自慢ではないが我が家で飼っているたぬきは大変賢い
というのも一人暮らしをしていて少しホームシックになった私はたぬきを飼おうとしたのが始まりだった
小さいながらも言葉を喋れる程度の知能があり、そこまで手がかからないだろう…と今思えば浅はかな考えだった
ペットショップでのたぬき玉から適当に一匹選んでの購入
店員からは複数飼いも進められたがあの時はあくまで寂しさを紛らわすためであり、もし飼う事が失敗してもたぬきなら別に良いか程度でもあった

『ｷｭｰ…ｷｭｰｷｭｰ…』
『なんだかあまり元気がないな…大丈夫かこいつ』

購入したペットショップで劣悪な環境にあったのか知らないが、あまり元気のない子たぬきだった
親指サイズからやや一回り大きい程度だからポップしてから少し経った程度だと思うがこれではあまり長くないのではないのか
最初はそう思っていた

『ｷｭ……』ｼﾞｮﾛﾛﾛ
『おお、トイレをすぐに覚えた。やっぱたぬきって賢いんだなぁ』

とはいえ、そういった問題は杞憂に終わった
胃の消化の良い果実とドングリの実を掛け合わせて野良のたぬきが食べるものに近いものを与えていくと見る見る内に元気を取り戻した
最初の内は触れてもジタバタすることも多かったが今では手を差し伸べれば頬でモチモチとしてくれる
何よりも言いつけを一回で守ってくれる賢さが何より助かった部分だった
トイレのする場所を覚え、触れてはいけない場所は決して近寄らず、留守番も素直に守ってくれる

『ｷｭ…ｼｭ……ｼｭ！』
『ん…？』
『ｼｭ…ｼﾞﾝ!ｺﾞｼｼﾞﾝ!!』
『…！おお…お前…言葉喋れるようになったのか…！』

一週間ほどで掌サイズまで育ち、人の言葉を喋り出した
これも後から知ったのだが子たぬきが言葉を喋れるように育つのは早くても二週間から三週間ほどかかるらしい
そう考えれば一週間は異例の速さであり、その間にすっかりと懐いたたぬきの頬をモチモチとしてあげた

『熊のぬいぐるみじゃなくて毛玉でいいのか…？』
『はいし…こっちのほうがおちつきますし…』

金銭面でもあまり手間のかからない子であった
飼いたぬきというのは飼い方にもよるが子たぬきの頃から育てられると寂しさを紛らすためにふかふかのぬいぐるみを求める傾向にある
これは同族がいれば解決するらしいが、これを知った時に店員の複数飼いを進められたのはこれかと気づいた
しかし私のたぬきはぬいぐるみではなく、ふかふかとしたのは抱き着くには丁度良いサイズの毛玉を要求した
ぬいぐるみに比べれば半額以下と言った安物の玩具だが、たぬきはそれを嬉しそうに抱きしめているのを見ると何も言えなかった

こうして半年近い付き合いとなり、特に飼う事に苦労も無ければ問題も無しに無事に成体のたぬきへと成長した
毛玉のほうは相変わらず大事にし、飼いたぬきがよく着ているようなくるみルフ君とやらも付けていない
精々私が大人になった記念という形で買い与えた熊のダウンケープぐらいなものだ
どうも高いものを買い与えると遠慮がちだったので、このぐらいの代物なら素直に受け取るという半年ほどの付き合いから分かったものだ
現にたぬきは熊のケープを身に着けてよくご機嫌顔になるのだから分かりやすい奴である

しかし飼い始めてから一年
すでにホームシックも消えて飼ったたぬきも家族同然と思っていた時の話だ
帰宅すればたぬきが玄関前に立っており、元から辛気臭いションボリ顔がもはや泣き顔になっている

『ど、どうした！？泥棒か野良たぬきでも入ってきたのか！？』
『うぅ…うっ……ごめんしぃぃぃぃい！たぬきはご主人のこと騙してたしぃぃぃい！』

あまりに要領の得ない唐突な告白に私も混乱した
とりあえず頬をモチモチとして落ち着かせてたぬきはぽつぽつと語り出す

『あの…ご主人はペットショップでたぬきのことを買ったのを覚えてますし…？』
『ん？そりゃまぁ…適当に一匹選んだのはな』
『あそこで売られてるのはチビはチビでも発育不良のチビなんだし…普通に育ってたら言葉も喋れるぐらいに育ってたんだし…』

まさかの激白に私は驚いた
どうも話を聞くと、ペットショップではたぬき玉として売られているのは確かにポップしたばかりの幼体なのは間違いない
しかしたぬきは幼体から自由に体を動かし、言葉を喋り出すようになるまで一か月もかからない成長の速さだ
そうなると新しい幼体を仕入れる必要があるため、売れ残る幼体たぬき玉を長持ちさせるために死なない程度のぎりぎりまで餌を減らすそうだ
そうなれば体だけは成長せずに子たぬきであるのを維持できるため、無駄に仕入れる必要もない
加えて飼う上での利点も存在していた

『体は大きくならなくても中身は成長できるし…実はご主人に飼われてからずっと何を言われてたのか理解してたし…』
『そうなのか…だからトイレも…』
『さすがにお漏らしするとサナギになりそうなぐらいに恥を持ってたし…』

妙に賢いところのあったたぬきであったが合点がいった
体が小さいだけで中身はすでに成長しており、言われたことをすぐに理解できたのだ
つまるところ私はたぬきを育ててるつもりがこいつは最初から育っていたわけである

『でもなんで今そんなことをバラすんだ？』
『…たぬきはご主人の優しさに甘えてたし…本当はもっと早くバラすはずだったし…』

以前から思ったがこのたぬきは少し生真面目すぎるようだ
大方自分がもうチビではなく成長済みたぬきですと早期にバラせば私がガッカリすると思っていたのだろう
もしくは心無い飼い主であればたぬき如きに馬鹿にされていたと捨てる者だっているだろう

「今更お前に幻滅することなんてないから安心しろ。もう一年も家族をやってるんだからな。むしろ手がかからないだけ助かったよ」

その言葉を本心にたぬきを抱き抱えて家の中に進んでいく
家族にも秘密ごとの一つも二つもあるだろう
それを好き好んで暴くのも好きではないが、誠意を持って自分の秘密を話したたぬきにどうこうするつもりはない
今はただ、寂しさを紛らわすだけに飼ったはずの大事な家族の顔を元のションボリ顔に戻すためにうどんを作ってやるぐらいが丁度良いだろう



たぬき余談話

飼いたぬき
ペットショップ出身でわざと発育不良にされて売りに出されていた
ポップしてから実に数か月近い状態で子たぬきの状態を維持されたため、いつ死んでもおかしくなかった状態
飼い主がわざわざ胃に優しい木の実の食事を与える事で功を奏した
基本的に温厚そのもので言うことは良く聞くが、これはずっと子たぬきの状態で精神的に達観した成長をしたため
もしもポップして数日の子たぬきを同じように飼い主が育成すれば我儘たぬきになっていただろう
お気に入りは熊のケープと毛玉と飼い主のモチモチ