餌を与えるのが難しいからだ
そのため一部の首無したぬきは静かに踊り続けるという個体をベースに観察をしたい

「なんし…ここどこし…」
「すごいし…たぬきいっぱいだし…」
「ｷｭｰ…ｷｭｰ…」
「ﾀﾞﾇｰ！！！！はやくご主人の元に帰せし！！拉致だしぃぃぃい！！！」

しかし踊り続ける首無したぬきは中々にレアだ
そのため大量の首をもぎとるたぬきが必要になるため、スラムの野良たぬきから捨てられた飼いたぬきまで多種多様に揃える
30匹ほど用意して後はひたすら踊るたぬきが出来るまで首を取るだけである
さすがに成体たぬきの首を千切るのは大人の力でも時間がかかるので包丁でスパスパと切っていく
たぬきは打撃に対する耐性はモチモチとした肌で強いが圧力と切断には弱い

「ｷﾞｭﾋﾟ…」
「ダ…」
「ひぃぃいし！殺たぬだし！やめてし！たぬきは悪いたぬきじゃ…ダッ！」

次々と首を斬られて阿鼻叫喚になるたぬき達だがろくな断末魔も上げられずにどんどん首を切っていく
逃げようとするたぬき、媚びるたぬき、怯えるたぬき、命乞いをするたぬき
様々なたぬきがいるが研究家にとって等しく価値がないものだ
今の彼にとって求めるたぬきは首を切っても踊り続けるたぬき。それ以外に存在しない

「キュッ…！………………」

そうして数多のジタバタとする首無したぬきを量産してついに首無しで踊るたぬきが誕生する
まだ生き残っているたぬきもいたが同様に首を切ってみるがジタバタするだけの胴体だったので散乱とするジタバタ首無したぬきは纏めて処分した
部屋にぽつんと一匹の踊り続けるたぬきの胴体が残り続ける
あとはこの踊りが何処まで持続し続けられるかの観察である

対象たぬきはスラムに住む野良
30cmほどの成体
勝負服を着ていることから比較的安定した生活を送っていることが予測できる
そこまで薄汚れていない勝負服とたぬきの生存率の低さからして個体の年齢は半年から一年弱と仮定
たぬきの寿命は長くて7年ほどなので本来であれば寿命まで5年は生きられるだろう

毎日スポイトを使って千切れた首から餌と水を与えてやり、休まずに踊り続ける奇妙な首無したぬきを観察する
最初は踊り続けるためにスポイトの餌やりに苦労したものだが慣れて来たものだ
これがジタバタとしていた個体なら怒りで初日から潰していたかもしれない

しかし改めて首無したぬきの踊りを観察してみると意外と面白いものだ
たぬきの踊りはうどんダンスとも言われ、たぬき同士がコミュニケーションを行うためのものだ
踊りの質はたぬきによって変わるのだが、たぬきの頭の大きさとバランスを取るための尻尾もあってふらついて踊る者が多い
しっかりとした踊りを踊れるのはそれだけに練習を重ねたか才能のあるたぬきに限られるのだ

そして目の前の首無したぬきの踊りは実に淀みのない
首が無いとは思えない、むしろ頭の重さが無くなったためか舞いのように踊っている
コミュニケーションを取るための踊りが、思考するための頭がないほうが上手く踊れるのは実に皮肉めいた話だ
案外人間も、小難しいことを考え続ける頭がないほうが楽に生きられるのだろうか？研究家は少しだけそう思った

特に代わり映えのしない首無したぬきの観察は一年続いた
個室の中で延々と踊り続け、人間に生かされ続ける日々
果たしてこのたぬきは何処まで生き続けるのだろう。そもそも生きていると言えるのだろうか
もしかしたら元のたぬきはすでにリポップ済みかもしれないし、肉体が完全に動かなくなるまでポップはしないかもしれない
現に多くのたぬきが死んだはずのこの個室は、ションボリが満ちているはずなのに首無したぬきが踊り続けてから一度も他のたぬきを確認していない

これもこれで新しい研究結果が出せるかもしれない
研究家はこの一年ですっかり愛着を湧いた目で踊り続ける首無したぬきを見つめる
踊り続けるたぬきには何を思うのだろうか。何も思えないのだろうか
もしも何か思えるなら頭もないにも関わらず何を願っているのだろうか

首無したぬきはただ生かされる
研究家に不注意が無ければ寿命を迎えるその日まで踊り続ける事になるだろう
首無したぬきの予測される寿命はあと4年
もしも首が無くても思える事があれば一日でも早く終わってくれと願うほどに、たぬきの長い長い踊りだった