たぬ木にションボリが集まると実を付ける
硬くて青い実を好き好んで食べる動物も存在せず、熟すその日まで中身の子たぬきは眠り続ける
そうして熟した実は自然と地面に落ちて、その衝撃で実が割れてたぬきは誕生する
まだ未形成だがだんだんとたぬきの形になりつつある実の中身
考える知能もまだ備わってないがそれでも漠然と未来に思いを寄せる

(ｷｭ……ｷｭｰ…)

無事に産まれたら甘い木の実を食べよう
声を出して元気にこの世に生まれたことを自分に祝福しよう
もしかしたら近くに兄弟だっているかもしれない
そうしたら一緒にうどんダンスを歌って踊ろう

生まれるのが楽しみだと言わんばかりに形成しつつある顔はニッコリ顔だ
もしこのまま産まれたらニッコリ顔のたぬきだったかもしれない
しかしだんだんと子たぬきの顔が怪訝な顔をしつつある

ションボリ不足だ
一般的な動物が妊娠中に母親からの栄養を子供が必要とするように、たぬ木生まれの子たぬきも常にションボリを必要とする
供給不足に陥れば形成途中の体がストップされてしまう
それどころか実も熟さなくなって腐っていく羽目になる
ションボリ不足になる原因は実を付けすぎたか、近くで直接たぬきがポップしたか、ただ単にションボリしてる生き物が少ないか
理由は数あれども確かなのは息苦しさを感じるほどにションボリが足りないことだ

(ｷｭ…ｷﾞｭｩｩﾝ…ｷﾞｭ……)

苦しい。ただ苦しい
呼吸ができない、空腹感を感じる、暖かった揺り籠が冷たく感じる、肉体を失う喪失感がある
様々な苦しみが一度に襲い掛かってくる
まだ手足もろくに出来上がっていない形成中の体は不安定そのものだ
ただでさえションボリ不足になれば実が腐っていくのにそこから連鎖的に子たぬきの体も腐っていく

(ｷｭｩｩｩﾝ……ｷｭｩｩｸﾞｷﾞｭｸﾞｱｱ……)

発声機能すら存在せずとも苦しみの声と呼吸を重ねるように口をパクパクしている
ニッコリ顔から一転してションボリ顔の涙目になるとは誰が予測できただろうか
ジタバタしようにも体がない。腐っていく
声を出そうにも実の中だから出せるわけがない。苦しい
ションボリが足りない。足りない足りない足りない足りない足りない足りない
足りない足りない足りない足りない
腐っちゃうたぬきが実が腐っちゃう。腐っちゃう腐っちゃう腐っちゃう
腐っちゃう腐っちゃう腐っちゃう腐っちゃう腐っちゃう

(…………ﾀﾇｰ……ﾀﾇｰ……………)

腐敗はついに体まで及び、断末魔すら上げることなく静かにその命は消え去った
硬いはずだった実は腐ったことでぐずぐずとなり、ぷつんとたぬ木から切り離されてぐちゃりと潰れ落ちた
割れた実から辛うじてたぬきとわかるかもしれない腐りかけたそれを食べる動物はいないだろう
例え産まれることができなかった実もたぬきも自然に流されて土壌の肥やしとなっていく
ちゃんと産まれたかった無念とションボリを重ねていつの日かションボリが不足がちな場所でも誕生ができる日も来るだろう
それまで安定したポップができないのはたぬきの世界ではままあることだった



たぬき余談話

ションボリが不足して上手くポップできない、産まれない地域では上手く産まれなかった無念とションボリを重ねてポップできるようになる
しかしそうしてポップできても1世代だけで、ションボリが無くなったので次に上手くポップできるのはまた産まれない無念を繰り返す必要がある