普段は自炊をしている人間でもたまにあるすべてが面倒臭いと感じる奴
そうなるとカロリーバランスもガン無視してコンビニやファミレスで好きなものを食い漁ると収まるものだ
もしくは普段立ち寄らない定食屋に興味本位で入る時もある
今日は後者で個人経営らしい定食屋に入ってみた
こじんまりとしながらも何処か親しみや懐かしさのあるような…そんな店だった

注文したのはサッと食べたい気分なのでたぬきうどんだ
実はたぬきうどん、少し調べると由来や特徴が各地方によって面白いぐらいに違うと分かる
北海道ではかき揚げを乗せたものをたぬきと称すると文献もあれば、東日本では天かすを乗せたうどんを示す
石川県では揚げ玉入りのうどんであり、京都では刻んだ油揚げの上から葛餡を掛けたうどんをたぬきと呼ぶ

こうも違うと作り手の出身が何処かなのかも察することができる
さて、今から出される注文はどの地方のうどんなのか。そうした予測も楽しみ方ができる食べ物なのだ

「ご注文お待ちですし…たぬきうどんですし…」

…………そう、来たか
出されたのは天かすと天ぷらを乗せられたうどんと、生き物のほうのたぬきの頭が丸々一つ皿に乗せられたものだった
たぬきはたぬきでも食用たぬきか何かを使ったうどん…そういうことなのだろう
とりあえず出されたものは食べてみる

出来立てのサクサクの天ぷらはスープが沁み込んでて味がはっきりと分かる
たぬきの頭に驚かされたがうどんそのものはオードソックスなカツオ節を使った関東風のようだ
しかしこの天ぷらはなんだろう
衣はサクサクだが中身はモッチリとした食感で淡泊な味わいがする
最初はハンペンを使った天ぷらかと思ったが、淡泊ながらも肉としての風味があるのだ

「美味しいですかし…？それたぬきの尻尾ですし…」

一瞬吐き出しそうになった
頭だけなのになぜ生きてるのか、喋れているのかと突っ込みをしたいがこの際無視する
そしてうどんの麺のほうだが太くてモチモチとしていて食べ応えがある
しかし小麦粉だけでこの食感がどう出せているのか
気のせいでなければ先ほどの天ぷらと似た食感をしている

「そのうどん…たぬきの体を練り合わせてますし…お陰で体も尻尾も無くなったし…」

つまり名実ともたぬきうどんに偽り無しというわけだ
自分以外にもたぬきうどんを注文しているお客もいるようだが、注文を受けるたびに調理場らしき所から小さいたぬきの悲鳴が上がる

「スープもたぬきですし…チビを煮てるみたいだし…」

どうやら関東風ベースにたぬきを素材にしてもマッチするようにスープにもたぬきの幼体を煮込んでるようだ
たぬきを食材にしたたぬ食というのが広まっているのは耳にしていたが、ここまでその名の通りのたぬきうどんとは恐れ入る
麺、具材、そしてスープを飲み干してお腹は膨れる
ごちそうさまでした

「お粗末様ですし…」

ところでこの頭はどうすればいいんだろうか
帰りのサッカーボール代わりにしていいんだろうか？

「恐ろしいことを言わないでほしいし…食べてもいいですし…食べずに捨ててもいいですし…」

食べるのは良いのか
たぬきの考えることはよくわからない
しかしさすがにたぬきの頭一つ分を食べる気は起きない
ちなみに食べずにいるとどうなるのだろうか

「廃棄処分ですし…どのみち頭だけだと何もできないし…次のポップ先に行きますし…」

世知辛いが食用たぬきはそんなものなのだろう
ふむ…しかし頭だけとはいえこうして普通に会話できるのも不思議なものだ
よく見かける野良のようにそこまで卑屈ではなく、しかし驕りもしていない

こうして我が家に頭だけのたぬきを招き入れた
普段は何もせず…まぁ体もないのだから当然だがじっとしている
そして会話と食事の時だけは気ままに中身のない会話を楽しんだ
一人暮らしには丁度良い貰いものと言えるかもしれない
頭たぬきのほうも食用で終わらずに気楽に長生きできることをエンジョイしてるようだった
