たぬ食、ペット、実験材料…たぬきを如何に人間社会に効率良く、質の良いものを送るか
そうしたたぬきの権利など知ったことかと言わんばかりな考えはあっさりと人間の手によって構築された

たぬきを実らせるたぬ木を植えこみ、ションボリの供給として成体たぬきを顔だけ残して埋められている
そのたぬきも喋らないように喉を潰され、ただじっと埋められているのを過ごすだけだ
右を見て左を見ても正面を見ても同じ光景が広がり、何もない絶望感がより純度の高いションボリを産みだしてくれる
そうしたションボリがたぬ木に集まり、毎日新鮮なたぬ木の木の実を作っていくのだ

そうして毎日実って中身のたぬきも形成されて後は落ちるだけの実を次々と人間が回収していく
供給用たぬきはそれを見ては涙を流し、持って行かないでくれと視線による抗議をしているようだった
ポップという形で産まれるたぬきにとって、たぬきのションボリから産まれたたぬきは血の繋がりのようなものがある我が子そのものだ
しかしそんな抗議は何も伝わらない
人間からすればションボリとしたいつもの顔が一斉にこちらに向くのだから不気味なぐらいである

時折すでに実が落ちて産まれている子たぬきもいるのだがこれは売り物にならないのかその場で処分されていた
実を食べ終えてぷっくりとお腹を膨らませてキューキューと穏やかに寝ているのを踏み潰す
断末魔もさえも上げられずにプチンとちょっと気持ちよい音を立てて子たぬきの命はあっさりと終わった
これを見た供給用たぬきはやはり涙を流し、それがまた新しいションボリとなってくれる

そして籠いっぱいに木の実を回収して別室に移動する
別室には同じく籠いっぱいの木の実を回収し終えていた成体のたぬきがいた
しかしモチモチ肌であるはずのたぬきの頬は人間の目から見てもカサカサであり、老齢のたぬきであることが分かった

「それじゃあ…たぬきの選別を始めるし…わからないのがあったら言ってほしいし…」
「はい、わかりました」

すでに実が熟してわざわざ地に落ちなくてもたぬきの手でも簡単に割れる
パカンと割れた実には子たぬきが全裸のままで眠っていた
それを一目見ると老齢たぬきは子たぬきは青色の籠に入れ、実は黄色の籠に入れていく

「……すみません、この子は…」
「ん…そのチビは不良品だから赤だし…尻尾の先端が曲がってるし…子たぬきぐらいまでなら問題はないけど成体になる頃だと歩けなくなるし…」
「なるほど…ありがとうございます」

人間も同じように実を割っては子たぬきと実を分けているが、たまに動きを止めては老齢たぬきにどうするべきか聞いていた
この一人と一匹はたぬきの鑑定士であった
著しく進歩するたぬき商業のために、産まれたばかりの子たぬきを管理することで効率良く質の良いたぬきを提供する
そのために子たぬきの選別としての職業が産まれたのが鑑定士である
まともに成長できないだろう障害たぬきを間引き、ペットにしてもたぬ食用食材としても成長可能なたぬきを選別していく

障害たぬきと判定された子たぬきは頭と胴体を持って軽く捻って首を折る
まだ目覚めることもできなかった子たぬきはコキリと耳障りの良い音と共に即死する
そして死んだ子たぬきは赤色の籠に入れられた
赤と黄色籠の実は後でペット用餌のたぬフードに加工され、一部はたぬ木のションボリ供給用たぬきの餌にもなった

「そういえば…一つ思ったんですけど…」ｺｷﾘｺｷﾘ ｷｭ
「なんだし…？」ｺｷﾘ ﾐｭ
「たぬ公さんってなんでこの職に就いてるんです？」ｺﾚﾊｱｵｲﾛｶ…
「む…まぁ元々他のたぬきと一緒に暮らしてた時に似たようなことやってたからその縁だし…」ﾏﾀｱｶﾁﾋﾞﾀﾞｼ…ｺｷﾘ

老齢たぬきことたぬ公は元々野良のたぬきであった
スラムの中で暮らしながらも長年生きてきた知識は侮れるものではなく、たぬ公を頼りにする野良たぬきも多かったという
その中でたぬ公がスラムでやっていたのは今の仕事と同じく子たぬきの間引きであった
元々子たぬきを保護して育てる習性がありながら育てられない、不利益が生じると感じれば育てていた子も平気で切り捨てられるたぬきだ
たぬ公がこの子がいればスラムが危なくなるという間引きによって、住んでいたスラムは自然による災害を除けば順風満帆と言った穏やかさのある場所となっていた

人間がたぬきの鑑定士という職に目を付けた時、そうした間引きを行えるたぬきを知ってからスカウトを開始した
たぬ公もそうしてスカウトされた一匹であり、今は人間でも鑑定が行えるようにマンツーマンでの指導をしている
なので人間もたぬ公に対しては師であり、上司なのだから敬語だ。何よりたぬ公はたぬきの平均寿命を大きく超えている
人間年齢で換算すればそれこそ雇い主の社長より年上だろう

「何か疑問に思ったし…？」
「ああ、いや…間引きにしても人間に教えるものなんだなと…」
「…まぁ確かに思う部分はあるし…でもこれが長期的に見ればたぬきという種にとって最善なんだし…」

たぬ公が人間と仕事を共にするようになってから更に知識は深まった
その中で手に入れた知識には興味深いものが存在していた

「曰く…人間は麦の奴隷である…という奴だし…」
「麦の…？」
「聞いたことがないし…？人間が遥か昔に農業を始めてから植物を管理しているようで実際は見させられてる…という理屈だし…」

文字が読めるようになり、様々な本を暇潰しとして読み漁っていた
その本の中には地球で真に繁栄しているのは人間ではなく、人間が管理している動植物ではないのかという話がある
たぬ公はその記述に衝撃を受けた
そもそも人間は元々狩猟採集民であり、炭水化物を主食とする農耕民族となったのは歴史的にごく最近と言える
それなのに土地に縛られ、せっせと麦の面倒を見ては足りない栄養に喘ぐ本末転倒ぶり
これを植物こそが真の支配者と言わずにして何と言うのか

「一見すれば私も、人間がここでやっていることは選別と間引きで残酷なことだと思うし…でもそれがたぬきにとって安全に増え続ける事ができるんだし…」
「そうですかね……ん？…これは…どうなんですかね？」
「あぁ…それは天使のチビだし…目元と口元が普通より垂れてるし…涎を垂らしている事も多いからそこを見分けるし…」

天使たぬきは一見すると障碍たぬきにしか見えないが、実のところ知能に関してはそこまで差はなくコアなペット人気がある
白色の籠に入れられてすやすやと眠る天使たぬきは約束されたペット化が待っている
とはいえ、それはあくまでスタートラインに過ぎず、売れ残れば産まれ故郷でもあるたぬ木の近くに埋められる未来が待っているだろう

「そういう意味では君も一人前になってくれるように私も協力するし…一人でも鑑定士が産まれればたぬきの未来は明るいし…」
「はぁ…がんばります」
「シシ…じゃあ残りの鑑定を終わらせるし…」

ペットになるか
食用になるか
単なる実験材料で終わるか
どの未来にしてもそれは知能あるたぬきにとって決して幸せと言い難いものだろう
しかし人間の手によって保護され、経済に組み込まれた今であれば余程のことが無ければたぬきという種は安全圏を得たと言って良い
ならば老齢したたぬきのするべきことは少しでも産まれてくるたぬきに無駄がないように生かせるようにと人間に選別のやり方を継がせる事だ
人はたぬきを管理し、質の良いたぬきを提供しようとする
しかしそれこそがたぬきは逆に人間を支配している…この関係が後世に続くほどなら誰かがそう思えても不思議ではないだろう



たぬき余談話

たぬ公
平均寿命が7～8年ほどのたぬきでありながら倍以上生きている
元野良であり、スラムでは間引きを担っていた
現在では人間が管理するたぬ木の子たぬきを選別する仕事に就いており、人間や同職たぬきに鑑定士として選別方を学ばせている
人にたぬきを管理させることでたぬきが安全に種として存続できる事に疑問視を抱かないわけではないが、そうしなければまともに育たないたぬきの弱さも長年のたぬ生で理解している
逆に支配しているなどと毛頭思っておらず、もし人がたぬきが不要になればすぐにこの関係も終わるだろうと分かっているが、そうなる頃には老齢のたぬきはこの世からいないだろう

管理籠
赤色は主に不良品。たぬきやもどき用のペット餌であるたぬフードの素材となる
黄色は木の実。これもたぬフードの素材になるが選別中の鑑定士のおやつにしても良い
青色は合格品。この後ランダムでペット、食用、実験材料等に振り分けて育成される
白色は天使たぬき。無条件でペット行きとなるが育成過程で不合格になると処分される