某日の昼間にボヤ騒ぎが発生した
幸いにも住宅街からは離れていたが、離れていたからこそ発見が遅れた火事だった
火事の現場は小さい倉庫であった
すでに使われておらず、人の気配もしない寂れた土地だ
そこに野良のたぬきたちが住み着き、スラムとして形成していたようだった

「燃えてるし…みんな逃げるし…！」
「ギュグアアアアアアア！」
「ああ！たぬきのお宝があああ！」
「ダヌゥウウウ！あづいしいいぃいい！！」
「ｷﾞｭｳﾝﾋﾞﾋﾞｲｲ！」
「チビー！どこだしー！チビイィイイ！」

しかし何処から手に入れたのか、スラムのたぬきは火を使いだした
恐らくは寒くなる季節で使おうとしたのだろう
焚火を作り、凍えるような季節をやり過ごしてスラム全員が生き残る
そんな些細な願いだったのだろう

しかし野良のたぬきが火の危険性を理解していなかった
火の不始末、もしくは何かに飛び火でもしたか
今となってはその理由も定かではないにしても、スラム全体が燃え盛る今を変えようがない

たぬきが燃えた
たぬきの餌が燃えた
たぬきの所持物が燃えた
スラムの全てが燃え尽きた

サイレンを鳴らしながら消防隊が駆け付ける
ポンプ車から大量の消化水をかけられてあっさりと火事は鎮火されていく
しかしその後には黒ずんだ何かしか残っていなかった

そして時は流れて数十年後
火事の現場があった寂れた土地は再開発が進み、住宅街が形成しつつあった
人も移り住むようになり、打って変わっての賑やかを取り戻しつつある
そんな街並みにモフモフのくるみルフで身を包んだたぬきと飼い主らしき人間が散歩している
移り住んでからまだ数か月と言ったところだが飼い主もようやく新天地に慣れたと言った顔だ
同時にペットとして飼いだしたたぬきもすくすくと育ち、こうしてのんびり散歩も出かけられている

「ん…？なんだあのたぬき」
「倒れてるし…助けるし…！」

野良のたぬきが倒れ伏して死んでいるのは珍しくないとはいえ、飼い主が止める前にペットたぬきは駆け出した
ペットショップ産とはいえそれなりに大事に育てられたたぬきだ
どうやら同族に対する優しさは失ってないらしい

「おーい！大丈夫しー！」
「う……お前飼いし…？大丈夫し…ありがとうし…」

飼い主は立ち上がった野良たぬきの顔を見てぎょっとした
まるで火傷の痕のように赤く染まっているのだ。どうやらペットたぬきも同様にビックリしてジタバタしている

「ごめんし…驚かせたし…」
「あ、ああ…お前本当に大丈夫なのか？どっかで火でも当たったのか？」
「違いますし…ここでポップしたたぬきは不思議とこうなるんですし…」

ションボリ顔の野良たぬきは今まで見たことのないぐらい深いションボリ顔をする
どうやら話を聞くと、この地域でポップしたたぬきは不思議と夢を見るそうだ
まるで全身を火に焼かれて延々と苦しみ続けるような夢だ
それをポップしたばかりのチビから見ない日はなく、気づけば全身を火傷の痕を残すようになるそうだ
しかもただの痕ではないらしく、野良たぬきが語るたびに苦痛で顔を歪めているあたりに現実にも効果を及ぼしている
倒れ伏していたのはついに痛みに耐えきれなかったためだった
飼い主もペットたぬきも、あまりの現実味のない話にぞっとした

「……飼いたぬきはここにあまり近寄らないほうがいいし…もし死んだらここにションボリが引き寄せられるかもしれないし…」
「ひぃし…やだし…」
「あまり脅さないでくれ、こいつは臆病なんだ……すまないな、そんな話をさせて」
「いいし…それじゃあ…お気をつけてし…」

よろよろとしながら野良たぬきは去っていく
怖い話を聞いて震えるペットたぬきを抱きながら飼い主も散歩を切り上げて帰っていく
飼い主は思う。果たしてこの地のたぬきはどうやって生きているのだろうか
少なくとも成体になれる辺りは生きられる環境であるのは間違いない
しかし所詮は野良のこと。深く考えては仕方ないと頭を切り替えて家に戻っていった

「ふぅ…ふぅし…グギュ……」

野良たぬきは足を引きずる形でなんとか住処でもあるスラムに戻れた
服を着ているたぬきだから分かりづらいが、火傷の痕は顔以外にも及んでいる
全身火傷という本来では動くことすら難しい重症の身で野良たぬきは外に出ていたのだ

「戻ったし…」
「おかえりし……ご飯は…なさそうだし…」
「ごめんし…」
「いいし…」

住処には同じように成体たぬきが一匹
しかし野良たぬきと変わらぬ火傷痕が顔に痛々しく残っている

「チビの様子は…どうだし…？」
「まだ元気だし…見てみるし…」

簡易的な柵を設けて万が一でも子たぬきが抜け出さないための処置
あくまで万が一のためだが、あえてそうする必要もないだろうと野良たぬきは常々思っていた
野良たぬきが見つめる先の子たぬきたち
その子らもまた、全身に火傷痕を作っているからだ
しかも服を着ていない全裸子たぬきなので痛々しさは更に増している

「ｷﾞｭｩｷﾞｭｩ…ｷﾞｭﾋﾞｨｨ…」
「ﾋﾞｨｨｨｨﾝ！ﾋﾞｴｴｴｴｴﾝ！」
「ｲﾀｲｼ…ﾈﾚﾅｲｼ…ﾈﾀﾗﾓｴﾁｬｳｼ…」
「ｷﾞｭﾋﾟ…ｷﾞｭﾋﾟ…ｷﾞｭﾋﾟ…ﾋﾟﾋﾟﾋﾟﾋﾟ……ﾀﾞﾇｰ…」

どうして、こうなったのだろう
野良たぬきは子たぬきの悲惨な光景を見るたびに枯れているはずの涙が出る
この地域ではポップしたたぬきは不思議と自分が燃えている夢を見る
夢を見れば現実でも火傷の痕が残り続けて身を蝕むのだ
例え死んで楽になろうともションボリが地域に留まってリポップする
そしてまた記憶を失った自分が業火に燃やされる夢を見続ける
この地獄はいつ終わりを迎えてくれるのだろう。誰が終わらしてくれるのだろう
次のたぬ生があるから今生の死を恐れない死生観を持つたぬきですら、この地域のたぬきは絶望し切っていた

「……あのチビはもうダメだし…肉団子にするし…」
「わかったし…」
「それと私も…もうダメそうだし…後は頼むし…」

同棲たぬきは無言で傾く
産まれてから常に全身火傷を負うというハンデを背負って生きていくにはどのような環境でも過酷になる
特に餌を取れる内に取る事、餌を無駄にしないことはスラムでは大前提のルールだ
前者であれば野良たぬきのように餌を取るのが難しいぐらいに体も心も疲弊した場合、その身をスラムに捧げる
つまり共食いによってハンデがある中でも成体たぬきまで成長する個体も産まれたのだ
そして後者の餌を無駄にしないのはそこまで育つ子たぬきを選別し、場合によっては間引きにする
成体ですら心身を疲弊する火傷を子たぬきが耐えるのも難しい話だ

「次こそは…モチモチできる…たぬきになりたいし…」

そしてこのスラムに置いて最もたぬきを絶望させる要因
火傷の痛みによってモチモチができないということだ
この野良たぬきも、そして子たぬきも、同棲たぬきも、産まれてからモチモチをした経験がない
下手にモチモチしようとすれば気持ちよさ温かさよりも痛みと不快感しかないのだから当然だ
次こそは…次こそはと、いずれ悪夢のような呪いが解ける日を夢見て次代に繋げていく
いっそ全てを投げ捨ててしまいたい
何も知らぬ状態で悪夢に囚われる事になっても、今と何も変わらないだろう

しかしたぬきたちはそれができなかった
ポップという生態を取るために何かを残したい願いこそが火傷たぬき達に残された最後の本能だからだ
野良たぬきは静かに眠りについて夢を見る前に同棲たぬきに介錯を頼む
せめて死にゆく先だけは、穏やかで優しい世界を見れる事を祈って


「ｱﾂｲｼｨｲｲｲｲｲｲ！ﾏﾏ！ﾏﾏｧｱｱｱ！ｷﾞｭﾋﾞﾌﾟｱｱｱｱｱｱｱｱ！！」