私は名は芋毛利明
いたって普通の中年男性だ
そんな私の趣味がキャンプであり、一月に一回か二回のペースで様々な場所でキャンプをしている
本日やってきたのは秋の紅葉が美しく、そして広大な湖もある双葉連湖である
自然溢れる山々の中心にあるそこは都会の空気とはまったく違う
深呼吸を重ねるたびに空気が美味く感じられるのもキャンプの醍醐味と言えよう

キャンプ管理人に挨拶と宿泊費用を払っていざキャンプ地へ
秋から冬にかけての寒い時期のキャンプは人の少なさもあって静かだったのだが、ここ最近はアニメ漫画の影響かキャンプを新しく始める人も増えたようだった
特に寒さと引き換えに虫の少ない冬の時期は今時の子には最適の季節と言えるだろう
私としてもキャンプという文化が若い人に流行る事は大いに歓迎すべきことだ
そのまま沼に嵌って私のように週2ペースぐらいでキャンプ道具を買い集めて業界に貢献してほしい

閑話休題

予定していた場所に辿り着いてさっそくテントの設置である
何年もキャンプをしていれば慣れたものでサクッと設営を進めていく
最初の頃はテントを固定するペグという針を何度も曲げてしまった苦い思い出があるものだ
無事にテントを設営し終えると今度は焚火を行うための枝拾いに向かう

キャンプ場によっては現地の枝は拾い放題だったり、薪も無料だったりする事もある
今回の双葉連湖は前者の枝が拾い放題だ。もちろん拾いすぎないように必要な分だけ持っていく
それがキャンパーとしての心構えだ
さて、キャンプを経験したことのある人なら分かると思うが焚火を行う上で枝や薪だけで火を付けるのは意外と難しい
そうなると必要なのは着火剤であり、この場合は松ぼっくりが代表的なものとなる
しかし双葉連湖には松ぼっくりよりも優れた着火剤が存在する
私は携帯を取り出すと音声を最大まで引き上げてとある音声を流す

『ｷｭｰ!ｷｭｰｷｭｰ!!ｷｭｩｩｩｩﾝ!!』

甲高く携帯から響くのはたぬきの鳴き声だ
それも仲間を呼び求める子たぬきの声である
そしてこの音声を流すとあら不思議！周りからキューキューと小さい同じ声が返ってくるじゃないか！
私は注意深く聞きながら声のある方向へと歩き出す
紅葉の中に隠れているのは小さな小さな…言葉を喋りだす前の子たぬきがこんにちはと現れた

「ｷｭｰ…ｷｭｰ??」

同族の大きな声を聞いたはずなのに何もいない
それどころか目の前には大きな人間がいることに疑問視しているようだ
しかし野良の世界でそんな呑気ではこの先生きるのも苦労するだろう
彼らの命を無駄にしないためにもそそくさと回収して袋に詰め込んでいく
服を着ている個体なら1匹でも良かったが、全裸でも3匹ほどもあれば十分足りるだろう

「ｷﾞｭｷﾞｭｴ……」
「ﾀﾞﾇｩ…」
「ｷｭｩｩｩﾝ…」

雑に入れたせいでおしくらまんじゅうと化してるが気にしないで良い
どうせこの後すぐに彼らは尊い犠牲になるのだから
さて一旦テントに戻って焚火の準備である
拾った枝はそのままでは大きすぎるため、ナタを用いて小さく燃やしやすいようにしなくてならない
更に手頃な石を集めて簡易的なかまどを作っていく
かまどそのものは火を長持ちさせる以上に後述のキャンプ飯を作る際に利用するためだ

準備が整えばさっそく着火剤のたぬきの出番である
たぬきは大変燃えやすく、その理由には主に毛…尻尾の部分にあるからだ
モチモチとして可愛らしくとも生きている以上は糞尿をする。その糞尿は知らず知らずに尻尾にこびりつく
それがより燃えやすくなり、焚火の着火剤に丁度良いのだ
しかしただ燃やされてもたぬきはジタバタと動くため、場合によっては焚火から抜け出してそのまま狂ったように走り抜ける可能性もある
そのため燃やす前にはちゃんと手足を千切っておくのがたぬきを着火剤として使う上でのマナーだ
万が一たぬきが原因で自分が火傷をしたりしたらせっかくのキャンプが楽しめなくなる

「ｷｭ…?ｷﾞｭﾋﾞｨ!?」
「ﾀﾞｷﾞｭｸﾞｧ!?!?ﾀﾞﾇｩｩｩ!!」
「ｸﾞｩｩｩﾝ!ｸﾞｩｩｩﾝ!!!」

手足を捻れば子たぬきの手足は簡単に千切れる
うんうんこんなに元気なら良い火種になってくれるだろう
尻尾にライターを当てて着火し、かまどの中に三匹投入。その後木の枝を順次入れつつだんだんと焚火らしくなってくる
肌寒い今の秋には心地良い温かさだ。これも自然とたぬきの恵みが与えてくれた命の火だと思うとより一層そう思えた

「ﾎﾞｧ"ｧ"ｱ"!ｷﾞｭｷﾞｨｱｲｱｧｱｱ!!」
「ﾌﾞﾋﾞｨｨ"ｨ"!!!ﾀﾞﾇﾀﾞﾇﾀﾞﾇｷﾞｭｳｳｳ!!!!」
「ｸﾞｷﾞｭｸﾞｧ"ｧ"ｱ"!!」

子たぬきと言えども生命力は溢れている
その命の叫びを最後まで届けんとする声は自然の中に溶け込んでいく
千切った手足も燃え盛る焚火の中に入れながらようやく子たぬきの声も消えた頃に用意した椅子に座って静かに瞑想する
大自然の中に都会の喧騒とは無縁とばかりの空間は何処までも心が清々しくなっていくようだ
私はこの空間の中で本を読み、ゆっくりと時間を贅沢に使っていくのが好きだった
人間社会の忙しさに生きる者たちにこそ、この贅沢を是非とも経験してもらいたいものである

さて、何冊か読み終えて静かに時間を過ごしていると気づけば夜になろうとしている
何せ大自然のキャンプ地なのだから人工的な明かりは存在しない
月と星の明かりが頼りであり、焚火は些か頼りなさげだ
こういう時には素直に文明の利器に頼ると良いだろう。私はランプを取り出して明かりを照らし、次に晩飯の用意に取り掛かる

とは言っても…私はあまり調理が得意ではない
キャンプ飯はそこまで手に込んだものは作れないし、大雑把な私はだいたいフライパンを使って肉を焼くぐらいだ
しかしそこはキャンパーのため…ではないがお手軽に美味いものが作れる商品が充実しつつある界隈だ
本日使うのはスーパーTANUで絶賛販売中の『たぬ油』である
牛油と同じく食用油のカテゴリーに入るそれを網をかけたかまどで熱したフライパンにまんべんなく塗りたくっていく
見た目は手足のない子たぬきをしているがその分、体にはたっぷりと味付けされた油が詰まっている
もちろん手足がないので冷凍から目覚めてジタバタしようにもろくに体が動かせないのだから箸からたぬ油を手放すようなことはない

「……?……ｸﾞｧｧｧ!!?ｷﾞｭｨｨｨｨｨ!!!!」

本来食用油はその味を引き出すために使われるものだ
牛油であれば牛肉の味が引き立つし、豚油であれば豚肉の香りが引き立つ
ならたぬ油はたぬき肉なのか、と思うかもしれないが実はそうではない
本来食用肉の油から精製されたものと違い、たぬ油は味付けもされているのだ
つまりこれで肉を焼けば調味料の部類を細かく使わなくても決まった味を作り出せる商品なのである
大雑把な私には大変ありがたい代物だ。キャンプ飯の彩が高まったと言える

「…ｷﾞｭｪ……ﾀﾇｰﾀﾇｰ…」

さて、すでに全身真っ赤で一部黒ずんでいるたぬ油だが、一応食用油なので食べる事はできない
なのでかまどの火に放り投げて少しでも火種になってもらうこととなる。油なのでそれなりに燃えてくれるからだ

「ｱｯ…ｷﾞﾎﾞｧｸﾞｷﾞｭｸﾞｧｱｱ!!!?ﾏ…ｱｧｱｧ!!!」

先ほどまで声も出せない瀕死だったのが一転して大きな声を出して最後の灯にならんとするたぬ油には敬意を出さざる得ない
さてフライパンには大きな牛のステーキ肉を焼いていく
キャンプをする者にとってこれぞキャンプ飯と考えるのは千差万別である
簡単なお弁当やカップ麺で済ませる者もいれば、手の込んだ調理をする者だっている
私は断然肉である。自然の中に来ているのだから肉の味わいがいつもより何倍も違って味わえるからだ
しかしだ…そこに優劣がないことも事実である
なので普段と違った料理を食べて新しい発見をするのもいいだろう…それもまた一つの楽しみなのだから

十分に焼けたステーキをフライパンに乗せたままナイフで切り分け、お酒も用意して晩餐会が整った
じっくりと焼かれた肉にフォークを突き刺せば肉汁たっぷりに溢れ出す
それを口に運べば歯応えと…確か今回買ったたぬ油は和風おろしの味付けをされているがそれが肉を凄く合う
何よりもたぬ油で焼いた肉は適度に柔らかくさせる効果もあり、これもまた肉焼きが大雑把な私でも高級肉さながらの柔らかさに焼けるのだ
思わずお酒を飲むペースが速くなり、肉を食べきる前に酒を飲み干してしまうのは反省である

さて、晩飯が終わればラジオを付けて夜の時間を楽しむこととなる
耳を澄ませば山から聞こえてくる虫の音色、山たぬきの叫び声、風を運ぶ音
それら全てを楽しみ尽くしてこそがキャンプである
皆さんも機会があれば大自然の中で時間を贅沢に使ってみないか？
それではごきげんよう、また別のキャンプで




たぬき余談話

たぬ油
スーパーTANUで売り出している食用油
見た目は手足のない子たぬきであり、普段は冷凍処置されている
既存の食用油とは違って焼いたものに味付けをすることをメインにした油であり、細かく調味料の部類を使わなくても焼くだけで手軽に味付けがされる
加えてたぬ油は焼いた肉や野菜を柔らかくし、これはパイナップル等の果実に含まれる酵素と同様の効果である
そのため安物のステーキ肉でも歯応えが丁度良くすることができるため、大雑把な料理をすることの多い独身男性の味方である
味付けは醤油、和風、味噌、カレー等の10種販売
1袋10匹入り \200円

双葉連湖
双葉市の山奥にあるキャンプ地
自然に囲まれ、中央には湖が存在している
秋の紅葉シーズンは山の美しさ、そして娯楽作品でのキャンプ人気の高まりもあってか多くのキャンパーがやってくる
たぬきもよくポップしており、子たぬきは松ぼっくりに並ぶ焚火の着火剤となる
成体たぬきはそのまま着火すると暴れて逃げ出す危険性が高いため、尻尾を抜き取って別々に着火剤として使うのがルールである
中学生以上 1泊2日 \1,500円
子供(小学生以上) 1泊2日 \500円
駐車料金 1泊2日 \400円
枝拾い 無料